第54話 最強の勇者
「よし、みんな集まったね」
凄い人数だ。他の勇者たちの連れてきた兵士も居るし。ちょっと圧倒された。
魔王様はいつも通りのテンションで喋り、ニヤリと笑う。ほんと、楽しそう。
「ええと、まずね、誰が一番強いのか決めよう。このまま戦って貰うんだけど、いくつか条件があってね」
魔王様が不死のフィールドを作るから、その中で戦う事。死んだら負け。この場に居る全員で戦って、最終的に勝ち残った人が勇者ならその人、そうじゃなければ、雇い主が勝ちってことになる。
へえ、これって、私に有利になるよう作られてるのかな。嬉しいけど、これで良いのかな。
「ええと、兎も使っていいんですか?」
「兎? えっと・・・」
「ローリたちです」
其処に居た兎たちがくるりと回転。人型になる。と、真似て猫たちも。今日はちょっと大人っぽく変身。あ、やば、花凛! 私の子たちに手を出さないで! 耳、尻尾!
「うん、もちろんでしょ。他にも居るんなら、他の子も良いよ」
あ、もしかして、マンドラゴラもどきの事、言ってるのかな。魔王様はそっとウインクした。
「じゃあ、頑張ってね。俺は上空からみんなの事見てるから」
「上空?」
魔王様はトンと地面を蹴る。羽があるわけでもないのに宙に浮く。ああそっか。エリーも羽じゃなくて魔王で浮いてるって言ってたっけ。じゃあ関係ないのかな。セレスは羽で飛ぶけど。
ずーっと上まで行くと、魔王様はバッと両手を広げた。強い魔力の波動。ずっと上空で行っていたのに、此処まで強い風が来る。吹き飛ばされちゃいそう、と思ったけれど、すぐに収まった。
と、急に、周りに大きな壁が出来た。恐る恐る触れてみると、思い切り跳ね返された。
上から楽しそうな声が聞こえてくる。
「さあ、戦いの始まりさ!」
「さあ、戦いの始まりさ!」
叫んで、自分で笑ってしまった。下でぽかんとした表情のみんなが見えるのだから、尚可笑しい。
とはいえ、戦いは始まったわけだから、みんな武器を構えて戦いはじめる。
やっぱり、勇者の中で強いのは花凛ちゃんだね。エルフ魔法で他の勇者の兵士を一掃。どうだ、と笑ってみせる。うん、凄いに会うのはなんでだろ。
咲耶ちゃんも結構強い。両手に剣を握って飛びまわる。手をクロスさせて得意げな顔。うん、凄く似合いますけど、なんでだろうねぇ。
それに比べると、優人と麗華は少し劣るかな。でも、普通の人に比べたら滅茶苦茶強いけど。
まあ、それも良いんだけどね。朱璃ちゃんの奴隷たちの方が良いよ。凄いよ。
ほら、シルシィちゃんがフィールドの真ん中でエルフ魔法を使いまくってる。ほら、シルシィちゃん真面目だからさ、にこりともしないよ。
颯也くん、心花ちゃん、テオフィールくんが武器を握って飛びまわる。心花ちゃんはちょっと劣るけど、それでも悲鳴を上げながら斧を振り回してるから危ないったらない。最も危険な人物、かもしれない。
シアンちゃんは治癒師だから特にやる事がないみたい。マイシカちゃんの特殊な魔法で防御されてる。マイシカちゃんの方はやる事があって、みんなに補助魔法を掛けているみたいだ。テオフィールくんが居ないから涙目だけど、しっかりやる事はやってる。
ふと咲耶ちゃんを見ると、朱璃ちゃんと対峙していた。朱璃ちゃんは慌てたように後ろを見て、すぐ木がある事に気が付いて真っ青な顔をした。
咲耶ちゃんが仕掛けようとしたその時。朱璃ちゃんが凄い速さで動いて・・・。
「え、ティーナちゃん?!」
「咲耶さん、勝負にゃ!」
向こうでそれを眺めていたエリーちゃんがにっこり笑って言った。
「やった、上手く行ったよ、ごしゅじんさま」
「よし、ありがとう。行ってらっしゃい!」
「うん!」
エリーちゃんが魔法で他の人物に見せかけていたのか。凄い完成度だね。正体はアルベルティーナちゃん。楽しそうに攻撃を始めた。
エリーちゃんも攻撃に入る。大きな鎌を振り回し、出来るだけ『鮮血が舞うように』打ち込む位置を調節する。これはこれで相当器用だよねぇ。
