第10話 秘密の特訓
時間が経って、こちらの世界で迎える初めての夏になった。
「暑い。暑いよー」
「琳! うるさいわ!」
琳ちゃんがテーブルに突っ伏して、雅さんがその隣でそれを叱っている。
確かに、暑い。琳ちゃんだけでなく、優さんも麗さんも私も、なんだかんだ言いつつ雅さんも、ここに居るみんながだらけてる。
あ、例外がいた。隣で楽しそうにノートに向かってる人発見。
いや、言わないでもわかるだろう。シルシィだ。なぜか一人だけ元気だ。
「ほんと、毎年、夏来なければいいのに」
「そしたら、暑いの口実にサボることはできないわね」
「う・・・。じゃあ、やだ」
雅さんが琳ちゃんに文句言ってるのも、気を紛らわすためのようだ。
優さんも麗さんも、今日は黙って何もしようとしない。
もともと、今の時間(午後二時)は、みんなで集まって勉強するための時間だ。
わからないところを教えあうために、毎日、いる人が集まって勉強していた。
とはいえ、誰も外に出る気もなければ、勉強する気もなく、結局リビングでダラダラ過ごしているわけだ。
「マスター、狩り、行ってきても、いい、ですか?」
わあ・・・。超例外。何言い出すんだ。こんこ、本当にどうなってるの?
って、そんなことはどうでもいい。でも、いま外出して倒れられても困るよなぁ・・・。
「やめときなさい」
「はい・・・。じゃあ、勉強してます」
勉強か狩りの二択かよ。絶対今、シルシィ以外の頭の中にはないぞ。
いや、案外そうでもないか。だって・・・。
「・・・。随分だらけてるな」
「お父さんか・・・。ドラゴン倒せた?」
「当然だろ。って・・・。この子みろよ。それに比べて、お前ら、暑いからって、毎年それか?」
琳ちゃんがだらけたまま答えたのを見て、潤さんが呆れたような声を出した。
そうだった、この人、ドラゴン狩りに行ってたんだった。シルシィだけじゃなかったか。
「マスター。今日、そんなに、暑い、ですか?」
「え? うーん・・・。暑いんじゃない?」
「私の、出身地は、もっと、涼しい、ですね。でも、私は、気に、ならない、です」
多分、この子は地球で言うロシアの方の出身じゃないかって思う。こうやって言うちょっとしたことがそっくりだ。涼しいとか、北の方とか、そんなキーワードが。
場所は違うのかもしれないけど、地球に似てるって言ってたしね。
「うわぁ?! 何、ですか? これ?」
シルシィが叫び、何かとノートに目を向けると、文字が動いていた。
「ええええ?!」
「ああ、取り憑かれたか。全く、なんでこいつらは・・・」
潤さんがなにかつぶやくと、文字は元通りに戻った。
びっくりした。なんだ今の?!
「あれは、ピクシーの仕業だ。祓えば、弱いし、すぐ治る」
「へえ・・・。私も、使え、ますか?」
「練習次第だな。覚えたいなら、教えてやるぞ?」
シルシィ、ほんと、何でもやるんだなぁ・・・。
もうすでに、シルシィのレベルは50を超えているだろう。
数日後の夜、電気を落としてベッドに入ると、シルシィが私の袖を引っ張った。
ちょっとドキっとした。あまりに、悲しそうな、心配そうな顔をしていたからだ。
何かと思ったが、その前に、シルシィちゃんは口を開いた。
「マスター、あの、勇者だって、本当、です、よね?」
「そうだよ。なんで?」
「もし、何かと、戦う、なら、私も、一緒にいて、いい、ですか?」
え? シルシィが?
でも、それは、死んでしまうかもしれないようなこと。本当に、いいのだろうか?
