物語が始まりそうです
「ちょっとトウヤ!」
いきなり後ろから話しかけられ、はぁ〜と溜息混じりにトウヤは振り返る。
「なんだよ、チサキ」
気怠げなその態度にチサキは怒りを覚えたのか「なんだじゃない!」とイラつきながら応える。
「今日、私とあなたの当番の日でしょ!さっさと済ませちゃおうよ!」
トウヤとチサキは何かの当番らしい、チサキは用事を済ませる為トウヤを呼びに来ていた。
「当番ってあれだろ、飼育小屋の掃除だろ?いいよあんなもん1日ぐらいやらなくたって。あのウサギどもはそんなやわじゃねぇよ」
またもやる気のない返しにチサキは
「なによ!ウサギたちが可哀想じゃない」と思いやりを感じさせる言葉に続けて
「それに………私たちの二人でいられる時間が……」
モニョモニョと囁く。
トウヤはどうやら聞こえなかったらしく
「え?なんだって?」
バチーンッ!
ビンタをくらう。チサキは「もういい!」といって背を向け飼育小屋に向かう。
俺はこの二人のやりとりを蚊帳の外から見ていた。うぜぇ、ひたすらうぜぇ。俺の精神テンションは今限界を迎えている!
なんで俺廊下でこんな会話聞かせられなきゃいけないの?全然理解できない。
そもそも誰だよ、知らねーよバーカ。友達でも何でもない奴のイチャイチャってのは本当にイラつく。いや友達でもムカつくんだけど。
でもま、これも経験だよな。全ての経験が積み重なって今に繋がってくんだよ。大人になったとき、それがわかるんだよな。
感傷に浸りながら、窓の外を見ながらー
ー夕陽の照らす廊下を一人で歩くー
ーここにはいない君に話しかけるー
ー必ずまたここで会おうとー
思い出は必ず心に残る。いい事、悪い事。何も褪せる事なく、心に刻まれていく。
俺はトウヤとチサキに自分と彼女を重ねていた。
最後の日だ。最高の夢を見てくれよ。
トウヤとチサキに同情と哀れみをもって敬礼をした。
これでもいろんな体験してきたんだぜ?好きな人もいてさ。誰かの為に努力したりもしたんだ。
結末はこんなんだったけどさ。
でも今、俺幸せなんだよなー。普通に学校通ってさ。普通に何の不満もない日常を送ってた。
下駄箱にしまった踵の潰れた靴。それを履き校庭に出る。
校舎全体が目に入るように…
この世界を目に焼き付ける。
特筆することなんて何もなかったこの世界を。
かけがえのない平和を。
首のネクタイをゆるめる。
景色が砂に変わっていく。もうここにはいられない。俺はそれを直感的に察していたのかもしれない。幸せな時間は終わったと、眠っている時間は終わりなのだと告げられていた。
俺はどこにでもいる普通の高校生。
そういう体で話を進めてきた。
でも
ーそれも終わり。
どこにでもいる普通の高校生なんてありきたりな設定、つまんないだろ?
俺ももうそろそろ本当の意味で目を覚ます時がきたんだなって。
今まで見てきた夢に思いを馳せる。幸せだった。幸せな夢を見ていた。
だけど、この物語は終わり。
迷いと躊躇の中、覚悟と決意ををもって俺はその瞳を開くー
ーこの物語が始まる頃、彼の物語は終わった。だが、この物語を続ける為にはまず彼の物語を語らなければならない。彼の『始まりの物語』をー
何か始まってしまいました。当然この先ノープランですが読み続けて頂けると幸いです。
そして次回ついに彼の名前が明らかになるっ!?