表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/58

第43話  アディの正体

「もう優人ぶっ殺しましょうよ!」

「シ、シルシィ・・・。ちょっと落ち着いて」

「もう我慢できません! マスターに手を出そうとしたなんて!」


 私たちは、こうなってしまったシルシィをなだめることは不可能。自然に落ち着くのを待つか、あるいは・・・。

 っていうか、さっき自分で言ってたじゃん。『死んで良い人など、居るはずがない』って。


「殺したくも、なるけどな」

「颯也・・・。もう良いでしょ?」

「だって、だってだって! ごしゅじんさまを汚そうとしたんでしょー! エリヴェラもあの人きらーい!」

「私もこれ以上は我慢できません!」

「御主人を汚す人なんて、許さない・・・」


 こ、怖いな・・・。これ、私、被害者だけど怖いんだけど。

 まあいっか。それでも、これ上あんな目に会うのはほんとにごめんだ。出来ればもう二度と顔を見たくないものだ。

 私ははぁ、とため息をついて窓の外を見た。どう収拾するかな・・・。


「シュリ様を守る為にゃ! どんなことだってするにゃ!」

「あの時だけかと思いきや、まだ・・・。私も、天使としてはイケナイ事だって、やってみせますよぉ」

「もう、いい加減にして・・・」


 私は机に突っ伏した。確かに優人は嫌いだ。でも、花凛が改心してくれたみたいに、優人ももしかしたら、って気があるから。だから・・・。もうちょっと、待ってくれないかな。


「マスター、今度こそ、殺されちゃうかもしれないんですよ?」

「・・・・・・」

「朱璃姉ちゃんが怪我するの、もう僕たち、耐えられないよ」

「・・・・・・」


 分かってるさ。そんな事くらい。でも、勇者を殺すのは、ありなの?

<問題ないな。問題あるんなら、来てすぐ、見捨てたところで軽くアウトだ>

「う・・・、それも、そうだけど・・・」

<ということで、もし本気なら、魔王に申請出すが>


 え、ちょ、ちょっと待ってよ?! ど、どうしたらいいんだろ・・・。

 まず。とりあえず、もう一回、ゆっくり会ってみよう。


「な、何考えてるんですかぁ?!」

「朱璃様は死にたいんですか?!」

 怒られた。


「ねぇ、でも、どんな人なのか分からないもの。もしかしたら、何か理由があるかもしれないし・・・」

「はぁ・・・。じゃあ、私たちも付いて行きますからね」

「そりゃそうだよ。私だけで行ったら確実に死んで帰ってくるよ」



「で? なんのようなわけ? さっき帰ったのに、随分早いね」

「お話をしに来たんですよ」

「僕と話すことなんてあるわけ?」


 うぅ・・・。冷たい・・・。けど、こんなところでめげてどうする。

 私はしっかりと優人を見てから、そっと笑いかけた。


「どうして私をこのお城に案内したの?」

「十分遊んでから殺そうと思って。割と可愛いから、たっぷり可愛がってあげてね」

「いや、あのさぁ、それ、なんのために?」

「僕の為もあるけど、朱璃を精神的に弱らせてからの方が確実だと思って」


 酷いなぁ。でも、僕の為って・・・。言い方が嫌だよぉ・・・。

 私が黙りこんでしまうと、後ろからシルシィが言った。


「あの、どうしてマスターを殺そうと?」

「! だって、最終的には、生き残る一コマを奪い合うんだろう?」

「悲しい人・・・。そう、ですか」


 シルシィは悲しそうにため息をつくと、また黙ってしまった。

 それを見て、慌てて颯也が口を開く。


「えっと、それは、何故朱璃姉ちゃんなんだ?」

「え? 勇者の中で一番強いんでしょ? 強くなる前に殺そうと思って・・・」

『・・・、は?』


 なんで私が一番強いの。だって、私、戦うことすらできないけれど? あ、そこまでじゃないや。

 けど、勇者と一対一なら、勝てる自信はない。


「え・・・? そういううわさが流れてるけど、嘘なの?」

「知らないけど、私、あんまり強くないよ」

「そうなの?! ま、まあ、なんであれ、殺しちゃだめだよね・・・」

「わかってたんだ」

「そりゃ。でも、アディが・・・」


 え・・・。じゃあこれ、アディの、せい? 最初に会った時、あんなに優しかったのに・・・?

