分水嶺
夕陽が差し込む廊下。
たった二人で立っている。
俺と藤宮。それ以外は余分な情報でしかないのだ。
他に誰もいない。彼女は笑顔で俺に問うのだ。
「結城君、部活入ってなかったよね?」と。
思えばここが分岐点だった。
何故か俺は迷った、質問に答える事に。部活になんて入っているわけがないだろう。あいにく友達もいないしな。
蛇口から落ちる一雫がピチャっと音を立てた。その音は廊下に響いて、今も耳に残っている。
ここで何か理由をつけて帰れば俺は彼女の運命を変える事が出来たのかもしれない。
でも俺は答えてしまった。こんな迷いは些末な事だと切り捨てて。
「いや、あいにくだけどどこにも入ってないよ」
俺が返答すると藤宮は笑顔で
「だよね!」
と笑った。
何これ、新手のいじめですか。俺が友達いなさそうに一人寂しくしてるところを笑っているのですか。
藤宮は絶望している俺に気づきすぐに訂正をする。
「ち、違うよ!結城君が部活入ってなさそうとかそんなこと全然考えてないよ!」
慌てふためきながら釈明する。
俺は実際藤宮がどういう人間なのかは1ミリも知らないので、これが真実なのかどうかはわからないがとりあえず信じることにした。
「おう。言いたい事はわかったからさ。とりあえずこの部活のこと教えてもらえる?一応勧誘って事なんだろ?」
藤宮が俺のセリフを聞き、落ち着きを取り戻す。
「そ、そうだね。うん」
藤宮がスイッチを切り替えるため深呼吸をする。
そして藤宮はさっきまでの顔つきと違い真剣な眼差しで俺を見る。
「さっきのだよねって言葉はね。結城君が部活に入ってないことはわかっていたことだから…」
なんだよ、やっぱりただのイジメかよ。
俺は言葉をはさもうとするが藤宮は言葉を続ける。
「ううん、部活に入ってないことだけじゃない。結城君がこの学校に転校してくる事も知ってたんだ」
藤宮は茶化すのは許さないとでも言いたげな雰囲気で話す。
「ええと、俺の前の学校に知り合いでも……」
俺は思いついた事を言葉にするがそれに被せるように藤宮は
「いないよ」
と。
「結城君の前の学校に知り合いや友達、連絡先を知ってるような間柄の人はいないの。この学校でも転校生の噂なんてまるで流れてなかったよ」
ちっくしょー。俺は転校してくる前からゴースト転校生だったわけか。俺はまだ藤宮はの話を遮らずに聞き手に徹する。
「ホントはね…あの雨の日…結城君が転校してきたあの日…私はあなたの事を知っていたの。名前と顔だけ…だけどね」
ここまできいても俺は何も不思議に感じてはいなかった。たまたまむかしどこかで俺の事を知っていて、たまたま何処かで俺の転校を聞いていた可能性があるからだ。
「あの……結城君…私…私ね」
藤宮が急に頬を赤らめソワソワしはじめる。あーこれね。このパターンね、告白だと思ったら全然違うやつね。わかってる。わかってるよ。だって俺まだ藤宮となーんにもイベント起きてないもん。これで好きとか言われたら逆に驚いちゃうね。
「私、魔法が使えるの!」
…………
夕暮れの空にはカァーカァーと鳴き叫ぶカラスが翔んでいました。その光景はいと美しく
「やめてー!変なモノローグを口ずさまないでー!」
藤宮は両手で顔を隠しながら俺にツッコミを入れる。苦悶しながらもツッコむとは律儀な子だ、きっといい子に違いない。こんないい子なら魔法とかサンタさんとか信じちゃっててもしょうがないと思えるよね。
藤宮がその場に膝に顔を埋め座りこんでしまったので俺は会話を再開する。
「ふ……それで…ふふ魔法で…俺が転校ふ……してくるのがわかったと…」
「笑い堪えながら話に乗っかってこないでー!一番恥ずかしいからぁ!」
藤宮が顔を真っ赤にしながら訴えてくる。
「そうだよ!部室にはいろ!この部活はね、魔法を使う部活なの!」
藤宮が立ち上がり言う。
「結城君も見れば笑ってられないよ!さぁ行こ!」
と俺の手首を掴む。
こんな笑いの場からでもドキッとしてしまうのはやっぱり男の子だからだろう。
藤宮が部室のドアをあける。
5メートル四方といったところか、中はそんなに広くなく部屋の後方には古くなって持ち運ばれたのであろう、机と椅子が雑多に積まれてあった。
「先輩!連れて来ました!」
目の前の椅子に座る先輩とやらに藤宮は報告する。
「ああ、あなたが藤宮さんが未来視で見たって言う転校生の……どちら様でしてっけ?」
スピリチュアルな雰囲気を纏う女生徒が問いかけてくる。
「結城です。このオカルト研究部に来るよう脅迫されて……」
ここまで言って空いていた椅子に座った藤宮に、脅迫なんかしてないです!と口を挟まれた。
「ふふ、面白い方ですね」
クスクスと笑うその女性のほうを見ていると彼女は
「そうだ、私の名前は言ってませんでしたね。私は小浮気 蓮華と言います。よろしくお願いしますね」
と丁寧に自己紹介をした。