居場所
いつの間に屋敷に着いていたのだろう。
海で身の上も心の内も全て吐露して縋りついて泣いたことは覚えている。
気がつくと自室のベッドの上に座っていた。
帰る間、ずっとイリアス様の手を握っていたような気はする。
今も眼の前で手を握ってくれている。
「セシリア、君が失ったものの代わりにはならないけれど、僕も、レナも、ミリアレーナも、フレイも、君を大切に想っている。
ここも君の居場所だということを―――…」
忘れないでくれ、そう言ってイリアス様は手の甲に口づけを落とす。
私を見つめる瞳には祖父や司教様と同じような慈しみが感じられる。
イリアス様はそのまま就寝の挨拶をして部屋を出て行く。
ドアの閉まる音が聞こえてもセシリアは動けずにいた。
「熱い……」
手の甲を押さえる。
くちびるが触れた瞬間、灼けるような熱さを感じた。
今はその熱が移ったように全身が熱い。
忘れないでと言ったイリアス様の声が頭の中で繰り返し聞こえる。
海で流しきったはずの涙がまた零れた。
『ここも君の居場所だ』
イリアス様の声と表情が頭から離れない。
胸に生まれた熱に翻弄されて、混乱する思考は手に落とされた熱を何度も何度も再現する。
「熱い………!」
ぎゅっと胸を押さえる。
とても眠れそうになかった。