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第39話  セレスティーヌ

「よし、朱璃様。始めますね」

「うん、よろしくね」


 ボスラッシュから帰って来て、次の日。キッチンに立った心花は、大量の材料とレシピを持って笑った。

 なんたって、約束しちゃったんだ。帰りの船で。私がマカロン食べてる時に。マカロン作るって。


「じゃあ、朱璃様はまた今度」

「え?!」

「私が上手に作れるようになるまで待って下さい」


 なんで?! 一緒にって言ったじゃん?!

 でも、心花はウインクして続ける。


「朱璃様好みじゃなかったんでしょう? あの船のは。ですから、朱璃様が好きな物を作れるようになるまで、待っていて下さい」

「・・・気づいてたんだ」


 そう。美味しいけど、何か違う。蒼泉くんが持って来てくれたあのマカロンとは、違う。

 何が違うって聞かれたら、よく分からない。けど、違う事は分かるんだ・・・。


「だって、心花は私の好きなマカロンの味、分からないでしょ?」

「今までのお菓子のパターンから、だいたい想像がつきます」

「凄いね・・・。じゃあ、私は待ってるよ」

「一カ月位お願いします。ふふ、毎日マカロン食べる人が出るでしょう」



 にしても、あのマカロンは、誰が作ったんだっけ? ・・・ああ、蒼泉くんのメイドさんだ。

 私と一番仲が良かったメイドさんが、作ってくれたんだっけ。あれは美味しかった。


 私が蒼泉くんの家に遊びに行くと、必ず蒼泉くんと大きな庭でお茶を飲むのが決まりだった。

 その時、蒼泉くんは大きな甘いケーキを食べる。シフォンケーキだったり、チョコレートケーキだったり、チーズケーキだったり、フルーツタルトだったり。ああ、マドレーヌとかの時もあったか。

 私は甘いのはそんなに食べないから、その時は決まって、スコーンかブリオッシュを焼いて貰っていた。私、あのブリオッシュ、好きだったな。ミルクとバターと卵をたっぷり使った甘いパン。


 でも、私が好きなの、知っていたから。

『そうですね、来週の土曜日なら、マカロンを焼いて差し上げられますよ、朱璃お譲さま』

『じゃあ、朱璃、来週おいで』

『では、母にそう伝えておきます』

 こんな会話は、よくあった。


「あれ? シュリ様、どうしたにゃ?」

「あ、ティーナ。どうって、何が?」

「なんだか、昔の事を思い返してるみたいだったにゃ。どうかしたにゃ?」

「ううん。心花がお菓子焼いてるから、思い出しちゃっただけ」

「・・・?」


 ああ、これはティーナには関係なかったか。まあいいや。

 さて、私は今日は何をしようかな。たくさん手に入ったタロットカードを整理しよう。



「うーん・・・。これは違うか・・・」

「あれ? 心花、どうしたの?」

「あ、とりあえず、レシピ通りに作ってみたんです」


 それは、あまりに小さくてコロっとした可愛らしいものだった。茶色いから、おそらくチョコなんだろう。一つ摘まんで口に放りいれる。

 ん、サクッとしてて、でもふわっとしてるような・・・。とりあえず美味しい。けど、これじゃない。


「あっ・・・。それは、多分違う。もっと甘いのかなぁ・・・」

「えっ? 甘い?」

「多分。朱璃様の世界の砂糖は、ここの砂糖より甘いのかもしれません」


 そうかも・・・。煮物とかの時は、ちょっと多いくらい入れても、それでもやっぱり少ないな、って思う事もある。

 じゃあ、やっぱり、砂糖かな。でも、それだったらどうしたらいいのかな。


「砂糖、取りに行くべきか」

「・・・砂糖を、取りに行く?」

「ええ。岩塩って分かりますよね? あれみたいなたくさんの砂糖がある島があるんです」


 へぇ・・・。それは面白そう。だけど、そんな簡単に手に入るのかな?

