振り回されて
「まったく姉上にも困ったものだ」
結局夕暮れまで帰ろうとしなかった姉がようやく帰った。
さすがに夕食は夫と取らなければいけないので帰ったが、ギリギリの時間までセシリアを離さなかった。
いつも気力に満ちているのは良いことだが、ペースに巻き込まれてこちらのエネルギーが奪われる。
一児の母になってもあの自由奔放なところは変わらない。
「素敵な方でしたね」
「あの強引なところがなければ、もっと素敵なんだけれどね」
「エレミア様は噂で私のことを聞いたと言っていましたね。 イリアス様のお姉様に噂が届くほど広まっているんでしょうか」
「あ、ああ……。 姉上は耳が速いんだ。
まったく、城の奥深くにいるくせになんでああ情報を仕入れられるのか、いつも不思議だ」
城にいると聞いてセシリアが首を傾げた。
「エレミア様はどういうお方なんですか?」
「立場で言ったらこの国の王妃、ということになるな」
あんな奔放な人間がよく王宮に嫁げたものだとイリアスも感心するが、王妃になれるだけあって姉上は猫の被り方も上手い。
「王妃様……」
セシリアはさすがに少し驚いたようだ。
「華やかな方だとは思いましたが、それほどの方だったんですね」
「今日はあれでも地味にしていたようだよ」
「いえ、格好のことではなく、雰囲気が。 イリアス様に似てると思いました」
「そうかい?」
確かにイリアスとエレミアは良く似た顔をしているが、あの姉上と似てると言われるのは非常に残念な気持ちになる。
しかも雰囲気とは……、変えようがない。
「はい。 なんと言うか、何もしていなくても意識してしまう存在感をお持ちです」
つい言葉に深い意味を探してしまう。
(意識してしまう、か。 別の意味だったら嬉しいのだけれど……)
あれから少しセシリアは変わった。
感情を吐き出したことが良かったのか、時々見えた無理がない。
(肩の力が抜けたんだろうな)
帰れないと叫んだ声は悲痛で、まだ耳に残っている。
待つ人がいて、帰りたいと望んでいるのにそれが許されない悲しみは、今も彼女の中にあるだろう。 けれどそれを顔に出すことはない。
イリアスが見つめているとセシリアは少しはにかんで目を逸らした。
その表情にどきりとする。
人前で泣いたことが照れくさいだけだと思っても、恥じらいに違う意味を探してしまう。
可愛いと思う心にこういうことか、と納得する。
彼女の頬を染めるのが僕に対する感情であればいいと思う。
瞳に映る彼女をより美しく見せる想い。
これが人を好きになるということなんだと分析してしまう自分に呆れる。
多くの女性と触れ合ってきたけれど、親しくしていたのは表面だけというのがよくわかる。
結局、僕は何もわかってなかったんだな。