寄り道
店から出ると明るい外の光が目に染みた。
あれからセシリアは黙ったままだ。
呪い師に言われたことがよほど堪えたのだろう。
見たこともない辛そうな顔をしている。
何があったのか、さっきの会話だけではわからない。
海へ投げ込まれたという物騒な言葉が気になってはいたけれど、セシリアが話す気になるまで、待つつもりだった。
「セシリア」
気分を変えるために寄り道をすることにする。
「はい?」
名前を呼ぶと青ざめた顔にわずかな笑みを浮かべて答える。
(こんなときまで笑おうとしないでくれ)
余計なことを言ってしまう前にセシリアの手を取る。
「おいで」
セシリアの手を引いて馬に近づく。
「馬に乗ったことはあるかい?」
「え、いいえ?」
セシリアが驚いた顔で答える。
「そうか、初めて馬に乗せてあげられるのが僕でうれしいよ」
「え、ええ!?」
セシリアが珍しく慌てている。
「だって私乗ったことはおろか見たこともないんですよ?!」
「大丈夫。 見たことはないかもしれないけれど、乗ったことはあるよ」
「?」
「君を見つけたときにね」
意識の無かったあの時にくらべたらしがみついてくれる分、今日の方が楽だ。
見えないセシリアは怖いかもしれないが―――。
「大丈夫だよ。 君がつかまっていてくれれば、落としはしないから。
絶対に、ね。」
半ば強引に誘い、海へと走りだした。