「ふふふふ・・・。ばれちゃまずいなぁ・・・」

「あ、アディ・・・?」

「違うね。私は麗華れいか空本麗華そらもとれいかよ」


 ! アディの周りにふわふわと煙が集まる。煙が晴れた時・・・。

「・・・。なるほど。麗華」

「ふふふふ、朱璃、ひさしぶりじゃなぁい」

「あなたの根回し、か」


 彼女は、ニヤリと笑って頷いた。彼女も勇者。生き残ってたなんてね・・・。

 えぇと、魔族かな。おそらく夢魔。サキュバスじゃないかな。人を惑わす種族。

 優人に守って貰ったんじゃない? どこかに隠れて、姿を変えて紛れ込む。それで、自分はアディだと名乗れば良い。


「姿を変えるのは、人を惑わす為。男性の好きな姿になれる」

「ま、そんなところね。あんたにしては鋭いじゃない」

「マスターはいつもこうです!」


 セミロングの茶髪にゆるふわパーマをかけている。学校の時と変わってない。あ、校則では違反じゃなかった。自由な学校だったから。

 花凛の親友で、一緒に私をいじめてた。花凛が居なくても、それは変わらないみたい。


「花凛はあんたに惑わされちゃってるみたいだしねぇ。私が新しいリーダーよ!」

「・・・、ああ、イタい人だ」

「? 何か言ったかしら?」


 いやぁ、ここまでだったとは。未だに私をいじめてるあたり、何となく想像はつくけどさぁ。

 とりあえず、私の子たちと戦って貰おうか。勝てないと分かれば大人しくなるだろう。


「そう簡単に勝てるなんて思わない事よ」

「・・・! な・・・」


 麗華の指示で、沢山の兵士が現れた。みんな、綺麗な鎧で武装している。

 まさか、こんなに麗華が兵を持っていたなんて。想像してなかったや。


「そっちがその気なら・・・。シルシィ。本気で行って」

「ひっ、ま、マスター? ・・・、分かり、ました!」

「今すぐ申請を出しなさい。間に合うかな?」

<少しかかるぞ。それから、お前が動かなければ時間が短縮できる。出来れば動かないでくれ>

「わかった」


 麗華の兵が動き出すのと同時に、私の子たちが一斉に武器を構えて戦闘態勢に入る。

 激しい戦闘が繰り広げられるのは間違いが無い。麗華の兵の強さがどれくらいなのか分からないけれど。

 優人とその兵たちは、何が起こっているのか分からずに眺めているだけだった。


「ローリ、サラの魔法に注意! 城が崩れるなんてなったら危険だよ!」

「了解、御主人」

「シルシィ、撃つ魔法を考えて! 颯也、柱は斬らないようにちゃんと周りを見てね!」

「大丈夫です!」

「分かってるぜ!」


 それから、私は後ろに手を向けてマーリニキィ・アゴー二を撃った。

「ぎゃああああ!」

「不意打ちするからそうなるのよ」


 引火すると危ないし、すぐに消火してやるけれど、もう無理だね。

 麗華は私に敵意を持っている。ならば、私だって手加減するわけにはいかないよね?


<よし、もう良いだろう>

「OK。じゃ、行くとしよう!」

<お前、戦えたら、弱点ねえじゃねえか>

「ふふ、私の努力をなめないで?」


 鞭を持って走りだした。麗華は、私が戦いに参加する事は計算外だったようだ。

 鞭は、一度に多くの人を攻撃できる。上手く使えれば、とても良い武器なんだ。

 という事で。私は兵を一気に薙ぎ払った。致命傷を与える事は出来ないけれど、進む道を作る位なら問題ないよ!


