第23話 フェンリルゾンビ
「本当はさ、遠回しに言ってくれって言われてるんだけど、ざっくりでいいよね」
「は、はぁ・・・。それでいいんですか?」
「まぁ、国はわたくしたちに頼り過ぎていると思いますわよ」
面倒だ。国の言うとおりになんてしたくないんだけど。
ってか、この期に及んでまだ私を仲間にするつもりか! いい加減にしようよ。
「ほらー、魔王からお金貰えるから、必死なんだよ」
「品のないこと。自分の利益しか考えておりませんもの」
「あ、そう・・・」
それだけに利用されるのは癪だなぁ。いっそのこと別の国にでも行っちゃうか?
いや、それはそれで面倒だ。あぁ、なんで面倒なことばっかりあるの?
でもまあ、一応話は聞いておこう。花凛たちも大変みたいだし。
「一応、援助は完璧にできるそうだけどさ。それだけで釣られるのも・・・」
「わたくしたちも身を持って体験しましたもの。出来れば朱璃にはそのままでいて貰いたいものですが・・・」
どうやら、お金の面では何でもしてくれるとか。何でもって何なんだろう?
別に、軍がいらないならあげないし、今まで通りの暮らしをしてもらっても構わないとか。
ただし、何かあったら手伝って貰う事があるかもしれないとか。ドラゴンの討伐的な。
「結構緩いんだね」
「朱璃は来る気ないよ、って伝えたら、途端に緩くなったよ」
「つまりは、どうしても朱璃には来て貰いたいわけですわね」
どうしよう。私がシルシィたちの方を見ると、首を傾げられてしまった。
でも、わたしだけで決められる問題ではないよね。一応意見を聞いておこうか。
シルシィは、どちらでも良いそうだ。私の意見に従うとのことだった。
颯也は、討伐くらいだったら出来るし、行っても良いんじゃないか、と。
心花は、行ったら最後、約束を守って貰えるか分からない、と。
エリヴェラは・・・。まあ、よくわかってなさそうだな。
「うーん・・・。どうしよう・・・」
「あら? 迷っていらっしゃるの? 即決かと思いましたわ」
「私もすぐ決めるかと思ったよ。行かないって」
「えっ? ここまで整えて貰ったなら行くって言うのかと・・・」
困ったなぁ。しばらく保留じゃダメだろうか。ダメだろうな。
そんなにお人好しじゃないし、国のためなんては考えない。自分の利益を考えているわけだけど・・・。
もし、条件を守って貰えたとしても、お金は自分で稼ぐものだと思う。援助してもらうものじゃ、ないと思う。
討伐はやっても良いけど・・・。ギルドで受けて、やりたいかな。
ただ、有益な情報をくれるなら、また別かもしれないし・・・。
「そういえば、2人は何でこれ、知ったの?」
「ボスラッシュ? 去年の冬に自力で行って、その時に次はここって教えて貰ったけど」
「え?! 何回もあるの?」
「去年の夏と、去年の冬にあったよ」
ちょっと損したかなぁ? でも、雅さんたちには、私たちの強さは言ってなかったわけだし、行っても倒せないと思ってたかもなぁ。
まあいいや。情報源は国じゃないらしい。そこが重要だ。
「じゃあ、行かないって伝えておいて。お金には困ってないとでも言っておけばいいよ」
「・・・まあ、朱璃は裕福な生活をしたいとは、考えなさそうですわね」
「仕方ないから、そう言っておくよ。気が変わったら言ってね」
次の日。
私たちは今日も狩りに行っている。
ま、当然だ、どうして日にちを無駄にすることができよう。
「ここは楽しい敵が沢山居るの! エリヴェラ楽しい!」
「帰ったらこんなに戦えないと思うので、存分楽しんで下さいよ」
「私は疲れましたよ・・・」
今日は花凛と咲耶が私たちの戦いを見学している。親衛隊は自分達のレベル上げに行ったようで居なかった。
後で聞いたけど、親衛隊は力づくで置いてきたそうだ。
「ねぇ、心花ちゃんのレベルはどうしてるの?」
「マスターの使役スキルで経験値を渡してます」
「へぇ。よく考えてるのですわね」
颯也とエリヴェラが先制。後ろから私とシルシィで魔法を撃ち、状況に応じて心花が薬を投げる。
一応バランスは取れていると思う。多分ね・・・。
「じゃあ、私たちも、そろそろ動こうかな。参考になったよ、ありがとう」
「では、朱璃、また今夜」
私たちと花凛、咲耶は分かれる。なにせ、強さが違うから、一緒にレベル上げは出来ないんだもん。
「そろそろ帰りましょうか」
「や、やっとですか・・・。疲れましたよ・・・」
「荷物持ってやるから、頑張ろうな」
「もう帰るのー?」
「そうだよ。じゃ、いこうか」
私たちは少し離れたところにある馬車に向かってに歩きだす。戦っている近くでは、巻き込まれてしまうから。ただ、死なれたら困るのでエリヴェラの縄張り魔法を張って貰った。チェリーちゃんも船に乗せて貰ったんだ。多分、暇してると思う。
宿から、そんなに遠くまでは行っていない。すぐ帰れるだろう。もう日が傾き始めているけど、暗くなるまでには余裕で帰れるだろう。
でも、油断していた。まったく気が付かなかったのだ。
「きゃああ?!」
「マスター?!」
「朱璃姉ちゃん!」
私は宙に放り出されていた。本当に死んだかと思った。
足が真っ赤に染まっている。驚いて、一瞬自分がどこに居るのか忘れてしまった。
「あっ。くっ・・・」
フェンリルゾンビだ。おそらく、誰かが死体を放置したんだろう。迷惑行為だけど、誰がやったかわかんないし、捕まえることは出来ないでしょ?
