第12話 ドクロ病
「マスター! 大変です!」
シルシィが慌てた様子で叫んだ。
指を刺した方を見ると、そちらは崖だ。
家のすぐそばの海で遊んでいて、ちょうど帰ろうか、という話をしていたところだった。
シルシィがあまりに慌てているので、私はすぐに崖の方を見る。と。
崖の上に、男の子の姿が見える。まさか・・・。
心中か!
私は咄嗟に笛を口に近づけた。綺麗な旋律が流れ出す。間に合うかな・・・。
シルシィが泣きそうな、縋る様な目で私を見ている。お願い、手伝って!
大きな鷲が宙に浮いた男の子の服を掴んだ。そのまま私たちの目の前に降ろすと、すうっと空高くに飛んで帰っていった。
男の子は目を開けて、愕然とした様子で座っていた。
近くでよく見てみると、随分小さそうだ。
種族は犬獣耳? 尖った三角の耳と、ふさっとした尻尾がある。
「どうして、助けたんだ?」
「どうしてって・・・。逆に聞くけど、どうして身投げなんてしようと思ったの?」
「だって・・・。僕、病気なんだ。親が、治療代払えないって、言ってたから」
え・・・? 病気・・・?
でも、そんなことで目の前で死んでもらっては困る。できるなら、助けたいじゃん。知らなかったしね!
っていうか、私が何とか治して上げられないかなぁ? 薬の知識なら多少はある。
「その病気って? 薬って、どんなのかな?」
「ほら、レシピ。このまま、一緒に逝くつもりだったから」
うぇ・・・。材料、随分多いなぁ・・・。でも、在庫があるものも多い。あと、このあたりの薬草を少し摘めば済むだろう。
「シルシィ、このあたりの薬草を大量に積んで持ってきて。君、ちょっとついてきて」
「え? おい、何する気だ?」
この薬で一番手に入りづらいのは、ドラゴンの爪、牙。あと、マンドラゴラも大変だろうな。
でも、それはすでに在庫がある。この家の地下室に、たくさんの薬の材料があるんだ。
そのほかの薬草も、乾燥させておいたものが多い。何時でも使えるようになってる。
切ったり、剥いたり、磨り潰したり。薬草たちを、レシピ通りに加工していく。
「マスター! 持ってきました!」
「シルシィ! ありがとう!」
それから、じっくり煮込んで、最後、大量に魔力を込めて。
「出来た! にしても、変な色・・・」
出来た薬は、飲むのを躊躇ってしまうような蛍光緑。ちょっと嫌だな・・・。
えっと、量は、二倍の水で薄めてコップ一杯か。私はその分量で薄めて男の子のところへ持っていった。
待ち疲れたのか眠ってしまっている男の子を揺り起こすと、薬を見て驚いた目をした。
「それ・・・。なんで・・・」
「合ってるかな。ところで、病気って、何?」
男の子はしばらく黙っていたが、最初見た時にずいぶん長いな、と思っていた袖の左手を捲った。
あぁ、これを隠すために。男の子の左手の甲には、ドクロ型の大きな斑点があった。
「ドクロ病、だ。知ってる? 遺伝病なんだけど、患者に触れることで、『感染る』んだ。黒い斑点が赤くなったら、死ぬ」
「な・・・。そんな・・・」
もう少しでコップを落としてしまうところだった。この薬は、作っていて思ったが、難易度が超高い。普通の人なら、買えるはずもないし、そういう人からしたら、絶対死んでしまう病気になるだろう。
「もらっていいのか?」
「うん、飲んで」
男の子が飲むと、斑点が少し薄くなったようだった。けど、完治はしないか。
「苦い・・・。でも、間違いない」
「そう。よかったぁ」
その男の子は私を見て、そういえば、と口を開いた。
「名前、なんていうの? 僕は颯也」
「ああ・・・。言ってなかったね。私は朱璃」
「私はシルシィです。マスター・・・、シュリ様の奴隷です」
颯也くんはシルシィを見てから私を見て、ちょっと嫌そうな顔をした。
まあ、奴隷なんて連れてたらそうなるか。まあ、私は奴隷だと思ったことはないけど。
「あぁ・・・。眠くなってきた。薬の副作用だ」
「あ、もうこんな時間・・・。シルシィ、鍋にスープが残ってる。温めてくれる?」
「わかりました」
シルシィが行ってしまうと、颯也くんがギョッとしたような顔で私の右手を見ていた。
「ね、姉ちゃん。その手・・・」
「え?」
私の右の手の甲に、大きな桃色のハートマークがついていた。
