表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/58

第32話  アルベルティーナ

 ペッタンペッタンと絶妙に地味な音が響いているわけで。

 年も明け、颯也が餅をついている。それを黙って眺めているわけだけど、すごく暇だ。



「ねえ、ごしゅじんさま、エリヴェラの誕生日パーティー、やらなくていいよ?」

「え?! なんで?」

「忙しいでしょ? エリヴェラ、もう何回も誕生日やったから、十分なの」

「!! ごめんね、エリー!」

「気にしないで。ごしゅじんさまがこの鎌直してくれたの、嬉しかったの。もう十分」

「何て優しい子ー! ごめんねー!」


 という事でエリーの誕生日パーティーが無くなった。となると、次に来るのはお正月。

 私たちは買い出しに出かける。兎たちが留守番・・・、いや、掃除をしてくれていた。


 あと、ついでにお年玉という制度自体が無くなった。

 だって考えて。私よりみんなの方が収入多いんだよ? びっくりだよねー。

 なんだか、情けない保護者になってないか? 主人だけど。あ、この子たちって奴隷か。


 で、お正月にみんなで餅つきをやろう、という事になった。主に颯也だけど。

 え、やり方? そりゃ、うちのコックが調べてくれたよ? その名も心花!



「颯也さん、上手ですね・・・。もうすぐですよ、エリーちゃん」

「わぁ! すごい!」

「エリーも少しやってみる?」


 心花が指示を出して、颯也がそれに従ってついて行く。補佐にシルシィが入っている。

 で、それを私とエリーが見ている。ちなみに、兎たちはほかの料理に忙しいらしい。


「ご主人。お雑煮、あとお餅だけ」

「ありがとう、ローリ。もうすぐだから、ちょっと待っててね」


 って言うか、お雑煮作るのにわざわざお餅から作るってどうなんだ? 私は心花に『お雑煮の作り方でも調べておいてよ』って言ったけど、お餅からなんて言ってない。切り餅だって売ってたじゃん。

 まあ、主に颯也が頑張ってくれたからよしとしよう。さぁて、私は・・・。やる事が無いな。



「あ、美味しい」

「良かったです。初めてだったので、ちょっと不安でしたが」

「わぁ。ほんとだー」


 おせちも兎たちが盛りつけておいてくれたので、私たちはそれを食べている。

 にしても、初めてで良くお餅作ろうと思うなぁ。まあ、初めてが来なかったら永遠に作れないけどさ。


 とりあえず、今日は静かに過ごそう、という風に言っているので、私たちはのんびりとリビングで談笑。

 兎たちの反応が可愛いから、ついからかっちゃう。怒られた。無表情だけどね! 全然怖くない!


 と、急にノックの音がした。

「やっほー! 朱璃、遊びにきったよー!」

「うわ! 咲耶だ! 出たくないなぁ・・・」


 扉を開ければ、案の定咲耶の姿が。凄い笑顔で手を振っている。扉を閉めたい気持ちになるけど、とりあえず、門前払いは止めようか。


「どうしたの?」

「明けましておめでとう! 良い情報持って来たからさ、聞いてよ」

「何の?」

「次のボスラッシュだよ」


 し、仕方ないなぁ。中に入れてやる。

 エリーが「猫のお姉ちゃんだ―」とちょっと嬉しそうな声を出した。すると、咲耶も「やあ、エリーちゃん、お久しぶり」と笑う。


 今日の咲耶は結構可愛い。白いブラウスに、水色のスカート。ファー付きの水色のコートを着ている。

 で、コートをぽいっとソファに放って勝手に座る。兎たちが首をかしげる。

『誰?』


 ああ、そっか。みんなは咲耶に会った事が無かったのか。ローリはあるから問題ないね?

 咲耶も、「いつの間にかずいぶん増えたねー」なんて言ってるし。

 あ、心花がお茶を持って来てくれた。咲耶が急に来てもこの冷静さ・・・。なんて完璧なんでしょう?


