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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第三章

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再びフューレンにて

 中立商業都市フューレンの活気は相変わらずだった。

 高く巨大な壁の向こうから、まだ相当距離があるというのに町中の喧騒が外野まで伝わってくる。これまた門前に出来た相変わらずの長蛇の列、唯の観光客から商人など仕事関係で訪れた者達まであらゆる人々が気怠そうに、あるいは苛ついたように順番が来るのを待っていた。

 そんな入場検査待ちの人々の最後尾に、実にチャライ感じの男が、これまたケバい女二人を両脇に侍らせて気怠そうに順番待ちに不満をタラタラと流していた。取り敢えず何か難しい言葉とか使っとけば賢く見えるだろ? というノリで、順番待ちの改善方法について頭の悪さを浮き彫りにしつつ語っていると、チャラ男の耳に聞き慣れない音が聞こえ始めた。

キィイイイイイイイ!!!

 最初は無視して傍らの女二人に気分よく語っていたチャラ男だが、前方の商人達や女二人が目を丸くして自分の背後を見ていることと、次第に大きくなる音に苛ついて「何だよ!」と背後の街道を振り返った。

 そして、見たこともない黒い箱型の物体が猛烈な勢いで砂埃を巻き上げながら街道を爆走してくる光景を目撃してギョッと目を剥いた。にわかに騒がしくなる人々。すわっ魔物か! と逃げ出そうとするが、箱型の物体の速度は想像以上のものであり、気がついたときには直ぐそこまで迫っていた。

 チャラ男が硬直する。列の人々がもうダメだ! とその瞳に絶望を映す。

 と、あわや衝突かと思われたその時、箱型の物体はギャリギャリギャリと尻を振りながら半回転し砂埃を盛大に巻き上げながら急停止した。

 停止した物体、魔力駆動四輪を凝視する人々。一体何なんだと混乱が広がる中、四輪のドアが開いた。ビクッとする人々の事など知ったことじゃないと気にした風もなく降りてきたのは当然、ハジメ達だ。ユエとシア、ティオも人々の視線など気にした様子はない。ウィルだけは、お騒がせしてすみません! と仕切りに頭を下げている。

 しかし、人々は一切ウィルの謝罪を見ていない。それどころか見たこともない物体から人が出てきたという事実すらもどうでもいい言わんばかりに、眼前で「う~ん」と背伸びしている美女・美少女達に目が釘付けになっている。ユエ達が動くたびに、「ほぅ」と感心やらうっとりとした溜息がそこかしこから漏れ聞こえた。

 ハジメは、四輪のボンネットに腰掛けながら、門までの距離を見て後一時間くらいかかりそうだなぁ~と目を細めた。ずっと車中にいて体が凝りそうだったので門に着くまで外で伸び伸びするつもりだ。魔力駆動四輪は、ハジメが魔力を直接操作して動かしているので、実は運転席に座らなくても操作難度が上がるだけで動かそうと思えば動かせるのだ。

 ハジメが肩の凝りを解すように首をコキコキしていると、ユエがハジメと同じようにボンネットに乗り、その背後にまわるって肩をモミモミし始めた。どうやら、代わりにマッサージしてくれるようだ。ハジメは、頬を緩めその身を任せる。

 シアが、寂しくなったのかハジメの傍らに寄り添うように座り込んだ。それを見たティオが「むっ、妾も参加せねば!」とその巨大な胸を殊更強調しながらハジメの腕に縋り付くように座ろうとして……ハジメにビンタをされ崩れ落ちた。ただ、ハジメの足元で物凄く幸せそうな表情なので問題はないのだろう。

「ハジメさん。四輪で乗り付けて良かったんですか? できる限り隠すつもりだったのでは……」
「ん? もう、今更だろ? あんだけ派手に暴れたんだ。一週間もすれば、よほど辺境でもない限り伝播しているさ。いつかこういう日は来るだろうとは思っていたし……予想よりちょっと早まっただけのことだ」
「……ん、ホントの意味で自重なし」

 シアの疑問に、ハジメは肩を竦めて答えた。今までは、僅かな労力で避けられる面倒なら避けるべきという方針だったが、ウルの町での戦いは瞬く間に伝播するはずなので、そのような考えはもう無駄だろう。なので、ユエの言う通り、アーティファクト類をできる限り見せないというやり方は止めて、自重なしで行くことにしたのだ。

