第24話 颯也の誕生日
「颯也、おめでとう!」
「ありがとう、朱璃姉ちゃん!」
今日は颯也の誕生日。颯也が一週間も前から楽しみにしてたから、みんな知っている。
私は早く起きて、料理と飾り付けを担当した。もうあらかた終わってる。時間は7時。
颯也も、早く来ても、と思ったようでしばらく部屋に居てくれたみたい。
「シルシィは、もうすぐ帰ってくると思うよ。心花とエリヴェラは、多分もう起きるよ」
「そうか。誕生日って、なんか楽しいよな」
「そう? 楽しいならなによりだけどね」
「おめでとうございます、ソウヤ君」
「おめでとうなの、お兄ちゃん」
「おめでとうございます、颯也さん」
みんなの声に、颯也は笑って応える。うん、可愛い。これくらいじゃないと。子供だし。
いっつも大人っぽく見えてたけど、大丈夫だね。多分小さい子達がいるから、か。
「じゃ、プレゼント、もらおうかな」
「ちゃんと準備は出来てるよ」
まずシルシィが渡したのは、力が上がると言うブレスレット。何となく、私のブレスレットに似てる。多分、それに気が付いた颯也が顔を輝かせる。
包装も綺麗だった。小さな箱に包装紙が巻かれていて、リボンで装飾されている。全体的に、黄色。颯也の色だ。
心花は、ベルト。小型のナイフなんかを持っておけるように工夫されている。職人ベルト、とか言うっけ?
解体用のナイフとか、ちょっとした薬なんかを入れておけるだろう。いっつも颯也が困っているのを知っての選択だろう。
エリヴェラは持ち手が付いた砥石など、剣の手入れに必要な道具。しかも、綺麗に装飾された箱に入るようになっている。
普通はドライバーとか入ってそうだなぁ。なのに、中身が全然違うって・・・。
まあ、颯也が持つにはぴったりなんだけどさ。
私が渡すのは・・・。
「おお! すごい!」
「ちゃんと特注だよ」
颯也には、身長や特徴に合わせた、特別に注文した剣を。
装飾は控えめだけどきっちりと。颯也に合わせて、黄色を基調に、オレンジを入れて。
固くて折れにくいようにして貰った。だから、ちょっと重い。私のドロップアイテムがメインなんだけど。
「ありがとう! 大切にするよ!」
「喜んでくれたなら嬉しいよ」
「みんなも、ありがとう!」
さて、朝食だ。今日は颯也の好きな食べ物でいったよ。颯也は洋食より、和食が好きなようで。
ご飯を主食にして、魚を焼いて(シルシィが釣った)、煮物を作って(心花が野菜を作った)、味噌汁も作った。
颯也もすごい喜んでくれたし、いいだろう。この国のも和食はちゃんとあるんだ。
っていうか、洋食が他の国から入って来たんだもん。なのに、和食は押されてあんまり見なくなってしまったよう。
「今日はどうしますか?」
「うーん、剣の切れ味を見ても良いなぁ」
「エリヴェラは何でも大丈夫」
そんな話をしていると、扉がノックされた。
珍しいな、と思いつつ扉をあけると、そこに居たのは二人の女性。
一人は人間だろう。いや・・・、魔族、かな。もう一人は、多分、悪魔じゃないかな? でも、綺麗なお姉さんだし、何歳なんだろう・・・。二人とも、モノクロのメイド服を着ている。
そのうち、おそらく魔族だと思われる方が、一歩前に出て恭しくお辞儀をする。
「私、アイリーンといいます。ドクロ病のお医者さんがいるのは、ここですか?」
「わ、私ですけれど」
「お願いします。私の所に、来ていただけませんか?」
私は後ろを振り返る。みんなは嫌そうに顔を背けてしまった。
行きたくないけど、見捨てられない性質なんだ。だから。
「颯也。剣、確かめておいで。みんな、行ってらっしゃい」
「あ、はい。無理しないでくださいね」
「また倒れないでくださいよ、朱璃様」
これで大丈夫。私たちは二人の女性の方を向く。
「では、お願い、ミーリャ」
「はい。『アンドロワ・メモワール』」
ん?! 記憶魔法?! 私、どこに連れてかれるの?!
もしかして、別の大陸から私目当てに来たんじゃ?! まずいかも!
「あ、あの! ちょっと」
「『ス・デプラセ』、開門」
「ようこそいらっしゃいました、お医者様!」
「に、日本語ね・・・」
「? なんですか、それ? っと、ここは東大陸の、お医者様のいた街とは反対の端です」
同じ大陸だったか。ならよ・・・くない! どこに連れてこられたんだよ!