「ただし、あまり綺麗じゃないかもしれないので、却下します。となると、諦める。この砂糖で頑張りますね」

「あ、そう・・・。じゃあ、それでいいよ」


 でも、甘さじゃないと思うんだけど。私、甘いの好きじゃないもん。

 じゃあ、何が違うんだろう? 何かが、違うんだけど・・・。



「あ、美味しいじゃないか」

「マスターの好みじゃないんですよね?」

「ん、まあ、そうなんだけどね・・・」


 いや、これだっておいしいのだ。問題はないはずだ。

 けど、蒼泉くんと食べるなら、やっぱり、嫌かな。あれが良い。


「ってことで、暫く食べていただく事になります! ご協力お願いします!」

「ああ、そういう事。僕は良いよ」

「私も問題ありません」

「エリヴェラもこれ、甘くて好き」

「あたしは何だっていいにゃ」


 なら良かった。まあ、そんなに量作るわけじゃないし、多分平気だと思うけどね。

 ちなみに、材料費は問題ない。ボスラッシュで凄い稼いだから。



「違う・・・。朱璃様が好きなのは、甘さの問題じゃないんだ・・・」

「じゃあ、味?」

「あ、チョコ止めてみます」


 試行錯誤しながら、心花は何種類も作ってみた。

 けど、何か違うんだよなぁ・・・・・・。これ、もう作り手の問題?


「なんだろう。多分、朱璃様が好きなのは、もっと、こう・・・」

「分かるもんなの?」

「はい。レシピによって、ちょっとしたお菓子のイメージ? みたいなものがあって。朱璃様が気に入るお菓子は、みんな同じ感じで」


 そう言えば、心花は『お菓子作り』のスキル持ってたっけ。それでかな。

 まあ、なんにしろ、分かるなら良いけどさ。でも、それでも出来ないのか。


「ああ、作った人に会いたいですよ、もう全然分かりません」

「な、なんかごめんね」

「あ、いや、いいんです。割と楽しいんで」


 なら良いけど・・・。心花、家事全般担当してる上にこれって・・・。っていうか、私の仕事がもはやないんだけど、なんとかしてくれ。このままだと家の中で一番暇な人になってしまう。っていうか、現在進行形でなっている。



「シュリ様。ちょっとお願いがあるにゃ」

「ん? なあに?」

「あたしの妹たちが、あの狐の女の人と一緒に居る理由が知りたいのにゃ」


 ああ、優ちゃんと麗くんね。そう言えば、ティーナは知らなかったんだっけ?

 私は、自殺しようとしていた二人を救ったのが雅さんだと言う事を教えてあげた。


「そうだったんにゃか・・・。まあ、そんなもんだろうとは思ってたにゃ」

「あれ、そうなの? もっと落ち込むかと思ったけど・・・」

「いや、もう死んでるかと思ってた位にゃ。もう、生きていてくれるだけで良いにゃ」


 そっか。なんだか、ティーナは強いなぁ。もうちょっと軽い感じに見えてたんだけど・・・。

 そう言えば、エリーも子供っぽいのかと思えば、偶に急に大人びてる時がある。なんだか、変わった子ばっかり集まっちゃったかな?


「ごしゅじんさま、行きたいところがあるのー。ダゴンの海には、洞窟がいっぱいあるんだってー」

「へぇー・・・。今度行ってみる?どんなふうになってるんだろうね」

「帰れなくなってる人も結構いるにゃ」

「そしたら、エリーに何とかして貰おう」

「んー? 何の事ー?」

「悪魔は便利にゃね・・・」


 あはは。そうかも。まあ、天使が居たら相性悪いから難しいっていうけど。今のところ、天使居な、い、し・・・。もしかして、私、自分でフラグ立てた?


「あわわわわわわわ!」

「ひゃっ? 何があったんでしょう。庭からですよね?」

「あ、心花。行ってみよう!」


 表に出ると、庭に一人の少女が落ちていた。真っ白の大きな羽がある。ほらみろ。私は自分でフラグを立ててしまったようだ。

 どっからどう見ても、そこの少女は天使である。


「あたた・・・。ごめんなさぁい。うっかり落ちちゃった」

「落ちたって・・・。何処から?」

「天界。一回落ちた天使は、もう、戻れない・・・って、どうしよう! 戻れないよぉ?!」


 あらら・・・。これは、また増えたってことになるのかな・・・?

