第40話 海の洞窟
さて、セレスちゃんが来てから三ヶ月位経って、もう四月です。
バレンタインとかは、大しておっきいイベントでもないから省略するね。だって、いっつも心花のお菓子食べてるから、バレンタインだって、ほぼいつもどおりじゃん。
「セレスちゃん、頼みます!」
「はぁい! それっ!」
セレスちゃんが、シルシィの仕留め損ねた魔物を撃ちぬいた。なんて命中力だろう。
今日は前にエリーが言っていた海の洞窟に来ている。青い石で囲まれた洞窟だ。
沢山の宝石がとれるらしいけど、エリーの目的はそこではなく、奥に住んでいると言うボスモンスターだ。強いモンスターと言うだけで、エリーはとっても喜ぶ。
「たのしー! ねぇ、セレスお姉ちゃん」
「えぇ。私もみんなの役に立てるようになってきましたぁ」
「セレスちゃんの命中力は凄いね。難しそうなのに」
「私は、弓しか出来ませんからぁ」
それでも、ほぼ全て命中。こんなに当たる事ってある?
まだこれでもレベルが低いんだ。もっと上がったら、どうなるんだろう? 楽しみだ。
「ボスモンスター、多分もうすぐですよ、エリーちゃん」
「わぁい! コノハお姉ちゃん、どんな魔物?」
「秘密です。ほら、この先」
エリーが走り出したので、私たちも慌ててそれについて行く。なお、兎たちも一緒に居る。
曲がり角を曲がると、大きな部屋が現れた。そこに居たのは・・・。
「さ、鮫?」
「おっきい!」
「こんな鮫、見たことありませんよ?!」
そこに居たのは、シロナガスクジラより、もっと大きいのではないかと言うような大きさの大きな鮫だ。口の中には、無数のはが光っている。はっきり言って、私は戦いたくないです。
けれどまあ、心花が冷静に言った。
「そうでしょう。この魔物は、ここ以外には存在しません。相当強いので、頑張って下さい」
「じゃあ、心花も斧持って。さ、行くぞ!」
「ええええええ?!」
颯也、エリー、ティーナが走り出し、遅れて心花がタロットから斧を召喚してついて行った。
残ったみんなで、魔法の準備をする。魔力をしっかり溜めて。
「撃てー!」
『はい!』
全員で一気に魔法を放つ。それと同時に、四人が一度に打撃攻撃を与える。
鮫は戦闘態勢に入る。狙いを定めたのは、――心花!
「シルシィ! 気を逸らして!」
「分かってますよ! ヤールキィ・マロージェナエ!」
その一瞬の隙に、颯也が心花を抱えて遠くに離れる。私はすぐに近くまで跳んでいく。泣きそうな心花を受け取ってすぐに戻った。この敵で、心花が前に出るのは危険だと、みんなが判断したのだった。
「うぅ・・・。怖いです」
「心花、ごめんね? ローリ、儀式魔法」
「分かった。みんな」
『はい』
属性がみんな違う兎たちの儀式魔法は、前属性が入り混じった超大掛かりな魔法になる。私は絶対受け止められない。
ローリはみんなにてきぱきと指示をし、自らが魔力の制御を請け負う。全員分の魔力の制御だっていうのに、楽々やってしまうのは本当に凄い。
『儀式魔法、属性光線』
ドン、と大きな衝撃とともに魔力が撃ち放たれた。凄い威力だ。鮫が避けてしまったら困るから、颯也、エリー、ティーナの三人掛かりで出来るだけ気づかせるのを遅らせた。気がついたときには、当たっている、と言うのが理想、だけど!
「よし! エリー!」
「いっくよー。トルナードー!」
「ティーナ、避けて!」
「はいにゃ!」
私がエリーとティーナに叫ぶと、エリーは鎌を持って飛んで行き、ティーナは此方に戻ってくる。
次の瞬間、鮫の頭が綺麗に斬れた。
「あははははははは!」
「エ、エリーちゃんが怖いよぉ」
「セレス、あれが本当のエリーだよ?」
「シュ、シュリ様ぁ、私のイメージと違うよぉ」
赤く染まったエリーは、楽しそうに此方まで下りてきた。私はタオルで血を拭いてやる。
頭を撫でながら褒めてやっていると、みんなが『私も』と寄って来てしまう。
ああ、多すぎる! 兎たちもみんな来た! 何人いると思ってるの。
「ああ、ごめん、ちょ、もうちょっと離れてっ!」
「はっ、すみません、マスター」
「離れて」
『はい・・・』
あはは・・・。まあ、いいんじゃないのかな? 兎たち、やっと懐いてくれたよ。
さて。この奥に宝があるって噂だよ。ティーナなんてそっちの事しか考えてなかったもの。
と言う事で、鮫が死んだ事で通れるようになった洞窟の奥に向かう。
「わあああ! すごいにゃああ!」
「これは・・・。ちょっと、想像以上ですね」
「どうやってこんなに・・・?」
キラキラ光る大量の宝物が、そこにはあった。
心花がニヤニヤしながら教えてくれた。鮫を倒すと現れるらしい。多分、この様子だと知ってて教えなかったんだな。
「じゃあ、持って帰っていいのかにゃ?」
「そうじゃない? 現れるってことだし」
「私の異空間でも入りきらないかもしれません。エリーちゃん、マスター、手伝って下さい」
「わかってるよー」
「あ、うん」
大量の宝物を仕舞おうとした時。大きな音を立てて、後ろで何かが爆発した。
完全に油断しきっていた。私たちは慌てて後ろを振り向く。すると、そこに居たのは・・・。
「なっ?!」
「あれ?! この前の・・・」
この前、お風呂で会った、あの女の人だった。
「知り合いなのかい?」
「この前、お風呂で会ったよ」
「そうかいそうかい。朱璃さん?」
「・・・・・・、優人さん」
ああ、転生者。私の学校の人だ。花凛と良く喋っていた、優人。
この人も、苦手だった。っていうか、この人も私の事いじめてたね?
