小さな目標
今日は天気があまり良くないので庭園に出るのは禁止と言われてしまった。
特にすることが思いつかなかったのでミリィを誘ってお茶をしている。
気になったのでふと聞いてみた。
「ミリィはどうして公用語を習おうと思ったの?」
セシリアの国ウィスタリアでは公用語はあまり一般的ではなかった。
この国でもそうだとイリアス様が言っていたし、ミリィくらいの年齢で日常会話に不自由しないくらい話せるのは珍しいと思う。
「姉が習っていて復習がてら私たち弟妹に教えてくれたんです」
「まあ、ならミリィの兄弟は皆公用語が話せるの?」
そうならとても驚きの話だと思ったけれどミリィが慌てて否定する。
「まさか! 覚えていても片言くらいですよ。
私はまあ、このお屋敷に雇ってもらえてからも勉強の機会を戴いたので忘れずにいられましたけれど」
「そうなの。 でもミリィが公用語を話せてよかったわ」
もちろんこの国の言葉も少しずつ教えてもらっているけれど、まだ単語を覚えている段階で日常の会話もままならない。
それも公用語で説明ができるから教われるのであって、ウィスタリア語しか話せなかったらとても困ったと思う。
ミリィが傍にいて教えてくれるのはとても助かっている。
イリアス様には話しづらいこともあるし、フレイやレナは取りまとめをしている関係でいつも忙しい。
こうして話をする相手がいなければもっと塞ぎ込んでいたかもしれない。そう思うと明るいミリィがいつも側にいてくれるのはとてもありがたいことだった。
「セシリア様こそ、どうして公用語を習おうと思ったんですか? あまり使う機会もないのに」
「そうね、私は神殿から出なかったから必要ないといえば必要なかったわね」
外の国から客人が来ることなんてほぼなかったから。
近隣の国と交流はあったけれどそれは商売のためだったり国同士が友好的な関係を保つためだったりで神殿は関係ない。
小さな島国だから言葉が少し違っていたりすることはあったけれど充分意思の疎通は出来た。
「ミリィと同じかしら。 教えてくれる人がいたから習ってみようと思ったの」
司教様が勧めてくれたから少人数の勉強会に参加し始めた。きっかけはそれだけのこと。
「偶然だけど役に立ってよかったわ」
何が起こるかわからないものね。
空になったカップにミリィがお茶を注ぐ音が聞こえる。
「ミリィ、お願いがあるのだけれど、いいかしら?」
「内容によりますけれど、何ですか?」
こうして話をしているのもいいけれど座ってお茶ばかりのんでいたらお腹がいっぱいになってしまいそうだったので一つ提案をする。
「屋敷の中を案内してくれる?」
「え、そんなことでいいんですか」
ミリィはあっさり許可してくれた。
「今の目標はこの屋敷の中を一人で歩けるようになることだから」
もちろん前みたいに勝手にいなくなったりはしません。そう言い添えるとミリィが笑う。
「なら私が責任もって案内します。 でも今日一日では疲れてしまうので何日かに分けて行きましょう」
「ありがとう」
時間がかかるのは当たり前。ゆっくり覚えていけばいいのです。