噂 1
セシリア様は少しずつできることを増やしてきている。
イリアス様はずっとこの屋敷にいてもらって構わないと言っているが、セシリア様はそれを望むだろうか。
見た目の印象よりもずっと自立心が高く、しっかりしている。
フレイが言っていたとおり、誰かに世話をしてもらうことになれていて、一般市民でないとは思う。ただ、貴族のお嬢様にも見えない。
神殿では自分のことは自分でするのが当たり前だという。
そのせいか見えないところで使用人がしている仕事も理解している。
特に何も言わなくても気遣う態度で察せられるものなので、レナもセシリアには好意を抱いていた。
直接世話をしないメイドたちの間では浮世離れしているという評価になっていたけれど、これは外見からくるイメージの為だろう。
物を知らないわけではないのに、純粋で、芯が強い。
聖域で育つとあんな風になるのかしら、と思った。
神に仕える、という点で教会のシスターたちとも似通う雰囲気はある。けれど、民とふれあうことの多い彼女らはセシリア様とはやはり印象が違っている。
特に、歌っているときが。
レナもセシリア様の歌は聞いている。
響く声は屋敷のどこにいてもよく聞こえた。
セシリア様の歌声が聞こえると手が止まってしまう。
それは屋敷中がそうだった。
イリアス様には報告したが最近は屋敷の周りにも人が聞きに来ている。
子供ならまだしも、大人までセシリア様の歌を聞くために屋敷の周りをうろうろしているのだ。
止めさせようにも、みんな何かしらの用事を作って傍を通っている。
通りすがりに聞こえたと言われてしまえば、咎めることは出来ない。
この分では早晩街中に噂が知れ渡るだろう。
すでに市民の間では広まってきているようだ。
陛下に最も近しい騎士が歌姫を屋敷に住まわしている。
城に届くのもいつになるのか……。
予想だが、そう遠くはない気がした。
レナの予想は的中し、街で広まった噂は城内でも聞こえていた。
元々城内を華やかな噂で飾っていた騎士の話題だけに人々は、殊に女性には驚きをもって囁かれ、ものすごい勢いで広まっていった。
時に悪意を以て。