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第49話  魔王様

 うう・・・。緊張するなあ。

 現在午前四時。って、やっぱり手紙早すぎだろ。あれからもう十カ月もたってるんだよ?

 あ、ちなみに、私たちは服装を整え終わり、花凛待ちだ。

 みんな、可愛らしいメイドさんに大変身。とっても似合っている。花凛のチョイスなんだろう。颯也とテオも執事にしか見えないよ!


 正式の、ロングスカートのメイド服。胸元の大きなリボンが可愛い。腰よりも上の黒いベルトは、後ろに大きなリボンが。ちょっと正装したみんながとっても可愛い!


 ちなみに、心花の三つ編みとエリーのツーサイドアップを結ぶ大きなリボンの付いたゴムもあった。セレスのツインは髪飾り、あっても目立たないし。


 そんな風にドレスを見ていると、こんこんとノックの音がした。ティーナがこくりと頷く。間違いないようだ。

 扉を開けると・・・。わぁ、凄い! 花凛のドレス、凄く綺麗!

 すらりと細い形のドレス。体のラインが良く目立つ。色は真紅。血の様に美しく綺麗。

 あ、咲耶もいる。青紫の着物だ。黒髪ストレートに良く似合っている。


「あら・・・? 朱璃のドレス、可愛いじゃない」

「花凛のドレスも綺麗! 咲耶も着物、似合ってるね!」

「でも、朱璃のドレスはほんと綺麗だよ」


 あれ、揃いも揃って私のドレスを・・・・・・。

 桃色が基調。袖は無い。細い紐を首の後ろで結んで止めた。胸元には真っ赤なリボン。左の腰の下位に大きなリボンがあって、そこから曲線を描くようにフリルが。っていうか、スカートの部分はフリルで埋め尽くされている。


「と、とにかく急がないと。魔王様の居る場所、随分遠いみたいだし」

「そうですわね。行きましょう」



 魔王様が準備してくれていたという船に乗り込む。とっても豪華な船だ。

 ああそう。しばらく向こうに居る事になりそうだから、兎たちも全員連れていく事になっている。ローリが全員の面倒を見てくれるから安心だ。


「ふわぁ・・・。朝早すぎ・・・」

「朱璃は朝苦手?」

「うーん・・・。得意ではないかな」


 花凛と咲耶、何故かすごく元気なんだけど・・・。どうしてだよ・・・。

 ああ、そう考えれば、うちの子たちだって超元気じゃないか。


「ねえシュリちゃん、マイはダメみたい。どこかで寝かせておいても良いかな?」

「ああ、いいよ。シアンちゃんも平気?」

「あ、あんまり・・・」

「エリーは?」

「エリヴェラはだいじょーぶだよー」


 颯也がシアンちゃんを抱いて寝かせてしまう。颯也は本当にみんなの事を妹として大切に大切にしているから、みんなもお兄ちゃんみたいに安心しきっている。

 それを見て、テオもマイをその場で寝かせた。


「朱璃姉ちゃんは?」

「私はいいよ・・・。大丈夫」

「あ、そうですか。まあ、マスターの、その恰好じゃ厳しいですかね」


 まあ、それもあるけど。どうせ寝られやしないと思うし。昨日だって随分時間がかかった。

 そっと溜息を吐くと、エリーがパタパタと此方に飛んできた。私の隣に座る。


「寝られないからじゃなくてー? 催眠魔法使う?」

「あー・・・。まあ、うーん・・・」

「えいっ!」

「ま、まだやってとは・・・!」





 ポロリと涙が零れ落ちた。なんでだよ・・・。本当に、なんで・・・。

「あ、ごしゅじんさま・・・? ど、どうしたのー?」

「な、何でもないよ・・・」

「でもー・・・」


 おかしいな・・・。さっきまで、分かってたはずなのに・・・。さっきの夢では、お父さんとお母さんの顔、はっきり見えてたはずなのに。なのに、どうして、今は、分からないの・・・?!

