第43話 アディの正体
「もう優人ぶっ殺しましょうよ!」
「シ、シルシィ・・・。ちょっと落ち着いて」
「もう我慢できません! マスターに手を出そうとしたなんて!」
私たちは、こうなってしまったシルシィをなだめることは不可能。自然に落ち着くのを待つか、あるいは・・・。
っていうか、さっき自分で言ってたじゃん。『死んで良い人など、居るはずがない』って。
「殺したくも、なるけどな」
「颯也・・・。もう良いでしょ?」
「だって、だってだって! ごしゅじんさまを汚そうとしたんでしょー! エリヴェラもあの人きらーい!」
「私もこれ以上は我慢できません!」
「御主人を汚す人なんて、許さない・・・」
こ、怖いな・・・。これ、私、被害者だけど怖いんだけど。
まあいっか。それでも、これ上あんな目に会うのはほんとにごめんだ。出来ればもう二度と顔を見たくないものだ。
私ははぁ、とため息をついて窓の外を見た。どう収拾するかな・・・。
「シュリ様を守る為にゃ! どんなことだってするにゃ!」
「あの時だけかと思いきや、まだ・・・。私も、天使としてはイケナイ事だって、やってみせますよぉ」
「もう、いい加減にして・・・」
私は机に突っ伏した。確かに優人は嫌いだ。でも、花凛が改心してくれたみたいに、優人ももしかしたら、って気があるから。だから・・・。もうちょっと、待ってくれないかな。
「マスター、今度こそ、殺されちゃうかもしれないんですよ?」
「・・・・・・」
「朱璃姉ちゃんが怪我するの、もう僕たち、耐えられないよ」
「・・・・・・」
分かってるさ。そんな事くらい。でも、勇者を殺すのは、ありなの?
<問題ないな。問題あるんなら、来てすぐ、見捨てたところで軽くアウトだ>
「う・・・、それも、そうだけど・・・」
<ということで、もし本気なら、魔王に申請出すが>
え、ちょ、ちょっと待ってよ?! ど、どうしたらいいんだろ・・・。
まず。とりあえず、もう一回、ゆっくり会ってみよう。
「な、何考えてるんですかぁ?!」
「朱璃様は死にたいんですか?!」
怒られた。
「ねぇ、でも、どんな人なのか分からないもの。もしかしたら、何か理由があるかもしれないし・・・」
「はぁ・・・。じゃあ、私たちも付いて行きますからね」
「そりゃそうだよ。私だけで行ったら確実に死んで帰ってくるよ」
「で? なんのようなわけ? さっき帰ったのに、随分早いね」
「お話をしに来たんですよ」
「僕と話すことなんてあるわけ?」
うぅ・・・。冷たい・・・。けど、こんなところでめげてどうする。
私はしっかりと優人を見てから、そっと笑いかけた。
「どうして私をこのお城に案内したの?」
「十分遊んでから殺そうと思って。割と可愛いから、たっぷり可愛がってあげてね」
「いや、あのさぁ、それ、なんのために?」
「僕の為もあるけど、朱璃を精神的に弱らせてからの方が確実だと思って」
酷いなぁ。でも、僕の為って・・・。言い方が嫌だよぉ・・・。
私が黙りこんでしまうと、後ろからシルシィが言った。
「あの、どうしてマスターを殺そうと?」
「! だって、最終的には、生き残る一コマを奪い合うんだろう?」
「悲しい人・・・。そう、ですか」
シルシィは悲しそうにため息をつくと、また黙ってしまった。
それを見て、慌てて颯也が口を開く。
「えっと、それは、何故朱璃姉ちゃんなんだ?」
「え? 勇者の中で一番強いんでしょ? 強くなる前に殺そうと思って・・・」
『・・・、は?』
なんで私が一番強いの。だって、私、戦うことすらできないけれど? あ、そこまでじゃないや。
けど、勇者と一対一なら、勝てる自信はない。
「え・・・? そういううわさが流れてるけど、嘘なの?」
「知らないけど、私、あんまり強くないよ」
「そうなの?! ま、まあ、なんであれ、殺しちゃだめだよね・・・」
「わかってたんだ」
「そりゃ。でも、アディが・・・」
え・・・。じゃあこれ、アディの、せい? 最初に会った時、あんなに優しかったのに・・・?
