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第29話  エリーと盗賊1

 さて、昨日武器を試せなかったみんなは、今日朝一から出かけている。そりゃあ、試してみたいよね。

 私? ちょっと朝から体調がよくないので、それは隠しつつ、試すものが無いと言ってお休み。

 でも、もうすぐ帰ってくると思うんだけどな。お弁当を持っていったからお昼は帰って来てないし、早く帰ってくると思う。ちなみに、今は午後2時。



「ご主人、ご主人。大丈夫?」

「ん・・・? あ、ローリ?!」

「熱? 大丈夫?」

「え? あ、うん。おかえり・・・」


 寝ちゃったようで、もう1時間も経ってるじゃないか。みんなが帰ってくる前にお菓子作っておこうと思ってたのにな。

 帰って来たのは、兎たちか。一気に10人も増えるか。でも、みんな静かだから大して変わらないかも。


「あ、で、どうだった?」

「あの形はどうかと思う。でも、強かった」

「そう。みんなは?」

『使いやすかった』


 ならいいか。どうやら、空を飛ぶのが楽しかったようで、またやりたいと言っていた。

 思ってたより好評だなぁ。それなら、みんなもかな。じゃあ安心できる。


「・・・熱ある。だから今日は来なかった」

「そういう事だけど、黙っておいてくれるかな?」

「良いけど・・・、みんな心配するし。でも、無理しないで」

「わかってるよ。大丈夫」


 そんなに重いわけじゃないしね。そろそろみんな帰ってくるし、お茶でも入れようか。

 と思ったら、ローリに阻まれた。代わりにサラとディーネが魔法を使ってお茶を入れる。

 その上、ルナがお菓子を買いに行ってしまった。やる事を取られた感が異常なまでにある。


 この子たちはみんな幼い容姿をしている。多分、小学校低学年くらい。ローリだってそんなもんだし。

 だけど、考えてる事とか、言う事とかは、結構大人っぽい。だから、ちょっと違和感があったりする。

 変身魔法、もうちょっと極めた方が良いんだろうか? 今度あげてみようか。


「年相応、か・・・」

「恰好? レベル5あるし、変えられる」

「あ、そうなんだ。でもいいよ、ローリはそのままで」


 今急に変えたら、誰だか分からなくなっちゃいそうだし。見慣れた姿のままが良い。

 でも、戦闘で欺く事は出来るかな。それは良いかも。今度やらせてみよう。



「ただいまー!」

「あ、颯也の声だ」


 帰って来たのは、颯也、シルシィ、心花。

 って、あれ? エリーは・・・? 一緒だと思ってたんだけど、違うのかな。


「エリーは・・・?」

「みてないですね。エリーちゃんは1人で行ってしまいましたし」

「シルシィさんや颯也さんと居なくても倒せるそうですし」


 え・・・。ちょっと心配だなぁ。何より、まだ帰って来てないのが心配だ。どこかで怪我してて帰れないとかじゃないと良いんだけど・・・。

 エリーがこのあたりの魔物に倒されることはまずない。でも、もし、隣街に遊びに行ったあの日みたいな盗賊と出会ったら。って言うか、エリーの事だ、ワープ魔法頼りでどこか遠くに行ってしまってるような事が無いとも言えない。そしたら・・・。


「マスター・・・。そんなに心配しないでも平気だと思いますよ」

「そうだ、エリーの事だし、ひょっこり帰ってくるって」

「エリーちゃんは、ちょこっと自由なところありますし」


 あれ、そんなに心配そうな顔してたかな? 周りが心配するくらい?

 大丈夫、エリーが怪我して帰って来た事は一度も無い。今度も大丈夫に決まってる・・・。


「ただいま。あれ、エリヴェラちゃんいない?」

「あ、ルナちゃん、お帰り。お使いごくろうさま。そうなの、帰って来てないんだ」

「そうなの・・・? エリヴェラちゃんの好きなの買ってきたのに」


 ルナちゃんはそう言いつつ缶入りのクッキーをテーブルに置く。と思ったら、まだ何か入ってるようだ。袋から出てきたのは、バターケーキ。ああ、確かにエリーの好きな物だ。

 まあ、なんだって好きだけどさ。甘いクッキーと、バターがたっぷり使われたケーキ。これが一番好きらしい。お母さんがよく作ってくれたとか。見ると思いださないのかな、って思うけど、それが良いって言ってた。そんなもんかな?


