第20話 お菓子の街
「すごい・・・。おしゃれですね」
「可愛いですー!」
入ってすぐ、シルシィと心花ちゃんが楽しそうな声を上げる。
それもそのはず、この街は、とってもメルヘンチックなデザインになっているのだ。
街のイメージは『お菓子の街』。街を見るためだけにやってくる人も多いとか。
「これ・・・? いい、のか?」
「んー? わかんなーい」
「なんで?! 可愛いじゃないですか!」
颯也とエリヴェラの言葉に、心花ちゃんが反応した。シルシィがあきれたような顔でそれを見ている。
「早く行きましょうよ、なんで入口でいきなり止まるんですか?」
「あ、そうだな。いこうか」
「あ、すみません! いきましょう!」
建物は、全て壁がクッキーそっくり。レンガだけど。扉はチョコレートみたいに見える。屋根もチョコっぽくて、キャンディーに似た装飾が付いている。
ベンチはクッキー。道路はチョコレート。そこの公園の椅子はマカロンだろうか? 全部お菓子っぽい。
「はわぁ・・・。私、ここに住みたかったです、朱璃様」
「こらこら。多分、すぐ飽きるよ」
「それもそうですね・・・。あ、エリヴェラちゃん、食べられませんから」
「お、おいしそう・・・!」
すっごく煩い人たちがいる、そんな目で見られてます。
どうしよう? この子たちを静かにすることはできそうにないけれどね・・・。
「雑貨屋にでも入ってみる?」
「行きたいです。楽しい街ですね・・・」
「マスターは知ってたんですね、その様子だと。わざとここに来たんですね」
「女子ってわかんねぇ・・・」
颯也にはつまんないか。そういえば、エリヴェラちゃんも興味があるってわけじゃないんだ。
シルシィと心花ちゃんはすごい楽しそうだけど。
私? 可愛いとは思うけれど、そんなもんかなぁ。
「マスター、お金使っても良いですか?」
「何か買っても良いですか?!」
「良いけど、ちゃんと必要なもの買ってよ?」
ちなみに、お金は前と同じ、半分だけ生活費にまわしている。
でも、シルシィや颯也の半分は異常な量だよ・・・。
戦えない心花ちゃんには、お小遣いをあげている。まあ、たまに狩りに行ってるみたいだけど。シルシィとか連れて。
「そういえば、朱璃姉ちゃんは良いのか?」
「え? うーん・・・。正直、そこまでとは思えない」
「あ・・・。そう。まあいいけど。あんまり子どもっぽく見えないよなぁ」
? 私はもう大人だけれど? どういうことだろう・・・。
「マスター! このお菓子なんて言いますか?」
「マカロンだよ。その小物入れが欲しいの?」
「可愛いですよねぇ・・・」
シルシィが持っていたのは、マカロンの形をした両手で包めるくらいの小物入れ。
水色だけどね。そんなマカロンって存在する? 着色料なら何でもありか。
でも、隣の鏡も欲しいのか、まだ迷っている様子。
「朱璃様、これ」
「・・・。心花ちゃんらしいね・・・」
「そう、ですか? うーん・・・」
心花ちゃんが持っていたのは、綺麗な装飾のついた瓶。薬を入れる大きさだから、多分それ用だろう。
攻撃に使うような瓶は投げて割っちゃうけど、液体の回復薬なら、割る事はない。そういうのなら、使えるんだろうなぁ。
「決まりました。じゃあ、買ってきます」
「あ、私も! 待って、コノハちゃん!」
二人は楽しそうに行ってしまった。まあ、楽しいならよかったよ、うん。
「なんかおかしいよ、二人とも!」
「え? マスター? 何でですか?」
「何かおかしいところでもあったでしょうか?」
どうして私がぬいぐるみ持って歩かなきゃいけないのさ?!
っていうか、いつの間に私に持たせてるの?!
時は少々さかのぼり、ぬいぐるみショップに入った時のこと。
二人は楽しげにお財布の中身を確認しつつぬいぐるみを買った。
が。まあ、二人の持っている袋の数から、おかしいな、とは思っていたけれど。
なぜか私は大きな兎のぬいぐるみを持たされているわけで。
ちなみに、シルシィは水色の熊、心花ちゃんは緑色の虎を抱いている。
・・・。そこまで色を合わせる必要ってあるんだろうか?
「マスターには兎がお似合いです!」
「それは貶しているように聞こえるよ?」
「えぇ? 可愛いですよー?」
まあ、つまりはからかわれているわけだ。とはいえ、こんなくだらないことで魔法陣を発動させるつもりは全くない。うん、全く、だよ・・・?
「次はどうする?」
「お昼はどうするんですか?」
「ここで食べてっても良いよ?」
「やった!」
適当にレストランに入ると、店内もやっぱり可愛かった。
なんか、女の子は良いけど・・・。実際、颯也は困っているようで。
「最近みんな頑張ってるし、どれでも良いよ」
「じゃあ、私これが良い!」
「僕これ!」
「うるさくしないでね?」
そう、お金は稼ぐけど、割と使い道がない。ほら、みんなどんどん強くなるから、貯金はすごいことになっている。こういう時に使っても問題はない。
楽しそうなのは、私も嬉しいし。
なにせ、あんなに人の事が嫌い、世界が嫌いって顔してたみんなが、こんなに楽しそうにしてるんだもん。
やっぱり、それは嬉しい事でしょ?