「ふふふふ・・・。ばれちゃまずいなぁ・・・」
「あ、アディ・・・?」
「違うね。私は麗華。空本麗華よ」
! アディの周りにふわふわと煙が集まる。煙が晴れた時・・・。
「・・・。なるほど。麗華」
「ふふふふ、朱璃、ひさしぶりじゃなぁい」
「あなたの根回し、か」
彼女は、ニヤリと笑って頷いた。彼女も勇者。生き残ってたなんてね・・・。
えぇと、魔族かな。おそらく夢魔。サキュバスじゃないかな。人を惑わす種族。
優人に守って貰ったんじゃない? どこかに隠れて、姿を変えて紛れ込む。それで、自分はアディだと名乗れば良い。
「姿を変えるのは、人を惑わす為。男性の好きな姿になれる」
「ま、そんなところね。あんたにしては鋭いじゃない」
「マスターはいつもこうです!」
セミロングの茶髪にゆるふわパーマをかけている。学校の時と変わってない。あ、校則では違反じゃなかった。自由な学校だったから。
花凛の親友で、一緒に私をいじめてた。花凛が居なくても、それは変わらないみたい。
「花凛はあんたに惑わされちゃってるみたいだしねぇ。私が新しいリーダーよ!」
「・・・、ああ、イタい人だ」
「? 何か言ったかしら?」
いやぁ、ここまでだったとは。未だに私をいじめてるあたり、何となく想像はつくけどさぁ。
とりあえず、私の子たちと戦って貰おうか。勝てないと分かれば大人しくなるだろう。
「そう簡単に勝てるなんて思わない事よ」
「・・・! な・・・」
麗華の指示で、沢山の兵士が現れた。みんな、綺麗な鎧で武装している。
まさか、こんなに麗華が兵を持っていたなんて。想像してなかったや。
「そっちがその気なら・・・。シルシィ。本気で行って」
「ひっ、ま、マスター? ・・・、分かり、ました!」
「今すぐ申請を出しなさい。間に合うかな?」
<少しかかるぞ。それから、お前が動かなければ時間が短縮できる。出来れば動かないでくれ>
「わかった」
麗華の兵が動き出すのと同時に、私の子たちが一斉に武器を構えて戦闘態勢に入る。
激しい戦闘が繰り広げられるのは間違いが無い。麗華の兵の強さがどれくらいなのか分からないけれど。
優人とその兵たちは、何が起こっているのか分からずに眺めているだけだった。
「ローリ、サラの魔法に注意! 城が崩れるなんてなったら危険だよ!」
「了解、御主人」
「シルシィ、撃つ魔法を考えて! 颯也、柱は斬らないようにちゃんと周りを見てね!」
「大丈夫です!」
「分かってるぜ!」
それから、私は後ろに手を向けてマーリニキィ・アゴー二を撃った。
「ぎゃああああ!」
「不意打ちするからそうなるのよ」
引火すると危ないし、すぐに消火してやるけれど、もう無理だね。
麗華は私に敵意を持っている。ならば、私だって手加減するわけにはいかないよね?
<よし、もう良いだろう>
「OK。じゃ、行くとしよう!」
<お前、戦えたら、弱点ねえじゃねえか>
「ふふ、私の努力をなめないで?」
鞭を持って走りだした。麗華は、私が戦いに参加する事は計算外だったようだ。
鞭は、一度に多くの人を攻撃できる。上手く使えれば、とても良い武器なんだ。
という事で。私は兵を一気に薙ぎ払った。致命傷を与える事は出来ないけれど、進む道を作る位なら問題ないよ!
