第53話 立華家のみなさん
「朱璃、一体どういうことなの!」
「あ、雅さん。ごめんなさい、これ以上増やすと、今バランス良いんでちょっと」
「もう・・・。まあいいわ。随分大きくなったわね、朱璃。髪も伸びて、大人っぽくなったし」
「ええと、髪が伸びたから大人っぽく見えるんですか?」
「あ、いや、それだけじゃないわよ」
雅さんだけじゃなくて、優ちゃん、麗くん、琳ちゃん、それから恵さんと潤さんも来た。ティーナが久しぶりの妹、弟に嬉しそうな声を出す。
「フィオレ、ヴァレン。久しぶりにゃ!」
「アルお姉ちゃん、久しぶり!」
「アル姉さん、久しぶりですね。レオン姉さんは・・・。会ってない様ですね」
ああ、すっかり忘れてた。雅さんと、約束してたんだっけ。忙しすぎて忘れてた。っていうか、九年も前だよ、覚えてないって。色々あったんだから。でも、一番忘れちゃだめなこと忘れてた。
「魔王様が、なんなら朱璃ちゃんの家に行けばいいよ、って。で、来ちゃった」
「恵さん。潤さん」
「・・・。そうなのよね、朱璃ちゃん、私たちの事、そう呼ぶ事が多かった」
「え?」
「ううん、何でもないわ」
ああ、なんだか凄く幸せな気分だ。家族の温かみがあるっていうか・・・。
もちろん、うちの子たちと一緒でも幸せだよ。でも、なんて言うか、私、保護者みたいな気分で。実際、私が守って貰ってるんだけどね。でも、なんか、そんな感じで、ちょっと違う。
「ああそうだ。朱璃、戦いのとき、ついて行くけれど、良いかしら?」
「ふぇ? え、可能なんですか?」
「ええ。魔王様は良いと言っていたわ」
じゃあ、断りはしないけど・・・。ふぅん、そうなんだ。
次、魔王様からの招集はいつ来るのか分からない。けれど、そのとき、最後の戦いが始まる。花凛、咲耶、優人、麗華。この中じゃ、明らかに劣る。でも、みんなと一緒なら、負ける気はしない!
「ん、美味しい。セレスちゃんも心花ちゃんも、お菓子作り上手ね」
「ありがとうございます、ええと、恵さん」
「ありがとうございますぅ。そう言ってくれると、とっても嬉しいですぅ!」
なんで寛いでるんだろ。よく分からない状況になっている。
まあ、知らない人といきなり一緒に戦うのは無理だし、仲良くなるため、なのかな。だけど、シアンがちょっと可哀想。知らない人は本当に苦手なんだ。
「あ、そうだ、何時まで此処に居れるんですか?」
ちょっと控えめに訊いてみる。
「ん、そうね。暗くなるまでには変えるつもりだけれど」
えぇ・・・。結構長く居るんだなぁ。
「あら、もしかして迷惑? じゃあ、魔物を倒しに行く?」
「そ、そうしましょう! じゃ、準備しよっか」
その方がまだ楽だろう。シアンのほっとしたような顔に、私もちょっと安心した。
「・・・ねえ、朱璃は戦わなくなったの?」
「ええ。指導者スキル取ったので、戦うのは厳しいんです」
「ああ、あれ・・・。なるほどね」
エリーが楽しそうに鎌を振り回している。怖いくらい笑ってる。優ちゃんは驚いたようで、声も出せずに眺めていた。
ティーナも道を開けるように攻撃中。爪を装着した両手を大きく広げて駆け抜ける。くるっと半回転してこっちを向いた。
「シュリ様ー!」
「ティーナ速いなぁ。待ってー」
「にゃは! フィオレ、ヴァレン!」
「待って、アルお姉ちゃん」
坂の一番上で手を振るティーナ。見た目よりも凄く遠い。何とか登り終えると、
「わぁ、綺麗・・・」
景色は本当に素晴らしい。花びら也木の葉を巻き上げながら心地よい夏風が吹く。
「わああああああ!」
『・・・、え?!』
恐る恐る声のする方向を向くと。
ローリの配下、緑の兎、ルーシーちゃんが落ちていくところだった。
