生誕祭 1
「よくお似合いです…」
感嘆の溜息と共にミリアレーナが呟いた。
「ええ、本当に。 珍しい衣装なので少し苦労したようですが、それだけの価値はあります」
レナの声にも満足した響きがある。
手放しの賞賛が気恥ずかしい。見えないから余計にどう見えているのか気になった。
今日のためにイリアス様が用意してくれた衣装は、セシリアが着ていた服をほぼ忠実に再現したと聞いている。
この国とは違い背中と肩が露出するデザインのドレス。
首の後ろで布を結び首飾りで止めると柔らかいひだが胸元にできる。
腰には細身の鎖を重ねた控えめな装飾。
腰から足元にかけては重ねた布が自然な曲線で広がっている。
衣装と同じくイリアス様が選んでくれた首飾りは水を表すような鮮やかな青色。
イリアス様は海の色だよ、と言っていた。ひやりとした石に触れている薄絹のさらりとした感触が肌を撫でる。
肌触りまで懐かしくて、その心遣いがうれしくて少し恥ずかしい。
ベールはこの国では必要ないので今日は外していた。
髪を結ぶのは銀糸を縒り合わせた紐。小さな青い宝石がいくつも飾られ、まるで髪に青い星が鏤められたように見えるとミリィが大絶賛してくれた髪飾り。
大げさな程の表現だけれど、それだけ立派な物を用意してくれたのだと思う。イリアス様の横を歩くのに恥ずかしい格好などさせるわけがないから。
イリアス様の、横を…。
少し緊張する。以前、一瞬だけ見えたイリアス様は貴公子という言葉がぴたりと合うような人だった。
淡い金の髪、月明かりに浮かび上がる彫像のように整った顔、物語の王子様はあんな人だろうと思ってしまうほどに―――。
思ってしまうほどに…、格好良かった。
思い出して胸を高鳴らせる。
好きと自覚してから些細なことに緊張してしまう。
それまでも触れていた手の暖かさ、声の美しさ、何よりも気遣ってくれる心の優しさに。
あの日から何が切り替わってしまったのだろう。
私も、イリアス様も、何も変わっていないのに……。
私の心だけが変わってしまった。
今はもう、イリアス様の一挙一動に緊張して、ドキドキしている。
前と何が違うのか、恋をしたことのないセシリアにはわからない。それとも恋をするとみんなこんな風になってしまうのか。
答えの出ない問いを、イリアス様が呼びに来るまで続けていた。