第36話 クエレブエ
「うっ・・・。うぅ・・・。私、ちょっと休ませて貰います・・・」
「うん、いいよ。心花にはちょっと刺激が強いよね」
ホテルを出てから約三十分。着いたのは、潤さんが前のボスラッシュできたという、ちょっと強めの魔物が出るスポット。
で、馬車を下りてみたら、一角獣が人を食い散らかしてまして。道が赤く染まっている。
「潤さん、ごめんなさい。この子、血が得意じゃなくて」
「斧使いじゃなかったか?! それで平気なのか?!」
「ごもっともです・・・」
けど、ここは心花には休んでいて貰おう。無理しても仕方ないし。
私たちは馬車を降り、チェリーちゃんを安全なところまで移動させる。
「じゃあ、俺は見てるから、いつも通りで頼む」
「こんなに強い魔物、戦った事ないですが?」
「まあ、平気だと思うぞ? やってみろ」
そうかなぁ? 私たちはそれぞれ武器を構える。私は鞭をね・・・。
ユニコーンに気が付かれる前に、シルシィが魔法の準備をし、颯也とエリーが走っていく。
颯也、シルシィ、エリーの順番で、いつも通りに。ユニコーンが気づいたら、即反対側からティーナと、遠くからローリが攻撃し、その間に三人は隠蔽魔法で姿を消す。
ティーナの逆から私が攻撃、撃ったらすぐ引く。楽しそうな笑みを浮かべたエリーが走って来てるから。
「トルナード!」
ちょっとは加減しようよ? みんな血だらけになっちゃうじゃん。仕方ないから、すぐに避ける。
まあ、エリーはこの日をずっと楽しみにしてたもんね。ここまで豪快に魔物を倒せる日は、そうないから。
「連携は取れているようだな・・・。まあいいだろう。では行くぞ。このレベルのものが倒せれば、とりあえず安心だ」
「心花! 平気か?」
「うん・・・。もうちょっと血の香りがしない所に行けませんか?」
私たちは、海辺に移動する事にした。
「あ、ここは潮の香りだからいいですね・・・」
「血は流されてしまうからな。さて、ここなら、クラーケンが出るだろう」
「ここに?! どうしてですか?」
「さぁ? 普通は水中で会うんだがな。多分そろそろ・・・」
巨大な鮹が現れた。もう、それこそ、二十メートルくらいの。
私たちは、それを黙って見つめている事しかできなかった。けど、クラーケンは人食い。黙って見ているわけにはいかない!
「さぁ、行くぞ! 颯也、剣を持て、エリー、続け! いいか、みんな! 狙うは眉間だ! 足はすぐに再生するぞ!」
「え? え、あ、はい!」
颯也は声を聞いてすぐに走り出した。それに合わせてシルシィが足場を作っていく。
エリーもあとについて行く。エリーの場合は、飛んでるけどね。
潤さんはどこからか銃を取り出して二人を攻撃しようとする足を一本一本打ち落していく。
「ほら、朱璃、シルシィ、心花、ティーナ、ローリ! 攻撃しないと経験値が入らないぞ!」
「は、はい!」
私は即効エルフ魔法を唱えてクラーケンにぶつけていく。潤さんが唖然とした様子でそれを見た。
で、それはいいとして。シルシィも魔法を撃ち、ローリがブーメランを投げると、心花とティーナも、武器を持って走りだした。
「よし。一番攻撃力のある奴、合図を出したら、致命傷を与えろ!」
「じゃあ、僕が!」
「わかった。みんなで足を一気に消滅させるぞ、準備!」
なるほど。クラーケンといえども、一瞬で足が復活するはずもなく。その隙を狙って倒すのか。
颯也とエリー、心花とティーナは、足の攻撃を掻い潜りつつ、攻撃の隙を狙っている。
「よし、今だ。撃て! 颯也!」
『はい!』
「よし、任せろ!」
みんなで一本ずつ、足を担当して撃ち落とす。それと一緒にシルシィが足場を作り、颯也がクラーケンを真っ二つにした。
「よし、良くやったな」
潤さんが軽く颯也を抱きとめて言った。エリーもふわりふわりと降りてくる。
なんだか、凄い判断力と、指示の出し方。こんなにやっていいんだ。
「さて。ランクアップは?」
「私が・・・。やってもいい?」
「ああ。ただし、次は馬車で待機だぞ?」
そうだね・・・。さて、何を取ろう。
どれを伸ばすのがいいかなぁ? それとも、新しく何か作ったほうがいい?
