第45話 村の女の子は
「さむっ・・・。うぅ・・・」
「雪がいっぱい!」
エリー御所望。山に来ました。山といっても大きくて、村が沢山あるような、そんな山。
なんでここに来たかったのか聞くと、この山の頂上に住む大きなドラゴンに会ってみたいとのことだった。
一応、理由があるなら良いだろう。という事で、私たちは山に来た。
けどなぁ。夏だって言うのに、思っていたよりずっと寒い。っていうか、夏なのに雪って。私は来て早々後悔した。
「あれ、シュリちゃん? 寒い? 大丈夫?」
「夏でもこんなに寒いの・・・?」
「そんなに寒くはないよ? でも、寒いなら仕方ない。シュリちゃんは俺が見てるね。みんなが戦って」
「う・・・。ごめん」
テオは私に着ていた上着を掛けた。私が慌てて返すと、テオは大丈夫と笑った。返すことはできなそうだ。
と、とりあえずさっさと行こう。シルシィがチェリーちゃんを走らせる。
「ねぇ、テオは、なんで私にここまでしてくれるの?」
「ん?」
「私が主人でテオが奴隷だから、ってわけでもないでしょ?」
テオはまた、軽く笑って流そうとした。けど、私も引くわけにはいかない。だって、意味がなきゃ、私と一緒に居るのって、なんでなの?
私がじっと返事を待っていると、テオは私をしっかりと見て口を開く。
「何となく、俺と似てるから、かな? どうせだったら、慰め合っちゃおうよ?」
「・・・。似てる、か」
「あとは、此処の子たち、みんなシュリちゃんより小さいでしょ? それって疲れない? ほら、みんなを心配させないように、何かあっても我慢しちゃったりするでしょ? 俺は唯一の年上だし、甘えてもらおっかなって」
え・・・? 私が、我慢してるって・・・?
でもなぁ、みんなしっかりしてるし、隠したところでばれちゃうし。結局いつも休んでるような。
それに、私はもう、大人だ。
「そう? でも、やっぱりちょっとは心配だからさ。多分、みんなの方が丈夫だよ?」
「それは、そうかもしれない」
「多分、気付いて貰えないから。みんなにとっては平気でも、シュリちゃんが辛い時、頼ってくれて、良いから」
「ねえ、マスター! あんな所に人が!」
「え・・・? 人・・・?」
「ほらシュリちゃん、あそこ」
「んー? ほんとだー・・・。って! ねぇ、あの子、倒れたよ!」
エリーは飛んで行って、その子を抱きかかえると、そのまま此方まで戻ってきた。
小さいな。九歳とか、十歳くらいか? 髪は茶色。ツイン。で、桃色のポンチョを着ている。
ええと、雪山で倒れてるって、あれだ。遭難・・・。って!
「わぁ?! どうするの?」
「とりあえず、この近くに村があるはずだから、其処に寄って。地図はコノハちゃん! 馬車を動かすのはシルシィちゃん!」
「は、はい!」
テオが指示を出すと、シルシィがチェリーちゃんを走らせ始めた。
体が冷たい。この子・・・。助かる、のかな?
「幸い、まだ何とかなりそうよ」
「よかったぁ・・・」
「此処の村の子なのに。一体何があったのかしら・・・」
『え?』
私たちは驚いて声を出した。此処の子だったんだ・・・。
でも、地元の人なのに、どうして? あんなところで・・・。
「シアンちゃんは、ほとんど村の外に出ないのよ。どうして外に出たのか・・・」
「この子、シアンっていうんですか?」
「ええ。ハーフリングでちょっと体が弱いから、家の外にも滅多に出ないくらいで」
「じゃあなんで・・・」
ナースのお姉さんは困ったように首を傾げた。分からないのか。
治癒師の男の人がもう大丈夫だと伝えに来ると、みんなは安心したように笑った。
「今日はこの村に泊まっていくのかしら?」
「もう遅くなってきましたし、そうしましょうか?」
「コノハちゃんがそういうなら、私は良いですよ。マスター?」
「じゃ、そうしよっか」
「なら、宿を案内するわ。こっちに来て」
私たちは夕食の後、一部屋に集まって(といっても、兎と猫は置いてきた)、会議をしていた。
「今年中に、仲間を集めないとなんですよね?」
「うん。来年からは、最後の一年になるまでメンバーチェンジが出来ないの」
「じゃあ、早く仲間を集めないとな。ところで、朱璃姉ちゃん、パーティメンバーは何人までいけるんだ?」
人にはそれぞれ、『使役できる人数』というのが決まっている。これは、何人奴隷を使えるかという数だ。使い魔は関係がない。
で、パーティの人数は、『リーダーの使役できる人数まで』となっている。
「確か、十五だったかな?」
『十五?!』
あ、あれ・・・? そんなに驚くことなの?
