第34話 フィオレンティーナとヴァレンティーノ
ああもう、泣きたい気分だよ。って言うか、気がつかなかったけど泣いてたや。
まったく、運が無いにもほどがある。
船着き場のある街まで移動してたら、途中でドラゴンに襲われて思いもしない所で時間使っちゃうし、私は腕を怪我するし、時間ぎりぎりで、慌てて船に乗る時にみんなが見てる階段で思い切り転ぶという醜態。これ以上運のない人がいるんだろうか?
私はため息をついて正面、海を眺める。
両手で手すりにつかまって、海を眺めているわけだけど、だいぶ長くなった髪が風で凄いたなびいてる。まあ、そんな事は気にしてないけどさ。
「お譲さん、どうしたのですか?」
「えっ?」
「もしかして、誰かに振られましたか?」
「はっ?」
「そうであれば、私が心の傷を埋めて差し上げましょう」
この上なく面倒な奴が来た。勝手にふわっと涙を拭って、その上手を取る。
悪いけど、全くタイプじゃない上、私の中にはもう蒼泉くんしかいない。
だからさ、はっきり言って迷惑だ。
「シルシィ、颯也、心花、エリー、ローリ、ティーナ! サラ、ディーネ、ルーシー、フロス、ライ、シル、ノーム、ルナ、ラート! 誰でも良いから早く来て!」
「え」
私が叫ぶと、一瞬で沢山の人が現れた。当然、私の呼んだ人たちだ。
男の人もさすがに焦ったようだ。けれど、どうする事も出来ずにその場に立ち尽くしている。
「おい、お前、朱璃姉ちゃんに何してるんだ」
「え? いや、その・・」
「今すぐにマスターから離れて下さい!」
そんな事をしていると、数人が向こうから走って来た。まずい、みんな知ってる人だ。
雅さん、優さん、麗さん、琳ちゃん。まさか、慶さんたちのパーティの新しい人?
「忍! 朱璃に何やってるの?」
「あれ、知り合い? 退却するね・・・」
その人はそのまま消えていってしまった。
「ごめんね、朱璃。久しぶりね。大きくなったじゃない」
「雅さん。お久しぶりです」
一応、会っていないっていう設定で話す事にする。優さんたちには知られない方がいいだろうから。
「ねえ、ティーナ。この人は・・・、ティーナ?」
「フィオレ・・・? ヴァレン・・・?」
「アル姉さん・・・?!」
え・・・?! ちょっと待って、これ、どういう事?!
ティーナは、二人の事を、知っているの・・・?! なんで・・・?!
「どういう事か、説明してくれるね?」
「分かったにゃ。ええと・・・」
あたしの妹は、レオンティーナだけじゃないんにゃ。
私が生まれる時。お母さんフィオリーナとお父さんヴァレンティーンは、あたしの名前をフィオレンティーナにしようとした。
けれど、私の目の色が茶色だったから、急きょ変更になった・・・。
お父さんのお母さんは、茶色い目、茶色い髪をしていた。その人は、黒が大嫌いだった。
理由は、小さい時に好きだった男の子が、黒目黒髪の美しい子に取られてしまったからだとか。
お父さんの髪は黒だったけど、それは良かったみたいにゃ。自分の息子が可愛くて仕方なかったんだと思うにゃ。
でも、お母さんの美しい黒髪は、許してもらえなかったにゃ。
だから、2人は駆け落ち。遠い街で、二人での暮らしが始まったんにゃ。
初めに身ごもったのが、あたしだったにゃ。でも、生まれてみたら、それは、大嫌いなおばあちゃんの目の色。二人はとてもびっくりしたにゃ。だって、お母さんも、お父さんも、髪の色は黒いし、お母さんの目の色は黒で、お父さんは暗い茶色。なのに、あたしの目の色は明るい茶色。そこまで見れば、あたしの髪が茶色だろうってことも想像がつく。
そしたら、フィオレンティーナって名前は合わない。次に生まれた娘をフィオレンティーナにしようといって、姉妹っぽい名前、アルベルティーナになったにゃ。
で、次に生れたのがレオンにゃ。あたしの時と、同じ目の色だったから、やっぱりオアズケ。
名前は、考えて考えて、レオンティーナになったのにゃ。
でも。実は、茶色だから、許してもらえてたのにゃ。
次に生れたのは、双子だった。黒い目をした、男女の双子。二人は喜んで、女の子をフィオレンティーナ、男の子をヴァレンティーノと名付けたんにゃ。
黒目黒髪が大嫌いなおばあちゃん。それを聞くと、せっかくの自分の孫が、汚されてしまう、といって、お母さんとお父さんを離婚させようとした。けれど、二人は応じなかったのにゃ。
となれば、あとは力づく。刺客を送って、お母さんを殺させようとした。
そこにはお父さんもいた。だから、お父さんはお母さんを庇って死んだ。刺客は、目的はお母さんを殺す事だから、お母さんも殺した。あとは、おばあちゃんの権力を使って、事故で片づけてしまえばいいだけ。
私たちは、おばあちゃんの家に引き取られたのにゃ。そして、よりおばあちゃんに似ているあたしの事をあからさまに可愛がった。だからレオンも嫉妬したわけで。
で、フィオレとヴァレンどうなったのか、聞かせて貰えなかった。暗黙のルールだったにゃ。
「あたし、フィオレとヴァレン、死んじゃったのかと思ってたにゃ」
「私も、アルお姉ちゃん、殺されちゃったのかと思ってた」
「2人には本当の事、教えて貰えにゃかったから。教えられにゃいのにゃ」
うんうん・・・。ってなるか!
