第14話 心花ちゃん
「そういえば、そろそろ新しい服作りたいけど・・・」
「ん? あ、そういえば、結構汚して着れなくなってますしね・・・」
服は同じ物を何セットか。
この世界ではそれが普通のようで、みんないつ見ても同じ服を着ている。
というわけで、私も例の制服を着てるけど、なにせ、うちに裁縫ができる人がいないせいで、そのあたり、困ることになっている。
器用な子でも、入ればいいんだけど。
「朱璃姉ちゃん! なんか変な人が来た!」
「え・・・? わかった、すぐ行く」
颯也が下から呼んでいる。私はシルシィを連れて下に降りていった。
「帰りなさい!」
「まあ、そう言わずに。ちょっとは聞いてくださいよ?」
そこに立っていたのは、シルシィを売っていた奴隷商人だったのだ。
「最近、よく売れるんですよ、面白いくらいに。ですから、一度買ったあなたなら買うかな、と」
「で? 連れてきちゃったの?」
私は外をちらりと見た。ずいぶん立派な馬車が止まっている。
ってことで、その中に奴隷がいるのは間違いないだろう。
・・・、よく売れるって、多分、勇者だろうな。奴隷は自分の持ち物、だもん。
「まあ、見てみてくださいよ」
「いいけど、シルシィは売らないからね?」
「それは残念です。ずいぶん立派に育ったので、高く買取りますがね」
いちいち腹の立つやつだ。本当にやめてほしいな。シルシィが怖がってるじゃないか。
で、馬車の中から出てきたのは五人の少年少女。みんな小さそうだ。
「姉ちゃん、手・・・。印が・・・」
言われて気がついた。桃色の印が出ている。ってことは、誰かこの中に・・・。
「ここに居るのは、いくらなの?」
「金貨千から千五百枚ってとこでしょうか」
ってことは、この中にはいないだろう。どうせ死ぬ子を、そんなに高く売るのはぼったくりでしょ?
「馬車の中に、まだいるね? 病気の子じゃない?」
「おお。よくお分かりで。見ますか?」
愉快そうに笑うドラキュラ商人。私が頷くと、ひとりの少女が出てきた。
颯也と同じくらいかな。茶色い髪が無造作に伸ばされている。
買ってもらうためか、少しおしゃれな服を着ているけれど、薄汚れていて、ちょっとなぁ・・・。
「彼女は人間の女の子ですね。手先が器用です。ですが、喋れなくて、その上ドクロ病で・・・」
「買う。いくら?」
「えぇ?! 金貨五十枚でしょう」
私は袋から五十枚数えて取り出すと、商人に向けて投げた。
それから、女の子の手を取る。驚いた表情をしているけれど、とりあえずのところ無視。
進行してるな。ほとんど真っ赤、だ。私はそれを見てからきゅっと手を握る。
「くっ・・・、あっ・・・!」
進行してるせいか、ものすごく痛い。額に冷や汗が浮かぶ。
「朱璃姉ちゃん! そうか、進行してるから・・・」
颯也が心配そうに私の空いた手を握った。
暫くすると、痛みも引いて、明るい桃色の光が起こった。
颯也も安心したように手を離す。
「ごめん、強く手、握っちゃったね、痛かった?」
「彼女は喋れないのです。名前は心花」
「そう・・・。よろしくね、心花ちゃん」
心花ちゃんはゆっくり頷いた。でも、まだ懸念の色が残っているみたい。
「僕は颯也。よろしくな」
「私はシルシィです。同じく奴隷ですけれど、酷く使われたことは一度もありませんから、安心して下さい」
ドラキュラ商人は魔法陣をどこにつけたらいいか聞いてきた。
奴隷は、魔法陣で縛る。違反を起こせば、罰を与えられる。全身を激しい痛みが襲うのだ。
とはいえ、主人が決められる。何をしたら違反か、というのも、それ以外に主人の意思で縛ることもできる。ちなみに、シルシィは一度も魔法陣で縛ったことはない。
「目立たないところ・・・。そうだなぁ、太腿にでも、お願いできる?」
「そうですね。まあ、基本は目立たないでしょうね」
「なあ、僕にもつけられない?」
『なんで?』
急に颯也が自分につけてほしいなんて言うもんだから、私たちは驚いて聞き返した。
「だって、自分だけ違うと・・・。外せるんだよな?」
「ええ、もちろん。では、どこがいいですか?」
「左の、手の甲・・・」
颯也が選んだのは、もともと、ドクロの印があったところ。私と会う、きっかけ、かな。
ドラキュラ商人は魔法陣を書いた。ドラキュラ商人の言う通り、私はその魔法陣に魔力を込める
「では。また買ってくださいね」
「なんでよ。そんなにお世話になるつもりはないんだけど」
「まぁまぁ。魔物も売っていますから、そちらも・・・」
「なんでそっちでこなかった?!」
普通違うだろ?!