 おろおろしている天使に、エリーが近付いた。


「大丈夫ー? 何処痛いの?」

「あ、平気だよ。ありがとう」

「・・・・・・へっ?」


 普通に接していた。仲が悪い、なんてどこにもない。

 そう言えば、エリーとシルシィも仲良いし。絶対じゃないのかな。

 仲良くできるなら、もう一人増えたって問題ない。


「甘い匂いしたから覗いたらぁ、おっこっちゃった・・・」

「そうなのー? ごしゅじんさま、一緒じゃダメ?」

「問題ないよ。家に居ても」

「いいのぉ?! ありがとう!」


 立ち上がった彼女は、思ってたより背が高かった。あれ、そう言えば、結構顔も大人っぽい。この子、私と同じ位に『見える』なぁ。多分、天使だから違うだろうけど。

 で。二人は仲良くできるの?


「だって、エリヴェラはお母さんに仲良くするよう言われたもん! 前のところは、天使がエリヴェラの事嫌いだったのー」

「え? 珍しいねぇ。基本はぁ、悪魔が天使を嫌っちゃって仲悪いのにぃ」

「あの天使、怖かったの。あーゆーのは嫌いー」


 あ、そう。まあいいか。っていうか、甘い匂いって、確かついさっきまで心花はマカロンを焼いていた。それの事だろうか? 分かるもんなの?

 ふと見れば、その天使はエリーの事じっと眺めていた。な、なんだろう・・・。


「ああん、かーわいー! 名前はー?」

「エリヴェラっていうのー。みんなはエリーって呼んでるのー」

「エリーちゃんかぁ。私はセレスティーヌ。セレスって呼んでね」


 あ、初めて名前聞けた。エリーがあっさり聞いてくれたおかげで、タイミングのがして聞けない、なんて事にならずに済んだ。感謝感謝。

 っと、私たちの存在を忘れて貰っては困る。


「あ、セレスちゃんね。よろしく」

「ええとぉ・・・」

「朱璃だよ。よろしくね」

「シュリ様ですねぇ」


 さて、エリーがちゃんと奴隷にならなきゃいけないって伝えてくれたから、すぐに了承してくれたよ。

 みんなを連れて奴隷商人のところに行って、金貨十枚で魔法陣をつけて貰った。



「此処は沢山人が居るんですねぇ。あ、この子たちは人じゃないのかぁ」

「そう、兎だよ。エリーから聞いた?」

「えぇ。エリーちゃん可愛いですぅ。紫の髪とか、ちっちゃな翼とかぁ」


 ロリコン・・・。ま、まあいいか。人の趣味なんて何でも良い。

 っていうか、もうみんな奴隷が増える事にすっかり慣れてしまったようで。一瞬で打ち解けた。


「・・・寒い」

「あ、ローリ、寒い? じゃあ、ちょっと温めよっか」

「聞こえたの?」


 なんたって、兎は耳が良い。私も、兎になってから凄ーく聞こえるようになったよ?

 と言う事で、タロットを使って部屋の温度を上げた。

 セレスちゃんもさっきより表情が柔らかい。寒かったのかな。


「ところで、セレスちゃんは何が使えるの? 魔法?」

「私は弓ですぅ。天使魔法も使えますけれどぉ、ちょっと得意じゃなくてぇ」

「そうなんだ。弓ね。被ってないし、ちょうどいいや」


 ちなみに、天使魔法と言うのは、悪魔系の魔法を打ち消すものと、人を魅了する魔法らしい。それってどうなの? まあ、キューピッドとか、そんなイメージらしい。

 けれど、セレスちゃんはメインは弓。気にすることはないか。


「弓ですか・・・。矢はどうしますか?」

「魔法作る事も出来ますぅ。でも、出来たら欲しいですぅ」

「そっか・・・」


 シルシィが訊くまで気がつかなかった。エルフは弓使うもんね・・・。

 っていうか、魔法で矢を作るって? どうやって?

 魔力を固めて作るらしい。ああ、ファンタジーとかでよくある火の剣、的な物が出来るのかも。


「じゃあ、よろしくお願いしますぅ!」

「はい、よろしく」


 ああ、凄い増えたなぁ。ダイニングとリビングがちょっと狭い。

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