全世界防衛戦③ 親愛なる隣人だよ、嘘じゃないよ
「フッ……今日は、少し風が騒がしいな……」
デトロイトで最も高い建物――ルネサンス・センターの屋上に不審者がいた。
アビスゲートさんだった。
全身黒ずくめ。手甲と脚甲、胸部にも薄めだがプロテクターを付け、ベルトにもポーチを幾つか。そしてサングラス。
屋上の縁のギリギリに足を綺麗に揃えて立ち、片手はポケットに、もう片方の手はサングラスをクイッとしながら顔を隠すようにして添えている。
大変、香ばしい雰囲気だ。つまり、いつも通りだ。
「だが少し……この風、泣いているか?」
「さっきからなに言ってんだ、お前」
かなり引いている感じのツッコミが入った。アビィはフッした。
少し上体を反らすようにして肩越しに振り返る。もちろん、細部まで香ばしさを意識しての〝振り返りポーズ〟だ。ここにラナがいてくれたなら、きっと「きゃーーーっ、こうくん素敵よ!!」と絶賛しながらカメラのシャッターボタンを連打したことだろう。
「どうやら、良くない何かを……フッ。風が運んできてしまったらしい」
顔に添えた手の指先で、少しサングラスを下にずらす。完璧だ。今の俺は輝いている! ビルの屋上に相応しいムーブだ!!
自画自賛の極致みたいな卿の内心とは裏腹に、視線を向けられた相手――リチャード・ヒル警部、もとい〝門の神〟を崇める魔術組織〝我等〟の首領たる男は、後ろ手に縛られ横たわった状態のまま、いかにも頭のおかしい人を見る目になって頬をヒクヒクさせた。
「急がねば。風が吹いているうちに……そうだろう? ヒデ○リ」
「誰だよ」
もうホントやだ、こいつ。頭がおかしくなりそう……と思っていそうな表情だ。
〝門の神〟への狂信、そしてハジメの〝脳みそクチュクチュ情報奪取〟で頭がおかしくなっていたが、どうやらすっかり回復した様子だ。狂信的な雰囲気はなく、刑事を演じていた時そのままの雰囲気だ。
防衛戦のため各々が担当する場所へ出発する前に、香織に回復してもらったのだ。加えて、下手なことはしないよう強力な暗示もかけてある。魔術師の知識はそのままに、人格を刑事としてのリチャードに固定する感じだ。
巧妙に隠れながら手を出してきている〝門の神〟を見つけるための、一つの手段である。あまり期待はしておらず、ないよりはマシというレベルだが。
崇拝者関連の知識もあるので、状況に応じて何かしらの手助けにはなるかも?……という意図もある。どうせなら使えそうなものはなんでも使っておこう精神だ。
リチャード的には数年ぶりに〝門の神〟の気配も頭の中に響く声もなくなって、ちょっと解放感に浸っている感じだし、今のところ役に立つ気配はまったくないが。
「我等の任務は、あの〝虹の橋〟と、この都市の人々を守ることだ。分かっているな? ジョン・マクレ○ン警部」
「勝手にお前等の仲間に入れんな――ってか、おい、待て。誰が世界一ついてない男だ! まさか俺を映画ばりの死地に放り込む気じゃねぇだろうな!?」
「案ずるな……」
「なんだ、驚かせやがって――」
「我が盟友よ。貴君の帰り道は、この深淵卿が守ってみせよう! 天翔る虹の橋は、何人にも触れさせん!!」
「話を聞けよ!! このフリーダム野郎がっ」
途中からナチュラルに会話相手から外されて悪態を吐くリチャードを放置し、卿は前に向き直った。
遠目に見えるのは空中の光の渦――〝虹の橋〟だ。
そう、あの転移門の守護こそがまさに、ユエから与えられた深淵卿への最重要任務の一つなのだ。
ではなぜ、守ると言いながら距離を取っているのか。
それは〝門の神〟によるなんらかの接触・干渉を誘うためである。
あの建物の屋上には既に誰もおらず、しかし、分身体は全力隠形状態で周辺に潜んでいるので、本体の卿も〝入れ替わり転移〟により一瞬で駆けつけられる。
同時に、この場所なら都市全体を見渡せるので何か異変があれば直ぐに気が付ける、というわけだ。
まだ異変は起きていないのに既に深淵卿モードになっていることが、相変わらずのふざけた言動ながらも浩介の警戒度の高さを表していた。
と、そこで卿の傍らに浮かんでいた黄金の三角プレート――〝ス魔法〟が反応した。ポンッと可愛らしい星のエフェクトが散ってチビユエになる。
『……報告。トータスは私一人で問題なし。星の魔力も掌握した。チビユエを通して送るので魔力切れは心配しなくていい。ただし、ハジメのように各人に適した固有魔力に変換した状態では送れない。あくまで放出されてくる自然魔力から自分で取り込んでもらう形になる。つまり普段と同じく変換効率的に消費量と回復量が見合わない事態は起きうる。その点は注意するように』
世界一つを一人で守り、制限はあれどハジメと同じく無限魔力の供給を可能とする。
称賛と安堵を抱かずにはいられない。
卿は口の端を吊り上げつつも、少しホッとした様子で肩を揺らした。
きっと、各地で聞いてる仲間達も同じ気持ちだろう。
『……次に、各世界に出現した無神の情報と合わせて、敵戦力を改めてランク分けした』