「なあ、朱璃姉ちゃん、一回縛ってくれ」
「断ります!」
「なんで?! ちゃんとした魔法陣なのか、確認したいんだよ」
「嫌だ! 私はシルシィだって縛ったことはないの!」
その会話を聞いていた心花ちゃんは不思議そうな顔をして首をかしげた。そして・・・。
「縛ら、ない、の?」
「あいつ! 喋れるんじゃないか!」
「喋らなかった、の。怖いんだもん」
心花ちゃんは、どうやら親に捨てられた子だったようだ。だから、人が怖くて、喋らなかった。
きっと、何か関係があるんだろうな。喋ることと、捨てられたこと・・・。
「そういえば、シルシィ姉ちゃんの魔法陣って、どこにあるんだ?」
「あ、知らないっけ? ここだよ」
そう言ってシルシィはワンピースのスカートを少しめくった。
太腿には、直径十センチほどの赤い色の魔法陣が書かれている。
「ああ、戦うときに、チラチラ見えてたのは、これだったんだ」
そう、動くと、たまに見えるんだよね・・・。あんまり、好きじゃないんだけど・・・。
「私の、仕事、は?」
「あ・・・。まずねぇ、洋服作ってもらいたいんだけど、できる?」
「道具が揃ってれば」
そう言って、心花ちゃんは紙に必要な道具を書き出した。
「あと、サイズ。と、ある程度のデザインの要望は? 今着てるの?」
「ううん、なんでもいいよ。それに、服は節目で新しくするものなんだ」
「へえ。わかった。私の好みでいいの?」
「構わないよ」
服は節目で新しく。
パーティを変えたら、気分を切り替えるってことで、服は変えるものだと聞いた。情報源? 一応、ギルドで聞いた。
心花ちゃんはペンを握ってサラサラとデザインを書き上げていった。
それから、それを私たちに見せる。みんなが頷いたのを見ると、心花ちゃんはペンを置いた。
「コノハちゃん、とりあえずは何着せましょう?」
「うーん・・・。しばらく、このままでもいい?」
「構わない。じゃあ、買い物に」
「出来た。着てみて」
「おお・・・。すごい、よくできてるね・・・」
ミシンを使って、ダカダカと縫っていた心花ちゃんが顔を上げて服を私たちに渡した。
買い物に行ってから何日も、集中して丁寧にやってたんだ。すごい集中力だと思う。
服を見ると、シルシィと颯也が目を輝かせて服を着替えた。
シルシィは、なんとなく前の服に似ている気がする。水色と白だ。
文字で説明するのは難しいんだけど・・・。
首元に大きなリボン、上の方と袖が水色で、その下が白くなっている。ウエストに水色のベルト、後ろに大きなリボン。ふわっと広がった水色スカートで、白いエプロン? はフリルが。
颯也は白っぽいシャツにベスト、オレンジっぽい茶色のズボンに黄色の長いコート。
ちなみに、颯也がさっきまで着ていたのは仮だから、なんでも良かったのだ。
この感じだと、颯也の色は黄色になりそうだ。
「あ、えと、名前・・・」
「朱璃だよ。なんて呼んでもらっても構わない」
「さっき言いましたがもう一度。私はシルシィです。マスターの一番の奴隷です」
「じゃあ僕も。僕は颯也。朱璃姉ちゃんが最初に直したドクロ病患者なんだ」
「あ、では、よろしくお願いします。朱璃様、シルシイさん、颯也さん」
心花ちゃんがぺこりとお辞儀をした。で、服を着ようとしたので・・・。
「ちょっと待って。こっち来て」
「え? あ、ああ・・・」
私は心花ちゃんをお風呂場に連れて行った。
ブラシで念入りに髪をとかし、ハサミを取り出して、伸び放題になっている髪を切りそろえる。
綺麗にすれば、随分美しい髪だ。金にも似た、茶髪。ブロンドって感じだろうか。
切り終えてリビングに戻ると、心花ちゃんは作った服を着た。
緑色のTシャツの上に、茶色の長いワンピース。麦わら帽子かぶってそうだな。と思ったら、帽子かぶった。麦わら帽子じゃないけど。
ちなみに、さっきの設計図では三つ編みになっていたので、結ってやる。
「可愛い・・・! コノハちゃん、可愛いですね」
「おお! みんなの服もそうだが、似合うな・・・」
で、私も着替えるわけだけど・・・。
赤いノースリーブのワンピースに、姫袖の長いアームカバー。
その上から、薄い桃色の上着を。その上着の袖は、着物のように広く、白いフリルがついている。
ちなみに、ワンピースもの裾には大量の白いフリルが付いている。
小物類としては、首にはチョーカー、頭には小さめの魔女帽。帽子は左側に寄せて。