私の足を噛んでそのまま放り投げたんだろう。痛いとかいう次元の話ではない。良く着いてたな・・・。
でも、みんながいる中で泣くわけにはいかないし、仕方ないから我慢して回復魔法をかける。
「偉大なる治癒の精よ。我の命に従いたまえ。致命傷をも癒す力を、我のために呼び起こせ。『ヤールキィ・リュチーチ』」
急いで立ち上がると、颯也とエリヴェラが、素早いフェンリルゾンビ相手に苦戦していた。
って、あれ? シルシィは・・・?
血だらけで吹き飛ばされた、シルシィの姿が見えた。
「シルシィ?!」
「大、丈夫、ですから。あっ・・・」
シルシィは立ち上がろうとして、そのまま倒れる。まずいなぁ、私の魔法で何とかなるか・・・。
「偉大なる治癒の精よ。我の命に従いたまえ。致命傷をも癒す力を、我のために呼び起こせ。『ヤールキィ・リュチーチ』」
それから、回復のタロットも使う。最大まで進化したやつ。
「あ、ありがとうございます。でも、あの2人が・・・。マスター」
「わかってるけど・・・。平気?」
「私は大丈夫です。コノハちゃんも居てくれますし」
「ええ。朱璃様、お願いします!」
大したこと出来ないけどなぁ。本当に情けないよね。私のできる事なんて。
「偉大なる能力の精よ。我の命に従いたまえ。汝の力で我らの能力を上げるのだ。『ヤールキィ・パドニマーチ』!」
せいぜい、2人の能力を上げることくらいだよ。
「! クローリク。危ないから、来ちゃだめだよ」
真っ白の兎が飛び出してきたので、私は慌ててそれを捕まえる。この子に、戦闘能力はないはずだ。
ん・・・? 何か、私に伝えようとしてる。私は、ギルドのカードを取り出した。
パラメータの中の、魔物使いが光っている。押してみると、光の画面が飛び出す。
クローリクの名前が書いてある。そこをを押すと、クローリクのパラメータが飛び出した。
そうか、使役スキルで、経験値を分けてたんだ。レベルは50。スキルポイントが250ある。
それとは別に『パラメータポイント』というのがある。こっちも250ポイント。どうやら、好きなパラメータを伸ばす事が出来るみたい。
高速で攻撃系のスキルと、攻撃パラメータに振り分け、クローリクを地面に下ろす。
「頼んだよ、クローリク」
敵が3人(2人と1匹)になったフェンリルゾンビは、全員に注意を向けることが難しくなったようだ。
じゃあ、ここに、私が入れば。
私は腰に差してあった鞭を掴んで走り出す。死角になるような角度から。
ヒュンッ!