なんだか、ドクロと違って、暖かい感じがする。でも、なんだろう・・・。
とりあえずそれはいいとして、私は薬を作った場所、まあ、リビングでやったのだけど、そこを片付けだした。
なんとなく、レシピの裏側を見ると、何やら知らない文字が書いてあった。
「! なんで・・・? 知らないのに、読める・・・」
桃色の印を持つ者へ
何も疑問を持たず、残った薬を少し今日の入浴の時に風呂に入れろ。それから、寝る前に一杯飲め。理由は明日わかるだろう
その続きは、読めなかった。何が書いてあるのか、わからない。
仕方ないので、用具を洗ったあと、薬は大切にしまっておいた。
「マスター! 出来ました!」
「じゃあ、颯也くんのために、お皿に入れてあげて」
「わかりました」
私たちの分は、後で作ることにしよう。颯也くんは眠いみたいだし、今朝のスープを飲んでもらうけど。それと・・・。
「シルシィ、颯也くんにベッドを貸してあげて。シルシィは・・・」
シルシィに軽くウインクをする。意味がわかったようで、ぱあっと顔を輝かせた。
「なんか、悪いな」
「気にしないで。明日は親のところに帰ってもらうよ? 心配してると思うし」
「ああ・・・。わかってる。でも、姉ちゃん達がいなかったら、帰ることもできなかった・・・」
颯也くんはそんなことを言いながら、シルシィのベッドに入った。
私たちは、シルシィの釣った魚を食べてから、前のように・・・。
ちなみに、レシピの裏に書いてあった通りに実行はした。
「な・・・。本当に、どういうこと?」
桃色の印を持つ者へ
何も疑問を持たず、残った薬を少し今日の入浴の時に風呂に入れろ。それから、寝る前に一杯飲め。理由は明日わかるだろう
これで、正式に桃色の印を持つ者になった。桃色の印を持つ者というのは、ドクロ病に対抗する、回復薬となっている。ドクロ病のものに近づけば、印は浮かび上がるだろう。
ドクロの印がある左手を、桃色の印がある右手で握ってみろ。意味がわかるだろう
「また、増えてる・・・。この先は、読めないけど」
確かに、今、私の右手に印はない。これが本当なら・・・。
「颯也くん! 起きて!」
「うわ! なんだよ・・・」
本当だ、印が浮かび上がっている。こういうことか・・・。
えっと、手を繋げばいいんだっけ? 試して平気かな。
「お、おい! 触ったら感染るって!」
「ちょっと黙っててくれるかな。意味なくやってるわけじゃないから」
しばらくすると、ハートのマークは消え、私の右手にドクロマークが浮かび上がった。
それと同時に、ナイフで手を刺されたような痛みが走り、思わず颯也くんの手を強く握ってしまった。
「え・・・? 大丈夫、か?」
「うっ・・・。へ、平気・・・」
何とも言えないけど・・・。大丈夫だろう。多分。嘘が書いてあるとは思いたくも無いよ。
私の手のドクロマークは、徐々に薄くなって消えていく。それと一緒に、痛みもだんだん弱くなっていく。
そのあと、ハートのマークが大きく浮かんで、パッと桃色に光った。
「なんだ? って、ああ!」
颯也くんのドクロマークは、綺麗に消え去っていた。
「すごい・・・! ありがとう、姉ちゃん!」
「どうしたんですか? って、あぁ」
家に帰ってきたシルシィが、颯也くんの手を見て優しそうな声を出した。
そうか。この薬は、桃色の印を生み出すためのものだったんだ。
ってことは、特効薬は、蛍光緑のあれではなく、私。私自身が、薬になるわけだ。
「よし・・・。そうなれば、急がないといけないね。颯也くんの身近な人で、この病気の人は?」
「お父さん・・・」
「じゃあ、家に案内して」
「わかった」
颯也くんの家は、私たちの家の隣だった。まだ海の見える範囲。とは言っても、この辺に家は少ないから、隣でも『ずっと向こうの方』だけど。
「お母さん! 僕だよ!」
「颯也! どうしてたのよ?!」
「話はあとだ! お父さんは?」
お母さんはベッドを指差した。確かに、左手にドクロマークがある。もうほとんど真っ赤だ。
「姉ちゃん、お願い、します」
「わかってる。少し、失礼しますね」
私は桃色のマークが浮かび上がった手でドクロマークのある手を包むように握る。とは言っても、私の手の方が小さいわけだけど。
やっぱり、すごく痛い。今度は、さっきよりもっと痛い気がする。進行してたからだろうか?
