第51話 家族の事
「で、次に行く場所は、何時分かるんですか?」
「さぁ? 全員帰ってきたらじゃない?」
そんな話をしながら大浴場に行く。此処のお風呂も大きいものだ。誰がこんなに入るんだろう?
歩いていると、マイが私の手を引っ張った。え、と振り向くと、困ったような表情をしている。
残念ながら、私はマイの考えていることなんて分からない。テオが相手になる。
「ふふ・・・。マイ、大丈夫だって。誰もそんなこと気にしないからさ。え、ティーナ? だからなんだって、ほら、だいじょーぶ!」
え、でも・・・。と言いたそうな表情のマイ。それでも、こくっと頷いて付いてきた。
そんなマイも、兎たちが楽しそうにはしゃぐのを見て、少し口角を上げた。
「ほら、エリー・・・、え?」
「ごしゅじんさま、私もう、洗って貰わなくて大丈夫だよ?」
「あ、そう・・・」
「え、なんで、いや?」
「そうじゃないけど・・・」
ツーサイドアップを解くエリー。あ、髪、随分伸びた。そろそろ切ろう。
そうじゃなくて・・・。エリー、自分で洗うって・・・。まあ、そっか。最近はシルシィと入ってたから、知らなかったけどね・・・。なんだか、寂しいような気がする。
「マスター、髪、伸びましたね。私と初めて会った時、肩につくかな、くらいじゃなかったですか?」
「も、もうちょっとあったよ・・・。でも、そうだね。こっちの世界の人、みんな長いんだもん、これが普通な気がしてくる」
「でも、そろそろ切りましょうか」
伸びたのはエリーだけじゃない。私の髪も、もう腰を通り越してる。こっちの世界の人って、髪長い人はほんっとうに長いんだよね。だから、あんまり違和感が無かった。道理でシャンプーの減りが早いわけだ! え、何か間違ってる?
「ふぅ・・・。なんだか・・・」
「え、マスター?」
「ううん、何でもないよ」
なんだか、みんなだけ成長してくみたいだなぁ。私、取り残されてく感じがする。
だって、みんな、どんどん強くなって。大きくなって。気がついたら、みんな、私を心配する側になってた。私、みんなに、心配されてた。それって・・・。なんだか、変な感じだ。
「・・・大丈夫。マスターも、私たちと、一緒、ですから」
「え? シルシィ・・・。うん、そっか」
「シュリ様ぁー! 助けてくださぁい!」
「セレス、早く入ろうにゃ!」
「羽が濡れてしまいますぅ! 止めてくださぁい!」
・・・。あれ、何が起きてるの? 何かがおかしいなぁ。ティーナがセレスをお風呂まで連行しようとしてて、セレスが嫌がってる。
い、いやでも、髪洗おうとしたら羽濡れるでしょ? そう思っていたら、シアンが無言でセレスに水を掛けた。
「ひゃっ?」
「何が、問題ですか?」
「だってぇ・・・。ふわふわじゃなかったら、可愛くないんだもん」
「それだけですか。ティーナさん」
「はいにゃ!」
えぇ・・・。何でかなぁ。ティーナはセレスをこっちに向かって投げた。
「ちょっとぉ! 危ないじゃないですかぁ!」
「セレスなら大丈夫にゃ! ほら、シアン、行こうにゃ!」
「はい」
ああ、ちなみに、マイが心配していたことはすぐに分かった。まあ、なんというか・・・。幼児体型、なんだよね。誰も気にしやしない。だから、マイも今は普通に楽しんでる。
ローリたちはいつも通りだね。ミルク、ココア、チョコも交じって楽しそう。心花はエリーと遊んでる。それにティーナとシアンちゃんが交る。水掛け合って遊んでる。それは、いつの間にかセレスに水を掛ける遊びになっていた。
「あら? 先客がいらっしゃるようで? って、朱璃」
「あ、花凛。帰って来てたんだ」
「今帰って来たところ。今日こそ尻尾を・・・」
「止めて」
結構大騒ぎになったが、私たちはお風呂から出て部屋に戻る。颯也とテオはもう居た。
其処で暫くのんびりしていたら、メイドさんに呼ばれた。夜ご飯が出来たらしい。
大きな部屋に行くと、相当な数の執事が。ビシッと。壁沿いに・・・。怖・・・。
「さ、座って。すぐに花凛ちゃん、咲耶ちゃんも来るよ」
「あ、帰って来てたんですね」
「うん。優人と麗華ちゃんはまだだねー。流石、朱璃ちゃんの仲間は強いね」
「・・・、その仲間に、花凛と咲耶も含まれているんですね」
「うん」
席に座ると・・・。この食器、見てよ・・・。真っ白で、周りに金の縁取り。淡い桃色で花の模様が描かれている。相当高いことだろう。エリーが割りでもしたらどうしよう。あ、これ、フラグ?