結局パフェやらのデザートも食べたみんなは、しばらくこの辺でレベルを上げようと言う事になった。
もうすぐ颯也のレベルがマックスの100になるしね。このあたりは炎の鹿がいるから、レベルがあっという間に上がるんだ。
「ちょっと街から離れないと、魔物と会えないから」
「分かりました。では、行きましょう」
結界があるから、魔物は近づけないし、近づかない。
多少離れれば、私たちは炎の鹿にとって恰好の獲物。どんどん寄ってくるんだ。
と言うことで、トコトコ歩いて行く。基本的に、炎の鹿は大きな群れで来るから、近づけば絶対に気が付く。だから、割と普通に歩いて行く。
「朱璃様っ、きゃああ?!」
「コノハお姉ちゃん! ねえ、ごしゅじんさま! あ、やー!」
後ろの方を歩いていた心花ちゃんとエリヴェラちゃんが悲鳴を上げ、私たちは慌てて振り返る。
2人は、男の人に取り押さえられていた。
「あ、囲まれてるよ。シルシィ、颯也、気をつけて」
「分かってる。それより、二人を」
「私が。『マーリニキィ・アゴーニ』」
シルシィが火の魔法を放つと、男の人は驚いて手を離す。
ちょっとはバランスを失った心花ちゃんとエリヴェラちゃんだったけれど、すぐに立ち直って私たちの隣につく。
「へっ、運が悪かったな。俺たち、このあたりで最強と呼ばれる盗賊に出会っちまうなんてよぉ」
「・・・。エリヴェラちゃん。何かあったら、朱璃姉ちゃん連れて、すぐ逃げろよ」
「わかった。無茶しちゃだめだよ」
颯也は私をちょっと後ろに隠すようにして、そっと手を握ってくれる。いつも、私を落ちつけるために、やっているように。
シルシィも、盗賊から目を離さないで睨みつけている。前に私の体験を話したこと、覚えてるのかな。
じりじりと盗賊たちが近付いてくる。人数は五人。それに合わせ、みんなも戦闘の準備をしていく。
シルシィは軽く袖をまくり、魔法がすぐに撃てるようにした。
颯也は右手で剣の柄を掴み、握っている左手に少し力を入れた。
心花ちゃんは大きなかばんのファスナーを開け、薬がすぐに取り出せるようにした。
エリヴェラちゃんは、いつも使っている鎌を丁寧に握りなおす。
「よし、野郎ども! 掛かれェ!」
「イエス、ボス!」
最初にかかって来た人に向かって颯也は走って行った。
斬りかかるが、避けられる。もう一度振ったけど、当たらない!
颯也はイラついたように盗賊のことを睨む。
「あんた、何レベルなんだよ」
「50+、だったか?」
「! 化けもんだな、あんた」
2人の盗賊に向って、エリヴェラちゃんは鎌を振る。軽く避けられたのを見て、エリヴェラちゃんはトルナードを使うが、まだ当たらない。当たらないと踏んで、魔法を使ったけれど・・・。ダメか。
残りの二人は、シルシィが相手をしている。さっきから何発も撃っているけれど、やっぱり当らない!
なんだか、もどかしい戦いだ。攻撃が一切当たらないなんて! もはや、それだけにすべてをつぎ込んだようになっている。
「さ、お前ら、捕らえるんだ!」
「イエス、ボス!」
まだ隠れていたのか?! どこからか盗賊が出現し、私たちは手を縛られる。
それから、馬車の中に放り込まれた。真っ暗で何も見えない中、心花ちゃんの泣きそうな声が聞こえてくる。
「どうなっちゃうんでしょう?」
私たちは、別々の部屋に入れられた。真っ暗で、どうやらとても狭いみたい。
別々にすれば、大人しくすると思ったんだろうか?
