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第35話  宿決め

 着いたのは午後五時位だった。所要時間は四時間。

 ってことだから、散策は明日からだろう。今日はどこに泊まるかさっさと決めないと。真っ暗になっちゃうし。


「で、朱璃。今日はどこに?」

「うーん・・・」

「あら朱璃、決めないで来たの?」


 花凛と雅さんが言うと、決めないのが普通に聞こえちゃうのはなんで? 二人の雰囲気が明らかに普通じゃないせいか? まあ、何にしろ、さっさと決めるのが先か。


「でも、人数が多くて・・・」

「あ、そう言えばそうだねー。十・・・、六人?」

「兎たちがどうするかだけどね・・・」


 そう言うと、兎たちはちょこんと首を傾げる。まあ、この子たちに言ったところで仕方ないし、もっといえば、この子たちだけ仲間外れにするつもりはない。じゃあ、安いところ? でなければ・・・。


「エリー、試してみれる?」

「んー? ・・・あ。移動、出来そうかもー。ちょっと待ってねー。『アンドロワ・メモワール』!」

「そ、それは反則でしょ?! ボスラッシュ中は移動できないのに?! 出来たらこの子凄すぎるよ」

「開門ー!」


 大きな門が出来て、エリーは消えてった。

 私たちはそれを黙って眺めていた。いや、何も言えなかった。


「あー。これ、凄い魔力使うみたいー。みんなは連れてけないの。ごめんね」

「なにそれ・・・。そんな能力・・・」


 戻って来たエリーは、ちょっと疲れた様子だったけど、それでも笑顔で言った。

 だけど、雅さんは納得いかないようだった。此処まで強力な移動魔法ができる人はそういないのだろう。まあ、だからこそ、ボスラッシュのルールに移動魔法系の事が一切ないのだけれど。


「そう言えば。どうして使えないんですか?」

「ああ・・・。魔物が外に出ないように、強力な結界を張ってあるのよ」

「ですから、普通はそれに阻まれてしまうわけですわ」

「極偶に、イケる人もいるらしいけどねー」


 ふーん・・・。そんなもんか。

 と、それはさておき。本当にどこに泊まるか決めないと。真っ暗になっちゃうよ。


「じゃあ、みなさんまた明日!」

「ちょ、朱璃?!」

「ま、待ちなさい!」


 私たちは一斉に駆け出した。一応、何となくは決めてあるんだから。

 とはいえ、この人たちを連れていくわけにはいかないでしょ。この前のホテル見りゃわかる。

 と言う事で、まかないと。急に曲がって、エリーの魔法で私たちが見えないように。

 この魔法、空間魔法でもあり、悪魔魔法でもあるらしい。空間を操れるから、人を惑わせるから、見えなくしたり、別のものに見えるようにしたりできる。

 雅さんたちは、私たちの目の前を走りぬけていった。


「さ、行こうか」

「はい。心花ちゃん、場所は平気ですか?」

「もちろんです! 颯也お兄さんとちゃんと調べてきましたから!」



「ええと、四人ずつか八人ずつという事になりますが」

「どうする?」

「うーん・・・。八人ずつにしましょうか」


 ってか、八人? 地球のホテルじゃあり得ない。けど、冒険者は多人数の場合があるし、どこかの戦い好きなお嬢様と護衛隊ぞろぞろ、お忍びでボスラッシュに来る場合もあるとか。そんなのありか?! って思うけど、よくあることらしい。お忍びってことで、高いところには泊らないとか。