「で? ボスラッシュがいつだって?」

「ああ。そうだったね。一月七日から一週間。今度はちょっと強いらしい」

「うぅ・・・。またボスラッシュ行くんですか?」

「わぁい! たくさん戦えるね!」


 心花とエリーの反応の違い。あ、心花が嫌がっているのは、主に船かもしれない。

 でも、最近はチェリーちゃん乗りまわして狩りに行ってるから、だいぶ慣れたと思うんだけどなぁ。

 兎たちはみんなでローリにボスラッシュについて訊いていた。


「あ、で、場所なんだけど、今度はフローラじゃなくてダゴンなんだ」

「隣の国?」

「そ。だから、ちょっと強いって言ったの」


 そう、フローラって、世界で見ても、魔物が異常に弱い。他の国に行けば、この国のドラゴンくらいの強さの魔物が普通に歩いている、位に。ほんと弱い。

 なんでなんだろうね? とりあえず、この国で無双してる位じゃないと、他の国には行けないだろう。


「ダゴンのある島。普段からちょっと強めの魔物が多いんだ」

「そんな島があるんだ?」

「うん。だから、行くんだったら気をつけて。出来れば、ちょっとダゴンに行ってみると良いよ」

「わかった。ありがとう」


 などと話していると、またノックの音が聞こえてきた。仕方ないから扉を開ける。

「朱璃! 良い情報を、って、咲耶?」

「ごめーん、先に言っちゃった」

「では、わたくしは何をしにここに来たんですの?!」


 ・・・。何をしに来たか? そりゃ勿論

「あわよくば料理を食べて帰ろうと思ってたんでしょ!」

「な、なんでばれる?!」

「どうして分かったんですの?!」


 ほらみろ! 絶対そうだと思った。

 でも、もう食べちゃったんだよなぁ。今出せるものないし。もうちょっと早く来てたら食べられてたかも。


「じゃあ、お昼まで待ってるからさ」

「えー。帰ってよ」

「だ、だって、心花の料理、美味しいんですもの!」

「今日作ったのは兎たちだよ」

『?!』


 そうだ、花凛はまだ兎見てないし。咲耶は見たけど。

 花凛は兎を見ると、朱璃が増えたみたいなんて言った。まあ、そう見えなくもないか。私も兎だし。たまに忘れるけど。


「別に、誰が作ったんでもいいですわ!」

「そうだよ! 多分美味しい事に変わりない!」

「うっ・・・。分かったよ・・・。ローリ」


 そんなに多人数で食べるつもりなかったから、足さないといけないようだ。

 という事で、また兎たちにやって貰う事が増えてしまった。ごめんね・・・。


「サラ、ルーシー、ライ、買い出しに」

『はい』

「ディーネ、フロス、シル、ノーム、ルナ、ラート」

『はい』

「あ、私も手伝います!」

「心花。ごめんね、よろしく」


 ああ、この短時間で客が2人も来たよ。どうしてかなぁ。静かに過ごす予定はどこに行ったのかな。

 あ、この流れ。まずいかも。二度ある事は・・・。


「咲耶、花凛。二人来たら・・・。ああもう! どうせなら一緒に来てよ!」

「な、なんで?!」

「どうしてですの?!」

「だって、二度ある事は三度あるって言うでしょ?! これ以上誰が増えるの!」


 と、扉をどんどんと叩く音と一緒に、

「にゃあああああ! たーすーけーてー!」

 という声が聞こえてきたので、私はため息をついて、みんなにここに居るように言って玄関に向かった。

「あ! 助けて下さい!」


 そこに居たのは、一匹の立派な猫だ。

 茶色い毛は短い。短毛か。目が涙で濡れてる。綺麗なドレスを着て、縋るような目でこっちを見てる。

 一匹の、猫獣人。


「あ、扉を閉めにゃいで!」

「えー・・・。何があったの?」

「良いから、早く匿ってにゃ! 追手が来る!」

「し、仕方ないなぁ。入って」


 扉にしっかりと鍵を閉めて、私は彼女を連れてリビングに行った。

 当然、みんなが彼女を見て驚いた。うん、ドレスなんか着た猫獣人が何用だ、って感じだよ。


「名前は?」

「あ、アルベルティーナ」

「ず、随分変わった名前ですね・・・」

「何があったの?」

「そ、それは・・・、あ!」


 こんこんとノック。アルベルティーナの顔が青褪めていく。

「追手にゃ・・・。お願いします!」

「ああ、はいはい・・・」


 本日四度目の扉を開けると、男の人がアルベルティーナの絵を持って立っていた。

「この女を見なかったか?」

「あ、見ましたよ・・・」

「にゃっ?!」


 私はため息をついた。で、後ろにシルシィがいるのを確認して合図を送る。

『そいつを黙らせて』

 シルシィが変な意味に捕らえない事を祈るだけだな。


「おい! ここに居るのか?!」

「が、ここに来たから、追い払っておきました」