いや、甘い。このロープ、魔法の耐性が付いていない。こんなのでは、簡単に突破されるだろうに。
「火の精よ。我に力を貸したまえ。『スクロームヌィ・アゴーニ』」
ロープは簡単に焼き切れた。足はここまで歩いてきたから、縛られていないのは確かだ。
「光の精よ。我の命に従い、まぶしい光を作りたまえ。『マーリニキィ・スヴェート』」
光の魔法を唱えると、部屋が何となく明るくなって、少しは見えるようになる。
壁は石か・・・? コンクリートだな。とっても冷たい。
一面は鉄格子。鉄だと思う。鉄じゃなくても、どっちにしろ、私には何ともできない。
「どうしようかな・・・。まあ、行動しないより、ましかな?」
私は、タロットカードの中から、パラメータ強化のカードを取り出す。
「能力の精よ。我の命に従い、我の攻撃を上げるのだ。『マーリニキィ・パドニマーチ』」
パラメータ強化の魔法を応用して、攻撃のみを上げる。
「じゃあ・・・。いでよ、『鬼の棍棒』!」
私はドロップの中から一番重そうな棍棒を取り出す。パラメータは十分強化してある。持つことは可能。思い切り振った。
「うわぁ?!」
すごい音がして鉄格子が壊れた。ついでに、向こうから声が聞こえたんだけど・・・。
「颯也! 出れたんだ?」
「ってか、朱璃姉ちゃん、何持ってんだよ?!」
「ん? あっ、重っ!」
パラメータ強化が切れた。強化の方に力を入れて、時間を超低くしたから。
おかげで落した棍棒は、すごい音を立てて転がって行く。それを颯也がひょいっと持ち上げる。
「うわ?! 重い! よくこんなの持ってたな?」
「パラメータ強化を最大までかけたから。それより、良くロープが切れたね」
「僕? 力込めたら切れたけど」
おいおい、どんな適当な奴らなんだよ。そんなことしようとしてないから固さなんて知らないけど、颯也、自力で切ったって・・・。
じゃあ、鉄格子は?
「いつもの剣できれいに切れたぞ? これの切れ味、怖いな」
「えぇ? なんだそりゃ」
「って、シルシィ姉ちゃん助けに行かないと。魔法じゃ相性が・・・」
「その必要は、ありませんよ?」
大きな音がして、颯也の隣の鉄格子が消え去った。その後ろに立っているのは、右手を肩の高さまで上げた、シルシィ。
「土魔法を最大まで硬くしたら、砕けました」
それに続いて、私の隣も崩れていく。エリヴェラちゃんが楽しそうに鎌を持って立っている。
「思ってたより弱かったの。簡単だった!」
「私も舐めないでください!」
「心花ちゃん?!」
颯也の、シルシィと反対側の鉄格子も消え去った。辺りにはガラスが飛び散っている。
「薬物をうまく使えば、なんてことありません。念のため、ポケットにはナイフがさしてありましたしね」
みんな出れたのか。あいつら、戦闘能力高いくせに、甘すぎでしょ?! 甘いっていうか、頭が弱いってことだろうけど。こんなのでいいんだろうか? 私たちにとっては好都合だけどさ。
と言うことで、脱走しようと試みる。
「あ・・・。移動、出来ない。妨害魔法があるみたい」
「そう・・・。じゃあ、出口を探すしかないね」
私たちは歩きだす。なんといっても、心花ちゃんの牢屋が、一番端なんだ。歩く方向は決まっている。よく考えて入れろよ。馬鹿にもほどがある。
しばらく歩くと、足音が聞こえてきた。一本道の中、私たちは顔を見合わせる。とりあえず、エリヴェラちゃんの魔法で見えないようにしてもらう。
「あいつら、結構高く売れそうだよな」
「子どもは売り飛ばして、あのアマは・・・。可愛がってやればいいだろ」
「そうだな。楽しんだ後は、ボスに献上ってな」
あわわわ・・・。聞いちゃいけない事、聞いちゃった。聞かなくていい事、聞いちゃった。
このまま捕まっちゃったら、どうなっちゃうんだろ。
「あ?! おい、逃げられてるんじゃねえか?! あれ、見ろよ!」
「まだ近くにいるはずだ、探せ!」
誰からともなく、私たちは走り出す。もう、今逃げるしかない。じゃないと、沢山の人に囲まれてしまう。
何とか階段を見つけて、地上に上がる。けど、家の中だ。どうしよう?
「みんな、寄ってくれる? 魔法が使えるの。いくよ、開門!」
「・・・、はぁ、よかったですぅ」
心花ちゃんがぺたんと座りこむ。颯也とシルシィも疲れたような表情をしている。
とりあえず、ギルドに報告した方が良いんじゃないかということで、私たちはギルドに向かっていく。
心花ちゃんも何とか歩いて付いてくる。まったく、さっきまで楽しかったって言うのに・・・。
「はい、わかりました。連絡、ありがとうございます」
「あ、はい。よろしくお願いしますね」
みんな、話しているうちにさっきのことを思い出して、怖くなってしまったわけで。
結局シルシィが全て話す事になってしまった。
「大丈夫ですか?」
「だ、だって・・・。なんか、嫌」
「分かってるけど、エリヴェラ、牢屋、嫌い」
「あの人たち、私たち売るって言ってたんですよ・・・」
シルシィはため息をついて私たちを見ていた。
「あら? 朱璃じゃない? どうしたの・・・えっ?!」
「み、雅さん? こんにちは・・・」
「みんなして泣いちゃって・・・。何があったの?」
シルシィが簡単に説明すると、雅さんは軽く頷いた。理解した、ということだろう。
「朱璃は前にも盗賊に狙われてるものね」
シルシィも嫌そうにしている。まあ、そうだろうね。
「とりあえず、早く帰りましょうか。エリヴェラちゃん、いけますか?」
「うん、いいよ」
「ちょ、ちょっと待って。一緒に行ってもいいかしら?」
え・・・?
「な、なんで・・・?」




