第6話 帰って来た潤さん
綺麗なグレーの髪と尻尾がある。目は切れ長で、背は随分と高い。
この人が、お父さんの、潤さん・・・?
「お帰りなさい! お父さん!」
「ああ、ただいま。翼も呼んだのだが、入れても?」
「もちろんですよ、翼様がお出てというのであれば」
恵さんが礼をする。なんか、態度が侍女のようだ。
階段のところから隠れてその様子を眺めていた私だが、潤さんは気がついたようだ。
「また、増えてるみたいだが?」
私を見た潤さんは、呆れたような声を出した。
「え? あ、朱璃ちゃんよ」
ど、どうしよう? あまり良く思われてない?
動くことができず、そこで固まっていた私に彼は近づいてきた。
「兎、か。此処に来たという事は、やはり、何かされたのだろうな・・・」
「え・・・?」
実際、兎になってからは何もされてないけどな、なんて。
うーん。案外、冷たそうに見えるけど、そうでもないようだ・・・。
「なあ、あれ? おーい、潤! 娘が来ているようなんだが・・・」
「入れて構わない。リビングへ行くぞ」
なっ・・・?!
いつの間にかソファが大量に増えている! テーブルもひとつ増えてるし・・・。
どこかに隠してあったみたいだ。
「兎の割には、戦闘能力が高いようだな」
「ええ。才能もあるみたいだわ。タロットをやらせてる」
「まあ、適切だろう。ようやく優以外に魔法使いができたようだな」
ん・・・。雅さんは普通か。じゃあ、恵さんの態度はなんでだろ?
にしても、本当に整った顔だ。戦闘能力の高い冒険者だなんて、全然感じられない。
「いやぁ、娘の分も用意してくれているとはね」
「昨日いらっしゃったので」
・・・。翼さんの娘というのは、奏さんの事だった。
確かに、翼さんも背中に羽がある。でも、それ以外目立った特徴がない。
「珍しいかい? 俺は人間とセイレーンのハーフでさ。妻はセイレーンの純血だから、この子はクウォーターだね」
「な、なるほど・・・」
つまり、奏さんの方がセイレーンの血が濃いのか。
そんなこんなで、大人数で朝食を楽しんだ。少し豪華だったのは言うまでもない。
いろいろな種類のパンに、オムレツ、ベーコンやソーセージ、サラダ、スープ。それから・・・。
「ほら、デザートよ」
恵さん手作りの、フルーツの乗ったケーキ。なんのフルーツかは知らない。地球にあるものかも怪しいので。
あらかた食べ終わると、潤さんは私に準備が整ったら外に来るよう言われた。
何をするのだかわからないが、身だしなみは整えてすぐ外に向かう。
「ああ、朱璃といったか。そのペンダント、もしや・・・、召喚か?」
「え、あ・・・」
<うわあ! 潤! 待て、待て、これは、その・・・>
やたら煩い。なんだって言うんだろう。っていうか、こんなに慌ててるの、初めて見たなあ。
潤さんはつかつかと歩いてきてペンダントを握り締めた。
「お前なぁ! こんな若い子巻き込むな! ったく、極悪人だな!」
<いいじゃん! 僕だってもう必死なんだよ・・・>
「え? な・・・?」
「気にするな。こいつ馬鹿だからな・・・。まあ、戦うのは強制のようだ、少し鍛えてやるか」
なんだか、麗さんと似ている。血は繋がってないけど、一緒にいると、そうなのかな。
っていうか、あっさり言ったけど、鍛えるって? ちょっとやだなぁ。
「確か、まだ来て一週間も経ってないんだよな。じゃあ、まだ大して出来ないな」
「まあ、はい・・・」
「なにか召喚できるか?」
私はポケットからカードケースを取り出して炎兎を召喚した。散々使いまくった、私の可愛い子。
「炎兎。随分強いな」
どうだろう。レベルはまだ3だけど。昨日散々戦わせた。
まあ、ゴブリンと五分五分ってとこで、強くはない。
「朱璃は兎とは強く同調できるようだな・・・」
そういうことか! どうりで兎の方が扱いやすかったわけだ。
「少し外に行くか。おい、琳! 恵に言っておいてくれ」
「わかった! 行ってらっしゃーい」
空いた窓から琳ちゃんが手を振っていた。位置的に、自分の部屋にいるのだろう。
「剣も使えるのか?」
「少しですけど・・・。魔法は、普段使いでは、マジックパワー使いすぎるので」
潤さんは少し考えるような仕草のあと、私にパラメータを見せるように言ってきた。
立華 朱璃 13歳 ランクF パーティ『立華』 パーティランクD
レベル15 ダメージ340 マジックパワー200 スタミナ170 力150 魔法380 守備180 速さ230
+30(150)
タロットカード入手可能 短剣レベル1 ドロップ率UP
スキルポイント40 振り分ける
「スキルポイント、振ったほうがいいぞ」
「あ、忘れてた・・・」
カードを受け取った私は画面を出す。
何がいいだろうか。とりあえず、10ポイントでタロットレベルを2にする。