「ええええええ?! ルーシー?! そりゃない・・・」
珍しくローリが大きな声を出す。がっくりと膝を折ってその場に蹲る。
というのも、落ちて行った先は崖の様になっていて、下は森。あぁ・・・。
「こ、このまま飛び降りた方が早いですかね」
ああ、ローリ、ちょっと落ち着こうか。それは結構高確率で死ぬって。
「ほら、ちゃんとこっちから行こう!」
「ルーシー、返事して、ルーシー!」
「この辺じゃなかったっけ?」
「だと思う。ルーシー・・・。いつかやると思ってた」
ちょっと天然さんなルーシー。うん、私もいつかやるんじゃないかと思ってたよ。まさかこのタイミングだとは思わなかったけどね。
にしても、見つからないなぁ。何処行っちゃったんだろう・・・。
「ルーシー・・・。見つからない」
ローリが立ち止ってしまった。今にも泣きだしそう。あぁ。両手で顔を覆ってしまった。
「ああ、ローリ、泣かないで、大丈夫だよ」
ぎゅっと抱きしめて頭をナデナデ。ちなみに、他の人は別の場所を探しまわっている。
「朱璃! 見つかったわ!」
「雅さん! ローリ、行こう」
「うん」
「ふええええ、ローリさん、ご主人様ぁ・・・」
「な・・・。あんなところに」
木の上の方。細めの幹に捕まって震えているルーシーを発見。セレスかエリーがこの場に居ればいいんだけど、生憎まだ到着していない。この場に居るのは私とローリ、立華家のみんな、テオ、マイ、それから兎のみんなだ。
ローリは早くも木を登り始めた。ルーシーに何度も「大丈夫」と声をかける。いや、ローリが大丈夫じゃない!
「あっ・・・!」
落下したローリをテオがキャッチ。ああもう、びっくりしたぁ・・・。危険なことしないでよ。
止める間もなく、ローリは懲りずに登りだした。ああもう、あんなところに手を掛けて、外れそうだよ・・・。もう見てらんない。けれど、目を離す事も出来ない。
太い幹に手を付いて、細い幹の上に立つ。ルーシーの居る幹の幾つか下。手を伸ばせば届く。
「ルーシー、大丈夫。もうちょっと上に行く、待って」
「ローリさん、ごめんなさぁい!」
「大丈夫。ほら、此処に手を付いて、大丈夫」
ゆっくりローリがルーシーを誘導していく。怖々だけど、何とか降りられている。
いやぁ、まあ、木に登ったらお約束。そうなるよね。そんな呑気なこと言ってる場合じゃないんだけど、体が動きません!
「きゃああっ!」
幹、折れました。ローリの居るのと、ルーシーの居るのと。両方。
「ふう、何とか間に合ったな、ローリ、大丈夫か?」
「颯也・・・? あ、ありがとう」
「ルーシーちゃん、はぁ、無事でよかったです」
「シルシィさん。ご、ごめんなさい」
ルーシーは随分引っ掻き傷だらけだけれど、地面に降りられて安心したのでそれどころじゃないらしい。大泣きだ。ローリが本人も泣きつつ撫でている。はぁ、無事でよかった。
ルーシーの怪我はシルシィが治癒。みんな集まって、ルーシーが無事な事を確認して胸をなでおろし、ちゃんと周りを見ろと怒る。
もうこれ以上此処に居る気分じゃないので、みんなで家に帰った。
「・・・。ああ、もう、か。みんな」
私は、ポストに放り込まれていた手紙を見せる。魔王様から。招集命令。
場所は、ああ、今日行った森をもっと進んだところだ。人が居ない広く開いた所なのだ。
なんか、凄く緊張する。一体、何から世界を救えばいいのだろう。どうやって?
うん、何となく予想は付いている。けれど、やっぱりドキドキするよ。
「じゃあ、明日、此処に集合して貰っていいですか?」
「うん。じゃ、また明日」
今日は早く寝ないと。他の勇者には、絶対負けない!