おそらく、卿だけでなく〝ス魔法〟を付与された者達全員への通達事項なのだろう。情報伝達モードらしく感情はなく、機械的に話し出すチビユエ曰く。
厄災界でハジメ達が戦っている相手――人形の無神に使われている階級を流用し、その上に特級としてクラス0、下にクラス4とクラス5を設ける。
クラス4は〝聖域〟に出現した〝翼蟻の無神〟や、デトロイトの地下にいた〝不定形の怪物〟の単体レベル。
〝帰還者〟一人か数人で、あるいは陰陽寮やエクソシスト、影法師における上級クラスの人員が複数人でチームを組んで対応可能な相手。完全武装したハウリアも対応可。
クラス5はヴァンヴィッチ村に出現した〝食人鬼〟や、リチャードのような崇拝者達。
対応武器を支給されていて超常現象との実戦経験もある英国保安局強襲部隊や米国MCBエージェント、各組織の中堅クラスなら対応可能なレベル。
各対応可能クラスの一つ上までなら〝遅滞戦闘〟が可能。
『……クラス0は言うまでもなく、各世界における最大戦力を以て挑むように。各世界の化身は索敵を常に怠らず、当該世界における最大戦力を即座に転移で送り、最大限の援護をすること』
と、そこで虚空を眺めるようにして淡々と話していたチビユエの視線が卿に向いた。
ターンする卿。
ここからは卿自身への、あるいは地球の都市防衛チームへの通達だろうと察する。
『……遠藤、分身体は?』
「指示通り、ライラ殿の影転移で世界各地に配置済みだ。とはいえ、今の我は深度Ⅳ。約千体では世界の全てをカバーすることはできていないが」
もちろん、最高深度の深淵へと沈めば総計一万体に増加できる。各地の分身体を起点にすることも可能だ。なのである意味、中継点の敷設としては万端だ。
『……ん、それでいい。クラス0と1が出現した場合は遠藤が対応すること』
「任された。しかし、クラス2も十分に脅威だと思うが……」
〝虹の橋〟から出現した〝人形の無神〟を思い出す。最初に出てきたクラス2……あれは南雲家や光輝のような一部を除いては〝帰還者〟でも対応できない。複数人がかりでも遅滞戦闘の末に死人が出るだろう。
クラス3でギリギリ。ユエの見立ては正しいと卿も考えていた。
クラス2と3は放置でいいのか?
「手が足りなくなる可能性は?」
『……ん。クラス2以下も相手にしていたら、遠藤だけでは十中八九、足りなくなる』
曰く、シアの存在で王樹とライラに手を出せないと理解すれば、地球に潜んでいるであろう無神達は必ず人口密集地帯――大都市を狙う。
『……今のところ王樹近辺以外に無神は確認できない。けれど、おそらく最も無神が潜んでいるだろう世界は地球だと考えてる。各員、決して油断しないように』
「もちろんだとも」
崇拝者と探索者。そして、彼等が後世に残した創作神話の類い。
不定形の神話生物と人間の間に生まれたサスラからの情報。
総合的に考えれば、今、〝聖域〟を襲っている無神が全てとは到底思えない。それどころか創作神話が一種の目撃情報である以上、その数と多様性からすれば、そういった伝承が残っていない、あるいは限られている異世界よりも多くが潜んでいると推測するのは当然のことだった。
ならば、最も守り難いのも地球だろう。
『……全ての異世界の中で地球の人口が最も多く、人口密集地の分布も最も広い。守るべき範囲は全異世界中、最大になる』
約八十億人だ。単純な人の分布で考えるなら本当に世界中だ。人口密集地帯というべき都市の数も他の異世界と比べものにならない。
そういう意味では、次点で砂漠界、その次に天竜界が戦力を必要とする世界だろう。
それでも地球には遥かに及ばない。両世界共に酷く痛めつけられた世界だからだ。総人口で言えば地球の四分の一にも満たないだろう。
機工界は最たる例だ。マザーのデストピアはたった一つの都市にしか人類の生存を許さず、人口も管理されていた。不幸中の幸いとは言いたくないが、守護という観点からすれば、現状、コルトラン及び少し離れた場所にある施設にしか人類は存在しないので守りやすい。
『……地球には最も多くの戦力が必要。けれど元々、ハジメが選抜した派遣悪魔が世界中で異常事態に目を光らせてる』
「おぉ! そう言えばそうだ。彼等にクラス2以下の対応を任せるわけだな」
うんうん、流石は我が盟友よ! と腕を組んで頷く卿。心なしか、チビユエもドヤっているように見える。
『……加えて、ハジメは厄災界に行く前に、自分の〝宝物庫〟から〝箱庭〟との接続を切り離して預けてくれた』
言うまでもなく、南雲家が所持する〝宝物庫〟は空間的に繋がっている。そして〝箱庭〟とは〝宝物庫〟の中の世界だ。
だが、それは全ての〝宝物庫〟が直接的に〝箱庭〟と繋がっているということではない。当然だ。でないと〝宝物庫〟に収めた道具が〝箱庭〟の中にバラバラと降り注いでしまう。
今の〝箱庭〟は独立した〝宝物庫〟の中の世界だ。各人が持つ〝宝物庫〟は、言わばマンションでいうところの外扉と内扉の間のエントランスのようなものだ。