聞いてみれば、普通は四、五人らしい。やけにポンポン奴隷を買うからおかしいな、とは思っていたらしいけど。
じゃあ、勇者特典だ。やったね! なんてふざけているのは脳内だけだ。
「最後の年に何人か入れるとして、もうちょっといけるよにゃ?」
「今は、えぇと、七人? あ、シュリ様入れて八人ですねぇ」
「あと二人くらい入れても良いかもねー」
じゃあ、何を使える子が良いかなぁ? 今居るのは・・・。
攻撃魔法(シルシィ)、剣|(颯也)、斧と薬(心花)、鎌と悪魔魔法、爪(ティーナ)、弓と天使魔法、槍か。あ、私を入れるんなら鞭と魔法と短剣も?
「盾役か、変わった魔法、治癒魔法ですかね?」
「変わった魔法? シルシィさん、それって?」
「ああ、歌魔法とか、いろいろあるんですよ。」
まあ、そんな所だろう。あと、もう一人位剣が居ても良いと思う。
まだ誰でも良いけど、一応重ならないようにしておきたいところだ。
「ところで、狙いはあるんですかぁ?」
「一応ね・・・」
「え? マスター・・・? 聞いてないですが・・・?」
ほら、シアンちゃんだよ。もし、何か戦う術があるなら。無くても、スキルポイントを振ればある程度できるようにはなるしね。
ま、本人の意思が大きいから、それはまだ分からないけど。
「とりあえず、今日は良いかな?」
「ああ。エリーも疲れたみたいだし、解散でいいだろ?」
「颯也お兄ちゃん、エリヴェラもう寝たいの」
部屋割はだいたいで。人数が増えたから、しっかり決まってないんだもん。
適当に別れると、それぞれ寝る準備に取り掛かった。
月が綺麗だ。こんなに綺麗に見える広場があるなんて。この村は自然を大切にしているのだろう。
その広場の中のあるベンチに、一人の人が座っているのが見える。私の探していた人だ。
「テオ」
「! ああ、シュリちゃん。どうしたの?」
「何となく、テオが、どこか行ってるような気がしてさ」
「そか。隣の部屋なのによく分かったね」
私はテオの隣に座った。雲のない今日のような天気の日、しかも山の上に居るとなれば、街灯などなくても十分明るい。
月明かりに照らされたテオの顔に、涙の跡がある事に気がついた私は、そっと頬を撫でて言った。
「その、女の子の事かな?」
「シュリちゃんは鋭いよね・・・。あの子が、どこに連れていかれたのか、考えてたんだけどね。思い出せなかった。自己嫌悪に陥りそうになるよ」
「あれ? 場所、聞いたの?」
「まあね。でも、何年も前の事だし。そう思うと、あの子、俺の事、覚えてるのかなって、偶に、不安になる」
え・・・。そういえば、そうだったね・・・。
分かると思ってた。でも、蒼泉くんも私も、あの頃より成長してるはずだ。分かる、のかな? それどころか、蒼泉くんが、私の事を忘れているかもしれない・・・・
「あ・・・・・・」
「あれ、シュリちゃん? まあ、シュリちゃんは大丈夫だと思うよ。こんな可愛い子、忘れようと思っても無理さ」
「でも、でも、蒼泉くんは、私の事、どう思ってたのか、分かんないんだもん」
「ところで、その子って、君のなんだったのかな?」
「フィ、婚約者。でも、五、六年前の事」
テオは目を丸くした。それもそうか。婚約者と離れ離れなんて。そんな事、普通は起きないはず。全てはあの・・・。
ああ、ダメだ。益々、親の事が嫌いになってしまうよ・・・。
「シュリちゃんとその子、一体、何があったの?」
「私の家が倒産して、会えなくなっちゃって。気がついたら、その子、行方不明だった」
「・・・? 行方不明・・・。じゃあ・・・」
「そう。テオと一緒。死んじゃってるかも知れないよ・・・。私、転生して此処に来てるから。もう、何処に居るのかも分かんない、分かっても、会えるか分かんない」
まあ、転生しなければしないで自殺なりしてもっと会えなくなってたかもしれないし、何より、みんなと会えたんだから、来て良かったとは思ってる。
だから、もう、自分の感情が良くわかんないんだよ!