連れて行っても、多分、守ることはできない。守ってもらう方になってしまうだろう。そんな時、無責任には、連れて行けない。
「どう、だろう。死んじゃうかも、しれない、よ」
「私は、マスターの、為に、動きたい、です。そのためなら、構わ、ない」
その時、私のペンダントは真っ赤な眩しい光を放つ・・・。
「狩りに行ってきます!」
「あら、朱璃、昨日とはずいぶん違うのね」
雅さんがくすっと笑って見送ってくれた。当然、私の隣にはシルシィがいる。
潤さんがついてこようとしたので、全力で拒否した。最終的にはシルシィが力づくで振り切った。
ああ、シルシィだから、魔法で眠らせてきた、と思ってもらって構わない。
「じゃあ、夜までには帰ってくるのよ。夜ご飯は?」
「帰ってくる、です。お昼は、いい、です」
「わかったわ。じゃあ、頑張ってねー。お小遣い稼ぎ」
「マスター、ドラゴン、見つけた、です」
「えっ・・・。どうする? いく?」
「試して、見たい、です。です、よね? マスター」
私たちはにやっと笑って走り出した。
ドラゴンが見えたところで、私たちは足を止めた。
真っ赤なドラゴンだ。ちょっと強そうに見える。青だったらって考えたら・・・、ね?
「じゃあ、私が、先に、行く、です。あとから、ですよ?」
「わかってるよ。ちょっと待って」
私は重要なタロットカードをポケットに移し、鞭を強く握り締めた。
なんといっても、私は今、鞭を上げている。
立華 朱璃 14歳 ランクC パーティ『立華』 パーティランクD
レベル40 ダメージ850 マジックパワー750 スタミナ700 力550 魔法920 守備510 速さ950
タロットカード入手可能 召喚成功率小UP タロットレベル3 短剣レベル2 ドロップ率UP 魔物使いレベル2 魔力レーダー 鞭レベル3
奴隷1 シルシィ
スキルポイント30 振り分ける
シルシィ 9歳 ランクD パーティ『立華』 パーティランクB
レベル50 ダメージ1300 マジックパワー1550 スタミナ1200 力800
魔法1650 守備800 速さ800
エルフ魔法レベル5 タロット魔法3
スキルポイント60 振り分ける
シルシィに随分抜かれてしまった。でも、気にしない。私は、私のペースで上げていけばいいだろう。
シルシィと私は違うのだから、一緒に上がるわけ無いだろう?
「偉大なる海の精よ。我の命に従いたまえ。全てを飲み込む青い水を、我と共に呼び起こせ。『ヤールキィ・ヴァダー』!」
ヤールキィ! 一番高いレベルの技だ! 私はそれに合わせて雷のタロット、『電撃』を呼び出した。
ドラゴンは、地震のような鳴き声で立ち上がった。この声は、何回も、聞いている。
今まで、何度もトライした。でも、勝てなかった。何度やっても、勝てなかった。
何もしなかったわけじゃないよ。私たちは、ドラゴンに勝つのを目標にして、必死に鍛えてきたんだ。
「霹靂の精よ。我に力を貸したまえ。飴色の霹靂を呼び起こすのだ。『バリショーイ・グラザー』!」
私は鞭をしっかりと握り、ドラゴンに向かって走り出した。注意はシルシィの雷に向ける。
大きく振るうと、肉がざっくりと削れた。ついでに大量の血が吹き出る。おかげで服は真っ赤になってしまった。
っと、さすがに気付かれたな。兎特有の速さで後ろに引いた。
問題はここからだ。ドラゴンの攻撃に、私が耐え切れない。
ってことで。私はこの前ドロップした小さな笛を握り締めた。
目を閉じ、口に近づけると、自然と音が流れる。これは、魔物使いレベル2のおかげらしい。
目を開けると、たくさんの生物がいた。
キマイラや、グリフォンなど、この森の奥深くに住んでいる強い生物だ。
