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第28話  クリスマス

「メリークリスマース!」


 チリン、と綺麗な音がする。

 私たちはグラスを傾けて紫色の液体を喉に流し込む。

 と、言ったところで、これはただのブドウジュースだ。


 なにせ、この家で成人しているのは私しかいない。しかも、私はお酒を一切飲んだ事が無いという状況。まあ、必然的にワインやシャンパンは却下される。

 ということで、この世界でこの時期に良く売り出される『ちょっと渋めのブドウジュース』というものを買ってきた。何となくワインに似た味がするとか。まあ、つまりノンアルコールのワインだ。


「凄いな、クリスマスって。家でやった時はここまでやらなかった」

「まあ、立華ではもっと凄かったですから、マスターにとっては普通なのでは?」

「飾り付け綺麗です。料理も凄い・・・」

「クリスマスは楽しいものなの! エリヴェラは毎年此れ位やったの」


 飾り付けに凝ったのは、間違いない、私だ。凄い事になってる。うん、認めよう。

 まさか、こんなに楽しいと思わなかったんだ。あちこちオーナメントで彩られてる。

 で、部屋の端にはツリーもある。随分大きめの。という事で、どこからどう見ても『クリスマスやってる家』になっている。


 ついでに言えば、料理は私と心花で図書館の本を漁って出来るだけどうかにしようと作ったものだ。

 オードブルはゆで卵を野菜でちょっと飾った。心花が担当。

 スープはパンプキンスープ。牛乳、カボチャ、玉ねぎをミキサーに掛けてから、コンソメ加えて作った。

 メインはローストビーフ。塩、胡椒、生姜、にんにくで下味つけて、お酒と醤油とウスターソース使って煮た。そこそこ上手には出来てると思う。

 サラダはベビーリーフでリースを作った。トマトと胡瓜で飾って、心花の得意な星型人参も乗せる。

 で、バケットとバターを。


「クリスマスっぽいのにしたつもりなんだけど・・・」

「いや、いいんじゃないか? 美味しそうだし、可愛いな」


 結構時間が掛かってるんだ、これ。美味しくなかったら泣くよ?

 なんてね。美味しくない事はないだろう。せっかく調べて作ったんだから。しかも、超料理上手な心花と作ったんだ。失敗はないだろう。


「じゃ、食べてみようか」

「はい。いただきます」

「ああ、美味しそうだよな。いただきまーす」

「美味しくできてますかね?」

「エリヴェラもー!」

「みんな」

『いただきます』


 そう、この家には今、超多人数が住んでいる。

 よく考えてよ。私でしょ、シルシィ、颯也、心花、エリヴェラ。それからローリにサラ、ディーネ、ルーシー、フロス、ライ、シル、ノーム、ルナ、ラート。十五人だよ?!

 兎たちに似は兎の格好で寝て貰ってるから、部屋自体は一部屋。ローリは私の部屋に居る。

 でもさ、今はどうだ。この人数で食卓を囲むってどうなのさ。もはやお城とかの長いテーブルあるじゃん、あれみたいになってる。


 とはいっても、兎たちはあまり食べない。それに、基本的に草食だからサラダだろう。

 おかげで『何考えてんだこいつ』ってくらい大きなサラダになってる。あまりに大きすぎてリースにしづらいから二つに分けたけど。

 私? 知らんな。一応人が強いからさ。


「ん! 美味しいです!」

「おお! いつも美味しいけど、もっと美味しいな!」

「わぁ! 美味しいの!」

「凄い・・・」


 反応は良いようだね。食べてみようか。

 うん、美味しい。クリスマスっぽい部屋のせいもあるかな。いや、ワインもどきもあるかもね。

 心花、本当に凄い。家事やって、その上戦いも参加してるんだもんね。なのに、何事も遠慮しがちで、自分から欲しいということは滅多にない。もっとお小遣いを増やそうか?


 ああ、楽しいな。本当に私が安心できる場所って、ここしかないんだなぁ。

 転生前も、転生後も、この子たちと居るのが一番楽しい。これは、運命だったのかもしれないな。

 魔王様、ありがとう。転生してなかったら、あのまま暮らしてたんだろうな、って思うから。



 さて、料理を食べ終わったら、当然デザートだ。

 心花の得意なシフォンケーキをクリームとフルーツでデコレーション。クリスマスケーキっぽくアレンジした。


 これも凄い好評だ。兎たちも食べたし。私も甘すぎないクリームが気に入った。

 ・・・。エリーは大喜びで本当に見てるこっちも楽しくなるような感じだ。エリーってなんだかんだで甘いものが大好きだから。血とか好きな悪魔っぽいところがあれば、甘いデザートとかぬいぐるみが好きな子供っぽいところもある。


「あ、朱璃姉ちゃん、グラス空いてる」

「ふぇ? もういいのに・・・」

「いいからいいから」


 私は1口飲んで気が付いた。おかしい。絶対おかしい。ぜーったいおかしい!

