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第46話  治癒魔法とシアンちゃん

「そうだね・・・。確かに、私もシアンの事、心配だよ。協力させて貰えるかな?」

「あ、ありがとう、ノエルちゃん」

「ふふ・・・。私、シアンとは小さいころからずっと一緒だから。知ってる事は、話すよ」


 ナースのお姉さんの言った場所に居たのは、栗色の髪を持つ背の低い女の子。この子もハーフリングらしい。

 桃色のワンピースを着て、真っ白のエプロンをかけていた。

 ノエルちゃんは私たちにお茶を出すと、何から話そうかなぁ、と言って目を閉じる。


「私たち、今、九歳だから、二年前っていうと・・・、ああ、七歳だね。まだここには住んでなくて、麓の街に住んでたんだ。

 この村は、他の街とかで迫害を受けて、生活できなくなった子を預かるところでもあるの。こんなところまで追いかけてくるはずないし、滅多に人も来ないしね。

 シアンと私は、ハーフリング。小さいから、いじめの対象になっちゃうんだよね。だってほら、仕返し、出来ないから」


 え、この村、そんな意味があったの? 初めて聞いた。

 あと、種族のいじめって、人間と亜人の間だけじゃなかったんだ。じゃあ、テオの言ってた子も・・・。


「私はまあ、気にしてなかったよ。けど、シアンはもともと内気だったしね、人が嫌いになっちゃった。だから、シアンと私、それからシアンのお姉さんと一緒に、この村に来たの。此処で、平和に暮らせればよかったんだけどね・・・。

 次の年、つまりは去年なんだけど、山を下りて、麓の街まで買い物に言ったシアンのお姉さんが、遺体で帰ってきた。何があったのか、良く聞いてないけど。教えてくれなかったし。

 それからだよ。シアン、もっと、人の事が苦手になっちゃって。私にしか、本当の事ほんね、教えてくれないから・・・」


 ・・・・・・。これは、ちょっと、私たちでどうこうできる問題じゃないなぁ・・・。

 人が苦手になっちゃっても、仕方ないよね。そういうレベルの問題だもの。

 でも、できれば・・・。助けて、あげたい。


「どうしたらいいんだろう・・・。シアンが笑って喋ってくれたら、私、何よりも嬉しい」

「そう、だよね・・・。みんな、どう、思う?」

「えっと・・・。ゆっくり、無害だって信じて貰うか、『この人について行きたい』って思って貰えるくらい凄い事する位しか・・・」

「あ・・・。そっか・・・。そうだ」

「え、ええ? 朱璃姉ちゃん・・・?」


 じゃあ、何かきっかけがあれば良いんだね? どうしようかなぁ。何が良いだろう。

 私の子たちの中に入りたい、って思って貰えるような事が出来たら良いんだけど・・・。


「あ、あなたたちが今この村に滞在してる冒険者さん?」

「ええ、そうですよ」

「丁度良かった! 村に魔物が侵入してきて・・・。助けて!」

『えっ?!』



 うわぁ。なんだろう。こんな量の魔物がこのタイミングで入ってくるとか・・・。

 量は多いけど、倒せない事はまったくない。さっさと退治を始めるか。


「いける?」

『もちろん』

「じゃ、はじめー!」


 みんなはそれぞれ武器を持って魔物に向かって行った。私も一応。一応ね・・・。大した戦力にはならないし。

 まあ、当然のように一瞬で退治された。この辺の魔物なんて、シルシィがふざけて撃った魔法でも倒せるくらいだもん。


「おおっ・・!」

「早い・・・!」

「こんな一瞬で・・・」


 私たちが緊張を解くと、村の人たちは頭を下げた。


「あ、ありがとうございました!」

「いえいえ。この位。ねぇ?」

「何の問題もありません!」


 と、急に地面が大きく揺れた。地震?! いや、違う! あたりが真っ暗になる。影、かな。

 ゆっくりと後ろを振り返ると、其処に居たのは案の定、エリーの探していた・・・。

「ドラゴン、か」


 大きいな。三十メートルは余裕であるね。ん? じゃあシロナガスクジラより大きいじゃん。

 こっちに向かって来てる。じゃあ、さっきの魔物は、ドラゴンから逃げて? って、此処に来るの?!