え、昨日暗かったのってまさか・・・。
「ね、ねえシルシィ」
「なんですか、マスター」
「この食器、エリーが割ったりしてないよね?」
「? 何のことでしょうか・・・?」
違うらしい。なんだったんだろうな・・・。そう思っていると、メイドさんたちがグラスに飲み物を注いだ。なんだろうこれ。すっごく綺麗。紫色で・・・。あ、これ・・・。多分、お酒だよね。
「シルシィ、これ、なんだと思う?」
「ワインじゃないですか?」
「だ、だよね」
ああどうしよう。飲みたくないな。でも、口をつけないのは失礼にあたるでしょ?
暫く考えていたら、シルシィが苦笑いしながら言った。
「もし危なかった私たちが何とかしますから、マスターは気にしないで」
「あ、ごめんね、頼んだよ」
「お任せ下さい」
何事もなく終了した。あの時、どれだけ強いの飲ませたんだろう。
部屋に戻る。ああそうだ、一人部屋だった。なんか、一人ってこんなに寂しかったっけ、って思う。いつも、みんなとわいわい過ごしてたから。静かでちょっと怖い。
寝るには少し早いけど、でもお酒飲んじゃったし、眠い。どうしようかと考えつつ、ベッドに座って天井を眺める。
やっぱ眠い。それに、一人って、何をしていいのかわかんないよ。私はベッドに横になる。
「きゃああっ!」
「っ! マスター、大丈夫ですか?!」
「はぁ、はぁ・・・。シル、シィ?」
朝。私の顔を心配そうにシルシィが覗き込む。ええと、何時から、どうして此処に居るんだろう。
もしかしたら、わざわざ起こしに来てくれたのかもしれない。起き上がると、背中が少しひんやりした。
「何か、あったんですか?」
「ううん。ちょっと、怖い夢見ちゃっただけ」
「そう、ですか。・・・そう言えば、エリーと初めて会った、あの日も同じこと言ってましたけ?」
「あ、そうだったかも」
「大丈夫ですか? 本当に怖かったら、話、聞きますから」
「うん。ありがとう」
怖かった。大切な人が、次々の居なくなっていく夢。一人一人、目の前で、殺されていく夢。私の声は出ない。泣き叫びたくとも、できない。いや、出来ているのかもしれないけど・・・、よく、分からないや。少なくとも、向こうから、私は見えていないらしかった。
でもほら、酷いよ。こうやって、ちょっとでも家族の事を思い出そうものなら、酷い頭痛に悩まされることになる。そうなると、もうこれ以上何も考えられない。そうやって、結局、何もわからない。
ただ、この頭痛、何処かで経験した気がするんだよなぁ。家族のことじゃない事で。なんだったっけ。
「朱璃、最近おかしいですわよ。どうかしたんですの?」
「私、おかしい? どの辺が?」
「ええと、考え事が増えた気がしますわ。それから、夢から覚めた途端泣き出したり、今日は悲鳴が聞こえましたわ」
「聞こえてたんだ。・・・。そう、かな」
確かに、最近、夢の中で、家族の事とかよく見るかも。それで、起きてからその事を考えて。でも、頭痛があるから、ぼんやりと考える。明確に家族の事を思い出そうとすると、もう・・・。
ああ、傍から見たらおかしいかも。花凛はよく見てるなぁ。
「やっぱり、家族とフィアンセのこと、ですの?」
「うん。私、どうしてこんなことになっちゃったんだろ」
「朱璃・・・。な、泣かないで。あ、でも、泣いた方がいいのかしら・・・」
花凛は私に向かって出しかけた手をそっと引っ込めた。もう片方の手で包み込むように握り、私から目線を逸らす。私の事で花凛が悩む必要なんて、ないのに。やっぱり私なんて・・・。もう嫌になるよね。
養母はどうしてるかな。あの時、雅さんが救世主に見えて、ついてくしかない、って思っちゃったけど。
ん? あの時私、花凛とか全員置いて逃げたんだよ? どうして、花凛は此処までしてくれるのかな。
「わたくし? それは・・・。過去の事は全て捨て、今から友達関係を作る、と決めたからですわ。・・・朱璃がわたくしことを全て許すと言ってくれたのに、あの一回の事を責めることなど、出来るはずがないでしょう?」
そう。まあ、そうなのかも。花凛って結局、みんなに唆されてただけなのかもしれない。まず優人。ライバルの家。私の情報を沢山知っていた。それを麗華が聞きだし、花凛に伝え、上手く誘導する。
ああ、考えてみると、結構ありそうだね。こんなに優しい花凛がどうしていじめをやるのか、私、ずっと気になってたんだ。
「もしかして、私いじめてたのって、麗華とか優人のせい、だったりする?」
「どうでしょう? まあ、無くはないと思いますわ。・・・そうかも、しれません」
「そう。そっか。うん、分かった、ありがとう」
私が笑うと、花凛は不思議そうに首を傾げる。ごめんね、花凛。変な事聞いて。でも・・・。パズルのピースは、確実に集まって来ているよ。