「ところでシュリちゃん、寒くないの?」
「寒いよ・・・。でも、テオが何処に行っちゃったのか、不安で」
「大丈夫、俺は自殺なんてしないよ? 希望が残っている限りは」
「そう・・・。強いね。私、蒼泉くんの事、思うだけで・・・」
テオが私をそっと抱き締めた。こんなことしても、それでもまだ、恋愛感情は浮かんでこないなんて。
何というか、どちらかと言えば、お兄ちゃん、かなぁ? そんな感じだ。
「大丈夫。きっと会えるよ。だから、泣かないで」
「うっ・・・、分かってるよ・・・。蒼泉くんと会える時は、笑顔で会わなくっちゃ」
「そうそう。じゃ、戻ろう。シュリちゃんが風邪ひくと大変だからねー」
「シアンちゃんは、どうなりましたか?」
「もう元気よ。シアン。この方々が、あなたを助けてくれたのよ」
「ふぇ・・・。あ、ありがとうございましたあぁっ!」
ひょこっと出て来て、私たちを見ると、たちまち顔を真っ赤にして、耐えられなくなったかのように頭を下げながら叫ぶ。
・・・ああ、人見知りなんだろう。
「ほら、恥ずかしがらないで。シアン、もう少しで死んでしまうところだったのよ」
「ひっ、ごめんなさいいっ・・・。えぇと、あの・・・」
「ごめんね。この子、なかなか人と上手く行かなくて。ほら、向こうに行ってて」
ナースのお姉さんはシアンちゃんを別の部屋に行かせると、溜息を吐いて私たちの顔を見た。
別に、誰もあんな事を気にしてなんかいない。それを見ると、少しほっとしたようだった。
「ごめんね。あの子、何年も前なんだけど、ちょっといじめを受けちゃって。それ以来、人が苦手なの」
「あ、そうなんですか? 気にしてませんから、大丈夫ですよ」
「本当は、みなさんみたいな素敵な方々のパーティに入れたいの。でも、あの性格じゃ・・・。大好きだったお姉さんを亡くしてから、さらに酷くなっちゃって」
随分詳しく知ってるなぁ・・・。なんでだろう?
聞いてみると、ナースのお姉さんはちょっと困ったように笑った。
「あの子ね、私の家で預かってるのよ。でも、あんまり仲良くなれなくて・・・。治癒魔法の才能があるから、できれば、ね・・・。でも、あれじゃ、不安でパーティになんてとても入れられないわ。ああ、このままじゃ・・・」
「このままじゃ、引きこもりになっちゃうんじゃないか、と?」
「まあ、そういう事よ」
うーん・・・。いくらうちの子たちが優しいとはいえ、向こうが逃げちゃ仕方ないしなぁ・・・。
でも、きっかけがなければ、あそこまでの人見知りにはならない。其処がポイントだろう。
「何か、あったんですか? その、お姉さんが亡くなってから」
「良く分からないの。その、いじめの方も、私、良く知らないし・・・」
「もっと良く知っている方って、居ます?」
「あ・・・。そうねぇ、一応、仲の良かった女の子が居たはずよ」
ナースのお姉さんに居場所を聞き、私たちは病院を後にした。
治癒魔法使いなんて、放っておくわけにはいかない。人見知りを改善して、パーティに入って貰わなくちゃ!