あとは・・・。どうしよう・・・。
「何がいいか、だな。例えば、タロット以外の魔法を取るのも手だ」
「タロット以外の魔法・・・?」
見てみると、魔法陣や歌の魔法、魔物使いなんてのもある。
魔法は基本タロットって言ってたな・・・。『基本』だし。
「獣人なんかは、魔物と同調しやすいから、魔物使いをとってもいいんじゃないか? もしくは、剣を進めてもいいだろう」
魔物使いはレベル1にするのに、10ポイントだ。短剣なら、レベルに2にするのに10ポイント。
「じゃあ、魔物使いにします。兎じゃ、剣は厳しいですよね」
「まあ、基本はな。魔法の才能があるなら、そっちを伸ばすのが普通だろう」
立華 朱璃 13歳 ランクF パーティ『立華』 パーティランクD
レベル15 ダメージ340 マジックパワー200 スタミナ170 力150 魔法380 守備180 速さ230
+30(150)
タロットカード入手可能 召喚成功率小UP 短剣レベル1 ドロップ率UP 魔物使いレベル1
スキルポイント20 振り分ける
「そんなもんだろう。タロットより、魔物使いの方が魔物は強く使える」
「じゃあ、火とかの魔法はタロットで、魔物は魔物使いで、ってことですか?」
「そうなるだろう。場合によって、だ」
そのあと、植物兎のカードと、水兎のカードを手に入れた。
それから、猫を使い魔にすることができた。けど、練習でやったからすぐバイバイ。立華家に猫持ちこむなんて考えらんない。
「剣が上手いな。誰かに教わったか?」
「え? いいえ。適当に・・・」
「そうか。後で買ってやろう」
最後、なんといったのか聞き取れなかった。
その日、帰ると、珍しく雅さんが料理をしていた。けれど、私たちが帰って来たのを見ると、リビングまで出て来てくれた。
「お父さん、朱璃、お帰り」
「ああ。随分強いな、朱璃は」
「そうね。鍛え上げたら、それこそお父さんの立場脅かすかもね」
雅さんは冗談で言ったようだったが、潤さんは何か考え込んでいるようだった。
「そう、かも、しれない、な」
雅さんは軽く笑って冗談よ、と言う。それから、もう一度キッチンに戻って行った。
「はあい、今日は私のハンバーグよー」
「わあ、雅姉のハンバーグ! 美味しいよねー」
雅さんは綺麗な食器に盛られた料理を運んできた。確かに美味しそう・・・。
そういえば、恵さんはどうしたんだろう。
「恵なら、俺が帰ってきたからといって友達と遊びに行ったぞ」
「まあ、いつも通りよね。朱璃も気にしないで。ほら、召し上がれ」
「本当に美味しかったです」
「そう。それは良かったわ」
私は食器をキッチンに運びながら言った。雅さんはあからさまに嬉しそうな表情をするけど、それでも優雅・・・。
「今日の午後はどうするの?」
「少し休ませていただこうかと」
最近、結構ずっと戦ってたし。ついこの前まで人間だったんだ。ちょっと刺激が強すぎる。
うん、普通に高校生してた私が今、何やってるんだろう?
一人で部屋でベッドに転がっていると、コンコンとノックされた。
慌ててベッドからはね起き、そのままベッドから落ちた。凄く痛いよ・・・。
大きな音に驚いたのか、向こうから慌てた声が聞こえてくる。何でもないから入って、と行った感じの事を言うと、そっと潤さんが入ってきた。
「あ・・・。潤さんでしたか。どうしたんです?」
「いや、前、人間だったって聞いて・・・。ちょっと、無茶させたんじゃないかって思って・・・」
ああ。そうかな・・・。疲れたのは確かだけど。
生き物を殺すという、精神的な疲れもあるのかな・・・。
「それより、帰ってきたばかりで、疲れてるんじゃ・・・」
「俺は平気だ。もうとっくに慣れたからな」
そうか。もうずっと冒険してるんだろう。じゃあ、そういうものか。
いや、気にさせないように? ホントは疲れてるのかな。
・・・本当に慣れてしまったのかもしれないけど。余計分からなくなるから、止めよう。
「雅たちとは、仲良く出来そうか?」
「ええ、多分。私、あまり人得意ではなかったんですけどね」
私が笑いかけると、潤さんもホッとしたように笑った。
「じゃあ、体調が悪くなったらすぐ言えよ。無理はするな」
「ええ。ありがとうございます」
「・・・一応だが、俺は朱璃の親だからな」
そうでした。
次の日、潤さんが武器屋に連れて行ってくれた。
「いらっしゃ・・・、おお! 潤様! 帰って来てたのですか?!」
「この子の武器を買いに来たんだが、軽めで、女子でも使えるものはあるか?」
潤さんが言うと、店主は大量の武器をカウンターに並べた。
それから、金属の特徴についてあらかじめ説明してくる。当然、私に向かって。
銅は、安くて、軽いほうだそう。値段も安いらしい。錆びにくいとは言っていたけど・・・? 銅といっても、基本は青銅らしい。