さて、無防備な朱璃ちゃんはすぐにマイシカちゃんの防御壁の中に逃げ込んだ。うん、これは完璧な作戦だ。だって、外に出ている朱璃ちゃんの奴隷たちの戦闘能力は、明らかに勇者たちのそれを凌ぐものだから。
凄いよ、朱璃ちゃんの仲間、誰一人死ななかった。っていうか、もう勝利確定だからあんまり見てなかった。だってほら、景色が綺麗なんだ。そっち見てたよ。
四面全て高い山で囲まれていて、空は青く澄んでいる。俺のイメージカラーも青なんだよね。なんて。
山と山の間は森で、上から見るとずーっと緑の道が続いているように見える。凄く綺麗。
そして、何より空気が綺麗。
「おめでとう、朱璃ちゃん。ちょっと待って、すぐ其処に行くよ」
「おめでとう、朱璃ちゃん。ちょっと待って、すぐ其処に行くよ」
完全勝利! マンドラゴラもどきも使って上手く騙し、い、いや違うよ。作戦だもん! 花凛なんか驚いて悲鳴を上げた。其処に植わってるだけの草が、急に人間になって飛び出して来たのだ。そりゃおどろくよね! ただ、完全な隙である。
「朱璃、凄いわ。本当に強くなったのね。あ、でも、あれはずるいわ」
「てへへ・・・。作戦勝ち、だよ?」
「ま、そう、だね。あんなこと、できたとしても思い浮かばなかったよ」
花凛と咲耶が褒めてくれる。あは、結構嬉しいな。ちなみに、この戦いに立華家のみんなは参加していない。私が、参加しないで、と言ったのだ。此処は、自分の力で戦いたかった。そうしないと・・・。
私は、私の力で上に上がりたい。自分の力を認めて貰いたい。
「シルシィ・・・。やっと此処まで来たね」
「ええ。マスターと会った時から、もう、こんなに経っているなんて・・・。正直、信じられません」
「みんなもありがとう。此処まで尽くしてくれて、本当に嬉しい」
シルシィは真面目だから、本当に、本気で魔法を撃っていた。でもね・・・。ちゃんと見てたよ。最後の方、楽しそうに笑ってた事。微かにだったけど、私は見逃さなかったんだから。
颯也。大きな剣を振り回してて、かっこよかった。大きい犬の尻尾が揺れるのがちょっと可愛くて。本当に速い攻撃だった。
心花。怯えて斧振り回してただけだけど。でも、相当の人を倒した。スタミナ上げたから疲れなかったみたい。
エリー。擬態魔法はありがとう。鎌を動かす姿は悪魔そのもの。楽しそうな笑い声、すっごく響いてたよ?
ティーナ。擬態魔法の時の、あの表情、完璧だった。両手に装着した爪での攻撃、早いし威力あるし、凄かったよ。
セレス。羽を使って飛びあがって、弓を使って矢を放つ。何処から跳んできたのか分からない矢に、みんな慌ててたよ。
テオ。大きな槍を自由自在に操る姿がかっこよかった。マイの為に鍛えてただけある、って感じ。私たちに向けたどや顔は不要だったと思うけどね。
シアン。怪我人をすぐに見つけて、遠距離の治癒魔法。遠い人でも、ピンポイントの怪我を治せて、凄かったよ。
マイ。防御壁、完璧だった。誰も私たちに攻撃を入れられなかったよ。他の人に掛けた補助魔法の威力も相当だったよ。
兎たち。ローリの素晴らしい指示はもちろん、飛び交う魔法は、美しかった。味方を避けての攻撃、難しいんだけどね。
猫たち。ティーナにくっついて一緒に攻撃してた。どんどん行っちゃうティーナを追っかけてる姿、結構可愛かった。
あと、マンドラゴラもどきたちも、ありがとう。結構使えたよ。攻撃も多少出来るしね。
みんなのおかげだ。私一人だったら、最強の勇者なんて無理。もう、なんにでも勝てる気がするよ。
魔王様が私のすぐ目の前に立つ。整った顔立ちにドキリとする。
「さて、世界を救って貰うんだけど、どんなものなのか、何となく想像って、ついてる?」
「うん。分かってる。けれど、その前に、答え合わせ、して貰っていいかな?」
「・・・え?」
魔王様の顔が少し曇る。私の自信満々な顔を見て、顔色を悪くし、慌てている。
「も、もしかして、みんな気づいちゃったのかな・・・?」
「え? 朱璃、どういう事?」
雅さんも驚いた様な声を出す。私は大きく目を開いて言った。
「全部気づいてたんだけど、知らなかった? お父さん、お母さん?」