私のことを守るように攻撃を相殺してくれている間に、もう一度ドラゴンに鞭を振るった。
ドバっと赤い血が出る。さっきの攻撃で、既に服は赤く染まっているのに、さらに赤くなるとちょっと嫌なので、今度は避けた。
「偉大なる暴風の精よ。我の命に従いたまえ。岩石をも吹き飛ばす灰の風を我とともに呼び起こせ。『ヤールキィ・ヴィエーチェル』!」
かまいたちのような風が起こり、ドラゴンの体を切り刻んだ。
また地響きのような悲鳴が鳴り響く。
「マスター! 止めを!」
「うん! わかってるよ! 召喚!」
ドロップの巨大剣(ちなみに、家に使える人がいない)をドラゴンの上に召喚した。カードが灰になって消えていく。
巨大剣は私の身長の、うっかりすると、倍くらいある。首がざっくり切断された。
「あぅっ・・・!」
あまりに生々しいので、少し視線をそらしてしまった。
が、隣の少女はそれを気にしない。倒せたことで嬉しそうだ。
「マスター! やりましたね!」
「あ、うん! 連絡しようか」
ドラゴンを倒したら、ギルドに連絡することになっている。
そうしたら、その場で売ったときの値段を出してくれる。売るかどうかは自由だけど。
カードを取り出し、連絡の項目を押した。キラっと上空が光った。これで、ギルドの職員さんが来てくれるはずだ。
笛を吹いて手伝ってもらった魔物を帰す。魔物使い、随分役に立つなぁ・・・。
「おお、素晴らしい! 初討伐、ですね」
「はい、そうです。これ、いくら位になりますかね?」
背の高い女の人と、背の低い男の人が来た。女の人は、黙々と大きさを測っている。そのあとは計算を始めた。
「このサイズなら・・・。そうだな・・・。皮は傷が多いか・・・」
あ、鞭! もうちょっと綺麗に倒せばよかった。
そうか、皮の値段か・・・。気にしてなかった。次は何とかしよう。
「討伐金が金貨五十枚。肉は五百枚、皮は二百枚、そのほかで二百五十枚、といったところか」
「ってとこで、全部で金貨千枚ですね」
まじで! そんなにするんだ。すご・・・。
これを、潤さんは軽々軽んだもんなぁ・・・。すごいよなぁ・・・。
「で、どうします?」
「少しずつ、いただけますか? あとは売却します」
「では、その分はお取りください」
私は短剣を持って切り取っていった。爪や牙も、使えるんだ。
シルシィが自分の異空間を使っていいというので、全て預けておいた。
「では、あとはお任せ下さい。お金は売れ次第お届けいたします」
「分かりました。お願いします」
私たちは付いた血を洗い落とし(特に私のを)、綺麗な服を着て家に帰った。
あの格好で帰ったら・・・。そりゃあ、すごいことになるだろうね・・・。
「ただいま」
「あ、おかえりー。どうだった?」
「だいぶ稼げたと思います」
ちなみに、少し前から、狩りに行ったら、金貨十枚を渡すことがノルマ、ということになっている。
何故か。勇者なら、お金は集めておきなさい、という恵さんの計らいだ。
それに、私たちがこんなに強くなっていることを、みんなは知らない。
「もう十枚は楽かしら? でも、勇者でしょ? 自分のことに使って欲しいの。きっと、後で必要にもなるでしょうし」
「ありがとうございます」
私たちは、ドラゴンの他にもたくさんの生き物を狩った。それだけで、余裕で金貨25枚位は稼げるのだ。
シルシィも、十枚渡して、私に五枚渡した。残りは大切そうに握りしめていた。
「マスター、私たち、行け、ましたね」
「だね。もうちょっと、行ってみようか。森を超えたら、海があるって」
「行きたいです! じゃあ、一週間後、くらい、でしょうか」
そうだね。十分休養を取ったら、行ってみようか。
私たちは、そんなことを話しながら早めに寝るのだった。