「う~ん、そうですか。まぁ、教会とかお国からは確実にアクションがありそうですし、確かに今更ですね。愛子さんとか、イルワさんとかが上手く味方してくれればいいですけど……」
「まぁ、あくまで保険だ。上手く効果を発揮すればいいなぁという程度のな。最初から、何とだって戦う覚悟はあるんだ。何かあれば薙ぎ払って進むさ。そういうわけで、シア。お前も、もう奴隷のフリとかしなくていいぞ? その首輪を外したらどうだ?」

 イルワや愛子に対する教会や国関係の面倒事への布石は、あくまで効果があればいい程度の考えだったので、大して気にしていない様子のハジメ。その話は早々に切り上げ、シアにも奴隷のフリは止めていいと、首輪をチョンチョンとつつきながら言う。手を出されたらその場で返り討ちにしてやれ、もう面倒事を避けるために遠慮する必要はないと暗に伝える。

 しかし、シアは、そっと自分の首輪に手を触れて撫でると、若干頬を染めてイヤイヤと首を振った。

「いえ、これはこのままで。一応、ハジメさんから初めて頂いたものですし……それにハジメさんのものという証でもありますし……最近は結構気に入っていて……だから、このままで」

 そんな事を言うシア。ウサミミが恥ずかしげにそっぽを向きながらピコピコと動いている。目を伏せて、俯き加減に恥じらうシアの姿はとても可憐だ。ハジメの視界の端で男の何人かが鼻を抑えた手の隙間からダクダクと血を滴らせている。

 ハジメは、俯くシアの顎に手を当てるとそっと上を向かせた。その行為に、ますますシアの頬が紅く染まる。ついでに男連中の足元の大地も赤く染まる。ハジメは、“宝物庫”からいくつか色合いの綺麗な水晶を取り出しつつ、シアの着けている首輪、正確には取り付けられている水晶に手を触れて“錬成”をしていった。

 シアの首輪は、シアがハジメの奴隷であることを対外的に示すために無骨な作りになっており、念話石や特定石も目立たないようにデザインを無視した形で取り付けられている。元々、町でトラブルホイホイにならないために一時的なものとして作ったので、デザインは度外視なのだ。

 しかし、シアが気に入ってずっと付けるというのなら、少々、無骨に過ぎると言うものだろう。ましてや、この首輪を贈った頃に比べれば、ハジメのシアへの感情は相当柔らかいものとなっている。なので、ハジメはシアに似合うように仕立て直そうと考えたのだ。

 結果、黒の生地に白と青の装飾が幾何学的に入っており、かつ、正面には神結晶の欠片を加工した僅かに淡青色に発光する小さなクロスが取り付けられた神秘的な首輪……というより地球でも売っていそうなファッション的なチョーカーが出来上がった。もう、唯の拘束用の犬の首輪というような印象は受けない。

 ハジメは、その出来栄えに満足の表情を浮かべる。首を時折撫でるハジメの指の感触にうっとりしていたシアは、ハジメから鏡を渡されてハッと我に返った。そして、いそいそと鏡で首元のチョーカーを確かめる。そこには、神秘的で美しい装飾が施されたチョーカーが確かにあった。神結晶のクロスが、シアの蒼穹の瞳と合っていて実に美しい。

 シアは、指先でクロスをツンツンと弄りながら、ニマニマと口元を緩ませた。そして、ハジメの腕に抱きつくと、にへら~と実に幸せそうな笑みを浮かべながら額をぐりぐりと擦りつけつつ礼を言った。ついでに、ウサミミもスリスリとハジメに擦り寄る。

 シアの幸せそうな表情にハジメは肩を竦め、背中のユエも僅かに口元を緩めながら擦り寄るウサミミをなでなでしている。忍び寄ってきたティオには再度ビンタを喰らわせる。

 いきなり出来上がった桃色空間に、未知の物体と超美少女&美女の登場という衝撃から復帰した人々が、ハジメ達に今度は様々な感情を織り交ぜて注目し始めた。女性達は、ユエ達の美貌に嫉妬すら浮かばないのか熱い溜息を吐き見蕩れる者が大半だ。一方、男達は、ユエ達に見蕩れる者、ハジメに嫉妬と殺意を向ける者、そしてハジメのアーティファクトやシア達に商品的価値を見出して舌舐りする者に分かれている。