でもまあ、記憶魔法を使ってたから帰れるだろう。だいたいここまで来て何もしないではは帰れない。
「聞いているのです。すごく、対価が重い事を。ですから、出来れば、何日かに分けてやっていただきたいのですが」
「1人じゃないんですね」
「えぇ。治療しようとして、感染った方が多くいて」
はぁ・・・。もしかして、お偉いさんかな? ここも明らかに城内だ。だから、治そうとした人が多い、なら納得か。そう思い込んでおこう。じゃなかったら『どうしてそんな事をした!』と怒鳴りこんでしまいそうだ。
って、仮にも大人ですから、そんなことはしませんがね。
「王子様、お医者様をお呼びしましたよ」
「そんな・・・。僕のためだけに、すみません」
「えぇと。王子なんですか?」
冷汗が伝う。アイリーンさん、今何て言った? どうしよう、王子だって。そんな人の治療って・・・。手繋ぐだけだけど。って言うか、それがおおごとだよ。
確か、東の国には四つの国があったはず。私の住む、東側の『フローラ』、獣人の国。北側の『ダゴン』、海獣人の国、南側の『ウルカグアリー』、小人の国。そしてここ、西側の『コヨルシャウキ』、魔族の国。あ、由来までは知らないよ。今度調べておく?
ここがコヨルシャウキだとすれば、彼は国王の一人息子、悪魔のアーサーってことになる。
確かに、最近出ていなくて、おかしい、とは言われてるんだった。ドクロ病だったのか。
「では、失礼します・・・」
「よ、宜しくね」
ちょっと緊張しつつも、王子様の手を握る。ズキッと、やっぱりというか、痛みが走る。
痛いなぁ、でも、いつもの事だし、我慢。
そういえば、さっき見た時、ドクロの色は何故か赤でも黒でもなく、紫色だった。それも、黒と赤の間なのかな、とかいうのじゃなくて、ちょっと独特な色の、青紫。
そのせいなのかな。痛みが他のと違う。傷とか、外の痛みというより、内側からって言うか・・・。
なんか、ズキズキ痛いんだよなぁ。どっちが良いかって言ったら、悩むところだけど。
しかも、すごい疲れる。もしかしたら、国が違うから、ちょっと違うのかも。もしくは、この方が悪魔だからか? それとも、年齢のせい? 進行にも、他の人の何倍も、時間がかかってるのかも。
分からないけど、他の人の何倍も、多く肩代わりしてる気がする。って、それ、大丈夫かな。
そんな事を考えていると、治療は終わったようだ。私は手を離す。うん、ドクロは消え去った。
王子様もほっとしたような表情をする。でも・・・、今日は、これ以上は厳しいかもしれない。
アイリーンさんが優雅な仕草でこちらまで来て、そっと顔を覗き込んで訊いてくる。
「大丈夫ですか? 勇者様」
「え、あ・・・。今日は、これ以上は・・・」
「はい、お休み下さい。ところで、場所なのですが」
そう、ここは全く知りもしない国。帰してくれた方が良いけど、それはそれで面倒かなぁ?
心花に家事任せても平気か? まだ全てやらせた事はないし・・・。うーん・・・。
「こちらで休んでいただきたいのです」
「うーん・・・。では、連絡して頂きたいです、家の者に」
「はい、わかりました。・・・、いっそのこと、連れてきてしまってもよいのですが?」
は?! そういうこと?! でも、さすがに、王様の城に何人もって言うのは・・・。
いいのだろうか。でも、私だけがここに居るって言うのも。平等にしたいわけだし。
「お願いしてもよろしいですか?」
「お任せ下さい。では、ミーリャ」
「分かりました。『ス・デプラセ』、開門」
「マスター・・・、なんだかすごい事になってませんか?」
「えぇっ?! お城?!」
「すごい・・・、綺麗・・・」
「んー? ここ、魔族の国、王様のお城なの」
シルシィが呆れた顔をし、颯也が驚いた声を出し、心花が装飾品を見て感動したようで、エリヴェラは一発でここがどこだか当てて見せた。
ちなみに、行くのがどこかは言ってなかったのだ。言うと来てくれなくなりそうだから、言わないで、と伝えておいたので。
「ごめんね。クローリクはどうした?」
「連れて来ましたよ。ほら、マスターですよー」
クローリクはすぐにシルシィの腕から飛び降りて私の隣に来た。前足で私のブーツを弄っている。
「申し訳ありません、お医者さま。しばらく、お願い致します」
「ええ。こちらこそ、泊めて貰って申し訳ないです」
「それくらいは致しませんと。では、お部屋に案内しますね」
アイリーンさんって、何者なんだろう。侍女長? ただのメイドじゃないと思うんだけど・・・。
仕草が美しくて、仕事が早くて、言葉使いが綺麗。そりゃ、私だったら侍女長任せたいかも。
部屋も綺麗だった。客室、なのかな。しかも、多分、国の来賓、だよね。
広い部屋に、みんなで入れて貰うことにした。部屋割で喧嘩になりそうだったから。
クローリクも平気だそうで。クローリクがダメだったら私もダメになりそうだし。兎だもん! いや、違うか。
「ふぅ、疲れたなぁ」
「人も人ですし。倒れなくて良かったですよ」
「本当だよね。にしても、王子様かぁ」
そんな事を言いつつ、全く違う事を考えていた。ドクロ病って、いったい何?
