表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/56

溢れる想い

 セシリアの口から旋律が流れ出す。

 彼女の人柄を表すように涼やかで…。

 それでいて今まで感じたことがないほどに甘やかな音色は居合わせた人々の心を奪った。

 はっきりと伝わる意思は目を逸らすことを許さない。

 時が止まった空間で、彼女の歌だけが響く。

(伝わっていますか?)

 問いかけるように、瞳がイリアスを捉える。

 確かな意思を持って語りかける瞳。

 どこか遠慮がちで、柔らかい壁を作っていた今までとは違う、強い瞳がイリアスの瞳を貫いた。

『あなたが好き』

 好きです、と伝える声と瞳。

 セシリアの歌はウィスタリア語で紡がれている。

 歌詞の意味などわかるはずもない。

 なのに…、ひとつの単語もわからないのに…。

 好き、と強く伝わってくる。

 彼女が伸ばす手―――。それはまっすぐ僕に向けられていて…、僕の手を待っていた。

 手を伸ばすと、重ねた手が強く引かれる。

 見つめる瞳に宿る熱に返すべき言葉が出てこない。

 ただ彼女の手を強く握り返す。

 瞳に浮かぶ笑みと想いが深くなり僕の思考を奪う。周りにいるはずの観衆のことなど、どうでもよくなった。

「……!」

 引き寄せた身体を強く抱きしめる。

 何を迷っていたんだろう。僕がセシリアに伝えられることなんて一つしかなかったのに。

 この想いから逃れる術なんてない。心に浮かぶままに言葉を紡ぐ。

「好きだ」

 あれほど言えなかった言葉がするっと落ちた。

「君が、好きだ」

 惹きつけ合う瞳が近づき、同時に伏せられる。

 交わすくちづけは長く、お互いの想いを伝え合い、存在を確かめ合うように絡められた指が強くお互いを繋ぎ合う。

 彼女の温もりを感じながら、この手だけは離せないと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