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始まり
歓声が辺りを埋め尽くす。
陽光の降り注ぐ舞台に立っているのは自分ひとり。
ベールの下からでも、観衆がはっきりと見えた。
見渡す限りの人、人、人。
その全てが自分を祝福していると思うと、歓喜に胸が震えた。
(これで、やっと生きていける……)
ここで、ずっと仲間と一緒にいられる。
居場所を手に入れた安堵よりも興奮が勝っていた。
一生を左右する名前。
自分が手に入れた称号にはそれだけの意味がある。
後ろを振り返るとみんなが微笑んでいた。
みんな自分が成し遂げたことの意味を知っている。
その中に大切な人の姿を見つけた。嬉しそうに笑う二人に微笑みを返す。
(司教様…、クラリス…)
二人とも目に涙を浮かべて自分を見ていた。
こんなにうれしそうな二人を見たのは初めてで……。
これほど喜んでくれることがうれしくて。
初めて未来から不安が消えた。
歌姫誕生―――。
国中が待ち望んだ歌姫は舞台の中央で心からの笑みを浮かべていた。
これから数時間後に待ち受ける未来など、知りもせずに。