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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

写真部ゆいいつ一般人A!

作者: いーいー

 人生においては様々な選択しがあって、そのどれを選択するかによって人生は大きく変わってしまうと、僕は思う。




 僕が夜を怖がるのは昔からだった。夜一人ではトイレどころか台所にすら行けないような子供で、


 「男の子なのにねぇ」


 とよく言われたのは今でも覚えている。というよりそれは今も耳にたこができるほど言われている言葉。


 でも怖いものは怖いのだ。


 だから中学校にあがるとき、とても困った。家は中学校から遠く、歩いて30分以上かかる。ちなみに自転車通学は禁止されている。

 夏から秋に移り変わるとき、5時頃には窓から夕焼け色の光が差し込んでいるのが常だ。そして歩いて家に帰る途中に真っ暗になる。街灯はあるにはあるが少ない。人通りも少なく、後ろから足音が聞こえるのもそれはそれで怖いものだ。


 だからこそ、写真部に入ったのだ。部活説明会では帰宅部化していて、用事があれば帰っていいし、何より延長も土日もないと言っていた。


 なのにどういうわけか、今日は帰るのがいつもより遅れてしまった。それもこれも部長の愚痴に付き合わされていたせいだ。


 現在時刻五時十分。後十分もすれば辺りは真っ暗になってしまう。急がなければ、と気持ちは前へ前へと急かすが僕は足が遅い。それはとてつもなく。そのうえ体力もないのだから救いようがない。


 息は既にあがってしまっていて、足も重く感じる。でも怖い。早く家に帰って明るいリビングであったかいご飯を食べたい。


 そんな気持ちだった僕はふと、いつもは通らない、通ろうとも思わない道が目に入って、思わず足を止めた。そこは細い小路こみちで何だかごちゃごちゃしていて薄気味悪い。が、ここを行けば家への道を大幅にカット出来ることを友人から聞いたことがあった。

 

 どうしよう、と迷ったのは一瞬だけですぐにその道を行くことを決意した。


 「……よし」


 どうせ何も起こらないし、走ればまだ真っ暗にはならないかもしれない。


 そう自分に言い聞かせて、心持ちさっきよりも足早に小路を進む。


 小路はやはりごちゃごちゃとしていて歩きづらかった。何だかよく分からない機械や欠けた壺、割れた酒瓶だったり黄ばんだ新聞紙なんかも落ちていて、不気味でしょうがない。


 ああ、やっぱりいつもの道で帰れば良かったかも、と思ってもここまで来たからにはそのまま行った方がいいのは明確だった。


 「ん? あれ、なんか……」


 この道は初めて通ったで、やはり知らないこともある、というか知らないことしかないとは思う。


 だが、それでも不思議だった。こんな所にこんな広い空間があったのかと。だって、地図上にはない空間なのだ。家と家の間に辛うじて存在する小路。そこにこんな空間はなかったはず。


 そして、なにより不気味なのだ。真ん中に一本の大きな木。そこに沢山の烏がとまったり、どこかへ飛んでいったりと繰り返している。

 カァーッ、カァーッ、カァーッと何重にも重なって聞こえる鳴き声が何だか妖しい雰囲気を見事に醸し出している。


 僕は生粋の怖がりだ。怖じけづいて足を後ろへと引く。

 

 すると、ジロリと烏が一斉にこちらを向いた。咄嗟に悲鳴を上げそうになったが、喉が引き攣って声が上手く出ない。ああ、恐怖のあまり声が出ないってこういうことなのか、と場違いにも思った。


 そして更に追い撃ちをかけるかのように、ズルリ。何かを引きずるような音とピチャンという水音が聞こえたような気がした。

 後ろから変な違和感。全力で逃げ出したくなった。でも、前は烏がいるから前へは逃げられず、左右もいくら広いといっても塀がある。後ろは論外だ。


 「絶体絶命って」

 

 まさにこれか、と声が掠れた。

 

 ズルズルと少しずつ、確実に近付き僕の恐怖心を煽る。段々と音が大きく聞こえてきた。


 ああ、もう駄目なのかもしれない。なんでこんな目に会わなくてはいけないんだ。そりゃあ良いことばかりしてきたわけではないけど、でもお日様の下を歩けなくなるほどの悪事なんてしたことないのに。