 って言いたかったんだけどなぁ。アルベルティーナのせいで台無しだよ。


「では、ここに居るのは?」

「咲耶・・・、じゃなくて、友達の従妹で。家にメイドとして来てるんです。今日は偶々その友達も居るんですよ」

「猫なのか?」

「はい。白いふわっふわの髪で、メイド服を着てます。家のエルフの女の子に似てるんです」


 というのは、後ろでひょっこり覗いているエリーに向けた言葉だ。すぐに引っ込んで行ったエリー。分かったとみていいだろう。

 ああ、上手く行く事を祈るばかりだ。


「そいつを見ても?」

「良いですよ。どうぞ」


 そこにあるのは、まさに、私が想像していた通りの光景だった。

 シルシィと颯也、花凛、エリーが話をしていて、咲耶がアルベルティーナの頭を自分の膝に乗せて、頭を撫でていた。

 ただし、アルベルティーナは、真っ白のふわふわした猫っ毛で、白黒のメイド服を着ている。


「この子が友達で、その従妹。さっき、紛らわしい事したから、お仕置きされちゃったかな?」

「ごめんね。いやぁ、まさか、そんな話してると思わなかったみたいでさ、びっくりしたみたいよ。あはは、一番びっくりしたのは私たちだけど。催眠魔法で眠らせちゃった」


 エリーに魔法を駆使して貰って、アルベルティーナを違う人に見えるようにして貰った。

 白いふわふわの髪で、シルシィに似た子、という風に言っておけば、ある程度想像は出来るだろう。あとは、エリーの腕次第だけど、完璧だ。


「あ、ああ・・・」

「せっかく楽しく過ごしていたんです。お引き取り、願えますか?」

「っ! あ、ああ! 邪魔したな!」


 思いっきり睨んでやったら、すぐに怯んで逃げちゃったよ。でも、油断は出来ない。

「エリー、擬態魔法で隠れながら、あの人が本当に帰ったか確認してきて」

「分かったー!」


 暫くして戻って来たエリーは、大丈夫だった、といった。そこで、アルベルティーナの魔法を解いてもらう。寝たふりをしていたアルベルティーナは、安堵の表情を浮かべる。


「ふう・・・。ありがとう、あと、ごめんにゃさい」

「はいはい。で? 何があったの?」

「それが、よくわからにゃいのにゃ」


 どうやら、アルベルティーナはお姫さまだったらしい。

 獣人は頭が悪い。だけど、頭の良かった彼女の妹は、彼女を殺して家を継ごうとしたらしい。

 家の人たちは、アルベルティーナに継がせようとしていたから、余計に気に入らなかったらしい。


 で、ある日、夜、暗殺をしかけられた。

 戦いだけは上手かったアルベルティーナは、何とか殺されなくて、そのまま逃げて来たとか。

 逃げ回っていたら、何故かたくさんの兵士が追いかけてきた。妹に味方する人も、実は結構いたのだ。


「レオン、本当にやなやつにゃ」

「妹、レオンって言うんだ」

「レオンティーナにゃ。いっつもあたしと比べるのにゃ」


 うーん・・・。これ、悪いのは誰なんだろうね? こんな風に言ってるけど、本当は何したか分からないよ?

 でも、この子を放っておくわけにはいかない。そういう性格なんだ、私。

 一応聞いてみるか。


「どうする? ここに居ても良いけど、それには条件があるの」

「な、なんにゃ?」

「私の奴隷になる事」


 シルシィと颯也で、アルベルティーナに説明して貰った。どうして奴隷じゃなくちゃいけないのか。

「ああ、その方があたしが強くなれるわけ。お願いしますにゃ」

「じゃあ、問題ないね。もうちょっと詳しく、アルベルティーナの事教えて?」


 彼女は、六年前、今十四歳らしいから、十歳の時。十一歳になる年、だね。親が死んだらしい。

 事故って言ってたけど、本当は違う。アルベルティーナは見てしまった。お父さんのお母さん、つまりおばあちゃんが、二人を殺したところを。

 二人はある名家に引き取られて、家を継ぐ事になった。何故二人かというと、別々にしたら可哀想だから、だとか。


「本当はどうだか・・・。それだったら、フィオレと、ヴァレンも・・・」

「・・・?」

「ああ、それは別の話だったにゃ。忘れて」


 うーん・・・。そんな話をしていると、買い出しに行っていた三人が帰って来た。

 兎たちはみんなで協力して、工夫して、全員分足りる位(アルベルティーナが予想外だった)作ってくれた。


 花凛と咲耶が大喜びしたのはもう言うまでも無いし、アルベルティーナが「お城のよりの美味しい!」といったのもまあ、驚かなかった。なんたって、この心花が作ってくれたんだから。家の超完璧な家事担当、心花がね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