しばらくすると、ちゃんと、ドクロマークは消え去った。
「な・・・! あ、ありがとうございます! 颯也も、やってくださったのですね!」
颯也くんから話を聞いていたお母さんが、大きな声で私に頭を下げながらお礼を言った。颯也くんも一緒に頭を下げる。
「いえ。出来ることなら、助けてあげたいでしょう?」
「本当に、ありがとうございます!」
昨日一日颯也くんを家に入れていた、誘拐事件になりかねないっていうのに、この態度・・・。普通だったら怒られるだろうけど、そんなの気にならないほど、治ったことを喜んでいる・・・。
「姉ちゃん、僕、姉ちゃんについていきたい。命の、恩人だし」
「颯也・・・。そう、ね。私たちに、お礼できるようなものは持ち合わせていない」
この子、結構小さいんですけど? まあ、無料で治療するような人が、悪いことをするはずないと思ってるんだろう。
シルシィが颯也くんを見て、私の袖を引っ張っている。なんで小さい子が集まるんだろう。
「わかりました。息子さんを、傷つけないように気をつけたいと思います」
「ええ・・・。私たちと居ても、貧しい生活しかできないもの・・・。お願い、しますね」
任せて、とは言えないけど、できるだけ、努力したい。
シルシィより、ちょっと小さいように見える颯也くん。お母さんも、本当は心配だろうなぁ・・・。
でも、それでも、任せてくれる。なら、応えてあげたい。
「気をつけて、お姉さんの言うことをよく聞きなさい。ところで、名前は?」
「朱璃、です。この子は、シルシィ。それでは、お母さん。また・・・」
颯也くんがクイッと私の手を引っ張った。
「大丈夫? 急に、ついていきたいとか言っちゃったけど」
「気にしないで。それより、危険なこと、いっぱいあるよ?」
「わかってる! それでも、ついて行く!」
ああ。また巻き込んでしまった。この子も、戦うのかなぁ? でも、大丈夫な気もするな。
<おう、お前、また仲間が出来たな。よろしくな、犬の坊主>
「な?! どうなってるんだ?」
「それは・・・」
私たちは急に使い魔が喋った事に戸惑いながらも、あらかたのことを説明した。
「なんだ・・・? 僕は馬鹿か? 勇者の仲間に申請なんて、そんな恐れ多いこと・・・」
「あのね、私は、一人じゃ戦えないの。だって、兎、弱いんだもん。仲間は大切。信用、してるから」
颯也くんは、私の目を見て頷いた。やる気に満ちた、いい目だな。
「じゃ、ギルド行こっか」
「うん! まだ、戦い、やったことないけど、いいか?」
「もちろん。シルシィ、行こう」
朱璃 14歳 ランクC パーティ『宝積』 パーティランクD
レベル50 ダメージ900 マジックパワー850 スタミナ800 力600 魔法1020 守備580 速さ1200
タロットカード入手可能 召喚成功率小UP タロットレベル3 短剣レベル2 ドロップ率UP 魔物使いレベル2 魔力レーダー 鞭レベル3 使役レベル3
奴隷1 シルシィ
スキルポイント45 振り分ける
シルシィ 10歳 ランクC パーティ『宝積』 パーティランクD
レベル65 ダメージ1500 マジックパワー1750 スタミナ1500 力950
魔法1800 守備900 速さ950
エルフ魔法レベル5 タロットレベル3 弓レベル2 魔力レーダー
スキルポイント80 振り分ける
颯也 9歳 ランクF パーティ―『宝積』 パーティランクD
レベル1 ダメージ200 マジックパワー25 スタミナ150 力150 魔法50 守備100 速さ60
あああ! 私のレベル1よりも格段に強い! どんだけ私弱いんだ。
ちなみに、宝積というのは、私の元の姓、あ、立華の前の姓だ。本当の、両親の姓。ギルドの人が、『パーティ名は苗字が多い』というので、こうなった。
「とりあえず、弱い魔物が出るところに行こう」
「そうですね。じゃあ、海じゃなくて草原に行きましょう」
「なんだかわかんないけど、ついてけばいいんだよね?」
颯也くんが困ったように肩をすくめた。でも、楽しそう。
召喚されて、大変なこともあるけど、良かったかも。
兎獣人じゃなかったらもっとよかったんだけど、そんなことを言っていても始まらないし。
ちょっと、頑張ってみようかな?