 まあ、そんな感じで家には常にバターが沢山ある。あと、卵と小麦粉、砂糖ね。私か心花が、その日にある果物でお菓子を作る事が多いから。

 今日は本当は、りんごみたいな木の実があるから、それでパイを作ろうと思っていたのに。当然、パイ生地から。りんごのフィリング作って。でももう遅い。


 さて、お菓子の話はもう良いだろう。そうではなく、武器の話が聞きたいんだ。

 なんたって、今日は新しい武器を試しに行ったはずだからね。どうだったんだろう。


「私の斧は、楽しいです! 叩き割る感じなんですよ」

「へぇ。心花、血、平気なの?」

「まだ嫌ですけど。でも、前で戦いたいんです、頑張ります!」


 へぇ。そうなると、後ろに居るのは私だけになっちゃうんだけどな。まあいいか。

 心花が斧を持つなんて意外だなぁ。楽しいならなによりだけど。


「この手袋、凄いです! 今までの強さの魔法撃とうと思ったら、マジックパワー半分でいいんです」

「へぇ。それなら強い魔法も撃てるね」

「はい。何倍も強い魔法が撃てますよ!」


 そんなに? 気休め程度かと思ってたよ。でも、確かに高かったんだよなぁ。それくらいは欲しいところかも。

 っていうか、シルシィは杖使ってないんだよね。よかったのかな? 手袋は使えないけどさ。


「この剣、小さいのに凄い切れ味だな!」

「そうでしょ、切れ味はすごく良くして貰ったよ」

「ちゃんと手入れしないと、と思ってたら、タロットに入れるだけでちゃんとやってくれるんだ!」


 うん、知ってるよ。颯也、いっつも面倒だって言ってたから。タロットに仕舞えば、勝手に血を拭きとって、必要があれば研いでくれる。次に出す時までに完璧に仕上げてくれるのだ。

 しかも、ちょっとの時間でも大丈夫。戦ってる間でも、刃が欠けたりしたら、ちょっと仕舞って出せばいいって。


 にしても、エリー帰ってこないなぁ。ほんとに心配だよ。

 鎌使うのが楽しくて時間忘れてるんなら良いけど。でも、それを確かめる術はない。

 どうしよう・・・。今外を探しに行っても、どこに居るか分からないし、すれ違っちゃうかもしれないし・・・。


 奴隷のつながりで調べられればいいのに。そんな事は出来ないらしい。

 そういうスキルもあるかもしれないけど、今の私にはとにかく出来ない。もしあったら取ろう。

 あ、今残ってるスキルポイントでも取れるかな? ちょっと調べてみようか・・・


 バタン、と大きな音がして、私はびくっと顔を上げる。ここに居るメンバーは変わっていない。エリーかな。

 にしては、何かがおかしい。私はみんなに待っているように言って廊下に行った。


「エリー、お帰り」

「ただいま・・・」

「ど、どうしたの?!」


 おかしい。いつもだったら、『今日はたくさん獲物とったよ!』とか、『今日の稼ぎ、いっぱいだよ!』とか、『夜ご飯なぁに? お菓子ある?』とか、『これ調理して欲しいの!』とか、何かしら言ってくる。


 なんだか、一番最初、あってすぐの時よりも酷い気がする。何があったんだろう。自然に私の鼓動は早くなる。

 エリーはその場から動かない。下を向いて、手を後ろで組んだまま。紫色の綺麗な髪が、カーテンのように顔を隠してしまっている。


「何があったの?」

「何でも良いでしょ、ほっといて」

「そういうわけにはいかない。ちゃんと話しなさい」


 私が強く言うと、エリーは肩をびくりと揺らした。私がいつもと違う事に気が付いたのだろう。でも、話してくれない、か。

 まだ駄目だって言うと、ちょっと強引になっちゃうなぁ。本当なら、自分から話してくれると良いんだけど。


「とにかく、こっちを向きなさい。顔を上げて」

「嫌だ・・・」

「従わないなら、どうなるか分かってるね?」


 私ははじめて、エリーの魔法陣を操作した。エリーはそのまま崩れて膝をつく。これは、本当に強い。奴隷魔法陣は、長く受けていれば、本当に死んでしまうようなものだから。でも、基本的にはその前に解く。死んでしまったら、元も子もない。


 エリーは渋々顔を上げる。泣きそうにも見えるけど、なんだか、焦ったような、そんな風にも見える。

 どうしても顔を見たくないようで、ふいっと顔を背けてしまった。まあ、もう良いだろう。


「何があったの? 話して」

「嫌だ・・・」

「だったら、また発動するよ」

「ご、ごめんなさい!」


 いきなりの、泣き叫ぶような声に、私は驚いてエリーを見た。どこに対してもごめんなのかよくわからない。なんにしても、エリーは泣きながら続けていく。


「私、そんなつもり、なかった」

「ど、どうしたの・・・?」

「あいつらが悪かったの・・・。あいつらが、こんなことするから・・・!」


 おい・・・。この流れは、あんまりよくないなぁ。人殺しちゃいましたとか言ったらどうする? エリーに限ってそれはないと思うけど。なにせ、目の前でお母さん殺されてるし、人が死ぬってことは、よくわかってるはず。

