第25話 クローリク
「げほ、げほ・・・。はぁ、やだなぁ・・・」
「どうしたらいいのかな・・・」
月日は流れ、十一月。もう、だいぶ寒くなっている。しかも、暖かい日もあったりする。
そんな中、体が弱いと言っていたシルシィはすぐに風邪を引いてしまった。
「颯也。心花にハーブティー作るように言って来てくれない?」
「わかった」
「あと、エリーがいたら、ダメそうだったら一人で狩りに行って来て、って伝えて」
「ああ・・・。そろそろ1週間か」
颯也は部屋から出て行った。颯也はすごく元気。もはや雑用係になってしまっている。
あと、エリーというのは、エリヴェラの事。戦ってるときには、エリヴェラと呼んでいると、長くて大変なのだ。
だから、愛称を考えた。本人も気に入っているようだし、そのままだ。
「まあ、風邪は無理に治さない方が良いんだよ。ゆっくり休んで」
「はい。分かりました」
今思えば、シルシィは結構忙しい毎日を過ごしていたように思う。そろそろ休め、ってことだろう。
熱は結構高い。よくあるって本人は言うけど、38度は超えてる。
「何か食べられる?」
「た、多分・・・」
治療法をあれこれ考えていると、心花がティーポットとティーカップを持って入って来た。
ハーブは、夏、大量に取れた葉を、乾燥させておいたものだろう。
「大丈夫ですか? 氷も持ってきましょうか?」
「ん、ありがとう。ハーブティ、美味しそうだね」
お昼ごはんはどうしようかな。シルシィだけ別に作るか。多分、エリーは完全に狩りに行っちゃっただろうから、お腹すかして帰ってくるでしょ。
じゃあ、その間は心花に頼むか。
「心花、ここ、任せても良いかな?」
「はい、わかりました」
「シルシィの体、冷やしすぎないように。頼んだよ」
ザクザクと野菜を切っていると、颯也がひょっこり現れた。
「朱璃姉ちゃん、葱と生姜と果物」
「買ってきてくれたの?」
「いや・・・。さっき、黒髪エルフの姉ちゃんに会って、シルシィ姉ちゃんの事話したら、買い物に付き合って、って」
なんだかんだいって面倒見のいい花凛。買ってくれたわけか。
私は葱を多めに使った料理を考えて行く。シルシィには、葱が多いほうが良いだろうから。
「雑炊、かな」
「手伝うこと、あるか?」
「ううん、大丈夫。颯也も風邪、気をつけてね」
私は鍋に水を入れて、市販の出汁の元を入れる。今更だけど、この世界にも、出汁の元って売ってるんだよね。それから、醤油と塩をちょっと。沸騰させる。
その間に卵を溶いて、葱を切って、たまたま残っていたご飯も準備。昨日、ご飯を食べたから。こっちだと、洋食が多いけど、私の好みってなると、割と和食も多く食べるわけで。
ご飯と葱を入れて少し煮て、卵を入れたら完成。まあ、簡単に作ったらこうなる。
実際、雑炊はあんまりメジャーじゃない。
もともと和食がメインだったこの大陸に、別の大陸から来た人が洋食を持ちこんだせいで、みんなほぼ洋食になったからだ。
颯也と心花は和食の方が好きだとか。シルシィとエリーはどっちでもいいって。
「じゃ、颯也、ちょっと待っててね」
「ああ。エリーも帰って来てないし」
「シルシィ、今平気?」
「はい。コノハちゃん、出て貰えますか?」
心花ちゃんに扉を開けて貰って、テーブルに鍋をおく。
少しお皿に取ると、ちょこっと冷ましてシルシィに渡す。
「あ、美味しい・・・。美味しいです」
「よかった。じゃあ。またごめんね」
「いえ。マスターは忙しいですから」
本当に悪いなぁ。
「颯也、エリー、先食べてて。心花呼んでくるから」
「あ、分かった。朱璃姉ちゃん、無理するなよ?」
「分かってるって。平気だよ」
心花を呼びに行くと、シルシィは寝ているところだった。
ちょっとくらいはなれても平気だろうと、わたしたちは部屋を出た。
「あれ、シルシィ、起きてたの?」
「はい。でも、この子がいてくれました」
シルシィの横に居たのは、クローリクだった。ふわふわしてる。
そういえば、ランクアップ、もうすぐだっけ。っていうか、スキルポイントが沢山ある。振り分けよう。
クローリク レベル85 スキルポイント195 パラメータポイント0
噛みつき攻撃レベル5 変身レベル1
力200 魔法50 守備70 速さ100
なんだか分からないけれど、変身というのを取ってみた。ちょっと、やってみてよ?