荷物を収めるためエントランスと違って空間は広いし、別にその空間を物理的に通って入るわけでもない。ただ、〝箱庭〟と触れ合う形で接続することで一種の扉として機能させているのだ。なので、体感的には直接〝箱庭〟に入った感覚になる。
また、エントランスの鍵と同じく、南雲家以外の者でも許可があれば自分の〝宝物庫〟を通して入ることができる。
もちろん、それは〝宝物庫〟同士の間に空間的隔たりがない場合、すなわち同じ世界にいる場合だけではある。
だが、今は……と卿は合点がいった様子でポンッと手を打った。
「そうか! 異世界同士が接続されている今なら〝箱庭〟も〝宝物庫〟で繋がった状態にできる! 箱庭の移住者達を適材適所で援軍に送れるわけか!」
『……ん。もちろん、漢女神にも援軍を要請してある』
「エクセレント!」
地獄界も妖精界も共に強大な存在のオンパレードだ。多少、戦力を異世界に送ったとて問題はないだろう。
ふむ、と卿は思案顔で続ける。
「後は星霊界か……確か、人々は戦う力を失っていたはず。神霊や精霊獣はいるので戦力は申し分ないだろうが……」
絶対はない。女神であっても敗北している事実があるのだ。人口も砂漠界に負けず劣らず。
そういう意味では地獄界や妖精界とて、悪魔や妖魔だからこそ対抗し難い能力を持った無神が出現しないとも限らない。
そんな懸念を、
『……遠藤は地球の人達を守ることだけ考えていればいい』
チビユエはばっさりと切った。
サングラス越しに、チビユエが真っ直ぐに目を向けてきているのが分かった。その目には確かに感情があった。本体のユエの言葉だ。
『……貴方はハジメの右腕。大抵の神仏悪魔よりも強い。だから、ハジメの帰り道だけでなく、私達の世界を、地球に生きる人達の全てを預けるに足る』
本当はユエ自身が地球を守りたかっただろう。最愛の人の故郷であり、己の命よりも大事な家族がいる世界なのだ。当然だ。
けれど、それでも必要だと理性で分かっていたから、ユエは地球を後にした。
それができたのは、ハジメの信頼に応え続けてきた浩介の実績故だ。
『……異世界のことは仲間に任せて。貴方は、地球のヒーローなんでしょう?』
きっと異世界へ救援に向かった者達も、そして今も厄災界ですべきことをしているであろうハジメも同じだ。
自分達がどんな世界へ行こうと、他の何をしていようと。
地球には遠藤浩介がいる。
その一点を以て背を向けられる。己のすべきことに集中できる。
そう誰もが無類の信頼を寄せている。
確かに伝わるそれが、南雲一家の心情の代弁とも言える言葉が、なんともむず痒い。
「フッ。そうであったな。元より司令官殿の采配に従うと了解したのだ。余計な懸念であった!」
サングラスをクイッ。ターンだってしちゃう。
『……基本的に敵戦力の判断と防衛戦力の転送はライラがやる。でも、現場判断は遠藤に一任する。必要ならライラに命じて。神仏悪魔にも命令の優先権は伝えてある』
いったいどんな旅行をしてきたのか。我の強い神仏妖魔共のことだ。現場レベルの命令では人間に従えなんて、果たしてすんなり聞くだろうか? 場合によっては〝最上の命令権は私だが?〟と、手っ取り早くいろんなものをスマッシュする用意もしていたのだが……
大半の神仏達は快諾した。それは己の源流たる伝承の地の人々を失いたくないという想いだけでなく、明らかに〝アビスゲート卿〟の命令ならばという意思が透けて見えたのだ。
『……それと』
と、ユエが何か言いかけた、その時だった。
ちょうど〝聖域〟ではシアが無神の群れごと大気をぶっ飛ばしてライラが涙目になった直後のこと。
『!! 索敵に反応あり――いえっ、反応なし!! 十二カ所ですわ!!』
ライラからの緊迫した声が伝播してきた。
ユエの予想通りだ。〝聖域〟が武神ウサギのせいで難攻不落となっていることが確定した途端、地球全土を覆うライラの感知網に穴が空いたのだ。
それすなわち、そこに〝感知できない存在〟が、〝無神〟が出現したということ。
「フッ、どうやら我の出番らしい。位置は? 十二体くらいなら我だけで――」
『遠藤浩介!』
「女神殿、我のことは是非、アビス――」
『後ろです!!』
「ゲェエエ!?」
ゲートと呼んでくれ、とでも言いたかったに違いない。腹に大穴が開きさえしなければ。
震えながら己を見下ろす卿。
バスケットボール大の大穴が開いている。だが見えない。何かに背後から胴体を貫かれているのは分かるが、それが何か分からない。透明なのだ。気配も感じない。あの異質な気配が欠片もない。
ただ何かが背後にいて、卿にすら気が付かれずに接近し、何か太いもので卿を貫いたことだけは分かった。
明らかに致命傷の一撃。チビユエが目を見開く。背後で横たわっているリチャードも言葉を失っていた。
卿は如何にも〝信じられない〟といった表情で掌を腹部に当て、そのまま震えながら掌を返し、見つめ、叫んだ。
「なんじゃこりゃぁあああああっ!!」
惜しいかな。ここに某有名な刑事ドラマを知る者はいない。名俳優の、あの名ゼリフを知る者はいないのだ!