 だけど、エリーは悪魔だ。生き物を殺すことに躊躇を覚えない。

 これは、矛盾している。だからこそ、あり得そうな気がしてしまう。


 けれど、エリーが差し出したのは、幾つかの金属の破片だ。何のかは、すぐに判断が付いた。

 ――エリーの鎌の破片だ。


「よくわかんないよ・・・。せっかく、買ってくれたのに・・・」

「エ、エリー・・・。いったい何が・・・?」

「なんか、帰ろうと思ったら、お兄さんが、こっちに魔法陣向けてて・・・」


 お兄さんが・・・? ああ、盗賊か。一番心配してた事だ。やっぱり、そうだったんだ。

 だから、1人で居て欲しくなかったのに。でも、今このエリーにそれを言っても仕方がない。

 後でちゃんと言い聞かせよう。今は、続きを聞くのが先だ。


「なんだか、動き制限するみたいだった。エリヴェラ、動けなくて」

「動きを制限? そういった種類の魔法なのか・・・。それでどうしたの?」

「丁度持ってた鎌を握りなおしたの。攻撃しようと思って。そしたら、なんだかわかんないけど・・・」


 割れたわけか。エリーの話では、その後、もう一人のお兄さんが出てきて、大きな魔法を放ったそうだ。その時に、少し呪縛が緩んだから、移動魔法で逃げてきたと。でも、なんで割れたのかよくわからないなぁ。

 刃の付いた鎌を握っているエリーの手は血だらけだ。私は回復魔法でそれを治す。


 どうするか・・・。エリーはこの鎌を凄く気に入っていた。買い直してもいいけど、それもどうかと思う。だからといって、これを治す事って出来るのかな。柄も、ドクロも無くなっている。


「そうだなぁ・・・。この破片、ちょこっと借りてもいい?」

「え・・・? うん、いいよ」

「ありがとう、預かるね」


 私は破片を預かると、エリーを連れてリビングに入る。

 何があったのか分かっていないみんなに、何も聞いちゃだめだと言ってエリーを椅子に座らせた。


「私は、ちょっと出かけてくる」

「え?! ご主人、今動いちゃダメ!」


 ごめんね、ローリ。

 私は、エリーの笑顔を取り戻したいよ。



「いらっしゃい・・・、お、お譲ちゃん、武器は喜んでくれたかい?」

「そ、それが・・・」


 私が破片を出すと、武器屋のお姉さんは顔を曇らせた。

「悪質だな。いったい何が?」

「分からないけど・・・。盗賊にやられたって・・・」


 私があらかたの説明をすると、お姉さんはちょっと腕組みして考えてから言った。

「多分、あの悪魔の子の魔力を込めたからだ。あの子の呪縛を、鎌が肩代わりしたんだ。そうじゃなかったら、あの子は死んでたかも」

「え? なら、これで済んで良かったって考えるべきかな」


 とにかく、これを治せないかと頼んでみる。お姉さんは出来なくはないと言った。

「これ、私が作ったのだしね。人に興味のない師匠のだとさ、治すの高いけど、可哀想だ、ただでやってやろう」

「そ、それは悪いです!」

「いいって。ただ、時間がかかるんだよな。そこだけちょっと許してくれるか?」


 私が頷くと、お姉さんは1週間くらいかかるかも、といって視線を落とす。

 と、後ろから男の人が出てきて、破片を見ると、全て集めて持っていった。


「1時間後」

「え?! 師匠・・・! ありがとうございます!」

 お姉さんは言う。

「師匠が人の事を思って槌を振るうのは、初めてかもな・・・」


 さて、1時間、その間にやることは1つしかない。

 エリーを傷つけた盗賊を、同じ目に合わせてやる・・・!



 という事で、か弱い私一人で盗賊を倒すため、ポケットに大量の強いタロットを忍ばせておいた。

 お姉さんが付いてこようとしたけれど、これは私たちの問題なのだ。保護者の私が解決する。


 解析魔法で、鎌に呪縛をかけた人は割り出してある。その人たちのいる所も、エリーに襲われた場所を聞いてあるし、問題ない。

 近づいてくる足音に、私は1枚のタロットを使う。


「うわあああ!」

「なんだぁ?!」

「よくもエリーをいじめてくれたなぁ!」


 さて、自分で掛けて呪縛魔法を受けた気持ちはどんなもんだい?

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