階段から見える風景
内容を一新しました
「ねぇ結城くん」
藤宮はたずねる。
「はい」
俺は返事をする。
「なんでそんなに離れて歩くの?」
藤宮は怪訝そうな顔をしてたずねる。俺と藤宮の距離は3mはあった。勿論俺がわざと後ろを歩いているのだ。
「なんでって……」
「?」
「いや、なんでもないよ」
言えるわけない。お前らも経験あるだろ?本当に可愛い娘って逆に話しづらいんだよ。どうしても意識しちゃってかっこつけちゃうみたいな。
俺は無言のまま藤宮との距離を詰めた。後ろから突き刺さる視線と殺意を感じながら…
第一校舎から第四校舎、通称「部活塔」と呼ばれているらしい場所にやってきた。
俺たちの教室は4階で部活塔に入るためには一度階段を降りなければならないのだが、どうやら藤宮が案内したいところも狙ってか分からないが4階にあるらしく、俺はそれに文句を言えるわけもなく無言でついていくのみだった。
二人無言で階段を降りる。
俺は少し気まずさを感じていたが藤宮はそうでもない様子だ。
とりあえずさっきから気になっていたことを訪ねる事にした。
「なぁ藤宮。どこに向かってるんだ」
藤宮は俺の顔を見て
「すぐに分かるよ。焦らない焦らない」
と笑顔で言う。
うん。好き。俺の感想は以上だ。
階段を下りきり別の階段を上る、わかってはいた事とはいえこの効率の悪い行動をする自分は随分とマヌケのように思えたがそんなこと考えても仕方ないか。一歩一歩、いや一段一段。階段を上る。
階段に着いている、手すりに着いている傷一つ一つが自分以外の生徒の青春を思い起こさせる。
カッターを擦った後、液体が飛散して出来たシミ、角に溜まった埃の玉、壁についているテープの後。何気ない学校のありふれた光景が俺の眼前に広がる。
随分と階段の件を詳しく描写するがこれは俺と藤宮の無言の道程を、俺の思考を描写することによって読者に伝えるという狙いがあるのだ。
決して尺稼ぎとか字数稼ぎとか間をとっているとか、そういうことではないのだ。本当だ。
「ふぅ、4階分階段を上るのは何回やっても慣れないねぇ」
藤宮が立ち止まって呟く。
くだらない思考をしているうちに4階に着いたらしい。
「あそこの部屋だよ、案内したかったのは」
一番奥の一部屋を指しながら告げる。
二人で10数メートルの廊下を、その部屋目指して歩く。
目の前に辿り着くと藤宮が体をくるりと俺と向かい合わせにした。
「この部活はね………」