第38話 魔王様と蒼泉くん
「修学旅行で必ず熱出すタイプですわね」
「そしてたった一人ホテルで寝てる」
「わ、悪かったね!」
今日の体温は三十七度。朝でこれだと、先が思いやられる。
にしても、これじゃあ絶対に留守番じゃないか。せっかくボスラッシュに来たのに。
「じゃあ、私たちが朱璃の面倒みるよ」
「え?! ま、まあ、助かりますけど・・・。では、頼みます」
「・・・マスターをよろしくお願いします」
雅さんたちが名乗り出たので、みんなは昨日のパーティで出かけるようだ。にしても、なんで雅さんが? こんなことしていていいのかな・・・。せっかく来たのに。
「さて、じゃあ朱璃。あなたは寝てなさい」
「は、はい。では・・・」
「ちゃんと寝ててねー。じゃ、後で来るから」
仕方ないよね・・・。私が悪い。昨日、あんな事にならなかったらなぁ。
なんだかボスラッシュに良い思い出が無い。前回はフェンリルゾンビだし。
もうボスラッシュ嫌いになりそう。多分またエリーのために来るけど。
さて、もう寝るか。頭が痛いし、これ以上何か考えてる事が出来ない。
急に目が覚めた。起こされた、のかな? 呼ばれた気がする。
体を起こすと、頭痛は全くなかった。熱もないかも。ちょっと伸びをして、久しぶりに見たさっきの夢の事を思い返す。凄く幸せな夢だった。
気が付くと、バイオレッドのすぐそば。あの草原に立っていた。
なんでこんなところに・・・?
そんな風に思って、ふらふらと歩いていたら、急に目の前に男の人が立っていた。
えっと思って辺りを見回すと、囲まれていた。
盗賊だろう。私を囲んでる。人数は十人。私一人では、明らかに切り抜けられないだろう。
絶体絶命。慌てて思考力が欠けてる為、冷静な判断なんて出来るはずもなく。
様々な武器を構えた強そうな盗賊を見て、私はキュッと目を瞑る。
「ごめん、遅れて、ごめん」
「?!」
「ぐああああ!」
目を開けると、一人の人が盗賊を大きな剣で薙ぎ払い、こちらに向かってくるのが見えた。
良く、とっても良く知っている人。
「蒼泉くん!」
「遅れちゃったね、朱璃」
私は走って蒼泉くんに抱きついた。蒼泉くんもそっと受け止めてくれる。
本当に久しぶり。ずっと会いたかった・・・!
「蒼泉くん、私、ずっと会いたかったんだよ!」
「ごめん。やっと召喚成功できた。僕が魔王だよ」
「そんなの、知ってた! やっと会えた!」
すると、たくさんの人が私たちを取り囲む。さっきの盗賊の仲間らしい。蒼泉くんは真剣な目をして私を隣に立たせて、手をキュッと握る。
私が蒼泉くんを見ると、心配しないで、と囁いて盗賊の仲間をキッと睨みつける。
盗賊たちは一瞬怯えた表情をし、それから次々と倒れ出した。
「えっ?!」
「大丈夫、殺しちゃいないよ。ただ、ちょっと眠ってて貰うだけさ」
「え? あ、そうなんだ」
おそらく盗賊のボスと思われる人を、蒼泉くんはちょん、と蹴った。
すると、その人はそのまま消えてった。
って、ええええ?!
「い、今、何やった?」
「え? 普通に、ちょっと向こうまで蹴ってあげただけさ。何処まで行ったかな。それより、うちに来ない?」
「え、いいの?! 行く行く!」
蒼泉くんはちょっと嬉しそうな表情を浮かべ、それから移動魔法を使った。
雅さんなんてレベルじゃない、エリーよりも、もっと強い。それは、魔力の感覚でよく分かる。
蒼泉くんは私を手でそっと眼隠し。自然と私も目を瞑る。
「さて、朱璃、着いたよ。目を開けて」
「うん。わあああ」
「どうかな? 朱璃っぽく作ったんだけど」
「す、凄く綺麗!」
お城のエントランス、なのかな? ここは。
赤と白で統一された部屋だ。壁や床、家具など、全てに豪華な装飾が施されている。
赤と白。これが私ってことか。
「凄い、お城みたいだね」
「お城なんだよ、それが。さ、中に行こう」
蒼泉くんは、私の手を引いて歩きだした。
もはや迷路のようなお城の中を、迷うことなくずんずんと進んで行く。
もう私なんて、どこから来たのか分からない。曲がりくねっていて、分かれ道が多すぎる。
蒼泉くんは、ある部屋の前でピタッと足を止めた。
「さて。部屋に入る前に、一つ、いいかな」
「な、なあに?」
「これから、ここで一緒に暮さない?」
「・・・! もちろん、いいよ!」
私は蒼泉くんに抱きついた。蒼泉くんは、やっぱり何も言わないで私を受け止めてくれる。
ああ、久しぶりのこの香り、温度。本当に、蒼泉くんなんだ・・・。
「と、いつまでもここに立っても仕方ないね。中に入ろう」
「あ、ちょっと待って。私の奴隷たちは」
私が全て言い終わる前に、蒼泉くんは扉を開けて中に入っていった。
仕方なく私もそれについて行く。何か考えて・・・・・・。
「マスター!」
「・・・・・・え?」
