第五章 僕、ユミツカイになります。
クマ「わぁ、君ニートみたい」
ユウ「弓使えるようになったら働きますよ!」
「はぁ、はぁ、もう無理ですよ……」
「な、何をだらしないことを言っているんだ! 男なんだからちゃんとしろ! もう一度、しっかり狙いを定めて、腰に力を入れてしっかり全身を使って支えろ!」
「こ、こうですか?」
「う、うむ。多分大丈夫だ! 私も自信はないが次こそは……」
「じゃあ、いきますよ? うぅっ、えいっ!」
ユウが力を振り絞って放った渾身の矢は、直線上にある的からほど遠い、明後日の方向に飛んでしまった。
「はあー、またダメか……。ユウは恐ろしく才能がないな……」
「違いますぅ! クマが才能の塊なんですぅ! 普通の人は『どんな体制だろうと、しっかり弓を引いたらなんか当たる!』 なんてことはないんですよ!」
「そんなはずなかろう! あの程度の距離なら目をつぶっていても当たるぞ!」
クマが実力を見ると言い、家の近くにある森に入った。僕が初心者ということを考慮して五十m先に、家から持ってきた卵を置いた。
ただそれは恐ろしく遠く、小さく、そもそも最初のうちはまともに弓を引くこともできなかった。
およそ三時間、無我夢中でやったが届きもしなかったので三十mに変えてくれた。
ただ、この三十mも相当きつい。引くことがただでさえきついのに、師匠のクマがまったく役に立たない。「弓は感覚だ! 中れ、と思えば当たる!」と語り、それが至極当然という感じで全く技術的なことを教えてくれない。
「あーあ、これならアオイさんに引き方聞いておけば良かった」
「わ、私があんな小娘に劣るというのか!! 何たる屈辱だ! よーし、それなら私が何となくやってやるから、ユウはその動きをしっかり確認しろ!」
「やり方教えられないなら最初からそうしてよ……」
「ん? 何か言ったか?」
「あ、いや、ぜひ見せていただきたいなー、と」
そうか。と、頷くとクマはさっきまで僕のいた場所に立った。
まるで本当に弓を持っているかのような佇まい……いや、そこには確かに構えた弓と矢が見えた。
そのまま手に構えた幻の弓を引いて、矢を放った。その矢は確実に卵の中心を射抜いた。そこまでの動作は素人の僕から見ても、一切の無駄のない洗練されたものだとわかった。
その凛とした動きと芸術品のような美しさに、僕は完全に心を掴まれてしまった。
「まあ、こんなとこだろう。戦いにおいてここまで丁寧にやることはないが理解できたか! ……って、なんでユウは泣いているんだ!?」
「あ、あれ、なんで泣いてるんだろう……。すいません、なんか止まんなくて。でも、本当に凄くて、正直今までクマ……いえ、師匠のことなめてました。でも、自分決めました! 一生師匠についていきます! 師匠のために絶対一流になります!」
「お、おう? 急におかしくなってしまったが、殊勝な心がけだな。まあ、それならぜひあの卵にあててくれ」
二人の団結感が深まったところで、次はユウの番である。
―――師匠の動きをイメージして、無駄のない流れで、その姿は美しく!
「いきます!」
ユウの手から放たれた矢は一直線に、寸分の狂いもなく、明後日の方向に飛んでいった……
「やっぱダメだぁーーー!!!」
「いや、落ち着けユウ。今の矢はこれまでのものよりはるかに良かった! ……気がするぞ。 きっともう少しだ!」
「ほ、本当ですか! 分かりました、もう少しだけ頑張ってみます!」
この後さらに数時間続けたが掠ることもなく、疲労で体の節々が痛く、限界を迎えていた。
「致し方ない、もうすぐ日も落ちるし、ユウも限界だ……。今日は帰ることにしよう」
「はぁ、はぁ、ま、待って、ください。今、何か、掴んだ気が、するんです。もう少しだけ、やらせてください!」
「そこまでいうなら気が済むまでやると良い。いつまででも付き合ってやる」
「ありがとう、ございます!」
―――ここまでしてくれる師匠のため、なんとしてでも当ててやる!
すー、はー。荒れた呼吸を整えて、心を「無」に。最初みたいにがむしゃらにしない……。力を抜き……ただ目の前の的に……中てる、中てる、中てる! 弓を限界まで引き絞り、矢を……放つ!
矢はただ的だけを目指し進む、そのまま矢の威力は落ちず、命中!
「おお! おお! ついに、ついにやってくれたか!」
「はい、確かに中りはしました。でも、掠っただけで、割れてわ……」
「いや、良いんだ! これで十分だ! 私はここまで矢の下手な者を見たことがなかった、しかし、これほど人の弓に感動したことはなかったよ! 私は決めたぞ! 必ずユウを一流の冒険者に育て上げて見せる!」
「ええ! 僕も必ず師匠を女神にします! 一緒に頑張りましょう」
「よーし、そうと決まれば祝宴だ! 飲むぞ! 食べるぞ!」
「はい! 二人の冒険の始まりを祝して思いっきりやりましょう!」
二人の間に揺るぎのない絆が生まれた。―――もう、お互いがそろえば何も怖くない!
