第18話 冒険に出発
忘れていた。この世界では、成人は十五歳。私はもう、大人と言う事になる。
まあ、大して関係ないけれどね。でも、うちの子どもたちの面倒は、出来る限り、みないとなぁ。
と、それはさておき。今から冒険に出発です! 準備も整ったし、シルシィもレベル50まで到達したし。
で、街を歩いていると、紫さんと会った。
これまでも何度か、紫さんとは会っている。
一番最初は、颯也が来てすぐのときだ。それは知っているはずだね。
次に会ったのは、心花ちゃんが来てすぐの時。この時、心花ちゃんは家で服を延々と作り続けていて、居なかった。何セットか作らないと! と言って。
私達の来ている服を見て、絶句した紫さん。
それもそのはず。服を変えるというのは、気持ちを改めるため。もう、雅さんたちのパーティに戻る気はない、と言っているのと同じだから。
でも、その時、紫さんは、似合っていると、一言だけ。それで、終わりだった。
次に会った時のことは・・・。正直、思い出したくないのだけれど。
私が一人で街を歩いていた時。何やら言い合いをしている二人の女の人がいた。
片方は紫さんで、もう片方は、心花ちゃんだ。
「朱璃! こんにちは、助けて!」
「紫さん。どうかしたんですか?」
話を聞けば、紫さんは、雅さんに頼まれて、ドクロ病を直している医師がいる。その事を調べて欲しい、と頼まれたのだそう。どうやら、不正にお金を取っていないか、など、気になるところがあるらしい。まあ、はっきり言えば、私のことを探してたわけだな。ただし、私だとは知らなかったよう。
で、偶々話を聞いたのが心花。
私のことを悪者扱いしたような聞き方に激怒。で、こうなっていた、と。
「朱璃ちゃん、何か知らない?」
「さぁ? 教える事はありませんね」
「で、でも、朱璃様は・・・」
紫さんの動きがぴたりと止まった。
「この子、あなたの奴隷?」
「そうですけれど?」
「ふぅん、また増やしたんだ」
そんなやり取りをしている間も、心花ちゃんはずっと文句を言っている。
「朱璃様! この人、朱璃様のこと、悪者だって、思ってたんですよ?!」
「気にしないで。帰ろう? 別に、必要な人にだけ、使えば良いんだからね」
「でも・・・。朱璃様は、悪いこと、してないじゃないですか」
心花ちゃんは、どうしてもそれが我慢できないらしい。まあ、気持ちはわかるけれど。
自分の命の恩人で、しかも主人が、悪者なんじゃないか、と疑われていたら・・・。
「今、何て? もしかして、あなたが・・・」
「心花ちゃん、帰ろうね。シルシィも颯也も待ってるから」
「はい、わかりました」
「ね、ねえ、朱璃、どこに行こうとしてるの?」
「冒険にでも。まあ、エリヴェラちゃんがいるから何とかなるでしょう」
「んー? エリヴェラ? なぁに?」
「悪魔・・・。あなたってば・・・」
心花ちゃんは紫さんのことを睨んでいる。まだ嫌いか。当然だろうけど。
紫さんも、心花ちゃんを見ると、ちょっと嫌そう顔をした。
「雅さんには、言わないで欲しいんですけれど」
「えっ?」
「雅さんの、連絡係。違いますか?」
おそらくは、雅さんに、私の様子を伝えているんだろう。
じゃなければ、監視しているかのように定期的に会いに来るはずがない。
「では」
「あ、待って!」
「良かったんですか?」
「ん? 紫さん? いいのいいの。あれくらいの方が、人を頼らないでもやっていけてるって、分かって貰えるから」
「そういう、ものですか?」
シルシィは納得していないようだった。
「あの人嫌いです。朱璃様のこと・・・」
「もう終わり。それより、もう街の外。魔物は出るんだよ?」
「分かってます。薬の準備は出来ていますよ」
エリヴェラちゃんは眠そうな顔で後ろをついてきている。まあ、いつも通りって感じだ。
「颯也、前お願い」
「分かった。心花ちゃん、朱璃姉ちゃんに。エリヴェラちゃん、一応気をつけて」
「うん、朱璃様」
「んー? わかってるよー」
歩いて行っても、弱い魔物は、寄ってこない。しばらく魔物と戦うことはないだろう。
だから、談笑しながら進んでいく。
しばらくすると、赤い鹿のようなものが群れでこちらに向かって来ているのが見えた。
すぐに心花ちゃんが図鑑をめくって調べ出す。
「えぇと、ちょっと待って下さい。あれは・・・。炎の鹿、ですね」