ともあれ、普段通りにお巫山戯ができるなら問題なし。
腹部はもちろん、掌にだって血の一滴も付いてはいない。
当然だ。だって、
「良くない風が吹いている、と言っただろう?」
分身体だもの。
ギィイイイッと金属同士が擦れ合うような不協和音が響き渡った。
チビユエでさえも騙された〝特に力を入れて偽装した分身体〟を貫く不可視の無神の斜め後ろの上空から、現在の卿が可能な全ての技術を費やした全力隠形状態の本体がぬるりっと出現した。
その手には小太刀が握られていて、まるで人間の両肩に足を置いて、脳天を突き刺すかのように小太刀を突き降ろしている。
「防ぐか!」
小太刀の切っ先、一見、何もない虚空に火花が散っていた。
「ッ!!」
刹那、卿の直感が囁いた。背筋を悪寒が駆け抜ける感覚。
咄嗟に飛び退く。用意しておいた重力魔法〝黒渦〟を発動し、真横に引っ張る力を以て全力で距離を取る。
その直感は正しかった。
何かが一瞬前までいた空間を薙ぐ感覚。驚くほど滑らかに空気が裂かれたような感覚も。
「マ、マジか」
思わず素が出る。今度は違う意味で背筋が泡立つ。頭上を取る形で奇襲して良かったと心の底から安堵する。
空に浮かぶ雲が真っ二つに分かれていた。
神速にして飛距離莫大の飛ぶ斬撃。空間切断か、それとも別の原理かは分からない。だが、その鋭さは間違いなく鋼鉄をも切り裂くだろうと、決してまともに受けるなと、己の経験則が激しく訴えているのが分かる。
「一番高い場所にいて幸いであったな」
冷や汗が浮かぶのを自覚する。
もし、あの攻撃が地上で真横に放たれていたら? 大惨事間違いなし。
何も厨二心を満たしたくて屋上で待機していたわけではない。……いや、まったく意識していなかったわけではないけれど……ともかく!
待機場所をここにしていた理由は都市の監視以外にも、戦場を空中にするためでもあったのだ。地上で暴れられては多くの人々に被害が出てしまうから。
無神の魂を吸収する方式が分からない以上、問答無用に殺しまくる可能性だってあるのだ。当然の警戒であり、大正解だった。
「お、おい! 何がどうなって――」
突然の事態に呆然としていたリチャードが声を張り上げる。だが、全てを言い切る前に、卿はリチャードの傍へ一瞬で移動し、その首根っこを引っ掴んで後ろへ放り投げた。
「悪いが、かくれんぼに付き合う気はないのだよ!」
再び響く金属音。不可視の無神がリチャードを狙ったのだ。振るわれた相手の攻撃を、小太刀の一撃ですくい上げるようにして逸らす。
何もない真横の虚空へ斬撃が飛んだのが分かった。
それは確実に見えていなければできない芸当だ。
言外の〝見えているぞ〟という言葉はハッタリでもなんでもなく、事実、見えていた。
「自分にかける類いの術ではない。相手の意識に干渉するタイプだな?」
どうやらカーラと同じタイプらしい。故に問題はなかった。あのこじらせ大悪魔にいろんな意味で狙われているハジメが対策しないわけがなく、仲間に対策品を支給しないわけもない。
〝深淵卿のサングラス〟はアップグレード済みだ! グラス越しに最初から相手の姿は見えていた!
「生憎と我が〝深淵見通す闇のまな――」
最後まで言わせてもらえなかった。卿の戯言など、文字通り戯言と切り捨てるような一撃が振るわれたから。
んんっと声を漏らしつつ宙返りで回避しつつ、先程発動した〝黒渦〟を流用して強引に相手を上空へ吹っ飛ばす。
卿もそのまま上空へと上がった。戦場を更に何もない空へ移したのだ。もちろん、追撃も放ちながら。
空間を貫く十二本のクナイが見えない敵へ正確に迫る。
空中にギンギンギンッとクナイを弾き飛ばす音が響き、火花が散った。その間に相手の上を取って、改めて見下ろす。
「あまり無神には見えんな。こういうタイプもいるのか……」
老人だった。某有名映画タイトルでもあるエイリアンの如き醜悪な生き物に騎乗した、上半身裸の、見た目に反して凄まじく頑強そうな肉体の老人だ。右腕が銀の義手で、左手には特大の槍が握られている。
卿を貫いたのは大槍だが、雲を裂いたのは無手のはずの銀の腕だ。手刀として振るっただけでそうなった。最初の卿の奇襲を防御したのも、この腕だ。義手というより、もはや腕の形をした剣と捉えた方がいいだろう。
そこには確かに〝武〟が感じられた。
騎乗している生き物の異質さはともかく、老人自体は人と遜色ない姿だ。あるいは人形の悪魔や妖魔と言われた方がしっくりくる。
だがしかし、一点だけ、その一点のみを以て無神だと断定できた。
「その異質な気配。世界が拒絶しているが如き圧倒的違和感。抑えているようだが戦闘と同時に漏れ出したな! もう誤魔化せんぞ! この盟友より送られた〝深淵見通す闇のまな――〟」
眼と書いて〝まなこ〟と呼ぶ。言いたい。でも、やっぱり最後まで言わせてもらえない!
