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ただ素直に

『好きです』

 抱きしめられるほどに、見つめられるほどに強くなる想いはくちづけで溢れてそのまま辺りに満ちる。

 引き寄せる腕に逆らうはずもなく、されるがままに身を寄せ、見つめ合う。

 逸れることなく合う視線。取り戻したものの大きさに心から安堵する。

「好きだ」

 イリアス様が何度も繰り返す。

 うれしい。言葉以上に繋いだ手や触れ合うくちびるから気持ちが伝わる。

 頬に落ちるくちづけがくすぐったくて身を捩ると伸びてきた手に頬を取られイリアス様を向かされる。青い瞳に宿る想いに胸が熱くなった。

 重なる視線が呪いが解けたことを実感させてくれる。

 今気が付いたみたいにイリアス様が聞く。

「セシリア、もしかして見えているのかい?」

「はい」

 しっかりと瞳を見て告げる。

「本当に? 良かった!」

 喜んでくれるイリアス様の笑顔にうれしくなってセシリアも笑う。

「私もうれしいです。 …イリアス様のお顔が見れて」

「セシリア…!」

 抱きしめる腕に身を任せたところでフレイの咳払いが聞こえた。

「お二人とも、ここが何処だかわかっているでしょう。 いい加減控えてください」

 フレイの声に周りを見渡すと呆れた顔や微笑ましそうな顔が見える。

 その中に何故かイリアス様の決闘相手の姿がない。

 首を傾げるとフレイが答える。

「伯爵ならとっくに立ち去りましたよ。 さぞ恥をかかされたことでしょうね」

 フレイの言うとおり決闘に入ってきたセシリアがイリアス様を選んだことを衆目の中で表したのだからその伯爵はかなり不快な思いをしたと思う。

「いい気味だと言っているように聞こえるよ」

 イリアス様の言うとおりフレイはいい気味だと思っているようだった。

「ええ、肯定します」

 肯定は良くないのでは、と思ったけれど口を噤む。

 そんな物言いもイリアス様が無事でよかったと思う気持ちから来ているのかもしれなかったから。

「無鉄砲が過ぎます。 セシリア様がいなければどうなっていたことか」

「僕の腕を信じていないのか?」

 少しむっとしたようにイリアス様が眉を寄せる。

「流血事件に至らなくてよかったと思っているだけです。 手加減する気があったのか、私にはわかりませんからね」

「相手が相手だ。 連れて来たのがどんな相手でもそこまで無茶はしないさ」

 どうだか…と小さく呟いた声がセシリアには聞こえた。

 イリアス様は聞こえなかったようでセシリアに向き直る。

「セシリア、足は大丈夫かい? ここまで走って来たんだろう?」

「はい」

 全速力で走ったのなんてどれくらいぶりなのか、自分でもわからない。

 神殿に居た頃もあまり走るなんてことはなかったから、もしかして初めてかもしれなかった。

「病み上がりなんだから、無理をしてはいけないよ」

 呪いも解けたし、歩く分に問題はなかったけれど黙って抱き上げる腕に甘える。

 愛しい人の腕の中というのはとても気持ちが良い。

 さっきまで決闘をしていたのに、イリアス様はちっとも疲れていないようだった。

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