 ちなみに、ボスラッシュは幾つかの島で、交代しながら出現する。


「部屋割、どうしますか?」

「んー。でも、そろそろちゃんと決めた方がいいかもね」

「そうだな。一応、この中で班でも決めとくか」


 それは良いかも。そしたら、毎回喧嘩にならないで済むし。

 ってことで、とりあえず部屋を頼んで、一部屋に集まって部屋割を考える事にした。当然、ホテルの人に許可は取った。



「四人ずつとか、班でも作ります? 部屋でも戦う時でも使う班」

「幾つか班を作るか。八人二班、四人四班、とか。」

「ああ・・・。じゃあ、とりあえずは部屋が決まらないので、八人で」


 相性とかも考えないといけないし・・・。兎たちを分けるのが問題だな。

 ええと・・・。ルナをちらっと見たら、ウインクされた。意味が良く分からないんだけど・・・。


 結果。

 颯也、心花、エリー、ティーナ、ディーネ、ルーシー、ライ、ルナ。

 私、シルシィ、ローリ、サラ、フロス、シル、ノーム、ラート。


 一応、人があまり得意じゃなさそうな子はローリと一緒になるようにしつつも、一人一人のタイプを考え、戦いやすいようにしておいた。

 みんなも納得してくれたし。エリーが私と離れたがらないという事件は発生したが。


「まあまあ、ちょっとだけだからさ。じゃあ、後はこの中で四人班、二人組を作っておいてね」

「分かりました。じゃあ、颯也お兄さん、私たちが移動しましょう」

「ああ。ほら、エリー」

「はぁい・・・」



「まず二人組はどうする? 私とシルシィはとりあえず良いと思うけど・・・」

「わかった。こっちで考える。ちょっと待って」

「向こうはどうなるんでしょうね? 颯也くんとエリーちゃんでしょうか?」


 サラとフロス。シルとノーム。ラートとローリ。こうなったようだ。

 で、四人班は私、シルシィ、サラ、フロス。ローリ、ラート、ノーム、シルになった。

 一応、私たちとローリは分けた方がいいだろう。指揮する人がいなくなっちゃう。


「じゃあ、向こうも誘って温泉行きましょう!」

「あ、うん。もう決まったかな・・・」

「みんな、行こう」



「わぁ。広ーい」

「結構広いですね・・・。大浴場ってだけあります」

「颯也、一人で平気かな」


 此処は温泉メインなのかよ、って感じだ。もう、小さい銭湯なら、これ位なんじゃないの?

 結構人もいるし。船で見かけた人も多い。ついでに言えば、私が転んだの見た人もいるだろう。うぅ。


「エリー、大人しくしててね」

「わかってるの。早くいこ!」


 でも、人見知りの兎にはちょっとハードル高いんじゃ・・・。

 って思ったけど、結構みんな、広い温泉に目を輝かせてた。じゃあ良いか。


 エリーの綺麗な紫の髪を洗ってやってると、シャンプーの香りがとっても良い事に気がついた。

 何のシャンプーなんだろ? 此処で売ってるかな、なんて。


 エリーなんか洗ったら、まあ、普通に何事も無く終わるなんて事はまずない。何故か私まであわあわだよ。・・・まあ良いか。

 隣で首振って水飛ばしてる猫にエリーを押しつけておいた。



「マスター、あったかいですよぉ?」

「ああ、はいはい・・・。って、あれ? ティーナとエリーは?」

「それなら、あそこに・・・」


 お湯につかないよう超長い髪をお団子にした心花が指さしたところでは、ティーナがエリーに水を掛けられていた。何事かと、急いで向かう。

 あっ・・・。これ、エリー怒ってるな。何があったのか知らないけど。


「ティーナ? エリーに何したの?」

「べ、別になにも・・・。イヤ、うっかり間違えて尻尾踏んじゃったのにゃ」

「痛かったの・・・、酷い・・・」

「あらら・・・。ほら、エリー、おいで」


 来たばかりだって言うのに、ティーナ、エリーに嫌われたな。そのうち自然と仲良くなる事を祈ろう。

 エリーを連れてシルシィと心花の所に戻ると、今度はローリが泣きそうな顔をしていた。


「こ、今度は何?」

「あっ、ご主人! どうしよう、シルが消えちゃった」

「・・・は?」


 ・・・。シルちゃんが消えた?! おおごとじゃないか! なんで?!