「あのさぁ、設計図から思ってたけど、なんか、おかしくない?」
「そうですか? 似合うと思ったのに」
「え、可愛いじゃないですか、マスター」
それはいいんだけど、チョーカーがあったら、赤い石のペンダントがつけられない。
<なんだ? 形変えるくらい簡単だぜ?>
「え?! なんの声ですか?! 朱璃様っていったい・・・。」
心花ちゃんが慌てたような声を出す。そういえば、聞いてないんだよね。
<おお、嬢ちゃん、初めてだな。今ならまだ間に合うぜ。どうする? 覚悟があるなら話してやろう>
「わ、わかりました! ききます!」
使い魔は私が勇者だということ、心花ちゃんがその仲間になったことを話した。
「なるほど。私、ペンダント、気がつかなかった」
<そうそう、形だったな。何がいい?>
「ブレスレットがいい。多分、邪魔にならない」
すると、ペンダントがポロリと落ちて、手の中で綺麗なブレスレットになった。
金で出来ていて、真ん中に赤い石がついている。色は変わらないんだなぁ。
「そういえば、コノハちゃんの武器は?」
「器用だから、弓がいいけど・・・」
「弓はイヤ!」
弓に嫌な思い出があるらしく、弓は頑なに嫌がった。でも、この子が剣を振るうのは厳しいだろうし、魔法は人数が多すぎてしまう。何が良いかな・・・。
「バックアップ、かなぁ?」
「後ろから毒薬で応戦すればいいんですか?」
この子が毒薬を的に投げているところを思い浮かべる。
「な、なんで笑うんですか?! 変なこと言ってないですよね?!」
「だって、その格好で・・・。普通、怪我人の治療のイメージじゃないの?」
「うぅ・・・。冗談ですもん!」
と、まあ、それはいいだろう。
心花ちゃんの役目は、薬での治療、場合によっては応戦。それから、魔物の情報を図鑑で調べること、だ。
「あ、まずい! やっぱダメ!」
「なんで?!」
「心花ちゃんに経験値が入らない!」
「あ!」
そう、攻撃しないと経験値は手に入らないのだ。かと言って、剣は向かなそうだ。
「私の使役スキルも、レベル5になんないとだし」
「ってことは、それまでは前で戦ってもらうか、経験値を諦めるかしないとですね」
「うぅ、じゃあ、諦めます。前は、怖い・・・」
そんな感じで、前衛に颯也、中衛に私とシルシィ、後衛に心花という形になった。
「まずは、心花に持ってもらう薬の製造を始めようか」
「私も、やります、朱璃様」
「あ、そう? じゃあ、シルシィもやる?」
「はい、やらせていただきます」
「僕も!」
回復薬、毒薬、痺れ薬、毒消し薬、痺れ取り薬、煙幕、爆弾・・・。
とにかく、たくさんの薬を作った。場合によって使い分ければいいだろう。
まあ、心花の荷物は多くなるけれど、平気だと言っていた。
「それより、朱璃様のレベル上げが重要なのでは?」
「そうだね・・・。じゃあ、シルシィ、颯也」
「わかりました」
「うん、いこう」
私たちは、また、ドラゴン狩りに向かった。今日は何匹狩れるだろう?
「ふふ、皆さん、私に忠誠を誓う皆さんなら、必ずや、世界を守れることでしょう!」
『おお!』
「ですから、今日も訓練を怠らないことですよ」
綺麗な黒髪を揺らしつつ、その女性は玉座から立ち、歩き去った。
周りの兵士はうっとりした様子で後ろ姿を眺めている。やがて扉が閉まると、兵士は何かを喋りだす。
「ふぅ・・・。どうして私なんかが世界を・・・。でも、その報酬は魅力的・・・」
そう言うと、髪をかきあげて前を向いた。そこには沢山のベッドがある。
「皆さん、もう大丈夫ですわ。このあたりに、優秀なドクロ病の医者がいるそうですの」
『おお! それは本当か?!』
「ですから、尋ねることにいたしました。ですが、少し距離があるので、準備期間は必要です」
「それは、何時に・・・?」
「そうですね、二週間後にいたしましょう。約束は必ず守りますわ。それまでの辛抱ですよ・・・」
黒髪の女性は、そう言うと部屋を後にした。
その医者が、彼女が殺そうとした少女であるなんて、夢にも思っていないのだ・・・・・・。
新しい朱璃ちゃんの衣装です。シルシィや颯也、心花ちゃんの衣装は、順番にあげて行きたいと思います。
ちなみに、DSで書いてますので、そっちの画面では小さく、非常に書きづらいです。
おかげで結構大きくなると荒が目立ちますが・・・。その辺りは、許していただけると嬉しいです。