「颯也!」
「分かった。おい! 僕が相手だ!」
颯也が私の前の兵を薙ぎ倒し、麗華までの道を作ってくれた。
「朱璃姉ちゃん! 今だ!」
「分かってる!」
麗華の撃った遅い魔法なんて効くもんですか! 私は鞭ではなく短剣に持ち直し、魔法を避けてから麗華を地面に押し倒す。怯えた顔をした麗華に剣を振り上げる。
と、麗華の横に水が垂れたのが目に入った。
分かってるよ・・・。
私の目から垂れたものだった。
「う、うう・・・。ああ! やっぱり無理!」
「朱、璃?」
「みんな、ごめん! やっぱり、私にはできないよ!」
麗華が驚いた表情をして、それから、泣き出した。突然のことに、私は言葉を失う。
「え・・・?」
「朱璃、私は殺そうとしてたのに、殺さないの?」
「だって、かわいそうじゃない? 殺されたわけじゃないんだよ?」
「?! そういう問題じゃ、ないでしょ・・・?」
そうだろうねぇ・・・。どうせ口実だしさ・・・。でも、ダメなんだ。殺せなかったよ。私って、やっぱり、変わんない。
すると、使い魔がホッとしたような声で言う。
<俺は、申請してないぞ? 絶対、殺さないと思ってたさ>
「・・・。そっか。ありがとう。・・・、ねえ、呼びづらいんだけど、なんて呼べば?」
<ああ、じゃあ、名前つけてくれ>
「えぇ? えっと、海星みたいだったから・・・。ウミホシ、カイセイ・・・。うーん、いっそのこと、ヒトデじゃダメ?」
<ああ、いいんじゃねぇか?そっくりだよな>
いいのかよ。まあいいけど。
私は麗華を立たせると、みんなにもう一度謝った。みんな、笑顔を見せてくれた。
「朱璃、私、負けないからね!」
「そう。まあいいよ。帰ろう、エリー」
「うん。開門ー」
「まあ、マスターが殺すはずないと思ってましたよ。良かったです」
「そう、かな・・・。本気で殺そうとしてたはずなのに」
「そこが朱璃姉ちゃんのいいとこだろ。最終的には、全部許してやるだろ?」
「・・・。ほんとだね。あぁ、なんか疲れちゃった」
私がソファに座ると、心花がお茶を持って来てくれた。
留守番をしていたティーナの配下三匹も出て来て、また、いつも通りの雰囲気に戻った。
「にしても、思っていたより、朱璃様は強かったんですね」
「ああ、そう言えば、あの兵、結構強かったよなぁ。まあ、朱璃姉ちゃんじゃ致命傷は与えられなかったみたいだけど」
「あはは・・・。まあ、基本は戦わないよ。凄い疲れるんだもん」
兎の欠点かな。スタミナが足りないんだもん。この子たちと一緒に戦ってたら多分途中でダウンする。
だからまぁ、緊急事態だけかな。戦うとしても。
「でも、あの娘が勇者だったなんで思わなかったにゃ」
「エリヴェラも、変身してたから、分からなかったのー」
「あれが勇者の魔力なのですねぇ。確かにシュリ様に似てますぅ」
「もう絶対に、ご主人を一人にさせない」
私ももう、一人で居たくないよ。また、誰かに捕まったら困るし。一人じゃ逃げ出せないし。
今回は偶々助かったけど、もうあんなめには合いたくない。っていうか、普通ないけどさ。
「・・・、マスター? お疲れなら、先に休んでも良いですよ?」
「ふぇ? え、な、なんで?」
「何となくですけれど・・・。疲れてるんじゃないですか?」
何となくかよ。ああでも、シルシィは前からそういう子だった。妙に鋭い。
でも、まだお昼くらいなんだけど、どうしよっか。この国にシエスタはないでしょ?
うーん・・・。流石に、まだ早いよな。
「まあ、まだお昼だしさ」
「・・・。でも、早く寝て下さいね。きっと、昨日も寝てないんでしょう?」
「あれ? なんで?」
シルシィは、私が不思議そうな声を出したのを聞いて、さも楽しそうにニヤッと笑った。それから、人差し指を立てて話し始める。
「私たち、山に入ってから、マスターの血をたどっていったんですよ。流されちゃってて大変でした。雨が降ったのだから。まあ、木の幹の分は、結構ちゃんと残ってましたが。
深い足跡が、濡れた地面を歩いた証拠。雨が降ったのは夜です。なら、そんな跡が付くのは、夜以降。朝には捕らえられていたのでしょうから、早朝だけだったら、流石に進んだ距離が多すぎるでしょう? だから。夜のうちにも行動したのでしょう?」
ああ・・・。随分良く見てるなぁ。凄い・・・。って、ちょっと待った。一体、この子たちはどうやって私の居場所を見つけたんだ?
おかしくない? だって、あんな山奥、探し出せる?
「え? ああ。それなら、マスターが連れて行かれるのを、紫さんが見つけてくれて。あとをつけて、場所を特定して来てくれたんです。まあ、そこ、山の洞窟? の中にたどり着いたら、もうマスターはいなかったわけですが」
で、探し回っていたら血痕を見つけたわけだ。運が良かったと思うしかない。
でも、雨の中、私を探して駆けまわってくれたんだ。本当に、この子たちに感謝しないと。
「ありがとう、みんな」
「! ふふ、マスターは、私たちの事を救ってくれたのですよ? 私たちがマスターを助けるのは当然のことです!」
シルシィは奴隷商人から。颯也はドクロ病から。心花はシルシィと颯也の両方のものから。エリーは奴隷商人と孤独から。ティーナは妹の追手から。セレスは生活面で。
まあ、私が居なくても何とかなってたような子もいるけどね。それでも、私を慕ってくれている。
「うん、そうだね。これからも、守ってくれるよね」
『もちろん!』