「颯也!」

「分かった。おい! 僕が相手だ!」

 颯也が私の前の兵を薙ぎ倒し、麗華までの道を作ってくれた。

「朱璃姉ちゃん! 今だ!」

「分かってる!」


 麗華の撃った遅い魔法なんて効くもんですか! 私は鞭ではなく短剣に持ち直し、魔法を避けてから麗華を地面に押し倒す。怯えた顔をした麗華に剣を振り上げる。


 と、麗華の横に水が垂れたのが目に入った。

 分かってるよ・・・。

 私の目から垂れたものだった。


「う、うう・・・。ああ! やっぱり無理!」

「朱、璃?」

「みんな、ごめん! やっぱり、私にはできないよ!」


 麗華が驚いた表情をして、それから、泣き出した。突然のことに、私は言葉を失う。

「え・・・?」

「朱璃、私は殺そうとしてたのに、殺さないの?」

「だって、かわいそうじゃない? 殺されたわけじゃないんだよ?」

「?! そういう問題じゃ、ないでしょ・・・?」


 そうだろうねぇ・・・。どうせ口実だしさ・・・。でも、ダメなんだ。殺せなかったよ。私って、やっぱり、変わんない。 

 すると、使い魔がホッとしたような声で言う。


<俺は、申請してないぞ? 絶対、殺さないと思ってたさ>

「・・・。そっか。ありがとう。・・・、ねえ、呼びづらいんだけど、なんて呼べば?」

<ああ、じゃあ、名前つけてくれ>

「えぇ? えっと、海星みたいだったから・・・。ウミホシ、カイセイ・・・。うーん、いっそのこと、ヒトデじゃダメ?」

<ああ、いいんじゃねぇか?そっくりだよな>


 いいのかよ。まあいいけど。

 私は麗華を立たせると、みんなにもう一度謝った。みんな、笑顔を見せてくれた。


「朱璃、私、負けないからね!」

「そう。まあいいよ。帰ろう、エリー」

「うん。開門ー」



「まあ、マスターが殺すはずないと思ってましたよ。良かったです」

「そう、かな・・・。本気で殺そうとしてたはずなのに」

「そこが朱璃姉ちゃんのいいとこだろ。最終的には、全部許してやるだろ?」

「・・・。ほんとだね。あぁ、なんか疲れちゃった」


 私がソファに座ると、心花がお茶を持って来てくれた。

 留守番をしていたティーナの配下三匹も出て来て、また、いつも通りの雰囲気に戻った。


「にしても、思っていたより、朱璃様は強かったんですね」

「ああ、そう言えば、あの兵、結構強かったよなぁ。まあ、朱璃姉ちゃんじゃ致命傷は与えられなかったみたいだけど」

「あはは・・・。まあ、基本は戦わないよ。凄い疲れるんだもん」


 兎の欠点かな。スタミナが足りないんだもん。この子たちと一緒に戦ってたら多分途中でダウンする。

 だからまぁ、緊急事態だけかな。戦うとしても。


「でも、あの娘が勇者だったなんで思わなかったにゃ」

「エリヴェラも、変身してたから、分からなかったのー」

「あれが勇者の魔力なのですねぇ。確かにシュリ様に似てますぅ」

「もう絶対に、ご主人を一人にさせない」


 私ももう、一人で居たくないよ。また、誰かに捕まったら困るし。一人じゃ逃げ出せないし。

 今回は偶々助かったけど、もうあんなめには合いたくない。っていうか、普通ないけどさ。


「・・・、マスター? お疲れなら、先に休んでも良いですよ?」

「ふぇ? え、な、なんで?」

「何となくですけれど・・・。疲れてるんじゃないですか?」


 何となくかよ。ああでも、シルシィは前からそういう子だった。妙に鋭い。

 でも、まだお昼くらいなんだけど、どうしよっか。この国にシエスタはないでしょ?

 うーん・・・。流石に、まだ早いよな。


「まあ、まだお昼だしさ」

「・・・。でも、早く寝て下さいね。きっと、昨日も寝てないんでしょう?」

「あれ? なんで?」


 シルシィは、私が不思議そうな声を出したのを聞いて、さも楽しそうにニヤッと笑った。それから、人差し指を立てて話し始める。 


「私たち、山に入ってから、マスターの血をたどっていったんですよ。流されちゃってて大変でした。雨が降ったのだから。まあ、木の幹の分は、結構ちゃんと残ってましたが。

 深い足跡が、濡れた地面を歩いた証拠。雨が降ったのは夜です。なら、そんな跡が付くのは、夜以降。朝には捕らえられていたのでしょうから、早朝だけだったら、流石に進んだ距離が多すぎるでしょう? だから。夜のうちにも行動したのでしょう?」


 ああ・・・。随分良く見てるなぁ。凄い・・・。って、ちょっと待った。一体、この子たちはどうやって私の居場所を見つけたんだ?

 おかしくない? だって、あんな山奥、探し出せる?


「え? ああ。それなら、マスターが連れて行かれるのを、紫さんが見つけてくれて。あとをつけて、場所を特定して来てくれたんです。まあ、そこ、山の洞窟? の中にたどり着いたら、もうマスターはいなかったわけですが」


 で、探し回っていたら血痕を見つけたわけだ。運が良かったと思うしかない。

 でも、雨の中、私を探して駆けまわってくれたんだ。本当に、この子たちに感謝しないと。


「ありがとう、みんな」

「! ふふ、マスターは、私たちの事を救ってくれたのですよ? 私たちがマスターを助けるのは当然のことです!」


 シルシィは奴隷商人から。颯也はドクロ病から。心花はシルシィと颯也の両方のものから。エリーは奴隷商人と孤独から。ティーナは妹の追手から。セレスは生活面で。

 まあ、私が居なくても何とかなってたような子もいるけどね。それでも、私を慕ってくれている。


「うん、そうだね。これからも、守ってくれるよね」

『もちろん!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