 え、何これ、じゃあ、これ、倒すの? ま、まあ、倒せなくは、ない、かな。

 あ、もう止まんないや。楽しそうに目を光らせて走り出すみんな。私は思わず額に手を当てた。


「なんでこんなに好戦的に・・・」

「どうしたの? シュリちゃん」

「なんでかなぁ・・・。こんな性格になるなんて・・・」

「怖がって逃げ回ってるよりいいと思うけどね。ほら、早く行かないと置いて行かれちゃうよ」


 そう、かな。じゃあいいか。私は近づくのは怖いので鞭ではなく杖を出してテオと一緒に走りだした。

 テオが持っているのは大きな槍。本当に大きな槍だ。私たちと一緒に武器屋に行って選んだんだけど、一目見て『これで』って言ったから、びっくりしたよ。

 こんな大きな武器を振り回せるなんて、本当に凄いなぁ・・・。私なんかじゃ勝てないだろうな。


「朱璃姉ちゃん、シルシィ姉ちゃん、それからローリちゃん。隙を作ってくれ! 突っ込む!」

「分かりました! マスター!」

「分かってるよ!」

「みんな、魔法の準備」

『はい』


 シルシィと共に魔法を撃つ。シルシィがヤールキィ・マロージェナエ、私がヤールキィ・アゴーニ。氷と火だ。それぞれ、自分の得意な魔法。

 それに合わせて、兎たちも魔法を放った。一斉に魔法がドラゴンにぶつかる。ドラゴンの注意を引くように、セレスも矢を射っていく。

 其処に、颯也、心花、エリー、ティーナ、テオが突っ込んだ。もう、何が何だか。


「マスター、まだヤールキィいけますか?」

「大丈夫! いくよ・・・」

「はい! せーのっ!」


 二人そろって魔法を撃った。あ、ちなみに、何故二人で撃つかというと。私が撃っても、気を逸らす、なんて事が出来ないからだ。シルシィが私の魔法を強化しつつ撃つ、というわけだ。

 だったら私は居なくても良いじゃないか。そう思ったけど、シルシィが一気にこのレベル二つは撃てないから居て欲しい、というのだから仕方がない。


 と、急にドラゴンが私に狙いを定めてきた。野生の生物は、強弱を見分けるのが得意なのだ。

 普通に避けるだけなら、なんの問題もないだろう。でも、いざこうなると・・・。体が動かないっ!


「シュリちゃん!」

「朱璃姉ちゃん!」

「マ、マスター!」

「あっ、御主人!」

「シュリ様っ?!」


 大きなドラゴンの頭突きを受けた小さな私は、ものすごいスピードで空を進んでいく。

 巨木にぶつかり、やっと止まると、ズルズルと地面まで滑り落ちた。一体、此処は何処だろう?

 私はそっと立ち上がった。ふらふらする。けど、さっきの所まで戻らないと・・・! 辺りを見回してみる。えぇと・・・・・・。

 どうしよう、本当にどのあたりだか分からないし、この急な斜面、どうやって登るの?!


 周りは大きな木ばかりで何にも見えない。暗いしちょっと寒いし、うぅ、怖くなってきた。

 こんなところで大きな魔物と出会っちゃったらどうしよう? シルシィなんかは軽々倒すけど、私が倒すとしたら、『死闘の末に・・・』的な感じになる。ってか、ほんとに倒せるか分からない。


「あぅ・・・。此処、何処なの・・・。どっちに行けば・・・」

 ふと呟いた私の声は、吸い込まれるようにすぐに消えていった。ふつふつと絶望の字が上がってくる。私が此処に居るなんて、一体だれが分かるって?