弓のようにしなる肉体。老人の無神が大槍を投擲してきた。
上半身の力だけで投げられたとは思えない凄まじい速度で飛来する大槍。
それをなんなく回避するが、
「むぅ!?」
即座に空中を蹴って横っ飛びする。
間一髪、通り過ぎたばかりの大槍が、穂先をこちらに向けた状態で背後から通り抜けた。
慣性を無視し、鏡に反射した光の如く鋭角ターンを決めて背後から強襲してきたのだ。しかも、回避直後に微妙に軌道修正までしてきた。まるでハジメの弾丸のように。
戦闘の余波から地上を守るために配置した分身体の視覚情報と警告がなければ危なかっただろう。
「フッ、どうやらギリギリの回避は得策ではないよう――うぉ!? ちょっとは最後までしゃべらせたまえ! 無礼であろう!」
遂に抗議しちゃう深淵卿。
あの不可視にして神速の斬撃が飛んでくる。斬撃そのものは見えないが、腕の振りで軌道は分かるので回避。通り過ぎた斬撃は、またも雲を真一文字に裂くだけに留まる。
その隙に分身四体が背後と左右、それに斜め下の正面から迫った。正面がエイリアンモドキの騎馬を狙い、銀の腕と大槍を左右の分身体で抑え込み、背後の一体でバックスタブを決める。そういう布陣だ。
だが、そう簡単にはいかない。やはり、この無神は武に通じた戦士だ。
大槍がクルリッと回転する。穂先側と柄側で左と背後を同時に防ぎ、銀の腕を薙ぎ払うことで右と下の分身体をまとめて剛力を以て吹っ飛ばす。
だが、卿とて猛者だ。
左と背後の分身体は、このタイミングで初めて二刀目の小太刀を抜いた。それも居合の如く。抜刀された小太刀は当然、空間切断を発動した状態だ。
いかな無神とて流石に手が足りない。鋼よりも固い肉体だが、熱したナイフでバターを斬るような滑らかさで脇腹と項が斬り裂かれる。
異形の騎馬が回転し僅かに位置をずらしたことで致命傷には至らない。
だが、意識は逸らせた。
吹き飛ばされながらもクナイを投げていた分身体二体が、入れ替わり転移で無神の直ぐ傍に出現する。
「「「「フハハハッ、大した武神だ! 生前はさぞ名を馳せたに違いない!! だがしかぁしぃ!!」」」」
老人の表情は人形のように全く動かない。無表情というより、人の顔を模した仮面でもしているかのようだ。だが、それでも、なんかこう……いかにも「こいつうるっせぇなぁ」と言っているように見えたのは、本体の近くで観察しているチビユエの気のせいかだろうか。
「我輩の方が速い!!」
「貴殿の攻撃など、もはや当たらぬ!!」
「完全に見切った!!」
「「「「つまりぃいいいいっ」」」」
チビユエの目があからさまに物凄いジト目になった。うぜぇ……と思ってそうな顔だった。まだ本体の意識が反映されているらしい。無神の情報を少しでも集めるためだろうが、視界に入る深淵卿が邪魔でしょうがない……みたいな顔だ。
無理もないだろう。
だって、無神を四方向から囲んで小太刀を振るう分身体達が、
「「「「我輩、超クール」」」」
なんか余裕をかまして片手で攻撃しながら、もう片方の手で髪を掻き上げたりしてるから。
しかも、異形の騎馬が包囲網から逃れようと縦横無尽に動くのに合わせて、〝黒渦〟で包囲したまま一緒に動くものだから、髪を掻き上げながら空中移動するというシュールの極みみたいな光景になっている。
もちろん、言ってる内容もよく分からないし、本体の卿も一緒に髪を掻き上げているのでウザさ倍増だ。陽の光を気持ち良さそうに浴びる人……みたいな表情で、かつ無意味に片腕を広げている点が余計に。
その結果。
「「「「フッ」」」」
異形の騎馬が脱落した。細切れにされ霧散していく。
老人の無神は自力でも空中戦が可能らしい。滞空したまま大槍を構えている。切り刻まれた傷口のあちこちから黒い靄を漏らしていた。
だが、いずれも浅い。痛痒を受けたようにも見えない。むしろ威圧感は増したように思える。
何より、今度ははっきりと訝しむような雰囲気が、その眼から感じられた。
四体の分身体が、それぞれ香ばしいポーズを取っているから?