「何系とったほうがいい?」
「朱璃か・・・。そうだな、兎もたくさんいるようだし、魔物使いはどうだ?」
「ああ! そうですね。そうします」
魔物使い+か。そうしよう。今日帰って来た兎たちの反応が楽しみだね。あ、ローリも上がるのかな。
これでやっと++か。結構大変だなぁ。でも、頑張らないと。みんなもいる事だし、魔王様にも会いたい。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。うぅ・・・。もう良いですかぁ・・・?」
「良く頑張ったな。休憩しようか」
「うああ・・・。なんか、凄い戦った気がする・・・」
凄い。全員++になっちゃった。こんな事ってあるんだね。
シルシィなんて55++だし。私も40++になった。
凄いよ。あの後、クラーケンもう一匹倒して、ユニコーン五匹倒して、鯱みたいなのも。
さて、これだけ戦って平然としている潤さんは何者なんでしょうね?
「そろそろ昼か? ・・・、心花、平気か?」
「うぅ・・・。もう戦い過ぎですぅ・・・」
「コノハお姉ちゃん平気ー? エリヴェラは楽しかったのー」
エリーは楽しかったのか。まあそうだろう。こんなに強い生き物と戦う事はないだろうし。
颯也はせっせと剣の手入れ。ティーナはエリーと鎌を見てる。シルシィは心花を介抱中。
「サンドイッチだが、食べるか?」
「わぁー! 食べるー!」
「エリーちゃんはどうしてそんなに元気なんですかぁ・・・。シルシィさーん」
「私も食べたいです!」
「あれっ?!」
心花が一人置いて行かれてた。けど、その綺麗なサンドイッチを見て心花も飛びついた。
ふふ、可愛いなぁ。もう、自分の子供みたいに見えるよ。
「ほら、朱璃」
「あ、はい・・・。これって」
「雅のだ。朱璃にとっては懐かしいんじゃないか?」
うん。良く作ってくれたね。
潤さんと並んで食べていると、向こうからエリーがふわふわ飛んできた。
「ねぇ、ごしゅじんさま? なんでこの人も、勇者とおんなじ魔力なの?」
「ふえ? そうなの? うーん・・・」
「たっ、偶々じゃないか? ほらエリー、まだあるぞ?」
「あ、うん」
一瞬で誤魔化されたな。エリーの事だし、ま、そんなもんか。
まあ、言いたくないなら良いか。そのうちそれとなく訊くかもしれないけど。
さて、この雅さんのサンドイッチを楽しまなくては。
あ、潤さんに言いたい事があったんだった。
「潤さん、お願いがあるんですけれど」
「? なんだ?」
「今じゃなくていいです、そのうち、戦って頂けますか? あ、その・・・。直接、指導を・・・」
「・・・。あの子たちだけに任せたくないってか? まあいいだろう。そのうち、な」
私は大きく吹き飛ばされ、木にぶつかって、ズルズルと根元まで落ちていった。
な、なんでこんな事に・・・。こんなのないよ・・・。
戦いを再開した私たちは、遠くまで行くと帰りが大変だと言う事で、来た道を戻りつつ戦っていた。
すると、目の前から、大きな生き物が飛んでくるのが見えた。一直線にこちらに向かって来ている。
つまりは、ターゲットにされてしまったと言う事か。チェリーちゃんが怪我をしないように、すぐに馬車から飛び降りて安全だと思われる所まで逃がす。
良く見てみれば、それは大きな翼竜ではないか。
急いで避ける。まともに食らったら、多分死ぬ。
こんなところで、これに会うとか、どんだけだよ・・。
さっきまでで、みんなけっこう疲れてしまっている。倒せるかな・・・。
頼りは潤さんだっていうのに、青い顔して「こんなところに? まさか・・・」なんて言ってるから、あてにならん!