「――さーん! ――さーんっ!」

「! え・・・・・・?」

「シュリさーんっ! 居たら返事して下さーいっ!」

「この声・・・。シアン、ちゃん?」

「っ! シュリさんっ!」


 木の間からひょっこりシアンちゃんが飛び出した。が、木の根に躓いて転んだ。

 私は慌てて駆け寄って手を取って立ち上がらせた。真っ赤な顔で私を見る。


「ご、ごめんなさい・・・」

「シアンちゃん、なんで此処に・・・?」

「あの、ドラゴンとの戦い、見てたんです。それで、こっちの方だな、って」

「助けに、来てくれたの・・・?」

「ご、ごめんなさい! 私、これ位しか、出来ないから・・・」


 ほんとこの子は良く謝るなぁ。自信がない、のかな? それとも・・・。

 九歳、か。うちのパーティの誰よりも小さい。シルシィが来たときくらいか。


「じゃ、じゃあ、さっきの所まで、案内しますねっ!」

「あ、うん、よろしくね」

「え、えと、お任せ下さい、とは、言えないのですが・・・」


 シアンちゃんは私の数歩前を歩きだした。やっぱり、山に住んでいるとは思えない。だって、山に住んでる人って、あり得ないほど山を歩くのに慣れてるから、他の人が付いていけないようなスピードで歩いて行く。


 けど、シアンちゃん、危なっかしい。

 木の根に躓いて転びそうになったり、木にぶつかりそうになったり、坂道を上手く登れなかったり。

 明らかに引きこもりだ。絶対に、この山を歩いたのは数回だ。


 そんな事を考えていると、急に激しい頭痛と吐き気に襲われた。ふらふらとその場に蹲る。

 シアンちゃんは気が付いていない。呼びとめたいけど、声が出ない。手を伸ばしても、届かない距離。

 そっか、さっき、普通じゃあり得ないような速度で木にぶつかったから。頭を打ったから・・・。


「・・・あっ! シュリさ・・・。シュリ、さん? シュリさんっ!」

 シアンちゃんは何かを言おうとするように振り向くと、私に気が付いて此方まで駆けよって・・・来ようとして躓いて転んだ。

 泣くのを必死に堪えて立ち上がると、私の傍にそっとしゃがんだ。


「ど、どうしよう・・・。私じゃ、連れていけないし・・・。えぇと・・・」

 シアンちゃんの顔が真っ赤になった。目が微かに潤んでいる。きゅっと口を結んで俯いた。


「わ、私が・・・。治癒魔法を、使えたら・・・」

「わ、私が・・・。こんなに無力じゃ、なかったら・・・」


 ポツリポツリと呟いて、きゅっと小さな手をにぎりしめた。

 何となく、自分に重なる。無力さを嘆いて、どうする事も出来ないって、自分に絶望して。

 でもさ・・・。そういう時に限って、能力は、開花する。


「え・・・。えぇ・・・?!」

 シアンちゃんの体が淡く光り出した。シアンちゃんが私に触れると、すっと楽になっていく・・・。


「・・・。ありがとうね、シアンちゃん」

「え・・・。今、一体・・・。私、何を・・・?」

「シアンちゃんは治癒魔法が使えるんだね」

「掠り傷を治す程度ですが・・・」

「じゃあ、今のは? 多分、自分の能力を過少評価し過ぎてるよ。シアンちゃんは、もっとできる子だ」

「・・・・・・っ!」


 よし、これで十分だろう。シアンちゃんの顔がさっきまでとは違う。

 もっと、自分の能力を試したいっ!

 もっと、自分の出来る事をやりたいっ!

 そんな顔。一回出来てしまえば、それは自信につながる。


「ねぇ、私たちと一緒に冒険しない?」

「え・・・? いい、の・・・? 足手まといに、なってしまうと思います・・・」

「最初はみんなそうだよ。すぐに慣れる。みんなと一緒に行動できるようになるよ。心配はいらない」

「・・・。お願い、します。よろしくお願いしますっ!」


 ナースさん。これでいいんだよね。ノエルちゃん、シアンちゃんは、変われたよ。

 私たちは、二人で村まで走りだした。

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