物語の始まり
初めての方はここから読んで頂いてもオールオッケーです。ノープロブレムです。
『 いったいどこから話せばいいかな。
そうだな、じゃあまず俺が『彼女』と出会った所から話そうか。
あれは確かーーーーー』
…………暑い。ものすごく暑い。今は真夏真っ只中、その中を自転車をこいで学校に向かう。
カラッカラの日ならまだよかったが空は雲で覆われておりやたら湿気が俺の心をマイナスにしていっている。
例えばこんな時、雨が降ってきたとしよう。
その時人はどうするか、様々な反応が見られるだろう。ある者は濡れてでも学校に向かい、ある者は立ち止まり雨宿りをし、もしかしたら家へ引き返す者もいるかもしれない。
俺は確かあの時家へは帰らなかった。いや、帰れなっかたんだよ。理由があってさ。
今日はこっちの学校に転校してきて初の登校日だった。これから始まる学校生活への不安と緊張を抱えながら、ずぶ濡れで行っても浮いてしまうのは間違いないのでとりあえず僕は雨宿りする事にしました。
「はー、結構降ってきたな。早くやまねーと遅刻しちまうなー」
内心の焦りを隠すかのように棒読みで呟く。
「はぁ!はぁ!」
ベシャベシャと誰かが走る音と息づかいが聞こえて来た。それはどんどんこちらに近づいて来ているようだ。
「あー!もう結構濡れちゃったなぁ」
落胆しているのが一目瞭然でわかる一言だった。無理もない。特に行きたいわけではない学校だが、外に出て妨害されたとなれば腹も立つだろう。
他人をジロジロ見る趣味はないがこの時ばかりは違った。目を奪われた、見とれてしまったというと恥ずかしいのだが、この俺の状態を表す言葉として最も適している。
綺麗な長い髪、整った顔立ちをした少女。
学生服を身にまとった少女。水も滴る良い女…というには少し若いかもしれないが。
『彼女と出会ったことが間違いだったのかはわからない。出会わなければこんな目には合わなかっただろうし、ここで出会わなかったとしたら俺は彼女と親しくなる事すら出来なかっただろう』
最初俺の存在に気づいてないような様子だったが、すぐに俺を見つけ
「あ、先客でしたか。ごめんなさい。私も少し雨宿りさせてもらいますね」
と丁寧にことわりををいれた。別に俺の席とかじゃないから全然構わないんだが。
無言で雨が止むのを待つこと1、2分。彼女が俺を、というよりは俺の服装を見て話しかけてきた。
「あの、それウチの制服ですよね?ネクタイの色が青ってことは私達同じ学年ですね」
すぐにイカした返事をするべきだが、特に思い付きもせず「そうなの?」とつまらない返事をしてしまう。てかこの娘、同じ学校の生徒だったのか。女子の制服見たことないから気付かんかった。
「はい。何組なんですか?」
「えっと2-6、だったっけ?」
俺の質問の答えに疑問を覚えたんだろう、彼女は続けて質問してきた。
「え?私6組ですよ?あなたの事、見たことないような…」
彼女は少し申し訳なさそうに言う。
「あー、大丈夫大丈夫。俺今日転校してきたんだ。だから君の記憶は間違ってないよ」
「そうなんですか!よかったですクラスのみんなより少しだけ早く、あなたと仲良くなれて得した気分です」
ハニカミながら言う。彼女の邪鬼のない笑顔がまたすごい可愛い。なんなのこの娘、天然なの?あざとい、そして何より可愛い。好きになっちゃうよ?勘違いしちゃうよ?
勘違いついでに気になってる事を伝える。
「あのさ、俺たち同い年だしさ。そんなかしこまった話し方とかしなくてもいいよ。俺も遠慮しちゃうしさ」
彼女は少し考えた様子だったが
「うん、わかったよ。」といってくれた。
そうこう話している内に大分雨は弱くなっていた。
「そろそろ雨止みそうだね、これくらいならいけそうだね」
ファッキン、雨の野郎もうちょっと降れよとも思ったが遅刻したくもなかったので学校へ向かう事にした。
「じゃあどうせおんなじ所に行くんだから一緒に行こうよ」
「!!!!」
ありがとう。俺はこの時神がいる事を確信した。この雨は俺にとって恵みの雨なのかもしれない。
学校へ向かいながら頑張って話題を探した。俺はすごいたどたどしいけど彼女は余裕の様子だった。
「あの、名前教えてもらっていいすか?」
頑張った。俺頑張ったよ。クッソつまんねぇかもしれないけどこの会話は人生で一度きりしか出来ないからね?
「そうだったね。互いにまだ名前も知らないもんね。すごく話しやすかったから気にならなかったよ」
あかん、惚れたわ。これが天然酵母ってやつか。恐ろしい恐ろしい。
「私はね、藤宮 綾。あなたは?」
屈託のない瞳は俺をまっすぐに見つめている。
そして俺は応えるんだ。
「俺の名前は結城、結城 尚也」
彼の名前に隠された意味などは特にありません