 わけわかんないよ・・・。お姉ちゃんだって・・・。さっきの夢で覚えてるの、喋った『言葉』とやった『行動』だけだよ・・・。声すら分からないの。


「ど、どうしてなの・・・?」

「・・・? ごしゅじんさま? どうしたの?」

「ああ、もう! 分かんないんだよ! お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも! 蒼泉くんだって・・・!」

『朱璃?!』


 花凛と咲耶が慌てて駆け寄ってくる。

「ごしゅじん、さま・・・?」

 エリーは驚いたように目を見開いて私を見ていた。エリーが瞬きをして、次に目を開いた時、涙が溢れ出て来ていた。そこで、私ははっと我に帰る。

「っ! ご、ごめん・・・」


 でも、さっき、放っておいて欲しかったんだ。だから・・・。でも、だからって、エリーに当たっちゃ、だめだよね。そんなの、分かっているはずなのに。あぁ、だめだなぁ・・・。


「朱璃・・・。大丈夫?」

「う、うん・・・。エリーほんとごめんね。ほら、おいで」

「びっくりしたぁ・・・」

「うん、そうだよね。ごめんね」


 頭を撫でてやっていると、エリーはすぐに落ち着いた。すると、片手にケーキの乗ったお皿を持ったティーナが扉を開けて入ってきて、エリーはそちらに行ってしまった。


「思い、出せない、の・・・?」

「うん・・・。やってた事とか、言ってた事は分かるのに、顔と声が分かんない」

「そんな事って・・・? では、その、噂になってた、フィアンセ・・・」

「は、割と平気。家族の方が・・・。蒼泉くんは、ときどき、思い出せるんだけどね。家族は、全部、ぼやけたみたいに、分からなくて・・・」


 花凛がハンカチを取り出して私の頬をそっと拭い、咲耶が私の頭を撫でる。もぅ・・・。子供扱いして・・・。同い年だよ?

 でも・・・。意外に落ち着いたな。


「あ、ほら、もうすぐ着くそうですわ。テオフィールさん、颯也くん、二人を起こして下さいまし」



「ようこそ、我が、王城へ。俺がこの城の主、魔王だよ」


 謁見の間・・・? に案内された私たちは、その広さと豪華さに圧倒された。

 赤と白が基調の、綺麗な部屋だ。でも、魔王っていう割に、明るすぎないか?

 そして、魔王様と目が合わせられない。何となく、怖くて。まだ、顔がしっかり見れていない。


「長旅御苦労さま。ごめんねー、こんなところまで呼んで」

「いえ。それで、どんな御用ですの?」

「うん。もう、みんな、お互いの顔は知ってるよね? 朱璃ちゃん、花凛ちゃん、咲耶ちゃん、麗華ちゃん、優人くん。本当は顔合わせだけどさ、もう会ってるでしょ?」


 まあ、結構種族が変わって違った部分もあるし、今初めてあったら誰だか分らなかったかもしれない。

 ・・・もともと、あまり同級生に興味が無かったのもあるし。


「私は朱璃と優人にしか会ってない」

「わたくしは麗華には会っていませんわ」

「私も麗華、あと、優人も会ってないかな」

「俺は咲耶に会ってない」


 全員と会ったのは私だけかよ。まあいいけど。

 ってことは、うちの子たちはほとんどみんな見てるのかな。新しい子は会ってないけど。


「うん、そうだね。まあ、それは何でもいいんだよ。で、それだったら、みんなに俺の出す試練を受けて貰って、それで強くなって言って貰おうと思ってさ。五年間? こっちに居て貰うから、そのつもりで」