 急がば回れ、先人達の言葉は正しかったのだ。

 


 「ねえ、一緒に遊ぼ? おにーちゃん」



 真後ろから底冷えする声が聞こえた。瞬間、体が落下するような感覚に襲われた。


 あ、死んだ。


 そう思った。走馬灯のようなものも頭を駆け巡ったし、あの時こうしていれば、なんていう後悔も思い浮かんだ。

 しかし、思い描いていた死は訪れなかった。


 「おおっと。叶君、危ないよ」


 ちょっとゴメンよ、と今日嫌になるほど聞いた声がして、裂けた。何がって、水が滴る良い女の子……というか幽霊が。ギャアアアとかそういった悲鳴は聞こえなかった。裂けて、消えただけ。いや、だけではないけど。


 「うーん。やっぱりね。かなえ君ってモテるんだよなー」


 独り言を呟くのは我等が部長である佐野祐也さのゆうや先輩。刀を杖のようにしてふわぁと欠伸をしている。

 一体、どういうことだ……?


 「部長……?」

 「んー? 何々、なんか聞きたいことでもあるのかな!」


 ニッコリと人好きのする笑顔を顔に貼付けた部長は刀をヒュンと肩に乗せた。部長自身かなりのイケメンなため無駄に様になる。だが、それに反発心を覚える僕は心が狭いのだろうか。


 「え、いや全てに対していろいろと言いたいですよ!」


 食ってかかるように勢いよく言う。部長はんー、と首を傾げながら説明してくれた。知りたいのなら良いけれど、どうなっても知らないよ? と言ってから。

 正直かなり怖い。が、知らないでいる方が怖い気がするんだ。


 「んー、要はさぁ叶君はモテモテな訳よ。妖怪とか幽霊とかそういった類いの奴らにね。あはは、人間じゃなくて残念だったね」 


「今回のもそうで、あの女の子が幽霊だった訳。所謂地縛霊って奴。んで、俺は日本版ゴーストハンター的な?」


 「……陰陽師?」


「そうそう。陰陽師ね、うん。まあ、それでも良いけどさ。どちらかというとあれだ、霊能者」


 驚いた、なんて言葉じゃ済まない。部長が陰陽師、というか霊能者だったなんて。誰が想像出来ようか。少なくとも僕には無理だ。部長いるとなんか巻き込まれそうな気がする。なんかってあれだよあれ。ラノベなんかで良くある。

 怖いのは無理。本当に無理だ。ああ、転部したい……。


 「あ、ちなみにね転部は無理だから」

 「はあっ!?」


 思わず叫んでしまった。しまった、と思ったがもう遅い。開き直ろう。

 

 「だってねぇ、知っちゃったもんね? でも大丈夫。君以外来ない子も含めて皆そうだから! 勿論顧問のやよっちゃんもね」


 そう、というのは霊能者ということか、そうなのか。

 更に冗談じゃない。僕なんかがなんで入部出来たんだよ。


 「そりゃあ君の危機察知能力が弱いからだよ」


 そんなことも分からないの? という心底きょとんとした顔を向けられ、つい虚勢を張りたくなるがそんなことをここでしてはいけない気がする。


 「ええ、分かりませんよ!」


 すると朗らかに笑って説明してくれた。


 曰く。


 僕が夜を恐れるのは心の底では自身の危機察知能力が弱いことを理解していて、だからこそ危ない夜を異常に恐れる傾向にある、ということらしい。そしてそういう人は珍しくはあるが、度々居て、そういう人の保護なんかも写真部の活動内容に入っているとか。写真部は普通に危機察知能力がある人はなんとなく嫌な感じがするらしい。

 僕には見えない(見たくもない)地縛霊が部室にいるおかげで。


 マジですか。


 そろーっと部長の顔を見ると嫌な笑顔で強烈な言葉を投げかけた。




 「ということで転部は認められていません! 叶君の場合好かれる体質みたいだから余計にね。そして、俺達と関わる以上身の安全は頑張って守ってあげるけど、更にそういうことに遭遇しやすくなるんだ」




 頑張ってね。顔がそう語っていた。




 僕の人生で一番の失敗。それはあの時、小路を行ってしまったこと。

お目汚し失礼しました。そしてありがとうございました。

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