「さて。年齢を偽ってるのはどなた?」
「へ? 年齢?」
うん、ティーナは知らないでしょうね。本当の事を言ってるから。
でもさぁ、私より一個上のはずの優さんと麗さんが、私の1個下のティーナの妹のはずないじゃない。
つまり、嘘を言ってるのは。
「ご、ごめん、朱璃ちゃん、許して!」
「本当の年齢は『今年で』十三ね? 今は十二」
「ごめんなさい!」
知ってたよ、年齢をごまかしてたのは。
じゃあ、私と会った時は、十歳か。まあ、そんなもんか。
って、じゃあ、六歳の二人っきりで過ごしてたって?! 死にたくもなるな。
獣人は、レベルが上がるのと一緒に成長が早まる傾向にある。成人するまで、レベルが高い人ほど年齢が高く見えるってこと。
どう見ても年齢と見た目が合わないから、獣人は成人するまで年齢をごまかす事が多い。多分、うっかり私にも嘘を言ってしまったんだろう。
「じゃあ、琳ちゃんは?」
「八歳。会った時は、六歳」
「で、雅さんは? 私と同じくらいじゃないですか?」
「うっ・・・。そう、一個だけ上」
多分、シルシィは気づいてたと思うよ。前に一度「どうして優さんと麗さんには、敬語使ってるんですか?」って聞かれた事があったから。
私が気づいたのは、夏に、図書室に行き始めて、獣人について調べ出した時。それからは、年下の人に敬語使ってるみたいで、正直、変な感じがしたよ。
「まあ、怒ってないけどね。本当のこと言って欲しかっただけ」
「あ、ありがとう、朱璃ちゃん」
「優さ・・・、優ちゃんと麗くんは、私にばれないようにして、緊張しなかった?」
だって、十歳なのに、十四歳に見えるようにしなくちゃいけないんだもん。大変だよね?
いつまで隠しておくつもりだったんだろう。ずっと暮らすつもりだったなら・・・。
「緊張、したよ。朱璃ちゃんが来て、一年目、つまり、いなくなっちゃった日に、言おうと思ってたの」
「でも、その日に居なくなってしまったから、結局、言う事は出来なかった」
「へぇ? 道理であんなに恵さんが引きとめたわけだ」
「そう・・・。黙ってて、ごめんね」
私はティーナの頭を撫でてから、騒ぎになってる、なんだなんだとやって来た野次馬を追い払うため、きっぱりと「すみませんが、戻って貰えますか?」というと、ローリの無言の圧力も加わって消えていった。
あ、残ってる人がいる。しかも、最近見た顔。
「咲耶、花凛」
「どうかしたの? 平気?」
「うん。みんな元・・・。あれ、心花、平気?」
「ちょっとまずいかもです。エリーちゃ・・・」
「わかったー!」
エリーは心花が全て言う前に飛んで行ってしまった。まあ、伝わったんだろう。
咲耶と花凛は「まだ酔い止め買わないの?」と呆れたような声を出す。
「仕方ないじゃん。もう平気だろう、ってみんなが言ったから」
「まあ、そうですわね。前よりはだいぶ楽そう。ねぇ? 心花ちゃん」
「そういえば・・・。もうちょっと頑張れば・・・」
あ、エリーが帰って来た。手にはカップに入ったハーブティ。分かったっていうのは本当だったようだね。頭を撫でて褒めてやる。
心花以外は、もうみんな慣れてしまった。・・・ティーナも馬車で特訓したし、元々馬車に乗る機会は多かったらしい。
「で、朱璃、この人は?」
「一年の間でお世話になった雅さん、優ちゃん、麗ちゃん、琳ちゃんだよ」
「へえ。咲耶です。朱璃の友達でーす」
「同じく、花凛ですわ」
雅さんが唖然とした様子で2人を見ていた。
「勇者様では?」
「え? だって朱璃も勇者じゃん」
「同じなのですから、友達でも当然でしょう?」
<お、おい・・・。しっかたねえな。もういいぜ>
優ちゃん、麗くん、琳ちゃんが驚いたような顔で私を見た。
シルシィがため息をついて、ある程度の事を説明した。
なんで出ていったのかも理解してもらえたみたいだ。
「ところで、潤さんは?」
「お父さんも来てるけど、実は、明け方帰って来たからさ、今は部屋で寝てると思うよ」
「ああ、そうなんだ。じゃあ、私たちも部屋にもどろっか。あ、ビュッフェ見てく? っと、では、またあとで」
「ほら、ラート。お菓子がいっぱいだよ」
「可愛い、美味しそう」
「ラート。どれでも食べて。美味しかったのは、覚えておけば、今度レシピを調べておく」
「ありがとう、ローリ」
ら、ラートが可愛い! こんなに可愛いラートは久しぶりじゃないか?