そこには、いつも通りの、私の奴隷たちが居た。
おかしいなぁ。なんでこんなところに? と思ったら、蒼泉くんが私に向かってウインク。ああ、蒼泉くんが呼んでくれたんだ。
「これで、思い残すことはないかな?」
「もちろんだよ! あるはずない!」
「なら良かったよ」
けれど、私が動き出す前に、蒼泉くんはパンパンと手を叩いた。
すると、向こうの方から荷台を押したメイドが二人入ってくる。
荷台の上には、赤と白のドレスが乗っている。
「あ、あれって・・・」
「そう、朱璃のだよ。どう、かな」
「嬉しいよ! ありがとう! 凄く綺麗だね・・・」
「ふふ・・・。じゃあ、メイドたちに手伝って貰って着替えておいで」
と言う事で、メイドたちと一緒に隣の部屋に向かう。
「良く似合ってるよ。流石朱璃だ」
「ふふ、蒼泉くんが選んだんでしょ? 流石なのは、蒼泉くん」
「そうかなー? 朱璃なら何でも似合うさ」
そう言って、蒼泉くんは私をグイッと引き寄せる。
そのまま私の頬に手を置き、顔を近づけて・・・。
ってところで目が覚めたんだ。当然不機嫌だし、寧ろ怒ってるよ。
だって考えてみて。隣に私を起こしたであろう人が座ってこっちを見てるんだもん。
私がギロッと睨むと、雅さんは不思議そうに首を傾ける。
にしてもさっきの夢・・・。感覚が、あまりに現実っぽすぎて、夢だって気付けなかったよ・・・。この年にもなって夢と現実が混ざっちゃうなんて。
「どうかしたの?」
「雅さんのせいです・・・。雅さんが、あんなタイミングで起こすから・・・」
「え? な、何のことかしら?」
分かっているのに誤魔化している雅さんはばればれだし、それが余計に気に入らない。
冷や汗を流して青い顔でこっちを見ている雅さん。そんなに怖い顔してるかな?
「そ、それより朱璃! 体調は?」
「あ、そんなに悪くな・・・って、話を逸らさないで!」
「はい・・・。いったいどんな夢を見てたの?」
「み、雅さんなんかには教えてあげません!」
ふいっと向こうを向くと、雅さんは本気で困り果てたような顔をする。
ちょっと、可哀想になった。
「あ、謝ってくれたら、許しますよ?」
「え、あ、ごめんね」
「・・・」
「・・・」
「違います!」
そうじゃなくて! 本気で謝ってよ。その場凌ぎみたいのは許さない。
まあ、雅さんには悪気なかったんだよなぁ・・・。でも、ちゃんと謝ってほしいな。
「な、何系の話?」
「雅さんには関係なさそな話です」
「れ、恋愛系か・・・」
自覚してるの? ちょっと悲しくない?
まあいいのか。雅さんが男の人といちゃいちゃするのは種族上常にだし、なのに本人にその意識はないんだもん。タチが悪い。
まあ、雅さんが一人の人と付き合うのは厳しそうだ。不特定多数の人を惑わしちゃうんだもん。
「あ、あれ? もしかして、転生前の彼氏・・・? ご、ごめん!」
「それだったら、良かっただろうなぁ・・・。帰れれば、絶対会えるんだもん」
「え・・・・・・?」
「もしかしたら、死んじゃってるのかもしれないけど、そしたら、遺体すら見つかってないんだもんなぁ。悲しすぎるよ・・・・・・」
私の目から、ポツリポツリと涙が落ちる。一体、蒼泉くんはどこに行ってしまったんだろう。
本当に、魔王様だったらいいのにな。この夢みたいな事が、あれば良いのに・・・。
「お姉ちゃん、何か叫んでた? ・・・ん?」
「ゆ、優ー・・・。どうしよー」
「あれ? 朱璃お姉ちゃん?」
ああいけない。もう体調は悪くないし、今日は何が何でも元気なように見せないと、また明日も休みにさせられてしまう。
涙を拭って笑顔を見せる。ああ、雅さんにじゃなくて、優ちゃんにね。
「なんだか、凄い嫌われてるの?」
「ちょっとね・・・。ごめんね、朱璃」
「はい、許しましょう。悪気があったわけじゃないですし」
このままだと、みんなが帰ってきた時に問いただされてしまう。
そ、それは、ちょっと知られたくないし、止めて欲しい。
「で、どうして起こしたんですか? 要件は?」
「あ、いや・・・。要件・・・。有るっちゃ有るんだけど・・・」
「無いっちゃ無い?! 無いのに起こしたんですかぁ?!」
「い、いや、そうじゃなくてっ。もうすぐお昼だから、体調大丈夫か聞いて悪ければ朱璃だけ違うもの作って貰おうかと思って」
ああ。問題ないな。多分。ってことなので、雅さん、優ちゃん、麗くん、琳ちゃんでお昼を食べる事に。潤さんは私の子たちと一緒だもん。
「やっぱりまだ体調悪い?」
「いや、そういう訳じゃないけど・・・。いや、そうなのかな?」
「まあ、気にしない方がいいね。そこまでの事じゃないからさ」
「あ、うん・・・」
そんなに体調悪くは感じられないけど、あんまり食欲が無いってことは、まあそうなんだろうか?