きっと違う。
『……普通に当たってない?』
チビユエが訝しむ目を分身体に向けている。
完全に見切ったはずで、だから余裕をかまして片手攻撃&髪掻き上げなんてムーブをかましていた分身体達は、ゆっくりとポーズを解いた。
そして、震える手で自分の体を見下ろし、手でサスサスとさする。
一拍置いて、なんかいろんな意味で警戒心が溢れている様子の無神に向けて、これまたゆっくりと顔を上げる分身体達。
彼等は、震える声で言った。
「「「「…………い、いたぁい………」」」」
なんということはない。余裕ムーブをかましたせいで普通に反撃を食らっていただけの話だった。
普通に、見るからに、胴体がズタボロである。
ちなみに、分身体にも痛覚は設定できる。無痛より感覚が鋭くなるから、あえてそうしている。
泣き言を言う分身体に、気のせいだろうか。無神が戸惑っているように見えるのは。実際、動かないし。たぶん、ただ警戒しているだけだと思うが……
何はともあれ。
「時間だ」
〝時間稼ぎ〟と〝上空にて動きを止める〟という目的は達せられた。
そう、最大にして最強の攻撃魔法を放つ準備は整ったのだ。
「深淵の腕に抱かれ眠れ――〝黒天窮〟!!」
一切合切を取り込み消滅させる絶対の魔法が、狙い通り無神を呑み込んだ。
「フッ、深淵には何人も勝てぬと知れ……」
ターン&決め顔&決めポーズ&サングラスをクイッとする卿。無神が完全消滅するまで〝黒天窮〟を維持しつつ地上を見渡す。
「しかし、分かっていたが……やはり、秘匿は難しいな」
分身体を通して地上が凄まじい喧噪に覆われているのが伝わってくる。
当然だ。
突如、上空に巨大な渦巻く黒い球体が出現したのだ。これは流石に誤魔化せない。少し前に、表向きはテロ組織の制圧戦が報道されたばかりだったのもある。
『……ん。最初に言ったけれど』
「うむ、分かっているとも、司令官殿。防衛戦において秘匿は気にするな、であるな」
ん、と頷きつつもチビユエの視線は〝黒天窮〟から離れない。誰よりも重力魔法の奥義の絶対な力を知っているはずなのに、ハジメが時折見せるのとそっくりの観察者の目を向けている。
向けながらも、防衛戦のため別れる前にも言ったことを、改めて全体に通達しているような口ぶりで念押しするユエ。
『……秘匿に気を遣って被害が出ては無意味。どちらにせよ、地球のどこに出現してもおかしくない相手じゃあ目撃情報は抑え切れない』
撮影した事柄を、個人がネットに上げられる時代だ。
それらにいちいち対応していたら、それこそ無神の被害が出かねない。
『……混乱も、多少の被害も覚悟する必要がある』
何もかもを無傷で守り抜く戦いは、端から捨てている。
そんなことが可能だと考えるのは甘えだと、ユエは考えた。そんなレベルは遥かに超越した戦いになると、誰よりも真っ先に覚悟を決めていたのだ。
『……大丈夫、無神に魂を食われさえしなければ、死んでも問題ないよう手を打ってる』
命を守るための最良の行動は、秘匿の無視はもちろん、多少の被害を覚悟の上で無神の討伐を優先することだ。
『……今日この日、〝変わりつつある世界〟が明白に〝世界が変わった日〟になったとしても』
覚醒者の出現、カルト組織の増加、国際情勢や国家間パワーバランスの変化。それらに対応しようと少しずつ変わり始めていた国際社会において、今日は歴史的転換点になるかもしれない。
『……大きな混乱が生まれ、今まで通りの生き方が困難になったとしても』
急激な変化は大きな混乱を人々の間にもたらすだろう。
もちろん、全てが片付いた後に対応はできるかもしれない。
だが、今は考えるべきことではない。
優先すべきは、何においてもまず〝命〟だ。
『……遠慮も、容赦も無用。生きるために、生かすために戦って』
ユエの、我等が女王様の命が響く。
世界各地に出現した十二体の無神のうち、分身体によって既に四体を屠った卿が深く頷いた。
まだ心のどこかに残っていた〝できれば周囲を混乱させずに、気づかれないまま倒したい〟という甘えを自覚する。
それが故に少し手こずっていた残りの無神を前に、本体に同調した世界各地の分身体が気合いを入れ直すように己の頬を両手で叩いた。
その直後だった。地上への配慮から威力を調整していた〝黒天窮〟に、
「なっ」
ビキビキッと亀裂が入ったのは。
〝黒天窮〟が破られようとしている。地上への影響を考え威力を絞ったとはいえ文字通り必殺だ。一度、捕らえれば二度と逃がさず、そのまま圧壊・圧殺し、最後には消滅させる。
それを喰らって、なぜ生きていられる。と、流石の深淵卿も驚かずにはいられない。
『……やっぱり、そういうのもいる』
チビユエの呟きに、ハッと意識を向ける卿。視線で意図を問う。
『……遠藤は〝絶禍〟と〝黒天窮〟の違いを理解してる?』