 だが、直接ハジメ達に向かってくる者は未だいないようだ。商人達は、話したそうにしているが他の者と牽制し合っていてタイミングを見計らっているらしい。そんな中、例のチャラ男が自分の侍らしている女二人とユエ達を見比べて悔しそうな表情をすると明からさまな舌打ちをした。そして、無謀にもハジメ達の方へ歩み寄って行った。

「よぉ、レディ達。よかったら、俺と『何、勝手に触ろうとしてんだ? あぁ?』ヒィ!!」

 チャラ男は、実に気安い感じでハジメを無視してユエ達に声をかけた。それがただ声をかけるだけなら、ハジメに“威圧”でもされて気絶コースで済んだだろう。だが、事もあろうに、チャラ男はシアの頬に手を触れさせようとしたのだ。

 見た目はチャライがルックス自体は十分にイケメンの部類だ。それ故に、自分が触れて口説けば、女なら誰でも堕ちるとでも思ったのだろうか? シアが冷たい視線を向け、触れられる前に対処しようとしたのだが、その前にハジメの腕がチャラ男の頭を鷲掴みにした。しかも濃厚な殺気付きで。

 チャラ男は一瞬で身を竦めて情けない悲鳴を漏らした。ハジメは、そんなチャラ男の様子を気にかけることもなく、そのまま街道の外れに向かって投擲した。チャラ男は、地面と水平に豪速でぶっ飛び三十メートルほど先で地面に接触、顔面で大地を削りながら、名古屋のシャチホコばりのポーズで爆進し、更に十メートル進んで一瞬頭だけで倒立をした後、パタリと倒れて動かなくなった。

 砂塵がもうもうと舞い、ピクリとも動かないチャラ男が大地に横たわる。その様子を見ていた周囲の人々は、人が有り得ない軌道で飛んでいく光景を目の当たりにし唖然とした面持ちで、その光景を作り出したハジメに視線を転じた。チャラ男が侍らせていた女二人も恐る恐るハジメを見て、絶対零度の眼差しで周囲を睥睨する姿に震え上がり、悲鳴を上げながら何処かへと消えていった。

 先程まで、「てめぇら、抜け駆けは許さんぞ」と互いに牽制し合っていた商人達は、今や「どうぞどうぞ」と互いに譲り合いをしている。睥睨するハジメの眼差しが、次はどいつだ? と如実に語っていたからだ。

 誰も進み出ない事に、満足気な笑みを浮かべたハジメは、もう周囲の人々に興味はないと眼差しを穏やかなものに戻した。

「はぅあ、ハジメさんが私のために怒ってくれました~、これは独占欲の表れ? 既成事実まであと一歩ですね!」
「……シア、ファイト」
「ユエさぁ~ん。はいです。私、頑張りますよぉ~!」
「ふぅむ、何だかんだで大切なんじゃのぉ~。ご主人様よ。妾の事も大切にしてくれていいんじゃよ? あの男みたいに投げ飛ばしてくれてもいいんじゃよ?」

 シアが、自分に触ろうとしたことでハジメが怒った事に対し、身をくねらせながら喜びを表にする。実際、シアが許していないのに我が物顔で彼女に触れようとする事をハジメも許すつもりはなかったので、独占欲があったわけではなかったが、シアが大切故の行動であることに違いはなく敢えて訂正する事はなかった。

 ちなみに、投げ飛ばされたチャラ男を羨ましそうな目で見つめていたティオが、期待したような目で擦り寄ってきたので、ハジメはやはりビンタで対応した。「あぁん!」と艶かしい声を上げながら幸せそうに崩れ落ちるティオに、ハジメは実に冷めた目を向けていたが、それも嬉しいのか「ハァハァ」と興奮する。ハジメは、盛大に溜息をつくと「こいつは、もうダメだ」と諦めの境地で意識から追い出した。

 ハジメ達が、そんな感じでイチャイチャし、すっかり蚊帳の外だったウィルが荷台に乗って体育座りで遠い目をしながら我関せずを貫いていると、にわかに列の前方が騒がしくなった。ハジメが視線を転じると、どうやら門番が駆けてきているようだ。おそらく、先程の諍いが見えて、というか未だ削れた地面の上でピクリとも動かず倒れているチャラ男を見て何事かと確認しに来たのだろう。