で、戦っていて、これなんだけど。口からツゥッと流れ出す赤い液をパッと払うと、立ち上がろうとして・・・
その場に倒れた。
「! 朱、璃?」
「うぅっ、な、なに、これ・・・っ!」
「潤さん、前!」
此方に走ってこようとした潤さんだったけれど、目の前に翼竜クエレブレの吐いた炎の息が迫っていたから、それを避ける方に忙しくなった。
にしても、これは何? 酷い目眩と頭痛。それから、息が、上手く出来ない・・・。
「これは・・・、テトロドトキシン? でも、もっとずっと強い・・・」
「テトロ、ドトキ、シン? 河豚の、毒?」
「喋らない方がいいです。青酸カリに似た所も・・・。うぅ、こんなの、解毒できない」
心花が毒見の能力を駆使して診てくれているようだけど、分からないらしい。そんなに、変わった毒なのかな。
多分、吐いた息。えっと、さっき突進されて吹き飛ばされた時、何があったっけ?
「わからないよ・・・。どうしよう・・・。何とかしないとなのにっ・・・」
「心花、落ち着いて・・・」
「はい・・・。よし、ちょっと待って下さい」
心花は暫く何かやっていたけれど、私の方を向いて言った。
「ちょっと解毒、やってみます。痛いかもしれませんが」
「わ、分かった」
心花は何か呪文を唱えた。が、バチッと何かに阻まれるようにして、それは効かない。
まずいなぁ・・・。どれくらい持つんだろ。呼吸困難、目眩、頭痛、吐き気・・・。最悪だ。
みんなも苦戦してるみたいだし、今すぐ帰って治療して貰う事はできそうにない。
「うわあっ!」
「そ、颯也! ちっ、まずいな・・・」
「ソウヤ君! あれ、大丈夫なんですか?!」
「一応、息以外に毒があるとは聞いていないが、朱璃の事もあるしな・・・」
でも、頭突きってことは、きっと息が掛かってるんじゃないかな。
颯也は翼で撃たれたし、毒の事は心配しないでも大丈夫だと思う。
けど、もう体力も限界かな。きっとダメージもスタミナもずいぶん減っている事だろう。
「颯、也・・・」
「颯也さん! これ!」
「! ありがとう、心花」
心花が薬を投げると、颯也はそれを受け取った。一瓶飲み干すと、颯也は瓶を投げ捨てた。ガシャンと音を立てて割れる。
また、剣を持って走っていった。疲れてるだろうに、平気かな・・・。
「朱璃様、ごめんなさい! 私、もう、どうしていいのかわかんないっ」
「どいて」
「え?」
ローリが心花のすぐ後ろに立っていた。心花がそのまま見ていると、ローリはため息をついて心花を突き飛ばす。
驚いている心花を余所に、ローリは私の唾液をそっと手で採り、舐めた。
えええ?!
「えっ?! ローリさん、それはっ・・・!」
「時間が無い。このままだと、死んでしまう」
「はっ・・・? え?」
「心花、戦いに戻って。今すぐ倒す。それしかない」
「・・・。分かり、ました!」
心花はタロットから斧を召喚して、クエレブエに向かって走っていった。ローリもそれに続く。
心花が戻った戦場は、さっきまでとは違う雰囲気が流れている。もう時間が無い事、みんな、分かったのかな。
ああ、どうしてこうなんだろう。これじゃ私、お荷物じゃん。
いっそのこと、このまま死んじゃった方がいいんじゃないのかな。
みんなが、どうして私なんかについて来てくれるのか、よく分からないよ。
私がいなくなれば、みんな、自由なんじゃないのかな・・・。
それでも、私を助けようとしてくれる理由って、いったい何?




