第15話 ドクロ病のお医者様
「やったぁ! みんな、ありがとう!」
私の体が光るのを見て、みんなは顔を輝かせた。
なにせ、二週間もかかったんだから!
今ここにいるのは、シルシィ、颯也、心花ちゃん。あとちょっとだったから、みんなで来たんだ。
「よし、出来た! これで大丈夫だよ!」
奴隷みんなの手に入れた経験値の半分を私に預け、それを分配する。
だから、心花ちゃんの手に入る経験値はちょっと少ないけれど、仕方ないよね。
「じゃあ、心花ちゃんのレベル上げ行くよ!」
『おー!』
「みなさん、ありがとうございます」
「コノハちゃん、すごいレベル上がりましたね」
みんなが頑張ったので、すごい量の経験値が入ったようで、二、三時間なのに、もう20になっている。
「じゃあ、お昼にしようね」
「はい! 今日はなんでしょう?」
「ふふ、好きな物作ってあげるよ」
私はそう言ってから、とりあえずシャワーを浴びに行った。
「朱璃姉ちゃん! 誰か来たけど!」
「ん、わかった、いま行くね」
お昼を食べ終わったあと、颯也が私を呼ぶので、すぐに玄関へ向かった。
「え! 花凛?!」
「は? 私はオリヴィアですわよ?」
「あ、いや・・・。人違いのようです。似てまして」
あの時、私を突き飛ばした・・・。花凛。忘れもしない。あの子にそっくりなエルフだったんだ。
黒髪は長くて、目は長くて、化粧がちょっと濃い。女子をまとめる女子って感じでしょ?
「いえ・・・。勇者なのね? あなたは誰?」
「・・・? どういうことですか?」
「まあいいわ。それより、ドクロ病の治療ができるっていうのは、あなたですわよね?」
私が頷くと、オリヴィアは後ろを向いて何かを言った。
すると、やったら大きな、それこそ、暮らせそうな馬車から、たくさんの人が出てくる。
「治療していただきたいの。出来るかしら?」
「あの、具体的に、何人くらいです?」
「50名くらいでしょうか」
私たち4人は顔を青くした。五十人も治療したら、私はどうなるだろう? あの痛みをずっと味わうなんて嫌だ! それこそ、気が狂いそう。
オリヴィアが首をかしげる。
「何か、困ることでも? 治療費はお支払いいたしますわ。金貨五千枚で宜しくて?」
「い、いただけません! そんなにはダメです!」
「そうですの? では、間をとって金貨二千五百枚ということにいたしましょう」
はぁ・・・。これはダメなやつだ。なんでも金で解決しようとする奴。何が何でも、妥協しない。
まあいいや。颯也、颯也のお父さん、心花ちゃんの他にも、見つけるたびに治療はしているし、有名になっているのも知っていた。だから、いつかはこういう人が来るんじゃないかって思ってたんだよなぁ。
「わかりました。では、進行している人から、お願いします」
「ありがとうございますわ。では、皆さん! 聞きましたわね?」
最初に来た人は、もう真っ赤だった。
今までの経験から、進んだ人ほど痛い。ちょっと躊躇ってしまうが、やるって言ったし。
握ると、一瞬で痛みに襲われる。私は思わず手に力を込めてしまった。患者は、驚いたように私の顔を見る。
でも、私の様子を見て、心配そうな目に変わった。そう、こっちは必死なんだ。
「マスター、大丈夫ですか?」
シルシィが私の空いた手を優しく包んだ。
「朱璃姉ちゃん、無理しちゃダメだぞ」
颯也が私の背中を優しく叩いた。
「朱璃様、頑張ってください」
心花がタオルで私の汗をそっと拭う。
「これは、どういうことですの?」
さっきまで黙っていたオリヴィアが聞いてくる。明らかに動揺しているようだ。
「朱璃姉ちゃんは、治療できるけど、その分自分に痛みが来るんだ」
「痛みを肩代わりする、といえばいいでしょうか」
「進行してるほど、それは大きいんです」
みんなはオリヴィアを鋭い目で見ながら強い口調で言った。『あんたがやれって行ったんだろ!』って。
「そ、そうでなくて! 今、朱璃とおっしゃいましたよね?」
「は? 朱璃姉ちゃんの名前は朱璃だろ?」
「ええ。シュリだと聞いています」
そうか。オリヴィアは、やっぱり花凛なんだな。気がついたか・・・。
だんだん痛みも引いてきたし、私はそっと息を吐いてオリヴィアを見る。
「ええ。朱璃ですよ。それが何か?」
「・・・! いえ、なんでもないわ」
本当にそうならいいのだけれどね・・・。それは嘘だろう。もう、目が、変わったもの。
花凛・・・。できれば会いたくなかったな。何されるか、わかんないし。
そんなことを考えつつ、私は二人目に取り掛かるのだった。
「マスター! もうやめてください!」
シルシィが泣きながら飛びついてきた。さっきから、頭は痛いし、視点が定まらない。やめたほうがいいだろうか? でも、今やってる人は、終わりにしたい。中途半端は、嫌だ。
「朱璃姉ちゃん! もうダメだって!」
「朱璃様! 無理しちゃダメです!」
「わかってるよ・・・。でも、この人は・・・」
オリヴィアまでもが心配そうな目をしている。それほどまでだろうか?