 簡易の鎧を着て馬に乗った男が三人、近くの商人達に事情聴取しながらハジメ達の方へやって来た。商人の一人がハジメ達を指差し、次いでチャラ男を指差す。男の一人が、仲間に指示を出してチャラ男の方へ駆けていく。残った男二人が、四輪のボンネットの上でくつろぐ(イチャイチャする)ハジメ達の眼前まで寄って来た。男二人の目つきが若干険しくなる。職務的なものではなく……嫉妬的な意味で。

「おい、お前! この騒ぎは何だ! それにその黒い箱? も何なのか説明しろ!」

 ハジメに高圧的に話しかけてはいるが、視線がユエ達にチラチラと向かっているので迫力は皆無だった。ハジメは、予想していた展開なので門番の男に視線を向けると淀みなく答える。

「これは俺のアーティファクト。あの男は、連れに手を出そうとしたから投げ飛ばした。信じられるか? いきなり抱きつこうとしたんだぞ? 見てくれ、こんな怯えちまって……門番さん、まさかあんな性犯罪者の味方なんてしないよな? そんなことになったら、連れはもうフューレンには来れねぇよ……男に襲われても守られるどころか逆に犯罪者扱いなんて……なぁ?」

 ペラペラと適当な事をさも事実ですという風に話すハジメ。シアは、単純に甘えてハジメにくっついているだけなのだが、客観的に見れば怯えてすがりついているように見えなくもない。まさに悲劇だよ! と表情を歪めて切に訴えるハジメを、荷台越しにウィルが「よく回る口ですね」とジト目で見ているが無視だ。周りの商人達が、「抱きつくどころか、話しきる前に投げ飛ばしただろ」とか「怯えるどころか、ますますイチャついていただろうが」とか小声で突っ込みを入れているがそれも無視だ。

 しかし、明らかにチャライ感じの男と美女・美少女側の人間の言葉、どちらを信じるかと言われれば答えは言わずもがなだろう。「そいつは災難だったな」と碌に調べることなくあっさり信じたようだ。

 と、その時、門番の一人がハジメ達を見て首をかしげると、「あっ」と思い出したように隣の門番に小声で確認する。何かを言われた門番が同じように「そう言えば」と言いながらハジメ達をマジマジと見つめた。

「……君達、君達はもしかしてハジメ、ユエ、シアという名前だったりするか?」
「ん? ああ、確かにそうだが……」
「そうか。それじゃあ、ギルド支部長殿の依頼からの帰りということか?」
「ああ、そうだが……もしかして支部長から通達でも来てるのか?」

 ハジメの予想通りだったようで門番の男が頷く。門番は、直ぐに通せと言われているようで順番待ちを飛ばして入場させてくれるようだ。四輪を走らせ門番の後を着いて行く。列に並ぶ人々の何事かという好奇の視線を尻目に悠々と進み、ハジメ達は再びフューレンの町へと足を踏み入れた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 現在、ハジメ達は冒険者ギルドにある応接室に通されていた。

 出された如何にも高級そうなお茶と茶菓子をバリボリ、ゴクゴクと遠慮なく貪りながら待つこと五分。部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたのは、ハジメ達にウィル救出の依頼をしたイルワ・チャングだ。

「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」

 以前の落ち着いた雰囲気などかなぐり捨てて、視界にウィルを収めると挨拶もなく安否を確認するイルワ。それだけ心配だったのだろう。

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」
「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」
「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 イルワは、ウィルに両親が滞在している場所を伝えると会いにくよう促す。ウィルは、イルワに改めて捜索に骨を折ってもらったことを感謝し、ついで、ハジメ達に改めて挨拶に行くと約束して部屋を出て行った。ハジメとしては、これっきりで良かったのだが、きちんと礼をしないと気が済まないらしい。

 ウィルが出て行った後、改めてイルワとハジメが向き合う。イルワは、穏やかな表情で微笑むと、深々とハジメに頭を下げた。

「ハジメ君、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」
「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだろ」
「ふふ、そうかな? 確かに、それもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう? 女神の剣様?」

 にこやかに笑いながら、ハジメが大群との戦闘前にした演説の内容から文字った二つ名を呼ぶイルワ。ハジメの頬が引き攣る。どうやら、ギルド支部長には、ハジメの移動手段より早い情報伝達方法があるようだ。

