生誕祭 2
セシリアの準備が出来たと聞いて呼びに来た僕は扉を開けた途端動けなくなってしまった。
「……」
言葉が、出なかった。
セシリアの正装を元に仕立てた衣装は彼女のためにデザインされたかのように存分に魅力を引き出していた。
白く柔らかな薄絹の光沢が光を淡く弾き、身に着けた青い宝石が肌の白さを際立たせている。
流れる銀糸は髪の色と溶け合い鏤められた青い石が控えめに煌めく。
白と青で飾られたシンプルな装いが彼女の美しさを引き立てていた。
ともすれば地味になってしまいそうな色味の装束は彼女の美しさを損なうことはなく、むしろ立ち姿の美しさが凛とした内面を表し印象付ける。
あの海で見た時も美しいと思ったが、今はその比ではない。
「あ、あの…。 イリアス様、どうですか?」
セシリアが控えめに声を掛けてくるまで何も言えず立ち尽くしていた。
「すまない、あまりの美しさに見とれて声が出てこなかったよ」
偽りなく本心を告げるとセシリアは恥ずかしそうに目を伏せる。
その愛らしい様子に抱きしめたくなる衝動をぐっと堪えた。
「元々はウィスタリアの歌姫に伝わる衣装だと聞いたけれど、本当によく似合っている」
もちろんこの国のドレスだってセシリアを美しく見せているが、それとは系統が違う。
「イリアス様にそう言っていただけてうれしいです」
はにかみながら答えるセシリアは嬉しそうだった。
セイレーヌというものが特別な存在なのはイリアスもあの海で感じた。
誇らしげに笑う彼女がイリアスに手を伸ばす。
柄にもなく胸が鳴る。
初めて社交界に出たときなどよりも、ずっと緊張している。
それを隠す術を身に着けていても、柔らかい手を取ったとき一際鳴る胸の音が聞こえてしまわないかと思うほどだった。