 これは、明らかにブドウジュースじゃないよ。多分、本物のワイン。


「ちょっと、何飲ませたの・・・?」

「あはは、朱璃姉ちゃん、もう大人だろ?」

「私たちがいるからでしょう? 飲んでないの?」

「ちがっ・・・。飲めるかわかんないから・・・」


 まさかそんな風に思ってるとは・・・! だって、飲んだ事ないから、怖くて・・・。

 ど、どうしよう。私、このあとどうなっちゃうんだろう・・・。



「あ・・・。あ! な、なんでこんなところに・・・?!」


 ソファから跳び起きた私は、自分の姿に驚く。

 何故か上着を脱いで、アームカバーも外してるようで。凄く寒い。

 一応、誰かが掛けてくれたらしい毛布はあるけど、上着が見つからない。えっと・・・。

 あ、あった。ちょ、昨日の記憶が全くない! どうしたんだっけ・・・。


 って、時間が午前五時半! あらら・・・。とりあえず、夜やるはずだった仕事を行わなくては。

 それは、プレゼントを枕元に置く事なんだけど、幸い誰も起きてないようだ。さっさと置いてこよ・・・。



「朱璃様! サンタクロースって本当に居るんですか?!」

「ん・・・? おはよー、シルシィ」


 寝て居たふりをしていた私は、シルシィの声で起きた風に装う。こうすれば、私がおいたとは思わないはずだ。

 その声に起きたのか、上からちょっと音がし出した。暫くすると、バタバタと階段を下りてくる。


「あ、ちょっと待って。それは良いんだけど、昨日の事教えてくれるかな?」

「あ、やっぱり記憶ないんですね」

「マスター、結構酔いましたよね。じゃあ、話してあげましょう」



 マスターは、すぐに酔いましたから、私たちはちょっとワクワクしながら見てたんです。なんだかんだ言ってどんどん飲んできましたし。速かったですよ。

 で、酔ったマスターは隣に座っていたローリちゃんの肩にコテっと頭をのせて。

「なんか変な気分にゃー」



「ちょっと待て!」

「はい、何でしょう?」

「それ、ほんとの事?」

「なんで嘘つかなきゃいけないんですか? ねぇ?」


 あわわ・・・。思ってた以上に酷い事に・・・・・・。

 まずい、これはまずい・・・。私、この子たちの前で何やったんだ? このままだと、兎たちと仲良くなるどころか・・・。あわわ、どうしよう・・・。



「どうしたんですか、ご主人?」

「ねぇねぇ、ローリ。私にプレゼントないのー?」

「今ですか? だ、め、で、しょ?」



「ちょっと待ったー!」

「なんですか?」

「ローリ、それ本当か?! なんでそんな事を?!」

「だって、乗ってあげようかな、って」


 うえぇ・・・。もしかして、この後もみんなこんな感じ? 私もはや弄ばれてるんじゃん。

 ああ、やだなぁ・・・・・・。もう聞きたくない。



「むぅ・・・。じゃあさぁ、耳触らせて」

「それくらいなら」


 マスターが触ろうとすると、ローリちゃんはひょいっと耳を動かして避けました。

 思いもしなかったマスターが驚いていると、ローリちゃんはにやっと笑ってマスターの耳を撫で始めました。


「ふふふ・・・。勝ったのは、私」

「はわわぁぁ・・・。気持ちいぃ・・・」


 そんな風に撫でていると、マスターは眠くなってしまったようでした。

 それを見たローリちゃんは撫でるのを急に止めて、ちょっと考えてから、マスターの尻尾を撫でました。


「ふぇっ?! な、なぁに?」

「まだ寝ちゃダメ・・・。ふふふ・・・」

「な、なんなのぉ?」

「いいの。こっちの事。ご主人は気にしないで」


 ローリが頭をポンポンと叩くと、マスターはやる気になったかのようにローリちゃんを見ました。

 それで、ぴょいっとローリちゃんに抱きついて肩に後ろを向いた形で頭を乗せます。

 ローリちゃんは目をキラッと光らせてマスターの頭を撫でていきます。


「ローリ、大好きー」

「私もですよ、ご主人」

「ねぇねぇ、なんか楽しい事ないのー?」

「そう・・・。じゃあ、ちゃんと前向いて座って」


 マスターが首をかしげながら従うと、ローリちゃんはパッと片手で目隠しをします。

 びっくりしてぱたぱた動き出すマスターを大人しくさせて、ローリちゃんは空いた手で尻尾に触れます。