「……随分情報が早いな」
「ギルドの幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に付いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど……彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」

 そう言って苦笑いするイルワ。最初から監視員がついていたらしい。ギルド支部長としては当然の措置なので、特に怒りを抱くこともないハジメ。むしろ、支部長の直属でありながら、常に置いていかれたその部下の焦りを思うと、中々同情してしまう。

「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……聞かせてくれるかい? 一体、何があったのか」
「ああ、構わねぇよ。だが、その前にユエとシアのステータスプレートを頼むよ……ティオは『うむ、二人が貰うなら妾の分も頼めるかの』……ということだ」
「ふむ、確かに、プレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」

 そう言って、イルワは、職員を読んで真新しいステータスプレートを三枚持ってこさせる。

 結果、ユエ達のステータスは以下の通りだった。

====================================
ユエ 323歳 女 レベル:75
天職:神子
筋力:120
体力:300
耐性:60
敏捷:120
魔力:6980
魔耐:7120
技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法
====================================

====================================
シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40
天職:占術師
筋力:60 [+最大6100]
体力:80 [+最大6120]
耐性:60 [+最大6100]
敏捷:85 [+最大6125]
魔力:3020
魔耐:3180
技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法
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ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89
天職:守護者
筋力:770  [+竜化状態4620]
体力:1100  [+竜化状態6600]
耐性:1100  [+竜化状態6600]
敏捷:580  [+竜化状態3480]
魔力:4590
魔耐:4220
技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法
====================================

 ハジメには及ばないものの、召喚されたチート集団ですら少人数では相手にならないレベルのステータスだ。勇者が限界突破を使っても及ばないレベルである。

 流石に、イルワも口をあんぐりと開けて言葉も出ない様子だ。無理もない。ユエとティオは既に滅んだとされる種族固有のスキルである“血力変換”と“竜化”を持っている上に、ステータスが特異に過ぎる。シアは種族の常識を完全に無視している。驚くなという方がどうかしている。

「いやはや……なにかあるとは思っていましたが、これほどとは……」

 冷や汗を流しながら、何時もの微笑みが引き攣っているイルワに、ハジメはお構いなしに事の顛末を語って聞かせた。普通に聞いただけなら、そんな馬鹿なと一生に付しそうな内容でも、先にステータスプレートで裏付けるような数値や技能を見てしまっているので信じざるを得ない。イルワは、すべての話を聞き終えると、一気に十歳くらい年をとったような疲れた表情でソファーに深く座り直した。

「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。ハジメ君が異世界人の一人だということは予想していたが……実際は、遥斜め上をいったね……」
「……それで、支部長さんよ。あんたはどうするんだ? 危険分子だと教会にでも突き出すか?」

 イルワは、ハジメの質問に非難するような眼差しを向けると居住まいを正した。

「冗談がキツいよ。出来るわけないだろう? 君達を敵に回すようなこと、個人的にもギルド幹部としても有り得ない選択肢だよ……大体、見くびらないで欲しい。君達は私の恩人なんだ。そのことを私が忘れることは生涯ないよ」
「……そうか。そいつは良かった」

 ハジメは、肩を竦めて、試して悪かったと視線で謝意を示した。

「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員“金”にしておく。普通は、“金”を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに“女神の剣”という名声があるからね」

 イルワの大盤振る舞いにより、他にもフューレンにいる間はギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワの家紋入り手紙を用意してくれたりした。何でも、今回のお礼もあるが、それ以上に、ハジメ達とは友好関係を作っておきたいということらしい。ぶっちゃけた話だが、隠しても意味がないだろうと開き直っているようだ。

 その後、イルワと別れ、ハジメ達はフューレンの中央区にあるギルド直営の宿のVIPルームでくつろいだ。途中、ウィルの両親であるグレイル・グレタ伯爵とサリア・グレタ夫人がウィルを伴って挨拶に来た。かつて、王宮で見た貴族とは異なり随分と筋の通った人のようだ。ウィルの人の良さというものが納得できる両親だった。

 グレイル伯爵は、しきりに礼をしたいと家への招待や金品の支払いを提案したが、ハジメが固辞するので、困ったことがあればどんなことでも力になると言い残し去っていった。

 広いリビングの他に個室が四部屋付いた部屋は、その全てに天蓋付きのベッドが備え付けられており、テラスからは観光区の方を一望できる。ハジメは、リビングの超大型ソファーにゴロンと寝転びながら、リラックスした様子で深く息を吐いた。