「ご主人、こんにちは」
「! ク、クローリクちゃん?!」
シルシィが驚いた声を出す。まさか、クローリクが人間の姿になるとは思わないじゃん。
特徴としては、うさ耳としっぽが付いている。あと、体もちょっと毛でおおわれてる。
で、髪は真っ白。で、ふわふわしていて長い。クローリクの毛と同じ。
「レべルで、服着たのも、出来る」
「そう? じゃあ、3まで上げちゃおうか」
クローリク レベル85 スキルポイント135 パラメータポイント0
噛みつき攻撃レベル5 変身レベル3
力200 魔法50 守備70 速さ100
ポン、と変身して、クローリクは白いワンピースを着た姿になる。
見た目年齢は十二歳くらい。結構大人っぽく見える。
基本的に喋らないようで、黙ったままになっている。
「あとは、何上げたいの?」
「私、ご主人の役に立ちたい」
「ああ、そう・・・。今居ないとなると、治癒魔法任せても良いかな?」
「うん」
私はスキルポイント70を使って『治癒魔法』のスキルを取って、レベルを3にする。
人とはスキルの種類も、全然違うようだ。そりゃそうだよね。
でも、結構魔物使いは少ないから、こういった使い方をする人は少ないかも。
「私、兎の、女王。仲間、集めたい」
「へぇ、って、ええ?!」
「魔物使いが、一番最初に、育てた生き物。王か、女王になる」
どうやら、魔物使いが育てた生き物のうち、種類ごとに一番最初に育てた子が王になる決まりらしい。ってことは、チェリーちゃんも? 後で確認しないと。
まあ、クローリクの好きでいいと思う。仲間集めたいなら、全力で応援するまでだ。
「ってことだから、手伝ってもらう事になったよ」
「よろしく。兎の女王」
「はあ・・・。よろしく」
「ごしゅじんさまらしいね。みんな仲間になるの」
そうかな? ともかく、私が戦うことは不可能のようだ。やっぱり使役に頼るか。
でも、まさか兎まで・・・。他の生き物も飼ってみよう。
「エルフの子は、任せて。ご主人じゃ、感染るから」
「ありがとう。よろしくね」
「任された。ちゃんとやるから」
ということで、チェリーの様子を見に行く。
魔物使いには、チェリーの名前もある。レベルは60。そこそこ強い。
変身・・・、止めておこう。ケンタウロスとかだと、見栄えがよろしくない。攻撃系のスキルだけ上げておいた。
次の日、シルシィの風邪は完全に治った。
「お騒がせしました。今はもう元気です」
「よかったね。クローリク、ありがとう」
「いえ。ご主人の命令」
大人しく、ポーカーフェイスで、口数の少ないクローリクは、何を考えているか分かりづらい。
喜怒哀楽が分からないんだ。でも、そのうち分かるだろうと思っておく。
「で、今日はどうするんだ?」
「一応、軽めで。エリー、良いかな?」
「うん、大丈夫。その兎さんは、どうするの?」
「回復、やる」
心花がちょっと困ったような顔をする。まあ、クローリクが回復担当したら、心花の仕事は減りそうだよね。
でも、今日のメインは、仲間を集めること。兎は多いからね。
ただ、心花の仕事はないと困る。そのうち何かのスキルを取った方が良いかも。
「赤い兎、可愛い」
「そう・・・? 少なめで、お願いできるかな」
「わかった。ちゃんと選ぶ」
シルシィ、颯也、心花、エリーの四人は狩りに。私とクローリクは仲間集めに、だ。
本当に、私は何をやってるんだろう。戦えないって、結構大変。まあ、戦えるけどさ。
ちなみに、一緒にいるのはもう一つわけがあって、実は、目が悪いっていうから、さっき眼鏡屋に寄って来たんだ。茶色い淵の眼鏡を作って来た。
なんて考えていると、クローリクは一匹の赤い兎を抱きかかえていた。
「私の配下に、なるって」
「この子ね。名前は何にする?」
「適当じゃダメ?」
「あとでにしようか」
私はすぐに自分の使い魔として設定する。私の使い魔であると同時に、クローリクの配下。
で、これで経験値が入るはず。この子のレベルも上がったら、変身を覚えさせると約束してある。
その後も別の色の兎を探し、赤い火の兎、青い水の兎、緑の草の兎、水色の氷の兎、橙の雷の兎、黄緑の風の兎、茶色の土の兎、黄色の光の兎、紫の闇の兎を仲間にした。これで、全種類ってことになる。
なぜかみんな女の子だ。
名前は変身したら、イメージに合わせて決める。クローリクがそういった。まあ、伸ばしたいだけだろうけど。決めるのが嫌らしい。
ということでしばらく魔物を倒しながら歩いていると、一瞬でレベルが上がる上がる。
シルシィたちも戦ってるし、そっちの経験値も膨大だ。
まあ、最初のレベル1なら5ポイントで十分だし、一瞬なんだ。
一応、多めに取って置いたけど。みんな、変身してみてね。
「あ、名前・・・。どうしよう」