「なるほど。水の精よ。我の命に従い、大量の水を発生させるのだ。『マーリニキィ・ヴァダー』」
「援護します。海の精よ。我に力を貸したまえ。群青の海を呼び起こすのだ。『バリショーイ・ヴァダー』」
エルフ魔法レベル2の私がマーリニキィを撃つと、シルシィがバリショーイを撃つ。私だけでは倒せなかっただろう。
一応・・・。倒せたようだな。颯也があたりを見回してから、こちらに合図をくれる。
「あ、マスター。レベルマックスに」
「あ、本当だ。今やっても平気?」
「いいよ。朱璃姉ちゃんは、何を上げるんだ?」
そうだなぁ・・・。使役の向上っていうのがあるなぁ。これが良いか。
私は、使役スキルがメインで、戦うのは補助的な物だし。
「じゃあ、使役を上げるね」
「マスターにはそれが良いでしょうね」
朱璃 14歳 ランクC パーティ『宝積』 パーティランクD
レベル1+ ダメージ200 マジックパワー100 スタミナ150 力80
魔法250 守備90 速さ350
タロットカード入手可能 召喚成功率小UP タロットレベル3 短剣レベル2 ドロップ率UP 魔物使いレベル2 魔力レーダー 鞭レベル3 使役レベル5 エルフ魔法レベル2 使役+レベル1
奴隷1 シルシィ 颯也 心花 エリヴェラ
スキルポイント155 振り分ける
「出来た。ずいぶん弱くなったから、戦いは任せたよ」
「分かりました。任せて下さい」
「分かった。僕達がメインで戦えば良いんだね」
次に会った炎の鹿の群れは、颯也とシルシィが一瞬で蹴散らした。
ってか、私、最初からいらなかったんじゃない?
エリヴェラちゃんも、ボーっとその戦いを眺めている。
「あ、また来たぜ。ここはこいつらしか出ないのか?」
「基本的には、そうみたいです。頑張って」
颯也が剣を構えようとすると、すぅっとエリヴェラちゃんが前に出た。
みんなが困惑していると、エリヴェラちゃんは首を傾けて右手を前に出す。
「闇の魔王様、少し力を分けてね。『モデストゥ・フォンセ』」
エリヴェラちゃんの右手から真っ黒の光線が出て、鹿の群れに襲いかかった。
一瞬で、鹿たちは消え去っていた。・・・え?
「エリヴェラも戦いたかったの」
「あ、ああ、そうか」
「エリヴェラちゃんの戦闘能力がいまいちよくわかりません・・・」
なんか、すごい強くない? おかしいなぁ・・・。
もしかして、悪魔ってすごい強いのか?
「今日はここで帰りましょう」
「うん、分かったー。『アンドロワ・メモワール』、『ス・デプラセ』、開門!」
一瞬で家まで帰ってくることができた。本当に便利な技だなぁ。悪魔魔法ってすごい。
さっきまでいた場所を記録しおいて、明日、そこに飛べば、そこから冒険を始められるわけだし。
「ソウヤくんももうすぐ100でしたよね」
「でも、朱璃姉ちゃんがもうちょっと上がらないと、厳しくないか?」
「そうかもしれませんね」
とはいっても、もう20まで上がったけれど。やたら上がりが早い。なんでだろう。
後で知ったのだ。鹿《レ-》の種類は、レベルが高く、普通の冒険者にとって鬼のような存在だと。
「ねえ、朱璃様。もし、何かあったら困るし、野宿の練習もした方が良いんじゃないですか?」
「そうだね。テントくらいは私の異空間に置いておけるだろうし」
ということで、テントと調理器具を少し持って昨日の場所にワープした。
最近は、だいぶ暑くなってきたから、シルシィたちの動きが変わってくる。ま、要はだらけてきたわけで。こんなときに、どうして冒険なんて始めたんだろう。
「・・・、ねえ、エリヴェラちゃん。どうしてそんなに元気がないの?」
「んー? どうしてー?」
「なんか、そんな感じがするんだけど・・・」
エリヴェラちゃんはちょっと迷ったように視線を落とす。
そんなに困る理由でも? だったらいやだなぁ。まずいこと言っちゃったかも。お母さんも、いないわけだし・・・。
「じゃあ、お願いがあるんだ・・・」
「ん? なあに?」
「悪魔はね、戦うのが大好きなの。血が、大好きなの。だからね・・・」
そっち方向じゃなかったのか。もしかして・・・。
「魔物の大出血が見たい」
「やっぱりか!」
悪魔は、1週間に1回は必ず大出血を見るものらしい。怖いなぁ・・・。
それで元気がなかったって訳らしいけど。ほんとにそんなんでいいのかなぁ?
