焦燥
「……?」
伸ばした手が冷たいシーツに触れる。
その感触に驚いて目が覚めた。
「イリアス様?」
呼んでみても応えはない。
何故か胸騒ぎがする。
傍にいてくれない。それだけで何故こんなに不安が湧いてくるのか、問いかけても答えは返らない。
「誰か、誰かいないの?」
じっとしていられなくてベッドから起き上がる。
ドアノブに手をかけたとき扉が開いた。
「きゃっ」
驚いて絨毯の上に倒れる。上からは驚いたフレイの声が降ってくる。
「申し訳ありません、セシリア様!」
大丈夫ですか、と問う声にセシリアを気遣う以外の焦りを感じた。
「フレイ、イリアス様は何処?」
自分の声が信じられないくらい不安に満ちている。
「…!」
言葉に詰まったフレイに何かあったことを知る。嫌な予感に声が強くなる。
「イリアス様は何処にいるの? ねえ!」
暗い靄の向こうを見据える。そこにあるはずの瞳を捕らえるとびくりとフレイが震えた。
(見えた!)
呪い師が言っていた。呪いは自分の心次第だと。だったら今見たい。見ないといけない。
「イリアス様は何をしているの」
はっきりと輪郭を捉えると視界がクリアになっていく。
現れたのは怜悧な顔立ちをした青年、その顔は焦燥に彩られている。
絶対に何かが起こったと確信していた。