逆に問われた内容に、卿は少し戸惑いつつも「対象が消滅するか否かでは…?」と答えた。
端的に言えば、確かにその通りだ。
〝絶禍〟は吸引した対象を超圧縮し、最終的に圧壊させる。物体は崩壊し、魔法であっても〝魔法を構成する核〟が壊れて霧散する。だが、消えるわけじゃない。故に、取り込める限界量というものが存在する。
だから、限界を超えた時、あるいは圧壊により塵芥にできなかった場合、〝絶禍〟が解けた瞬間に取り込んだものは破裂したように外へ出てくる。〝絶禍〟の使用において最大限に気を遣わなければならない点だ。
だが、〝黒天窮〟にそれはない。
〝絶禍〟を遥かに超える超重力による圧壊現象は同じ。けれど、たとえ顕微鏡を用いようとも崩壊した物の残骸も見つかりはしない。故に許容限界もない。
では、〝黒天窮〟の〝消滅〟とは具体的にどういう現象なのか。
『……私達の重力魔法はミレディから受け継いだもの。ミレディの理解が及ばない領域は、私達にとっても未知。けれど、マーキュリースの話を聞いて仮説が立った』
「それは……まさか!」
分身体を複数体生み出し、急いで〝黒天窮〟の多重発動で補強を試みながら目を見開いてチビユエを見やる卿。
チビユエは頷いた。
『……たぶん、〝黒天窮〟は小さな小さな穴を開ける魔法』
星のエネルギーに干渉する魔法。それすなわち、〝その世界の固有の起源流〟に干渉する魔法だ。
その起源流は異世界同士だけでなく〝無〟にも通じているという。
生まれながらの重力魔法の使い手。十代半ばにして自力で星のエネルギーに干渉し、無限魔力を手中に収めた化け物。
詳しい原理? 知らん! やってみたら出来た! を地で行く天才中の天才。
〝絶禍〟を超える魔法を求め、その果てに〝無〟へ放逐する術へ至っていたなら。
『……私とハジメは、たぶん〝無〟を見たことがある』
卿からの返答はない。意識を〝黒天窮〟の維持と補強に集中させているからだ。だが、亀裂の広がりは止まらない。〝黒天窮〟が悲鳴を上げているみたいに軋み出す。
それを眺めながら、チビユエは、本体のユエは思い出す。
〝神域〟での最後の時。
崩壊する真白の空間に出現した虚無の如き黒一色。
もし、もし全てを呑み込むようにして迫ってきたあれが〝無〟だったなら。
そんな〝無〟を〝神域〟ごと圧縮し、消した――ミレディ的にはただ〝神域〟を消滅させるつもりだったのかもしれないが、結果として〝黒天窮〟の〝無への小さな穴を開け、対象を放逐し、そして閉じる〟という術式の性質が故に、〝無へ通じる穴〟を塞ぐことに成功していたのなら。
『……〝黒天窮〟は〝絶禍〟の数倍から数十倍の圧縮力を誇る。耐えられる存在自体が希有。でも、あくまで重力魔法。重力干渉の権能を持つ神格クラスなら、本来、脱出はそれほど難しくはないはず』
実際、〝黒天窮〟に耐え、あるいは打破する存在はいる。だが、単に出力の差という以上に、重力干渉能力を持つ強大な存在でさえ脱出には苦労を強いられる。
その原因こそ消滅効果だ。消滅効果が耐性や対抗魔法の発動を著しく阻害するのである。
だが、その消滅効果の正体が、もし〝無〟であったなら?
『……〝無〟そのものとは思わない。けれど、影響が皆無とも言い切れない』
〝黒天窮〟の本質はあくまで〝圧壊〟だ。消滅現象は事後処理作用にすぎない。圧壊したものが消滅し、その結果として許容限界という制限をなくした術式だ。
その消滅効果の正体が〝無へ通じる穴〟への放逐であり、その〝穴〟から多少なりとも〝無〟の影響が〝黒天窮〟内に生じていたとしたら。
その結果として、耐性低下や対抗魔法の阻害が発生しているとしたら。
重力干渉の権能持ちですら脱出が困難な〝黒天窮〟の拘束力の絶大さに説明が付く。
「っ、だとすれば、それは!」
『……ん。〝無神〟なら〝黒天窮〟の中でも十全に力を振るえるかもしれない。単純な出力差で、もしかしたら――』
〝無神〟とは、そもそも〝無〟に耐えたが故の存在だから。
バァンッと破裂するような音が轟いた。〝黒天窮〟が破られたのだ。
全身に亀裂を作り、黒いタールのような液体と煙を噴き上げる老人が、肩で息をしながらも滞空している。
満身創痍に見えるが、しかし、〝黒天窮〟を受けてなお健在であることに変わりはなく。
その傷もみるみるうちに癒えていく。
「……まったく。まさか〝無神〟が〝黒天窮〟に耐性を持っているかもしれんとは、ままならないものだ」
隔絶した圧縮力に、そもそも耐えられる存在などそうはいない。だが、逆に超圧縮力にさえ耐えられるのなら、力尽きる前に打ち破ることは十分に可能……なのかもしれない。
チビユエから〝黒天窮〟で捕らえたからと言って油断しないように、という忠告の視線が向けられ、頷く。
――******##※ッッ!!