「じゃあ、エリヴェラが戦うの、黙ってみててね」
「わかったよ。ってことだから、わかった? シルシィ、颯也」
「了解です」
「いいよ。エリヴェラちゃんの本気って何なんだろうな?」
ということで、次に会った炎の鹿は、エリヴェラちゃんが仕留める事になった。
「じゃあ、いくよー。『プチ・ルヴェ』」
エリヴェラちゃんは自分に補助魔法をかけると、大きな鎌を持って飛んで行った。
「あはは、『トルナード』、『ティフォン』」
鎌を大きく振りまわしながら、炎の鹿をなぎ倒していく。
大出血と言っていたけれど、まあ、そうだろうなぁ。心花ちゃんが視線をそらす。
「楽しいな。も一回! 『トルナード』!」
トルナード。鎌を自分を中心として円形にぐるぐる振り回す。まあ、どうなるかは・・・、わかるよね・・・。
「あはははは! あはははははは!」
「あ、悪魔がいるな」
「エリヴェラちゃんは悪魔ですよ?」
「いや、シルシィ、そういうことじゃないでしょ?」
全て刈り取ると、エリヴェラちゃんは炎の魔法を放ってすべてを焼き尽くして戻ってくる。
ちなみに、下に生えてた草も含め、ね・・・。
「楽しかった! ありがとう、ごしゅじんさま」
「あ、そう・・・。じゃあ、進もっか」
「は、はい・・・」
なんか、悪魔といるっていろいろ大変だな・・・。魔法は便利だけど、便利な物には欠点があるものだ。心花ちゃんは合わなかったか。そのうち慣れるかな。そうじゃないと困るだろう、色々と。
「もうしばらく大丈夫。一週間後くらいにまたやればへーきなの」
「そうなんだ。じゃあ、今日はもう良いのね?」
「うん。進もう、ごしゅじんさま」
「あれ? どこですか?」
「ちがう、こっち! お兄ちゃん!」
「は? どこだ?!」
「違います! シルシィさん!」
あぁ・・・。何やってるんだろう。
私が料理している間にテント作らせようと思ったら、喧嘩になっている。
立て方、一応、今日買ったときに口では説明されたけどさ・・・。それじゃわかんないよ。
心花ちゃんが文句を言いながら全員に指示を出している。エリヴェラちゃんも分かってるようだ。颯也になんだかんだ言っている。
まあ、喧嘩しながらもなんとか立ったようだね。一瞬で喧嘩してたなんて忘れて目を輝かせて中に入って行った。
まぁ・・・。子どもだな。
「ほら、みんな! 出来たから、こっちに来て」
「あ! 朱璃姉ちゃん、ちょっと待って!」
「マスターが言ってるんだから行きましょう!」
「えええええ?!」
シルシィにとって、私の命令は絶対のようだね・・・。
颯也にとっては二番目で良いのだろうけれど。あ、心花ちゃんとエリヴェラちゃんが連れてきた。
「なんだよ・・・。まあ良いけど、今日は何?」
「もう・・・。今日は炎の鹿と野菜焼いてみたよ」
「わぁ。ごしゅじんさますごーい」
「朱璃様は料理が上手ですよね」
まあ、炎の鹿自体はあんまり美味しくないらしいけれど、一応食べられるようにはしてあるはずだ。
美味しいかは知らないけれど。
「ん! 美味しい!」
「本当ですね。マスター、下準備が上手なんですかね?」
「わあ! 美味しいー」
ホントだ。なんでだろ。美味しくないとか、嘘じゃん。図鑑が嘘つくとか・・・。
っていうか、冒険者が料理下手なんじゃない? うーん・・・。
「ところで・・・。魔物襲ってこないんですか?」
「んー? エリヴェラが追い払ってるよー?」
「・・・え?」
今、何て? 追い払うって、どういうこと?
「あのね、悪魔の縄張りはってるの。この範囲は、エリヴェラの場所なの!」
「へぇ・・・。縄張り、ねぇ」
「エリヴェラより強い魔物は入ってこれちゃうけどねー」
まあ、炎の鹿との戦いを見る限り、この辺りにエリヴェラちゃんより強い魔物はいないだろう。
エリヴェラちゃん・・・。何者なんだよ・・・。
「エリヴェラのねぇ、お母さん、ホントに強かったんだよ」
「そう、なの?」
「うん・・・。なのに、連れてかれちゃった。卑怯なの。毒を盛られたの。その後、バラバラにされちゃった」
毒・・・・・・。だからか。エリヴェラちゃんは、何を食べるのも、ちょっと躊躇う。みんなが食べ始めるまで、絶対に口にしない。
って、バラバラ?! 言い方的には、おそらく、エリヴェラちゃんの見ている前で・・・。
本当に、許せない事をする人がいるもんだ。そこまでして、何が得られるんだろう。
「でも、ごしゅじんさまは、そういうこと、しないよね?」
「! もちろんだよ。エリヴェラちゃんは、私の大切な仲間だもん」
「わかってるの。でも、ちょっとまだ、躊躇っちゃうの・・・」
エリヴェラちゃんは、空を見ながら呟いた。