黒っぽい血が飛び散る。当たった。ちゃんとダメージも入ったようだ。
フェンリルゾンビは少し慌てた。一気に敵が増えたから。それでも、的確に敵の強さを見極めたようだった。
目にもとまらぬ速さで、私に頭突きを食らわせる。さっきよりも、ずっと高く、遠くまで、飛ばされる。ああ、死んだな。
「慌てないで! お兄ちゃん、殺って!」
「あ、ああ! わかってる! たあぁ!」
強く頭を撃った私は、そこで意識を失った。
「朱璃ー? 大丈夫?」
「さ、咲耶・・・」
「あら、起きましたわね。一安心ですわ。記憶も正しいようですし」
「か、花凛・・・」
ほっとしたような咲耶と花凛の顔があった。ここは・・・、宿か。
ぴょこん、とクローリクが飛び乗った。頭を撫でてやる。いつも通り可愛いな。
「どう、なった?」
「颯也くんとエリヴェラちゃんは元気。シルシィちゃんはまだ完治してないけど、まあ、平気」
「心花ちゃんは、結構怖かったみたいですわよ。ですが、問題はなさそうですわ」
そう・・・。みんな、元気か・・・。
じゃあ、こんな事になってるの、私だけ? ほんと、情けないなぁ。
「マスター! 大丈夫ですか?!」
「朱璃姉ちゃん! 良かった・・・」
「朱璃様、大丈夫ですか?」
「ごしゅじんさま! 大丈夫なのー?」
みんなが飛び込んでくる。私の顔を見ると、ほっとしたような表情で、それぞれ形は違えど、安心した様子を示す。
ほら、みんな元気じゃないか。心配、させちゃったかなぁ。私のせいで・・・。
「――」
「え?」
「一人にさせて」
私が言うと、花凛と咲耶は小さく頷いて部屋を出て行った。
それを見ると、颯也、心花はそれに従い、よくわからなそうなエリヴェラも付いて行った。
「ま、マスター・・・」
「聞こえなかったかな。出て行ってくれる?」
「でもっ・・・。わかり、ました」
あぁ、なんか、迷惑かけてばっかり。私なんて、そんなもんか。
こっちに来て、勇者って言われて、もしかしたら、って思ってたけど、私が主人公になる事は、出来ない。
「朱璃、入りますわよ」
「うん・・・。いいよ」
花凛は、ちょっと控えめに扉を開けて入って来た。
もう外は真っ暗だ。今、何時なんだろう。窓に目を向けたまま、花凛の言葉に応える。
「だいぶ落ち着きました? 平気でしたら、この部屋を出ないと。みんな、寝れませんわよ」
「そう、だね。もう大丈夫。気にしないで」
「ならいいのですが。それに、朱璃は役立たずなんかではありませんわよ」
気づいてたんだ・・・。優しい顔で私の事を見て、ポンと頭に手を乗せる。
ちょっと躊躇った様にしてから、私を抱きしめて、私の髪をそっと触る。
「人を頼る事は、けして悪い事ではありませんわ。自分に何ができるのか考えて分担するのは、賢い事」
「そう、かな。でも、心配させちゃったのは・・・」
「心配するってことは、みんな、朱璃の事を思っているからですわ。大丈夫ですわよ」
花凛はそういうと、ポケットから何かを取り出した。
見れば・・・。それは、沢山の小さな手紙だった。授業中に回せるサイズ。
「これは、朱璃の悪口が書いてありますの。誰一人として、あなたのことを、心配していない」
「・・・・・・」
「ですが、彼女らは、あなたの事を心配しているのでしょう? ちゃんと、仲間ですわよ」
だからこそ、頼りたくはない。自分の事までやって貰って当然。そうは思いたくない。
みんなだって、命には限りがあるし、一歩間違えば死んでしまうかもしれないんだよ?
「・・・。で、これが、わたくしの悪口ですわ。報告してくれまして」
「えっ?!」
「その子、わたくしの事、心配なんてしていませんでしたわ。自分の立場しか、考えておりませんでした。あれは、わたくしの仲間ではありません。僕の方が正しいでしょうか?」
つまり、自分のために行動するのと、他人のために行動するのは違うってことだね。そんなことは、わかるよ。
だって、みんなは、私の事、良く、知ってるみたい。誕生日プレゼントからも、よくわかる。私の事を、楽しませようとしてくれていた。
私の事が好きで、一緒にいて楽しいと思ってくれてるんだって、喜ばせたいと思ってくれているんだった、思った。
・・・あれ?
「わかりましたか? 嫌でしたら、それ相応の態度をする事でしょう。彼女らは、それを嫌がってはいない」
「うん・・・。そう、かな」
「彼女らは、朱璃のこと、好きなんですわよ。だからこそ、従ってくれる。信頼してくれる事を、朱璃は、ちゃんとしてるってことですわ」
花凛はそういうと、立ち上がって扉も前に移動する。
「さ、大丈夫ですわ。彼女らは、朱璃を信頼してくれているのですから。嫌うはずなど、ないのですわよ」
「あ、マスター。痛いところ、ありませんか?」
「大丈夫だよ。シルシィは?」
「ま、だいたい直して貰いましたよ。花凛様の魔法、すごいんですけれど」
「朱璃姉ちゃん、さっき、ごめんな。身代りにしたみたいで」
「ううん。それより、最後の一撃、ありがとう」
「それなら、エリヴェラに言って。エリヴェラの言葉で、ちょっと落ち着いた」
「なんだか、私、何もできなかったみたいですね。でも、シルシィさんは私の事、必要としてくれてました」
「そう・・・。心花、ありがとね」
「あはは、人には人の役割があるんですよ」
「ごしゅじんさま、大丈夫? エリヴェラ、間に合わなかったの」
「ううん、平気だから、大丈夫。ギリギリで、バリア魔法使ってくれたでしょ」
「気が付いてたの? ごしゅじんさまが死んじゃったら、困るもん」
「ほらね? みんな大丈夫だったでしょ?」
「あれでいいのかなぁ? よくわかんない」
「誰も朱璃のこと嫌ってなんだから、いいんじゃない? ただの役たたずなら、嫌われるさ」
そうかなぁ。でも、みんなが私の事を好きなのは、よくわかったよ。