怒りが爆発した。そう表現すべき咆哮を上げる老いた無神。
脱出はできたが焦りはあったのか。感情の導火線に火が付いたようだ。
轟く凄まじい雷鳴に地上の人達が悲鳴を上げて身を竦ましたのが分かる。
空に、あっという間に暗雲が集い、常軌を逸した稲光まで走り始めて、それを呆然と見上げている人々も。
『……遠藤、全力。あれはクラス0』
「承知!!」
ターン&サングラス、クイッ。
「勇者の尊い犠牲の果て、盟友より与えられし我が新なる力、篤と味わわせてやろう! さぁ、見るがい――」
『無神、更に出現ですわ! 七ヵ所! クラス1相当が三体! 分身を近くの影へ! 他は悪魔と妖魔に対応させますわ!」
「ありがとう! でも最後まで言わせ――」
――※※※ッ、####**ッッ!!
言わせない! と言わんばかりにキレ散らかしている老人の無神。暗雲はゲートの役割もあったのか。無数の新手が降りてくる。
コウモリの如き翼に、頭からはねじくれた角、蛇腹剣のような長い尾に、鋭い爪。肌は油に塗れたようなぬめりを感じさせる漆黒という如何にも悪魔めいた姿。
クラスは低そうだが数百体という無神が天より降りてくる。
そのうちの一体が、あのエイリアンモドキの騎馬姿に変じ、そのまま恭しく老人の傍に控えた。
残りが散らばっていく。狙いは地上の人々か。魂を吸収できるなら、もしや老人に捧げて力の底上げでもするつもりなのかもしれない。
ならば、数には数で対抗だ。
「レリゴォッ!! アイアァンムゥッ、アビスゥゲェーーットォ!!」
意訳:深度Ⅵ、発動。
ドォオッと津波のように黒い影が増殖した。本体から生み出された分身体が瞬く間に千体を超える。
それは世界各地でも同じで。
地上の人々が阿鼻叫喚といった様子でパニックになる。
悪魔よ! 増殖する黒い悪魔よぉ! 世界の終わりだぁ!
悪魔めいた無神の出現より恐慌を来たしている気がするが、もちろん、卿は気にしない。
だって、我等が魔神の正妻様が「気にするな」って言ったから!
「地球のヒーローが、どれほどのものか……クククッ、ユーにティーチしてやろう!!」
地上の人々を守るため、地上のあちこちにも同じくポージングを取りながら出現する分身体達。
街灯の影からひょっこりと。
マンホールの下からお邪魔しますっ。
え? 最初から貴女の隣にいましたよ?
タクシーの旦那、前の車を追って――くれなくてもいいよ! 勝手に乗ってごめんね!
歴戦の窓の清掃員とはミーのことさ!
店員さん、カフェオレを一杯、頂けるかな?
へいっ、ポリスメェンッ。ミーは善良なヒーローだぜ! 手錠は勘弁してくれないか!
え? お前は何者だって?
フッ、心して聞くがいい。
気が付けば、いつでも貴方の隣にぬるりっと参上。
深淵より生まれし闇の貴族。
地球を守りし暗黒のヒーロー。
そう、私の名は――
「深淵卿こと、コウスケ・E・アビスゲ――」
千人の卿の名乗りさえも打ち消す特大の雷鳴。
人々は一斉に「え? なんて?」となった。
最後まで言わせてもらえない深淵卿は、ちょっとだけ涙目になって老戦士の無神を睨み付けたのだった。
なお、名乗り直しても無神より怯えられるという事実は変わらなかった。
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感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。
※ネタ紹介
・風が騒がしい&この風、泣いてます
『男子高校生の日常』のヒデノリ&ヨシタケ&文学少女より。
・ジョン・マクレーン警部
映画『ダイ・ハード』より。
・なんじゃこりゃぁあああ
『太陽にほえろ!』の松田優作演じるジーパン刑事より。
・髪掻き上げムーブからの「いたぁい」
『呪術廻戦』の禪院直哉と思わせて『デッドプール2』のデップーより。前者は直哉VS虎杖&脹相のシーンと、一応、四方向からの同時攻撃はVS覚醒真希です。後者は至近距離が銃による連射を受けて、それを二刀で防ぐシーンです。普通に撃たれていて敵側が「ん? 当たってない? ん?」と訝しむシーンがめっちゃ好き。
・親愛なる隣人
『スパイダーマン』より。今のところ親愛度はマイナスかもしれない。
・本日の無神のイメージモデル
老人の無神は『クトゥルフ神話』の『ノーデンス』ですが、あくまで見た目だけです。悪魔モドキの無神は『夜鬼:ナイトゴーント』です。
※黒天窮の説明を加筆修正しました。実は〝無〟との関係は投稿日当日のただの思いつきです。なので場合によってはまた修正するかもしれませんが、白米の厨二心が発動したんだな……と生温かく見守って頂ければ幸いです。




