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第50話  純粋の花

「御主人!」

「えっ?! ローリ?!」


 謁見の間で魔王様と話していると、急に兎たちが乱入してきた。

 一応、人数が多すぎるから、兎たち、猫たちにはお留守番をして貰う事になっていた。にもかかわらず、いきなりの乱入・・・。

 一応魔王様に断り、わけを聞いてみる。


「御主人、世話係とかいう人が来て、私たちを動物扱いする」

「えぇと、具体的には・・・」

「撫でまわされた。たすけて」

「ああ、そうかそうか」


 つまり、みんなは動物の姿でいたわけだ。で、そうしたら世話係に撫でられてしまったと。

 いつも人間の姿でいたローリは、動物扱いされるのを異常なまでに嫌う。その上撫でまわされたら・・・。そりゃ、怒るな。


「他のみんなはどうしたの?」

「そこ」

「おいで。魔王様、すみません」

「いいよいいよ。世話係にはきちんと言っておくね」

「はい・・・」


 で、話に戻ろう。今、最初に試練について話していたんだ。

「朱璃ちゃんたちは、雪山に行って貰おう。メンバー的にきついと思うんだよねー」

「分かってて・・・」

「じゃないと試練にならないでしょ? 頑張ってね。ええと、それでね・・・」



「という事で、打ち合わせをしよう」

「はい」

「まずね・・・。私とシアンはきついと思うんだよね」

「はい」

「で、どうする?」


 明らかに私とシアンは雪山と相性が悪い。魔王様も分かっているんだろう。

 さて、どうするか・・・。私が溜息を吐くと、颯也が慌てたように言う。


「し、仕方ないさ! な、気にしないで」

「あ、うん・・・。そうだね」

「私は出来るだけ魔法で援護しましょう。マスターも頑張れば出来ると思いますよ」

「あぁ・・・。じゃあ、そうするか。あとは?」


 うーん・・・。いまいち良い案が無いけれど・・・。まあ、頑張ってみるか。試練だし、乗り越えなくちゃ意味が無い。

 確か、魔王様の使い魔の悪魔が試練の場所まで連れて行ってくれるはずだ。常に一緒に行動してくれる。が、助けては絶対にくれない。帰りたい時に帰してくれるのみだ。


「わたくし、チェレステと申します」

「よろしくお願いします」

「では、試練場所までご案内いたします」



 うわ、本当に一面真っ白! 流石雪山というだけあるよね。

 あ、寒い! 此処をこれから進んでいくなんて・・・。ありえない!


「シュリちゃん、大丈夫?」

「寒い・・・。こんなのあり?」

「そんなに寒いですかね?」

「シルシィ姉ちゃんは別だろ」


 シルシィは雪国出身だっけ? そりゃ寒いの得意だよね。あ、でも、暑いのも平気なんだよね、この子。ってことは・・・。やっぱり、颯也とかエリーとかは何ともないみたい。


「とりあえず、私がマスターを何とかします」

「じゃあ、エリヴェラがシアンお姉ちゃんについててあげるね」

「あ、ありがとう、エリーちゃん」

「ごめんね、シルシィ」


 歩いて山を登っていく。この山のどこかに生えている花を摘んでくればいいんだっけ。ちゃんと探さないと。細かい事は教えてくれなかったけれど、心花が知っているようだったので大丈夫だろう。

 とはいえ、きょろきょろしながら歩くのは危ないし。一面真っ白なうえ、吹雪まで吹いている。ただでさえ視界は悪いのだ。余計危ないでしょ?


「あぁ・・・。なんでこんなところに・・・」

「朱璃姉ちゃん、本当に平気か?」

「た、多分ね・・・。それより颯也、ちゃんと前見なよ?」

「あ、ああ」



 約三時間後・・・?