「し、尻尾はヤなのにゃ・・・。離してー?」

「だめ。離さないよ」

「い、いやっ! や、止めてぇ?! あっ」

「ほらほら、楽しいよ?」

「いやなのっ! やだ、やだ!」


 その時、ソウヤ君がマスターから目を逸らしました。一応同じ獣人ですもんね・・・。私にはどうして尻尾を触られるのがそこまでいやなのか分かりかねますが。


「じゃあ、大人しくする?」

「うぅっ、は、はい・・・」


 とにかく大人しくなったマスターを、ローリちゃんは弄ぶように扱っていました。

 で、しばらくしてトイレに行くって言ってマスターが席を立ったので、私たちは作戦会議をしていました。ら。


「いったあ?! シルシィー!!」

「ふぇ?! なんでしょうかっ?」


 何故か血だらけのマスターが飛び込んできたので私たちの頭は真っ白になりました。

 とりあえずマスターを軽くあやしてから回復魔法を唱えておきました。

 で、なんでか聞くと、『わかんない』って返ってきましたから、どうしようもないのですが。


「シルシィ可愛いー。ねぇ?」

「へっ? そうでしょうか」

「シルシィは私の娘なのー。可愛い可愛い子供なのー」


 という感じだったので困っていると、飽きたようで、マスターはローリちゃんの横にもう一度座りました。

 マスターは暑いと言いながら、コートとアームカバーを外して、ローリちゃんの方を向きます。


「ねぇ、ローリは、違うよねぇ?」

「どうかな。ちょっと、遊びたい気分で?」

「もちろん」



「その後覚えてないんですが・・・」

「ああ、シルシィさんはそうでしょう。言った方が?」


 聞きたくないんだけど・・・。

 という間もなく心花は喋り出した。正直、耳塞いじゃいたいよ。


「朱璃様とローリちゃんはそのままアツい感じになっちゃいそうだったので、とりあえず私が催眠薬のついた針を出したんです。

 そしたら、それをシルシィさんが引っ手繰って投げつけました」


 ああ・・・。まあ、そうだろうねぇ。もうどうだっていいよ?

 ところで、これ、悪いのは誰なわけ? 明らかに私じゃないと思うのだけれど?

 難しいなぁ。でもさぁ、どう考えても飲ませた方に悪気はないでしょ? あるか。


「もういいよ・・・。それより、プレゼントはどうしたの?」

「あ、そうだった」


 みんなはそれぞれプレゼントの開封に取り掛かる。

 出てきたものに、みんなは驚いたような顔をする。それもそうだろうなぁ。


「わぁ・・・。すごい・・・」

「何て綺麗な・・・」


 私がラッピングして贈ったのは、この前予約に行った武器。

 なのだけれど。あの後、私は1人で武器屋に行って、もう一度話し合う事にしたのだ。

 デザインをいかに美しくできるか。性能をどこまで上げられるか。


 最終的に、全員の武器をタロット収納式にして、服に合わせた綺麗な武器を作って貰ったのだ。

 それを、生活費からではなく私のお金から出した。まあ、結構高いけど、気にすることは全くない。


 エリーの鎌は、全体的に紫色。持ち手は黒で、紫の蛇がからみついたデザインに。。蝙蝠の羽をイメージした鎌で、上にドクロの飾りが付いている。

 心花の斧は、持ち手は木の色を目立させて、刃に緑色の線を入れた。心花のは、ちょっとシンプルに。

 兎たちは、箒をイメージして。一応、空飛ぶ箒の役割は果たせる。色の魔石は柄の先についている。

 ローリは、短剣を二本組み合わせたデザインのブーメラン。なんだけど、短剣の持ち手が兎の耳の形をしている。


 で、武器を頼んでいない子たちは。

 シルシィは白い手袋。杖を使わずに魔法を撃つ子専用で、ゴムの所に付いた青いリボンとレースが魔法を強くするらしい。当然、違う色もあるよ?

 颯也は剣をタロットに仕舞えるようにして貰って、同じデザインの普通の剣も作って貰った。大型の剣だけだと、小さい魔物に相性が悪かったりするから。


『ありがとうございます』

「ううん。結構綺麗でしょ? これからも頑張ろうね」


 で、武器をプレゼントしたにもかかわらず、今日は部屋の片づけで終わることとなる。

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