でも、あとちょっとだから・・・。そうしたら、ちょっと休憩させてもらおう・・・。
「マスター!」
「朱璃姉ちゃん!」
「朱璃様!」
がたん、と大きな音がした。私の目の前には、倒れた椅子があるようで。もう状況が分からないよ。
「だから言ったのに! マスター! 聞こえますか?!」
「シルシィ姉ちゃん、慌てちゃダメだって。とりあえず、ベッドに運ぼう」
「うぅ・・・。璃様しっかりしてください! 大丈夫ですか?!」
声が遠くに聞こえる気がする。なんか、水の中にいるみたいだ・・・。
「うっ・・・。あ・・・」
「マスター? 大丈夫ですか?」
目を開けると、白髪のエルフがいた。ちょっと幼くて、でも、なんとなく大人っぽい、私の大切な、シルシィ。
私の額に手を当てて、ちょこっと考えたような仕草をしたあと、優しい声色で「熱、まだありますね」と言った。
「まあ、五人の病気を肩代わりしたわけですし、当然ですよね」
「うん・・・。なんか、ごめん・・・。本当に・・・」
「泣かないで。大丈夫、マスターは悪くないですよ・・・」
ぽんぽんと、あやすように私の肩を叩いた。それから、そっと頭を撫でる。立場がおかしいのだけれど・・・。
「あ、オリヴィアさん、起きましたよ」
「良かった・・・。なんだか、すみません」
「う・・・。ごめんなさい、できるって言ったのに」
「私も、ちょっと軽く考えすぎておりましたわ。強い病気ですもの。酷い対価なのですね」
オリヴィアがシュンとして私に言う。私は驚いて何も言えなかった。花凛とはあまりに違いすぎる。
私の知っている花凛は、先生や親の前では超優等生、でも、本当の性格は冷血で残酷。生徒たちの前では、権力を振りかざし、平気で人をいじめるような人だ。
でも、目の前のオリヴィアは・・・。優しくて、思いやりがある。少なくとも、そう見える。
勇者になったことで、この世界で来たことで、人が変わったのなら・・・。うまく、やっていけるかもしれないなぁ。
「私たちは、馬車の中でしばらく暮らせます。近くにいるので、元気なときにでもお願いしますわ」
「わかりました。多分、明日には平気だと思うので・・・」
「マ、マスター! 絶対無理しちゃダメですよ!」
「・・・では、そこの砂浜に居させていただきますわ。よろしくお願いします、皆様を救ってくださいまし」
「もちろんです。私でよければ」
一週間かけて、全員の治療を終わらせた。
オリヴィアは今、私の家の前に立っている。帰る前の挨拶だ。
ちなみに、当然私たち四人も立っている。まあ、みんなもいろいろ協力してくれたしね。
「朱璃さん、ありがとうございました。・・・いえ、違いますわね。朱璃ちゃん、ありがとう」
「! 花凛さん・・・」
オリヴィアはそっと微笑んだ。私も、少し笑って答える。
「私、変わった毛色のエルフって、ほかのエルフにいじめられちゃったの。で、別の種族にも、エルフってだけで、狙われちゃって・・・」
「え・・・。確かに、このあたり、エルフは高く売れるよね・・・」
「ああ、そうなんだ・・・。それで、その度に朱璃ちゃん思い出しちゃってさぁ・・・」
花凛は下を向いて、泣きそうな顔をした。
多分、少しは分かってたんだろうな。いけないことしてるって。
まあ、分かってなかったら、ただの極悪人。でも、それじゃ、この世界で生き残れないだろう。
「会ったら、協力しようって、思ってた。あと、謝ろうと思ってた。ごめんね、こんなんじゃ、許してもらえないだろうけど」
「ううん、謝る気があるんなら、それだけで十分だよ」
「あ、ありがとう・・・。本当に優しい子だね。でも、なにかお礼しないと・・・。この子もうるさいしね・・・」
そう言って、オリヴィアは胸に手を当てた。ああ、魔王の使い魔・・・。