私の見立てでは、おそらく、『宿主の寿命を食らう』何かだと思う。
王子様のは、色が違った。それは、悪魔の寿命が長すぎて、時間がかかり過ぎるからだと思ったのだ。
だとしたら、おじいさん、おばあさんが掛かったら、すぐに亡くなってしまうのか?
「マスター? どうかしました?」
「うん・・・。本当に、なにでできてるんだろう」
「んー? ドクロ病? 何となくなら知ってるよー?」
『・・・え?』
エリヴェラは、ドクロ病は生きていると言った。精霊のような、魔物だと。
人に取り憑き、宿主の命を食らう。それと一緒に、だんだん赤くなっていく。
ドクロのマークは手の甲に現れるけど、実際は体中に寄生し、増えている。だから、子供にも遺伝。
そして、触った相手になら、乗り移る事ができる。しかも、体の中で増えたものが。だから、ただ移るのではなく、感染る。
「結構、悪魔の中では有名なの。悪魔は寿命ないけど、ドクロ病だと死んじゃうから」
「へぇ・・・。寄生・・・」
という事は、体中のその魔物を私に移し、桃色のマークの何かで殺してるってことになるのかな。
ってことは、言い方変えれば、私も何かに寄生されてるってこと?!
その何かの補助に、私の体力を貸している?
私はギルドのカードを取り出し、いつもは仕舞っている『+、-』という欄を出す。
これは、補助された分や、減った分が書いてあるところだけど、隠しておく事も出来るのだ。
見れば、体力がずいぶん減っている事が分かる。どうりで疲れたわけだ。しかも、スタミナも減っている。
「じゃあ、やっぱりその薬は、あまり使わない方が良いかもしれませんね」
「そう? 多分大丈夫だよ。ごしゅじんさまの寿命は減ってない」
『・・・え?!』
寿命は減ってないって、どういうこと?! なんで知ってるのさ?!
エリヴェラはやっちゃった、というような顔をしてから、悪魔は寿命が見えると言った。
「でも、教えちゃだめなの。あと、自分は見えない。悪いけど、ごしゅじんさまでも、言えないの」
「そう。まあいいけど。心花、一応、本当に何かあったらにしよう」
「はい。それに、私では作れないと思います」
私が貰った紙に、最後に書かれていた事。このレシピを、信頼できる人に渡して、というものだ。
薬関係で一番信頼しているのは、心花。だから、私は、心花にこの紙を渡した。つい最近の事だ。
それに・・・。ドクロ病経験者だから。きっと、分かってくれる。
「大丈夫、ちゃんと治してあげるから」
「みんな寿命長いから大変だと思うけど、ごしゅじんさまなら大丈夫!」
「ああ、きっと朱璃姉ちゃんなら大丈夫だ。がんばって!」
「うん。じゃあ、しばらく、ここに居る事になりそうだけど、ごめんね」
「そんなの気にしません!」
みんな、優しい子で良かった。何を言っても、否定しない。遠回しに言う事はあっても、最初から話を聞く気もありません、なんてのは一度も無い。
もちろん、主従関係なのもあるんだろうけど、それだけじゃない。
信頼してくれているからだ。
二週間かけて、全員の治療が終わった。みんな元気そうで良かった。
「本当に、ありがとうございました。ここに居るのは、皆、有能な医者だったのです」
「この事を忘れないで治療して頂きたいです。頑張って下さいね」
『もちろんです!』
お礼は、受け取らない。これは、私しかできない事なのだ。お金を稼ぐためにあるのではない。
つもりだったのだけれど、ふと、颯也の誕生日パーティーが途中だった事を思い出した。
「これは、みんなで心をこめて準備したものです。受け取って下さい」
「・・・、颯也、選びなさい」
「いいのか? 朱璃姉ちゃんの・・・」
「誕生日パーティーごめんね? 途中だったでしょ?」
颯也は黙って頷いた。分かってくれたみたいだね。颯也には、本当に悪い事をしてしまったと思ってる。颯也の欲しいものを持って帰ろう。
颯也が選んだのは、綺麗なスカーフ。魔力が入っているもので、着けると力が上がるとか。
「ですが、みなさんもどうぞ。是非、受け取って欲しいのです」
「うーん・・・。そうだなぁ、みんなにも迷惑かけちゃったし。選んで」
シルシィは青い魔石のネックレス。心花は木を切る斧。エリヴェラはタロットカードを作るための道具。みんな、どれもこれも性能が良いものだ。
喜んでるし、これでいい。私はエリヴェラに合図を送る。
「では、みなさん、ありがとうございました」
「あっ! 朱璃様は受け取って下さらないのですかぁ?!」
「ごめんね。ごしゅじんさまの命令なの。開門!」
ちょっと悪かったかな。でも、私は勇者だから、人の事を『助けたい』な。