次は鉄。値段も銅より安いし、銅より軽くて、硬いらしい。ただ、ちゃんて手入れしないといけないとか・・・。
あとは、銀。少し高いけれど、と言っていた。ついでに重い。純銀だと傷がつきやすいため、合金を用いるそうだ。
最後に、金。すごく高い。それに、この中のどれよりも重い。ただ、魔物は金が苦手なのだそう。
ちなみに、銅、銀、金の順で魔物には効果があるらしい。
「青銅でしたら、鉄の方が高いかもしれないですが」
ああ、よくわかんない! そういうの、興味なかったからなぁ・・・。
「女の子でしたら、剣か、弓か、鞭なんかでもいいんじゃないでしょうか」
「ああ・・・。剣は持てるのか?」
うぅ・・・。この前雅さんが持ってたようなのだったら無理だけど・・・。
とりあえず、銅の剣を持たせてもらった。
重いけど、雅さんの程じゃない。持ち上がらないわけじゃないけど・・・。
「振れないな。却下だ」
潤さんが私の様子を見て言う。雅さんってやっぱりすごいかも・・・。
「短剣でしたら、どれでも大丈夫かと」
「短剣、な・・・。メインには向かないだろ?」
「魔法使いでしたら、問題ありません」
基本は魔法で攻撃すればいいってわけか。そこまでタロット持ってないけど。
「じゃあ、鞭でも使ってみるか?」
って、鞭って武器ですか? 良く分かんないけど。
店員さんが一度振って見せてくれたけど、それだけじゃ良く分からないよ。
とりあえず、何をしないわけにはいかないから、渡された鞭を適当に振ってみる。ヒュン、と良い音がして・・・。
――棚がなぎ倒された。
「え、あ、ああ・・・!」
「・・・。どうします?」
「ああ・・・。まさか、ここまでとは思っていなかった」
あわわ・・・。ご、ごめんなさい!
幸い、棚は倒れただけだったから、直しておいた。商品も割と無事のようだ。
思ってたより鞭って使いやすい。ん? 偶々合ってただけ?
「鞭は、どんなものがあるんだ?」
「金属のトゲがついたものが多いですが、今はドラゴンの鱗を加工したものがありますね」
「いくらだ?」
「金貨二十枚でいいでしょう」
まだこの世界の硬貨の価値がよくわからないけど、兎二十匹の肉が四十キロで金貨一枚だったっけ?
いや、この世界の兎肉の相場がわからない。ダメだこりゃ。
「あとは・・・。銀の短剣だったらどうだ?」
「金貨五枚でしょうか」
「では、鞭と短剣、両方いただこうか」
あっ! そんなに良いんだろうか?
ちょっと悪いと思うんだけど・・・。でも、お金持ちらしいし・・・、いやでも・・・。
「防具は・・・。この状態で付けたら重すぎるか」
「またレベル上げてからいらしてください」
「そうだな。では。ほら、行くぞ」
「え、あ、はい!」
「おかえり。いいの見つかった?」
そう言いつつ、優さんが私の持っている鞭を見て笑い出した。
「お父さん! 私にも鞭使わせようとしたね。好き?」
「使いやすいんだ。攻撃の届く範囲が広いからな」
「じゃあ、戦いに行くの? サンドイッチ持ってく?」
雅さんがキッチンから出てきて言う。時計を見ると、まだ十時か。
潤さんはそれを受け取って、私に鞭と短剣を持たせて、二人で草原に向かう・・・。
「あらあら。朱璃、大丈夫?」
雅さんが私の様子を見て言う。隣では、潤さんが困ったように立っている。
なんたって、今日だけで10レベルも上がったんだ。どれだけ動いたんだって感じだよ。
何があったのかというと、まあ、面倒な説明は省いてざっくり言うよ。
潤さんが自分の感覚で動いたため、私がスタミナ切れで倒れた、ってわけだ。伝わった?
「ちょっと待ってね、はい、『スタミナ回復』」
優さんが魔法で回復してくれると、少しは落ち着いた。
横になっていたソファから体を起こす。全く、レベルが低いといちいち大変なんだなぁ・・・。
「朱璃さんは狐や狼じゃないんですよ。それに、まだ慣れていないんですから」
「レベルだって違うから、スタミナも気をつけてあげないと!」
麗さんと琳ちゃんが怒ったような声を上げる。潤さんは困ったように俯く。
「あ、大丈夫ですよ・・・。優さん、ありがとうございます」
「ええ。全く・・・。当分は二人きりでは行かないでくださいね」
「分かっている・・・。すまなかった」
ただ、結構強くなったけど。
立華 朱璃 13歳 ランクF パーティ『立華』 パーティランクD
レベル25 ダメージ600 マジックパワー450 スタミナ400 力300 魔法600 守備300 速さ600
タロットカード入手可能 召喚成功率小UP 短剣レベル1 ドロップ率UP 魔物使いレベル1
鞭レベル1
スキルポイント65 振り分ける
「スキル振り分け損ねた。後で確認しよ・・・」
「あ、朱璃ちゃん、いつもそうだね」
た、確かに・・・! 気を付けよ・・・。




