目覚めの朝 1
鳥たちの声がするまで、ずっと触っていた。
イリアス様の髪は柔らかくて……。
夢のように心地良かった。
ドアをノックする音が聞こえたとき、とても残念に感じた。
歌うのも、寝ているイリアス様の髪を撫でるのも、終わりにしなければいけなかったから。
2度目のノックが響くと頭が動いた。
そして乗せていた手にイリアス様の手が触れ、肌の感触に驚いたように跳ね起きた。
「セシリア!?」
ドアの外の気配が固まった。
イリアス様は手を掴んだまま何も言わない。
―――驚かせてしまったかしら?
昨夜は酔っていたみたいだし、覚えていないのかもしれない。
「まさか、一晩中…?」
悲しそうな、悔やむような声。
「僕が言ったからか? すまない、セシリア」
何故謝るのかわからない。
部屋に来たのはイリアス様に連れてこられたからだけれど、残っていたのはセシリアの意思で、イリアス様が気にすることなんて何もない。
空いている手でイリアス様に触れる。
謝らないで、笑っていてほしい。
いつものあたたかいイリアス様が好き。
伝わるよう、ゆっくりと首を振る。
微笑むと息を呑むような音が聞こえた。
「セシリア」
私の名前を呼ぶイリアス様の声はなぜか震えていて、声音に含まれる緊張が私にまで伝わり、息をすることを難しくする。
腕を掴む力が強まったような気がした時、3度目のノックが響いた。