そっか、この子は、優人の持ち物だったのか。じゃあ、何かで私を見たのかもしれない。
「その宝物、此方に寄越して貰おうか」
「な、どうして?! ご主人がせっかく・・・」
「よし、原点だ。アディ」
一瞬のうちに、ローリはその女の人に捕まってしまった。
その女の人は、バタバタ暴れるローリに、躊躇もなく・・・
ナイフを突き刺した。
「うっ・・・。あっ・・・。ご主、人、様・・・」
「ローリっ! あなた・・・!」
「ユウトさまに抗うのがいけないんだよ」
その女の人はすぐにローリからナイフを離し、治癒魔法をかけた。そりゃあ、人質を殺しちゃ仕方ない。
彼女はローリにナイフを突き付けて、がっちりと押さえつけて此方をニヤッと見ていた。
「私はアディ。ユウトさまの一番の側近さ」
「そう。で、取引条件は?」
「朱璃、お前が死ぬ事だ」
・・・・・・? って、ええええ?!
あ、原点って、そういう事?! どうしよう・・・。
私が死んでローリが助かるなら、何の問題もない。けれど、もし、助けてもらえなかったら。嘘だったら。
私が死んだ事で全ての強化が解けたら、この子たちでは、どうにもできないだろう。
「ご、ご主人? 私は、いい。早く、逃げて」
「ローリ・・・?」
「大丈夫、だから」
そう言って、笑顔を作ろうと試みる。けれど、結局・・・。
初めて見たよ、ローリの涙。あまりにも、悲しすぎる。こんなの、酷いよ・・・。
その上、私には、聞こえてしまうんだよ。ローリが、小さな声で、ずっと呟いてるの。
『大丈夫、恐くない、大丈夫、恐くない・・・・・・』
もう、耐えきれないよっ!
私は、護身用の短剣を取り出した。そのまま、優人に言う。
「これで、良いんだよね? 約束、守るんでしょう?」
「ああ、もちろんじゃないか」
なら、いっか。私は目を閉じて、深呼吸。手が震えるのが、もどかしいよ。
ごめんね、こんな情けない主人でさ。悲しむの、分かってるけど。でも、私には、これしか出来ないんだよ・・・。
わたしは、自分の胸に、ナイフを突き付けた。
なのに。何かがおかしい。恐る恐る下を見ると、短剣が向こうの方に飛んで行った。
なんで? 何に阻まれた? すると、聞きなれた、あの声が聞こえてきた。
いつもの声だけど、凄く、悲しそうだった。
<だめなんだぜ、朱璃。勇者の自殺は、何が何でも止めるように言われてるんでな>
「あんた・・。う、うぅ・・・、ああっ! なんで邪魔するのっ?!」
<っ?! お、おい・・・?!>
「酷いよ、みんなみんな・・・。私の事、邪魔して・・・」
<落ち着けって、ほら・・・。朱、璃?」
「・・・・・・、ふふっ、あははっ」
もう、何でも良くなってしまった。訳が分からない。何をしているのかも、もう分かんない。自分の体じゃないみたいだね。
私は右のポケットに手を入れる。そこから沢山のタロットを取り出して辺りにバッと撒く。
それの名前を、一つ一つ、全て唱えた。属性も何もかも、みんな違う。けれど、私が持っている中で、一番強い部類のタロットだ。
「マスター?! それじゃ、ローリちゃんを・・・」
「ローリ、心配するな、上に跳んで!」
「えっ?! あ・・!」
私はローリに何重にもしてパラメータ強化をかけておいた。だから、アディの手をするりと抜けて、上に飛んだ。よし、いま。私は、反対側のポケットから一枚のタロットを取り出した。
「いでよ、クエレブエ!」
『クエレブエ?』
私の召喚したクエレブエは、宙に浮いていたローリをひょいっと掴んで魔法を全て避けた。
何が起きているのか、まだ理解できずに慌てていた優人たちは、全員魔法の餌食になってどこかに飛ばされていった。
「マスター、凄いです!」
「ご、ご主人、何時の間に・・・」
「ごしゅじんさま、強ーい」
ふふ、そうかな? そう言ってくれると嬉しいよ。けど・・・。
まずい・・・。魔力を使い過ぎた。私はよろよろとその場に座り込んで、そっとクエレブエを消した。
ああ、ぞくぞくする。凄く寒い。冷凍室の中に居るみたいだよ。随分多くの魔力を使っちゃったみたいだ。
「しゅ、朱璃姉ちゃん? 大丈夫か?」
「へ、平気。ま、魔力使い過ぎちゃっただけ」