「・・・えぇ?!」

「あれ、朱璃ちゃん、何か問題が?」

「い、いえ・・・」


 じゃあ、あの服持ってくればよかったなぁ、なんて馬鹿な事を考えてしまった。

 あ、でもそれなら、あの十ヶ月間で頑張ってみんなを鍛えておいてよかったかも。


「まあ、まずはゆっくり昼食でも。って、船の中でケーキ食べてた子も結構いるかな。・・・ん、いいんだよ? ティーナちゃん、エリーちゃん」

「あ、はい・・・」

「だからまあ、量は少なめにしてあるしね。美味しかったかな? ・・・で、朱璃ちゃん」

「え、あ、はい?」

「例の件、良いかな」



「さて、これでこの中には誰も入ってこれないよ」

「は、はあ・・・」

「いい加減、僕の顔を見たらどうだい?」

「え、あ・・・」


 そっと目線を上げて魔王様の顔を見てみる。蒼泉くんと・・・。似てる、かなぁ? もう何年も経っちゃってわかんないよ・・・。しかも髪が青い。

 よく、わからない・・・。なんだか、拍子抜けだよ。


「で、何故、私を此処に・・・?」

「色々謝りたくてさ」

「あ、謝る・・・?」


 魔王様は私の顔をじっと見つめる。綺麗に澄んだ青い目が私を捉える。少し怖くなって、目を逸らしてしまうと、魔王様は笑って口を開いた。


「えっと、まず、君を兎獣人にしてしまった事さ。そんなつまりはなかったんだけどね、うっかりしてたよ」

「と、言うと?」

「地球からこっちに連れて来る時、種族が変化してしまうのはよくあることなんだ。で、今回みたいに意図的に連れて来る時は、制限を掛ける事も出来るんだ。『兎獣人を除く』って感じでさ」

「はい」

「だから、そうしてれば良かったんだけどね・・・。色々大変だったでしょ?」


 まあ・・・。でも、おかげでみんなに会えたから、嫌ではない、かな。そう伝えると、ほっとしたように魔王様は笑った。

「でも、こっちに来てから体調崩す事が多くなかった? あれ、兎だからだよ。ごめんね」

「あ、そうだったのか・・・。まあ、大丈夫ですよ。気にしないでください」

「なら良かった」


 それから、魔王様は私に色々な料理を勧めてくれた。全ての料理を、少量ずつ。色々楽しめるようにしてくれているのが良く分かる。

 食べ終わると、魔王様は小さな木箱を手渡した。開けてみると、中には小瓶が入っていた。


「こ、これは・・・?」

「どうしても辛くなった時、飲んでみて。それまで秘密だよ」

「え・・・? あ、はい・・・」


 私たちはみんなが食事をしているという会場まで行った。何故だか空気が重い。

 私が首を傾げていると、魔王様は笑いながら手を叩いた。


「まあまあ、そんなに考えなくて良いよ。さ、みんなには部屋を準備してある。持って来たい荷物があるなら、俺の配下の悪魔に言って。自分でいけるなら、それでも良いけれど。今日はゆっくりして。メインは明日からだからねー」



「何があったの? あれ」

「いや・・・。何でもないです。それより、必要な物持って来ましょう。五年もいるんでしょう?」

「あ、ああ! そうだね。エリー、いける?」

「も、もちろんだよ」

 なんか変だなぁ・・・?


 で、必要な物を持ってきた私たちは、部屋に入って唖然とした。個室なんだけど、なんていうか・・・。うん、広い。そして華美。

 まあ、住み心地は・・・、良い、かなぁ?


「ところで、ローリたちは?」

 その問いには、心花が答えた。

「確か、隣の部屋に居るはずですよ。見に行きますか?」


「御主人! 凄い広い、此処・・・」

「わぁ、ほんと・・・」

「御主人が来てくれて、よかった。退屈してた」


 ローリは私の顔を見るなり嬉しそうな声を出した。その顔がとっても可愛い。

 他の兎たちはそこまで反応してくれないけど・・・。でも、一応挨拶くらいはしてくれるよ。

 猫たちは寄って来てくれた。ミルクちゃん、チョコちゃん、ココアちゃん。


「暫く戦ってばかりになるかもだけれど、よろしくね」

「大丈夫。私たちも、強くなるの、嬉しいから」

「そう、なら良かった。一緒に頑張ろうね」


 ローリは何となく笑って見せた。まだ、あんまり笑うのは得意じゃないんだけれどね。それでも、最近やっと。ちょっと嬉しいなぁ。

 みんなのちょっとした変化が嬉しい。もっと頑張って、みんなで世界を救おうね。

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