あ、あと、もう一人のお菓子好きにも。
「エリー、どれ食べても良いよ」
「やったぁ。何が良いかなー」
ボスラッシュの間に出ている船は、どれを食べても飲んでも良い事になっているし、馬車の積み込みも可能。でないと島が崩壊して、もしかしたら大陸まで魔物が来てしまう可能性もあるからね。
ってことで、着くまで約5時間。普通だったらあり得ない位快適に、飽きることなく過ごせるだろう。
ラートの方を見ると、ガトーショコラを一切れ口に入れて楽しそうにしていた。それを、遠くでルナが眺めている。ラートは気が付いてない。私はルナに近づいた。
「ルナ。ラート、楽しそうだね」
「ええ。滅多に見れない、ラートの笑顔」
「ルナ、ラートと仲悪いんじゃ・・・」
「そ・れ・は。ラートが、私を嫌ってるだ・け」
あ、そうだったんだ。ローリを除いた兎たち中では、ルナが一番表情があって、その上みんなよりもお姉さんっぽい。サブリーダー的な感じに見える。
「ルナは何も食べないの?」
「私、あんまり洋菓子は。でも、果物なら良いかも」
ルナは鼻歌を歌いながら歩いて行った。
「ま、マスター! これ、すごく甘くておいしいです!」
「ん・・・? ああ、マカロン。美味しいよね」
「サクってしてて、フワっとしてて・・・。可愛い・・・」
そう言えば、何があるんだろう。私は近くに居た颯也と一緒に見て回る事にした。
基本的にはスイーツがメインか。あとはちょっとサラダみたいなのはあるけど。まあ、そんなに長くいるわけじゃないし。
小さく切られていたり、小さく作られたケーキやタルト。小さなお皿に入っているプリン、ゼリー、ヨーグルト。それから、綺麗にお皿に並べられたクッキー、マカロン、シュークリーム・・・。
「す、すごいね」
「ここまで豪華なデザートビュッフェ、僕じゃ合わないよ」
「そうかなぁ? まあ、シルシィとか心花は似合うけど」
なんて言いつつ、私たちはお皿に幾つかのケーキを取って大喜びのエリーの隣に座った。
正面にはシルシィと心花。ちょっと離れてラート。その後もみんなが好きな物を取って席に座った。ちなみに、その中には咲耶と花凛も含まれてる。
「このタルト美味しい」
「ロールケーキ、チョコも抹茶も美味しい!」
「プリンが美味しすぎる・・・」
ちなみに、私はマカロンが大好きだ。サクッとした生地に、ねとっとしたクリームがとっても美味しい。カラフルなのが可愛い。ちなみに、レモンとチョコが好き。
そう言えば、なんでマカロンが好きになったんだっけ? ああ、蒼泉くんがくれたんだっけ。
確か、私が飼っていた小鳥が死んだときに、元気出して、って持って来てくれた。蒼泉くんの大好物。その味が忘れられないんだよなぁ。けど、作るにしても、難しいらしいし、まだ挑戦出来てない。
「朱璃様は、マカロン好きなんですか?」
「へっ?! あ、うん・・・」
「今度、一緒にやってみます?」
「あ・・・。そう、だね」
心花は本当に料理が上手い。一緒にやれば・・・、出来るかな?
そうしたら。いつか会えたら。蒼泉くんにも、作ってあげられるかな?