「シュリ様ぁー! 此処に洞窟がありますよぉー!」

「一回休憩しようにゃあー!」

「ありがとう、セレス、ティーナ」


 先を歩いていた二人が洞窟を発見してくれたようだ。中に入ると・・・。あ、あったかい。風も全然入ってこないや。凄いなぁ、此処。

 私たちは火を起こし、持ってきた食べ物を適当に食べる。魔物が少ないから、長く居るんだったら後々困りそう。


「はぁ・・・。みんな、大丈夫?」

「一応、問題ないですよ」

「私も平気です」


 まず、セレスとティーナは問題ないな。最前を歩いて、その上洞窟見つける位余裕あるんだから。

 シルシィと颯也、心花も平気そう。シアンはエリーが何とかしてくれたみたいだし、エリーも平気。

 マイはテオが付いていたから、もっと何の問題も無い。

 兎たちは置いてきた。雪山に多人数で行くと、遭難者の出る確率が上がりそうだし。今頃魔法の練習でもしてるだろう。


「吹雪凄いね・・・」

「うぅ・・・。止みそうみありませんね・・・」

「ごしゅじんさま、だいじょーぶ?」

「うん、多分ね・・・。でもなぁ・・・」


 幾らなんでも強すぎる。此処、どんな山なのさ・・・。魔王様、なんてところを紹介するんだ。

 じゃあ、他のみんなはどうしてるんだろう。どんな所に行ってるのかな・・・。


 そんな事を考えていると、何となく、甘い香りがしたような気がした。砂糖とかのじゃなくて、果実とか、花とかみたいな・・・。何にしても、すっごくいい香り。

 でも・・・。私より鼻が良いはずの颯也とティーナの反応が無い。おかしいなぁ・・・。確かにするんだけど・・・?


 そう言っていても仕方がない。私は立ちあがって、洞窟の奥へ奥へと進んでいく。

「あ、マスター?!」


 間違いない、こっちの方からだ。結局、みんな付いて来たのかな。後ろは振り返っていないから、よく分からないけれどね。

 ・・・此処だ。私が立ち止ると、心花が「あっ」と短く声を上げた。

「これって・・・!」



「御主人様。紅茶をお持ちしました」

「ああ、ありがとう」


 魔王は紅茶を静かに啜った。持ってきたその悪魔は、相当紅茶を入れるのが上手い。そんな事を考えつつ、魔王は悪魔に顔を向ける。


「何か、言いたそうだね」

「いえ・・・。ですが、随分と難しい試練を出されたようなので。一カ月は掛かりそうなものばかりです」

「そうかな? 朱璃なんかは、意外にすぐ帰ってくると思うよ」

「そ、そんなはず・・・!」


 朱璃が取りに行ったのは、ラオタァカイトフラワー。純粋の花、または純白の花と言われたりする。ラビュリントモンターニュ(迷いの山)にしか生息しない、珍しい真っ白の花だ。

 これは、相当難易度が高い。が、最初だから、みんな、相性がいいだろう物を選んでいる。朱璃と相性がいいだろうと魔王が決めたものだった。


「うーん、そうかな? 朱璃、相当良い心だと思うけれど。『本人にその自覚は無くとも』ね」

「・・・」

「あ! そっか! 君、ラビュリントモンターニュ、行った事があるんだったね! そうかそうか、その時、一カ月掛かったっけ。それより早かったら、メンツが立たない、って?」

「い、いや、そう言う訳では・・・!」


 その悪魔は、あからさまに慌てた様子を見せる。魔王はそれを楽しむように静かに笑った。

「でもね、多分・・・。『もうすぐ帰ってくる』と思うよ」


 ――そのとき、エントランスの方から大きなベルの音が響いて来たのだった。



「きゃっ?!」

 何が起きているのか分からない。帰ってきたと思ったら、いきなり大きなベルの音。すごく驚いた。

 すぐに魔王様が笑いながら出て来て、少し不貞腐れたような悪魔が一人。真黒な髪(男の人にしたら、長いかな)の悪魔。エリーとは比べ物にならないほど大きくて立派な翼がある。執事なんだろうか。綺麗なスーツをビシッと着こなしている。