 ユエが、寝転んだハジメの頭を持ち上げて何時ものように膝枕をする。シアは、足元に腰掛けた。ティオは、キョロキョロと物珍しげに部屋を見渡している。

「取り敢えず今日はもう休もう。明日は消費した食料とかの買い出しとかしなきゃな」

 ハジメが、髪を撫でてくるユエの手の感触に気持ちよさそうに目を細めながら、翌日の予定を口にする。そこに待ったを掛けたのはシアだ。おずおずと横たわるハジメの体を揺さぶった。

「あのぉ~、ハジメさん。約束……」
「……そうだったな。観光区に連れて行くんだったか……」

 頑張ったシアのご褒美に、一日付き合うという約束をしたハジメ。シアが期待したような眼差しでハジメを見つめる。ハジメは、買い出しの必要はあるのでどうしたものかと逡巡するが、その迷いはユエが断ち切った。柔らかな手でハジメの両頬を挟み込むと、優しげに目を細める。

「……買い物は私とティオがしておく。シアを連れて行ってあげて?」
「……いいのか?」
「ん……その代わり……」
「代わりに?」

 ユエは、ハジメとの約束を心底楽しみにしていたシアに友人というよりどこか姉のような雰囲気で優しげな眼差しを向けるとハジメを促した。ハジメが、若干、複雑そうな表情で言葉の続きを確認すると、ユエは、優しげな表情をスっと妖艶なものに変えてチロリと舌舐りした。そしてハジメの耳元に顔を寄せると囁くように……

「……今夜は沢山愛して」

 そんなことを言った。ハジメは、片手で顔を覆うと一言「…ん」とユエのような返事をする。それで精一杯だった。迷宮最奥のガーディアにだって勝てる自信があるが、きっと、たぶん、一生、ユエには勝てそうにないと、そんな事を思うハジメだった。

「……気がつけば、ごく自然に二人の世界が始まる……ユエさんパッないです」
「ふむ、それでもめげないシアも相当だと思うがのぉ。まぁ、妾はご主人様に苛めてもらえれば満足じゃから問題ないが……シアは苦労するのぉ~」

 シアは、ユエに「流石師匠ですぅ」と尊敬の目を向け、ティオは互いに嫉妬の感情を感じさせないシアとユエの関係に興味深げな視線を送る。その後、ユエの不意打ちに理性が飛びかけていたハジメも何とか正気を取り戻し、四人はあれこれ雑談しつつ、その日の夜は更けていった。


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おまけ

 その日の深夜

 月が頂点に差し掛かかった頃……冒険者ギルドの直営宿、最上階のテラスに抜き足差し足でこそこそ動く人影があった。暗殺者のような黒装束に身を包んだ二人は、そろそろと気配を殺しながらとある部屋の窓辺に近寄ると、こっそりと中の様子をうかがった。

 その部屋の様子はというと……

「ふわっ! 見て下さいティオさん! あんなに激しく……ユエさん壊れちゃいますよぉ」
「ふぉおおおお! ご主人様激しいのじゃ! し、しかし、シアよ。ユエのあの表情……正直あれはヤバイのじゃ! 同じ女である妾でも、変な気分に……」
「はぅうう、確かに蕩けそうな表情が堪りませんね! 物凄く幸せそうですぅ~、羨ましいなぁ~」
「むぅ~、苛めてもらえれば満足と思っておったが……ああいうのも悪くないのぉ~」

 ……この後、気配に気がついたハジメに、出歯亀の二人がキツイお仕置きをされた事は言うまでもない。

いつも読んで下さり有難うございます
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます

ステータス補足
“血盟契約”
唯一と定めた相手に対する吸血による効果が大幅に上昇する。

“想像構成”
魔法陣を完全にイメージのみによって構成出来る。

“変換効率上昇Ⅱ”
魔力1に対して身体能力が2変換されて上昇する

“竜鱗硬化”
魔力を注ぐことで竜鱗の硬度が増していく。竜化基本ステから耐性のみ更に上昇が可能

ステータスは暫定です。後の展開次第で調整する可能性があります

次回は、金曜日の18時更新予定です
+注意+
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