と、そんなこんなで「バー 星空」で祝宴が始まった。
昨日のイモ洗い状態が一転、ガラガラの店内だった。皆、昨日休んだ分も働いているのだろう。
「おう!いらっしゃ……。……お前、なんでそんなボロボロで、ぬいぐるみなんて持ってニコニコしてんだ?」
「あ、いや、これは……」
「貴様がこの店のマスターか! 私はユウの師匠となったクマである! よろしく頼むぞ!」
「え、よ、よろし…………って、何でぬいぐるみがしゃべってるんだよ!?」
「あー、そういうことは……師匠説明ヨロシク! 好きなもの頼んでいいから。僕ちょっと別のとこ行ったら戻ってくるよ! 」
ケイ姉は確実に「待て!」と言ってたと思うが、今はそれどころじゃなかった。
夜になってしまったが、まだ店はやっているはずだ。痛む体に鞭打って、ただひたすらに走った。
僕はどうしてもこの喜びを一刻も早くアオイさんに伝えたかった。うっかり弓を背負ったまま来てしまったから、返品しに来たと誤解されてしまうかもしれないな……
「あの、すいません! アオイさんいますか?」
「あら、ユウじゃない! この子よ、あの弓を買ったの」
おや? 店の中にはアオイさん以外にいる……。
しかも、なんかヤバい雰囲気を放っている。
身長は2m近く、暖かくなってきたがまだ夜は冷えるというのに、迷彩の短パンに白のタンクトップを着て、背中には巨大な斧を担いでいる。
体は、ボディービルダーか! というようなゴリゴリのマッチョ、あごひげを携え、肌がこんがりと日に焼けたおっさんだ。
そんな巨人が僕のほうに近づいてくる。
―――ヤバい、殺される……
そう思っても体は動かない。大男は僕を逃がさないように肩を掴んだ!
「いやー、君がユウ君か! アオイに聞いたぞ! あんな弓を選ぶなんて、まったく変わった冒険者がいたもんだ! まあ、もともと僕のものだけどね! アハハハハ!」
ものすごい豪快な人だけど食べられることはなさそうだ。それじゃあ、この人は一体?
「恐れながら、どちら様なのでしょうか?」
「おお! そうだったね! 僕は冒険者をやってるアオイの父親、ミツバっていうんだ! まあ、見た目に合わないからみんな『おやっさん』なんて言うけどね! アハハハハ!」
「ち、父親!?」
まさかアオイさんの父親に会うとは思わなかった。しかし、驚くほど似ていない。トンビが鷹を生む……いや、鷹がウグイスを生んだといった方が正しい気がする……
「ところで、こんな時間にどうしたんだ? いや、弓を持ってきたんだから流石に返品しに来たんだな! うん、仕方ないよな! でも、そんなもの選んだ時点で良い根性してると思うぞ!」
「あ、違くてですね、むしろとても良い弓をいただいて感謝しているというか……」
「なんだ! わざわざそんなことを言いに来たのか! そうか! そうか! よし! せっかく来たんだから僕にも弓の技量を見せてくれよ!」
―――おかしい。こんなはずではなかった。僕はアオイさんに喜びを伝えて、あわよくば一緒にごはんを、と思ってただけなのに!
「そ、それじゃあ、いきます……」
なんだかよく分からないまま、僕はおやっさんに店の裏庭に連れていかれ、弓を引かされた。
今日の練習の成果を発揮した悪くない一射だったと思う。
おやっさんもあごひげをさすりながら感嘆の声をあげている。
ちなみにアオイさんはというと、夕飯の準備に向かってしまった。「一緒に食べていきますか?」 と聞かれたが、師匠とケイ姉の気まずい雰囲気を想像したら、はい。と答えられなかった……
「一日でここまでやるとは大したもんだよ! でもそうだな、強いて言うならここをこうして、これをこうして……!」
どうやら僕の弓を一度見ただけで、いくつも改善点を見つけたようだ。おやっさんの魔改造が入り、教わった通りに矢を放ってみると……
「うそ!こ、こんな少ない力でもっと正確に撃てるなんて! すごい、信じられません。ぜひ僕にミツバさんを師匠と呼ばせてください!」
僕が教わる師匠はこっちだったのか! 危うくあんなクマのもとで一生を無駄にするとこだった!
「師匠なんて照れくさいから、おやっさんって呼んでくれよ!でもな、ちょっと教えただけなのにものにするユウ君がすごいんだよ!筋も良いし、とても今日初めて弓を持ったとは思えないよ! きっとものすごい冒険者になるな!」
(全く、これ以上無い理想の先生だ!それに比べてあのクマは……でも、クマのおかげで大したものだっていわれたしな。って、そろそろバーに戻らないとまたガミガミうるさいかも……)
そう考えた僕は、おやっさんにまた必ず来ると告げて店を出た。
「変な誤解を招いてクマ鍋にされてなければいいけど……。いや、ぬいぐるみだからそれは無いか……」
そんな一抹の不安を抱えてユウは夜の街を駆けた。
ようやく次回本命の新キャラ。というか新たな仲間が登場してきますので乞うご期待!
この先の展開も考えてるけど、一刻も早く出したいキャラを考えたらつらい。一体いつ出すことが出来るんだろう。妄想だけがはかどっていく……
あと、これより前の章を、小説の書き方の基本! みたいのを見て手直ししました。以前よりは読みやすくできたはず! もっともっと勉強しないと!