「何でもいいと思うけどなぁ」
「そう・・・。じゃあ・・・」
なんだかんだ言いつつも、クローリクはどんどん名前をつけて行った。
赤い子はサラ。サラマンダーから。赤いショートの髪を持つ、元気系の子。立ち耳。
青い子はディーネ。ウンディーネから。青い長い髪を持つ、おっとりした子。ちょっと眠そう。耳は寝てる。
緑の子はルーシー。レーシーだと可愛くない、だそうで。緑の髪は長い。性格は・・・、天然、が近いかな。立ち耳。
橙の子は、とりあえず保留だそう。橙の髪は肩につかないくらい、はっきりした子だ。立ち耳。
水色の子はフロス。ジャックフロストから。薄い水色の髪は腰くらいまである。ちょっぴり怖がり。耳は寝てる。
黄緑の子はシル。シルフから。ちょっと長めの黄緑の髪。人は苦手かも知れない。立ち耳。
茶色の子はノーム。これはそのまま、ノームから。ダークブラウンの髪をしている。すごく静か。寝た耳をしている。
黄色の子も、ちょっと保留。クリーム色の髪はとってもきれいで、長い。他の子より、大人っぽい。
紫の子も、保留で。薄い紫の髪は、肩くらいまで。雰囲気は、黄色の子に似てる。
あ、一応性格も付けたけど、兎って基本、クローリクと同じで、喋らなくて、ポーカーフェイスで、考えてる事がすごくわかりにくい。
だいたいこんな感じみたい、っていうのしかわかんない。ただ、多少一緒に居て、だからそんなにかけ離れてはいないと思うけど。
「雷と光、闇の妖精がいない」
「そうなの? じゃあ、違うのにしないと・・・」
橙の子は、落雷から、ライになった。じゃあ、黄色の子はどうしよう。
「光、だったよね。光るもの・・・。月とか、太陽とか、星とか・・・」
「なるほど。月の女神様。ルナ」
「ルナ・・・? そんな女神、居たっけ?」
「うん。いろんな女神と同一視された。ほとんど記録が無い」
それから、紫の子だ。
「闇、だっけ。夜とか、そんなもん?」
「女神様なら、ラートリーから、ラート」
「ラートリー? 聞いたことないなぁ」
「こっちも、記録が少ない。夜の、女神様」
目の色は、髪の色と一緒のようだ。クローリクは黒いけど。
でも、ルナちゃんは、紫色だ。何となく、ほかの事雰囲気が違う。
あと、ラートちゃん。真黒だ。この子も、何か、違った雰囲気がある。
「多分、光と闇の属性は、普通の魔法にないからだと思います」
「どういうこと?」
「光は天使、エルフの魔法。闇は悪魔、魔族の魔法にしかない属性なんです」
なるほど。別物、なのかな。どうりで大人びてて、他の子と違う感じがあるわけだ。
ちなみに、クローリクに属性はない、と。まあ、普通の真っ白い兎だったし。
帰ってからシルシィの説明を聞いていた私はそれで納得した。
「この子たち、私が面倒みる」
「頼んだよ。よろしくね、みんな」
『よろしく、ご主人』
「で、ついでに魔法について教えて欲しいんだけど」
「分かりました。えぇと、そうですね・・・」
まず最初。雅さんが『基本魔法はタロット』って言っていた事について。
獣人は普通魔法が使えない。だから、獣人で魔法使いと言えばタロット、という意味だったらしい。
タロットは魔法を具現化したもの。だから、魔法の使えない人が、少量の魔力で使えるものとして、獣人の中で広まったらしい。
で、魔法の属性。
普通は、火、水、草、氷、雷、風、土らしい。色は赤、青、緑、水色、橙、黄緑、茶色。
これに、白魔術であるエルフ、天使の魔法は光が、黒魔術である魔族、悪魔の魔法には闇が入る。
けど、魔法によっては属性が無かったり。無属性って。
魔法は、自分の魔力をイメージ通りに操って使う。それの補助が、呪文なんだ。
なにせ、何もなしにはっきりとした形をイメージするのは難しい。呪文を唱えることで、明確なイメージを作り出す。
だからこそ、有能な魔法使いほど、詠唱は短く、そして、無くなっていく。難しい魔法ほど、イメージが難しいため、呪文が長くなっていく。イメージが少なくなるから、詠唱短縮、無詠唱は威力が落ちる。
魔力は人によって個性があって、一つも同じ物はないらしい。指紋みたいに使える。
盗賊によっては、データを買ってる人もいるとか。機械で魔力を読み取り、どこのだれか分かるのだ。
私も、魔法を使った途端、雅さんの所の子だ、ってばれたしね。
「こんな感じですかね。イメージが作り出せるなら、詠唱はいりません」
「なるほど。じゃあ、多く使う魔法の方が、詠唱を短縮しても威力が落ちない」
「そういうことですね。それと、光、闇は特別なので、場合によっては無属性です」
なるほど・・・。光属性は、闇属性を、闇属性は光属性を滅ぼすための魔法らしい。
魔族とエルフは、敵対関係にあるんだね。
ん・・・? シルシィとエリーは?




