溢れる想い
セシリアの口から旋律が流れ出す。
彼女の人柄を表すように涼やかで…。
それでいて今まで感じたことがないほどに甘やかな音色は居合わせた人々の心を奪った。
はっきりと伝わる意思は目を逸らすことを許さない。
時が止まった空間で、彼女の歌だけが響く。
(伝わっていますか?)
問いかけるように、瞳がイリアスを捉える。
確かな意思を持って語りかける瞳。
どこか遠慮がちで、柔らかい壁を作っていた今までとは違う、強い瞳がイリアスの瞳を貫いた。
『あなたが好き』
好きです、と伝える声と瞳。
セシリアの歌はウィスタリア語で紡がれている。
歌詞の意味などわかるはずもない。
なのに…、ひとつの単語もわからないのに…。
好き、と強く伝わってくる。
彼女が伸ばす手―――。それはまっすぐ僕に向けられていて…、僕の手を待っていた。
手を伸ばすと、重ねた手が強く引かれる。
見つめる瞳に宿る熱に返すべき言葉が出てこない。
ただ彼女の手を強く握り返す。
瞳に浮かぶ笑みと想いが深くなり僕の思考を奪う。周りにいるはずの観衆のことなど、どうでもよくなった。
「……!」
引き寄せた身体を強く抱きしめる。
何を迷っていたんだろう。僕がセシリアに伝えられることなんて一つしかなかったのに。
この想いから逃れる術なんてない。心に浮かぶままに言葉を紡ぐ。
「好きだ」
あれほど言えなかった言葉がするっと落ちた。
「君が、好きだ」
惹きつけ合う瞳が近づき、同時に伏せられる。
交わすくちづけは長く、お互いの想いを伝え合い、存在を確かめ合うように絡められた指が強くお互いを繋ぎ合う。
彼女の温もりを感じながら、この手だけは離せないと思った。