とはいえ、もとからそんなに食べるわけじゃないしなぁ。家の奴隷たちはみんなよく食べるけど。
それより、今日は誰も危ない目に会ってないだろうか? 昨日の私みたいな事になってる子が居なければいいんだけど・・・。
それこそ発狂するよ? ただでさえさっきの事でイライラしてるんだから。これ以上ストレスをかけないで。
「さて、元気そうなので、朱璃姉に質問ターイム」
「・・・はい?」
「だって、どうせやる事ないでしょ?」
「ま、まあ・・・」
何訊かれるんだろうね? 変な事訊かれたらどうする?
まあ、あんまり応え辛いのだったら、それは何とかして言わないですむ方法を考えよう。
「まず、お父さんとどんな関係?」
「・・・・・・は?」
「前からの知り合い、ってわけないよね? でも、そんな感じっぽいじゃん」
「ああ、そういう事」
そりゃ元親子だろ、って思ったら、そういう事ね。
えっと、なんなんだろ? あれ? 知らんな。じゃあなんで、潤さんと・・・。
ああそうだ。魔王様と知り合いだからだ。あ、そっか。忘れてたや。
「潤さんが、魔王様と知り合いだからです。私を召喚した、魔王様・・・」
「へぇ? それだけなの?」
「多分。私も、よく分からない・・・」
あれ? 何か引っかかる。なんだろ・・・。思い出せるようで、思い出せない・・・。
おかしいなぁ、何が変なんだ? どこかがおかしいけど、なんだかワカラナイ?
「うっ・・・・・・」
「しゅ、朱璃?! 大丈夫?!」
「な、何、これ・・・。変な感じ・・・」
なんだか、自分以外の人が感情を邪魔しているみたいに感じられる。どうなっているのかよく分からないよ。
こ、この子のせいかな? 私に寄生してる、魔王様の使い魔
(ねえちょっと、どういう事?)
<あ? 俺に訊いたって仕方ねえだろ>
(あ、そう・・・)
<おい、大丈夫か? どうしても嫌なら、少し改善するかもしれん。おまじない程度かもしれないが、魔法をかけてやろうか?>
(お、お願いするね)
すると、さっきまで縛られていたのが溶けるかのように、なんだか急にすっと軽くなったようだった。
おまじない程度かもって言ってたけど、結構効果あるじゃん。
「ふぅ・・・。ごめんなさい、心配かけちゃったかな・・・?」
「え、いいえ・・・。続けても平気かしら?」
「ええ。次は何ですか?」
「魔王様との関係は?」
超答え辛い! 多分意識してないんだろうけど、ここまで答え辛い質問ってあるか?
だって、真実が一切分からないんだもん。全て、私の妄想かもしれない。
でも、本当に蒼泉くんが魔王様だって言う可能性もあるにはあるから、否定はしたくないんだよね・・・。
「まだ、分からないです。一回も会った事が無いから」
「そうなの?」
「暫くしたら会う事になるそうですが、今はまだ・・・」
「そう、じゃあいいわ」
これで良いだろう。まあ、不自然なところはな・・・、あるよ、大有りじゃん。知らない人に召喚されてるってどうなの。まだ会った事ないとか不自然だろう。
まあいいか。とりあえずは納得してくれたみたいだし。
「あとは?」
「えぇと、その、勇者って、いったい何と戦うの?」
「分かりません。それも、聞いていません。ただし、世界が滅んでしまうような出来事であると言うのは間違いないでしょう」
「朱璃さんはまだ敬語使いますか・・・。偶にですけれどね。まあいいですが。ですが・・・。あなたは一体、誰なのでしょう?」
私は、誰・・・・・・?
そんなの、分からないよ。もう、他人の事以前に、自分の事が分からない。
いや、寧ろ、他人の事の方が分かる位だよ。それほどに、自分の事を知らないんだ・・・。
「私って、いったい何・・・?」
私が思ってたより、ずっと悲しげに反響した。