「なんで、朱璃様がクエレブエを・・・?」
「じ、実は、ずっと黙ってたんだけどさ」
私は、ボスラッシュの間、潤さんと何度もクエレブエに挑戦したんだよ。
みんなが寝てから。布団を抜け出して、潤さんと合流。外に向かう。
夜の方が魔物は強い。注意しながら進んで、何度も、クエレブエを倒している。
最初は、ほぼ潤さんが。最後の方は、ほとんど一人で頑張った。それで、やっと手に入れたんだ。
「そんな・・・」
「潤さんが、高いんだけど、ダメージ、スタミナ、マジックパワーを全回復、っていう薬をくれて」
「そ、それっ?! エリクシル・・・?」
「さあ? 良く分からないけど、それ使ってたんだ」
ただ、問題は異常なまでに魔力を使うから、本当は、まだ、使っちゃだめなんだけどね。
私はため息をついて立ちあがった。ちょっと落ち着いた。けど、寒い。まあ、心配かけたくないから、出来るだけ気にしないようにしよう。
「よし、安心して宝物を貰おうか」
「そうですね!」
「やったにゃ! シュリ様、ありがとにゃ!」
ふふ、楽しそうでいいね。これで家をもっと大きくしよう。リビングとか、ダイニングが狭い。
さて、じゃあ家に帰ろうか。エリーに移動魔法を展開して貰う。
「開門ー」
「ふぅ。ちょっと整理しよう。心花、悪いけど、ちょっと家具持っててくれない?」
「あ、いいですよ。ダイニングで良いんですよね」
「うん。よろしくね」
心花の異空間に家具を入れておいて、此処に少しずつ広げようと言うことだ。
どかどかとすべて放り込み終わった心花を見てから、まず、エリーの持っていたものの半分を取り出してみる。
「うわっ?! 結構あるね」
「凄いにゃ・・・。此処に来て良かったにゃ!」
「ティーナさん、マスターに失礼です」
とりあえず、キラッキラの宝物を分別していく。
指輪、サークレット、ブレスレット、剣、小判、宝石箱・・・。
凄いな、これ。全部金かな。こんなに触っちゃって大丈夫?
「これ、終わりますか?」
「ど、どうだろう。シルシィ、もしかしたら今日は無理かも」
「ああ、大丈夫ですよ? 心花ちゃんの家具が何とかなるなら、私は明日でも」
実際、異空間に物が入り過ぎていると、ちょっと疲れるんだ。いや、この量じゃちょっとどころじゃないかも。だからちょっと心配だけど、シルシィの異空間は凄い広いし、平気かな?
一時間後・・・。
「これ、エリーが持ってる、さらに半分なんだよな?」
「うん。先にごしゅじんさまの半分やろう」
「あ、ありがとう。じゃあ、これは分けて倉庫に入れちゃおう」
宝石箱に分けて入れ、エリーと颯也、ティーナに兎たちが倉庫まで運んでくれた。
と言う事で、私のものも半分出した。あれ? エリーのより全然多いんだけど。
またまた一時間。
「ああ、もう良いか? 凄い疲れた」
「そう、ですね。心花ちゃん、家具どうぞ」
「あ、はい」
セレスちゃんがふぅっとため息をついて床にぺたっと座り込んだ。
「あ、大丈夫?」
「まさか、あんな魔物と戦うなんて思ってませんでしたぁ。でも、楽しかったですぅ」
「そう・・・」
「でも、横どりは良くないですよねぇ。私、あの人嫌いですぅ」
それから、セレスちゃんは私の手をすっと取った。
私が何事かと思っていると、セレスちゃんはちょこっと首を傾げながら言う。
「手が凄く冷たいですよぉ。氷みたい。魔力が少ないから、熱も少なくなっちゃってるんだと思いますぅ」
「ああ、多分ね。でも、平気だよ」
「そんなはずないですよぉ? 凄ーく寒いんじゃないですかぁ?」
あはは・・・。図星です。
そうなんだよなぁ。だから使いたくなかったんだ。クエレブエ。それにしても、ここまで魔力を使うとは思ってなかった。
セレスちゃんはみんなには黙ってる、と約束して、そっと私に魔法をかけた。
ああ、なんだか温かい。と思ったら、セレスちゃんは私に魔力を入れたようだ。天使魔法らしい。少しは出来る、と言って微笑んだ。
「あ、ありがとう」
「うふふ、気にしないでくださぁい。じゃあ、あんまり二人で居ると不思議がられちゃいますよぉ?」
ふふ、そうだね。
私たちは、そのままみんなと同流するのだった。