 訊けば、ちょっと目を離した隙に消えたとか。そんな馬鹿な・・・。


「あわわ・・・。どうしよう・・・」

「落ち着いて。ちょっと黙っててね」


 私は目を閉じて耳を澄ませる。なにも聞き逃さないように、しっかりと・・・。

 みんなを置いて、私はある方向に進んで行った。



「シュ、シュリ様!」

「シルちゃん。大丈夫?」

「はい、すみませんでした」


 私が聞きつけたのは、喋り声。見れば、シルちゃんの隣には一人の女性が立っていた。

 私を見ると、ニカっと笑った。焼けた肌にショートカットの髪がよく似合う人だ。


「この子の付添かな? 見つかってよかったねー」

「この子の面倒を見てくれたようで、ありがとうございました」

「ん? キミ、なんか見たことあるねぇ・・・」


 あるんじゃない? 転んだ時、凄く目立ってたし。此処に居るほとんどの人は、ボスラッシュ目当ての人だ。きっと同じ船に乗ってたんだろう。


「フローラの子でしょ? うーん・・・。まあ良いか。っと、そろそろ行かないとかな。じゃあ、まあ会う時まで!」

「あ・・・。ありがとうございました!」


 その人はそのまま歩いて消えてしまった。

 フローラの子ってことは、どこかで会ってるんだろうか? でも、覚えが無い・・・。


 っとそれはさておき。はぁ。やっとみんな揃ったよ・・・。なんか凄い疲れた。

「ご主人、ごめん」

「いや、ローリは良いよ。見つかってよかった」

「ごめんなさいなの、ご主人様」

「ごめんにゃ・・・」

「二人も気にしないで」


 これじゃ、颯也が待ちくたびれてるだろう。もしくは・・・。いや、考えないようにしておこう。でもなぁ、あの子たちの事だし・・・。



「ほらやっぱり居た!」

「もう、やっと見つかったわ」

「もう逃げられませんわよー?」


 花凛や雅さんだけじゃない。咲耶、優ちゃん、麗くん、琳ちゃん、潤さん。

 まさかみんな来るとは思わなかったんだけど・・・。見つかるかな、とは思ってたけど。


「朱璃姉ちゃん! 捕まっちゃった、助けて」

「と、とりあえず颯也を離してあげて」

「まあいいわよ、麗」


 麗さんが颯也を離してくれた。此方に戻って来た颯也は、ちょっと躊躇ったような感じで、私たちの近くまで来た。ちょっと遠い。なんで?


「此処取ったから、一緒よ。もう逃げられないわ!」

「ひ、酷い! もういい加減解放してよぉー」

「良いじゃない。さて、じゃ、夜ご飯、行きましょう?」


 うぅ・・・。し、仕方ないなぁ・・・。

 私たちはぞろぞろと歩いているわけだけど、みんな強いから、威圧感が半端ない。すれ違う人がみんな道をあけてくれるけど、いいことじゃないね?



「なんだ? 結局、朱璃は使役高めてるって事なのか?」

「そうです・・・。だって、戦いは向いてないし・・・」

「マスターは、私たちがお守りするのです!」


 潤さんは苦笑い。確かに、シルシィは私に依存し過ぎていると思う。これでいいのかなぁ?

 まあ、優ちゃんなんて未だに麗くんにべったりだよ。麗くんも普通だと思ってるみたいだし。あーん、なんて・・・。兄妹、だよね・・・?! 双子だし・・・。それに比べたら、主人に奴隷・・・。おかしいか。


 兎たちは、あんまり食べないよね? と思ったけど、ああ、割と食べてるね? 珍しい。

 違う違う。お皿の取引が行われてる。これだけいれば、食べる人も居るもんね。


「なあ朱璃、あいつに変な事されてないよな?」

「あい・・・、ああ、魔王様。まだ会ったことすらありません」

「そうか。ならいいが。そうだ、このボスラッシュ、一緒に戦わないか?」

「い、行きたい!」


 颯也がいち早く反応した。それを見て、潤さんはそっと微笑んで頷く。

 潤さんとかぁ・・・。良い思い出が無いなぁ。でも、あれは前の話だし。


「じゃあ、此処に居るみんなで行ってみるか?」

「こんな大人数で、平気ですか?」

「ああ。その代わり、強いところまで行くぞ」

「分かってます!」


 花凛と咲耶が怯えた表情で引いた。兎たちも止めておくとのこと。丁度いい、と花凛と咲耶が兎たち(ローリを除く)と一緒に行ってくれる事になった。

 あ、あと、雅さん、優ちゃん、麗くん、琳ちゃんも別行動。


「では、そのうち一緒に行くかもしれませんが」

「最初は、この形で行かせて貰うね」


 よし・・・。潤さん、驚くかなぁ? 私たちの事、子供だと思ってなめないでね?

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