「朱璃姉ちゃん、助け合いはダメなんだぜ、なにか貰わないと」
「そうですよ、殺されちゃいます」
「そう、なのよ。何か、欲しいもの、ないの?」
「だって、ないんだもん・・・」
「あの、私から、ひとついいですか?」
みんながごちゃごちゃ言っていると、シルシィが手を挙げた。
「もしかして、スキル寄付持ってます? マスターにエルフ魔法の適性を持たせることって、可能ですよね?」
「! ふぅん、よくわかったじゃん。出来るよ。それが私の貰ったチートだもん。それでいい?」
「何も、減らないの?」
「ま、そうね。ただ、一日一回しか使えないけれどね」
私がそれなら、と頷くと、オリヴィア、ではなく花凛はそっと目を閉じた。
少しすると、私の体はレベルアップの時のように、ピカッと光った。
「ところで、仲間はこの三人? 奴隷よね」
「うん、そうだよ。私の使役スキルが効くの、奴隷だけなんだ。花凛さんは?」
「ふぅん・・・。少なくないの? 私は、万単位で軍作ってるけど」
「?!」
万単位で軍・・・?! まあ、花凛のやりそうなところだよね。
じゃあ、ほかの勇者も?! まずいかな・・・?
「まあ、また、よろしくね。朱璃ちゃん、頑張って」
「うん、花凛さんも、頑張ってね」
「花凛でいいわよ。朱璃」
「わかった。えっと、花凛、またね」
花凛は馬車に乗ると、こちらに手を振っていた。暫くすると、馬車はカタカタと動き出して、見えなくなってしまった。
にしても、随分大きな豪華な馬車だったな・・・。
「他の勇者も、そんなにたくさん仲間がいるのかな?」
「え? そう、ですね・・・。まあ、マスターにあったやり方でいいと思いますが」
「僕もそう思うよ。朱璃姉ちゃんはこっちが似合うよ。ひとりひとりを大切にしてくれるじゃん」
「ドクロ病で見捨てられてしまっていた私も大切にしてくださいましたし」
そうか。じゃあ、いいか。確かに、軍を扱う自信はないしね。
でも、もうちょっとしたら、また増やすか・・・。あ、家を大きくするのが先か。
「ねえ、今更だけど、心花ちゃんはいま、シルシィの部屋使ってるじゃん」
「ええ。部屋が足らないのでしょう?」
「大きくしない?」
「! いいな、それ!」
ということで、早速街に向かっていこう。
「なるほどね。前に家を買ったお嬢さんか」
「大きく、できますか?」
「ああ、あの辺り、土地だけは多いだろ。土地買うなら、できるぞ」
なるほど。じゃあ、一応、今はお金に余裕があるし、どんと大きくしてもらっちゃおうか?
金貨五千枚なら使えるだろう。最近は毎日のようにドラゴン倒してたし。
「予算は、金貨五千枚なんですが・・・」
「ああ、そうか。ってことは、だいぶ大きくできるぞ、あの辺は街の中心地から遠くて、安いからな」
「具体的に、どれくらいできます?」
「そうだな・・・。もし木材を準備できるようなら、だいぶ安くなるだろうな。」
土地の大きさは八十五平方メートルということになった。十畳の部屋五部屋分くらいか。
で、外装を綺麗にしてくれるらしい。値段は金貨三千枚だと・・・。
「まあ、魔法でやるからな、一瞬だ」
「木材は、どうすればいいです?」
「ああ、海辺の洞窟、知ってるか? あの中に、海風に強い樹があるんだ。もって来れるか?」
え・・・。もって、これるかなぁ・・・? まあ、なんとかしよう。
「わかりました」
「ここだよね、洞窟」
「ええ、そうですね」
海岸の、颯也が飛び降りようとした、崖。その壁に、ポッカリと口を開けた洞窟がある。
まさに、海辺の洞窟、だな。私は注意しながらその中を進んでいく。
「心花、僕のそばを離れちゃダメだぞ」
「うん、ついてくね・・・」
「ソウヤくん、コノハちゃんもですけれど、前見てくださいよ?」
ワイワイ話しながら、私たちは洞窟の中を進んでいった。