「いやあ、ほら、言ったでしょ?」

「? 何が・・・?」

「いや、この子がね、一カ月はかかるって言ってたからね。そんな事はない、もうすぐ帰ってくるよ、って僕が言ったんだ」


 一カ月? そんなわけない。一瞬で見つけた洞窟に生えてた。しかも群れで。私の両手に持てる限り花を摘んできたけれど、あの中ではほんの少量だ。

 だから、一カ月なんてかかるはずないでしょ。上まで行って帰ってきたとしても。


「いやぁ、心花ちゃんが知ってるさ」

「え? どう言うこと・・・?」

「ふふっ・・・! じゃあ、説明してあげて」


 心花が困ったように笑いながら喋り出す。



 ええと、私たちが行ったのは、ラビュリントモンターニュっていう山なんですけれど、直訳で『迷いの山』って言うんですね。別名『魔力の山』、なんて呼ばれたりするんですが・・・。

 まあ、別名の通りなんです。あの山には大量の魔力がある・・・、いや、あの山が魔力そのものなんです。


 気に入らない人がはいってきたりすると、強い吹雪が吹いたり、道の形を変えて迷わせてしまったりするんですね。

 何というか・・・。あの山は、風だったり、土だったり、木だったりに好き嫌いがあって、嫌いな人を追い出してしまうんです。それぞれ、何がどの程度なら『大丈夫』かが違って来るんですが。例えば、風は結構厳しいので、大抵の人はあの山で猛吹雪に遭います。

 その中でも、特にこの花・・・ラオタァカイトフラワーっていうんですけれど、この花は、好き嫌いが激しいんですね。とても厳しい条件で、その上本当に気に入った人意外『近づけない』んです。


 で、この山の好き嫌いの基準というのは、『心の純粋さ』に懸かっています。

 心が綺麗な人しか、この花を見つける事が出来ないわけです。純粋に、この花を持って帰りたい・・・。そう思う心。それが、たとえ、自覚のないものだったとしても・・・。



「逆に、気に入った人はとても強く呼びつけます。例え隣に人が居ても、その人しか感じる事の出来ない方法だと言われていますが・・・」

「あ、そう言えば私、甘い香りがした気がして、奥に行ったんだ」

「へぇ・・・。甘い香りねぇ・・・。それ、人によって違うんだよ」


 魔王様が笑ってそう言う。あの感じ・・・。どんな人が甘い香りを感じるのか分かっているんだろう。

 にしても、純粋な心か・・・。全然分からなかったけれど。


「じゃあ、俺たちは魔王様の依頼は二の次。一番は朱璃姉ちゃんを守る事だ! ・・・って思ってたから分からなかったわけだ」

「そうだろうね。朱璃ちゃんだけが『花が欲しい!』って強く願ってたんじゃない?」

「そうかな・・・?」

「シュリちゃん、『寒いから早く花手にいれて帰りたい』だったんじゃないの?」

「あ、あはは・・・」


 そんな話をしていると、魔王様は隣に立っている悪魔に声を掛ける。

「ねぇ? 君は大変だったんでしょ?」

「はい・・・。でも、一カ月彷徨って、気がつきました。『私、きっと山に嫌われてるんだ』って」

「それで手に入れられたんだ?」

「はい。強く強く、願いました。そうしたら、何となく、分かって」


 ・・・ん? 何かがおかしい。え、まさか・・・。

「えっと・・・。女の方、ですか?」

「私? あ、はい・・・」

「ほら、だからもっと女の子みたいな格好すればって言ったのに」

「良いんです、私はこれで。御主人様のよい執事であれれば」


 あれ・・・。男の人だと思ってたんだけど・・・。

 そう言われれば、女の人にしか見えない。声を聞くまでほんと気がつかなかった・・・。凄く綺麗な声をしていたから分かったけれど・・・。


「あ、そうだ、朱璃ちゃん、他の人に言っちゃだめだよ。同じ場所をローテーションで行かせるから。無論、聞くのも無しね」

「あ、はい。分かりました」

「じゃあ、ゆっくり休んでおいで。ローリちゃんたちまってるよ」


 それもそうだ。私たちは昨日案内された自分たちの部屋に向かって歩き出した。

 ・・・。いや、正直に言えば、魔王様に命令される形だけどね。

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