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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフター最終章
556/561

全世界防衛戦② もはやブ○リー





「おらっおらっおらぁっ!!」


 王樹の根本に、そんな気合いの入った声と打撃音が響いた。


 シアだ。


 馬乗り状態で相手の顔面を往復殴打している。


 そして、殴られている相手はというと――


「!? !!? アッ、ア゛ッ!?」


 ライラだった。言うまでもなく、神霊にして王樹の化身様である。


 夜の色をそのまま写し取ったような美しい黒髪とドレスが乱れに乱れていた。殴られる度に美しいお御足がビックンビックン跳ねている。


 普通に惨い光景だった。


 その様子を、王樹を囲む英国の北にある深い森、通称〝聖域〟に〝守人(もりびと)〟として移住してきている一部のハウリア達が見ていた。


 揃いも揃って両手で口元を押さえたり、片手を伸ばして制止をしようとしていたり、完全に腰が引けていたり、あるいは目元を覆ったりしつつ、はわわっ、あわわわわわっと動揺している。


 もちろん、その中には実父であるカムもいた。片手を伸ばして止めようとしているのが、まさに彼だ。加えて言うと、娘のあまりの容赦のなさに腰が引けている人でもある。


 もうやめたげてよぉーーっと、心の中で叫んでいた。


「シ、シア! も、だいじょ――や、やめっ」

「貴女が! 正気に! 戻るまで! 殴るのを! やめな――」

「やめろと言ってるでしょうがぁっ!!」


 闇色の剣山(先は丸くなっているが)が周囲の地面から飛び出した。当然ながら、マウントを取っている乱暴者に。


 それを、相手の腹の上に座った状態からどうやったのか分からないが飛び上がって回避するシア。


 更に空中で猫のように反転し、剣山の一本に指先を当てて逆立ちまでしちゃう。


 そのまま上下逆さ状態でライラを見つめ、


「正気に戻りましたね! ライラさん! 良かった!」


 にっこり笑った。


「正気とは思えないわ! シア! 仮にも、わたくしは女神でしてよ!!」


 怖いっ、この子、怖いっ! 何よりその笑顔が! というか、せめて張り手でしょ!? なぜグーで!? と言いたげに叫ぶライラさん。本当にそれな! と頷くお父さん&ご家族の皆さん。


 ライラ様の両の頬は見るからに真っ赤&ぷっくり腫れていて、すっごく涙目だ。両足を揃えてしなだれ、頬を押さえてプルプルしている姿には事件性しか感じない。


 腹いせ混じりに勢いよく闇の剣山を消すが、やはりというべきか。バランスを崩して落下なんて無様はさらさず。


 シアは分かっていたように寸前で、かつ指先一つで跳躍し、やっぱり猫のように軽やかに身を捻りながら綺麗に着地した。


 その表情に悪びれた様子は皆無。むしろ、逆に責めるようにビシッと指を突きつける。


「女神なのに正気を奪われる方が悪い! です!」

「ぐぅの音も出ませんわ! 正気に戻していただいたこと感謝しますわね!!」


 やけっぱち感が溢れる雰囲気で礼を口にするライラ。実際、ぐぅの音も出ない失態だと自分でも思っていたから。


 ここは〝聖域〟だ。当然ながら、その守りは強固である。


 単に王樹の化身となったライラによる防備があるというだけでなく、ハジメのアーティファクトなどによる幾重もの守りがあるからだ。


「油断していたわけじゃないですよね?」

「誓って侮ってなどいませんわ」


 ライラの表情が険しくなる。事実だったからだ。ライラは侮っていない。本気で襲撃者の相手をしていた。


 にもかかわらず、気が付けば精神を蝕まれ正気を失い、外敵を迎え入れようとしてしまっていたのである。


 それどころか、救援に駆けつけたシアにまで牙を剥いて……


 冒頭の有様になったわけだ。


 その原因は、当然ながら〝無神〟だ。


「報告いたしますわ。聖域の結界が軒並み、無効化されましたわ」


 そう言いながらライラが北の空を見やった。


 そこには闇があった。重力魔法と見紛う巨大な黒い球体だ。夜と闇を司る神霊であるライラが元々有している権能を、化身の権能で補強した闇の迷宮牢獄だ。


 内部は完全な暗闇。そこに化身になってから備わった能力――空間拡張や複雑に組んだ障壁、強制転移のトラップなどを組み込むことで迷路にしているのである。


「正気を失う前に、どうにか()()だけは足止めに成功しましたが……」


 シアの耳がピクピクと動く。シアは別方向を見ていた。耳を澄ませば激しい戦闘音が聞こえてくる。


「シア、気を付けよ。あれらは普通ではない。ライラ様とボスのゴーレムやトレント達が駆けつけなければ、我々の半分はここにいない。……撤退するだけで精一杯だった」

「分かってます。父様達が無事で良かったですよ。後は任せてください」


 カムの表情が悔しげに歪む。他のハウリア達も同じだ。シアの言葉は、この〝聖域〟から撤退してくれという意味に他ならなかったから。


 同時に、自分達でも分かっていたから。実際に〝無神〟と相対して、あれらは自分達には荷が重いと。


 森の中を巡回していたメンバーが不意打ちの遭遇戦を余儀なくされても生き残れたのは、ひとえに実戦経験と支給されていたアーティファクトのおかげであり、直ぐに気が付いたライラが転移で逃がしてくれたからだ。


 一応、その短い戦闘の間にも敵の情報は取れるだけ取ったし、シアがライラを正気に戻している間に情報も既に伝えてはいる。


「アーティファクトをフルで使えば、弱い個体ならなんとかなる。それより一段上くらいなら足止めも可能だぞ?」


 カム達が支給されているアーティファクトの中には、神代魔法クラスの効果を持った強力なものも多数ある。普段は〝聖域〟内の集落にて厳重に保管されているものだ。ハジメの信頼の証でもある。


 だからこそ、〝守人〟としての役目を放棄することには抵抗があった。


 加えて、実は〝聖域〟に出現した〝無神〟は複数種類いたのだが、その戦力には偏りがあったように思うのだ。


 最大級はライラの闇の牢獄に捕らえられている存在。次点で今、森の中でガーディアン達が戦っている二体。


 悪魔入りではないゴーレムだ。〝聖域〟の中の警備を任せるほど、ハジメは享楽主義な悪魔を信用していないから。


 戦術性に劣る普通の生体ゴーレムだが、愛子が用意したトレントなどの従魔と力を合わせるくらいはできるので足止めはできている。気配からして総数二百体いたのが既に五十体以下まで減じているが。


 そして更に一体、〝無神〟と思しき存在がいたのだが、これは明らかに他の個体と比べ劣っていた。


 それらならカム達でも対応可能だ。という進言を、


「いえ、父様達は――」

『……必要ない』


 シアに代わって却下する声が。


 実はシアとライラの直ぐ傍に浮遊していた掌サイズの三角形――金色の障壁のようなものが唐突に輝きを増した。と思った次の瞬間にはポンッと。


『……どうも、チビユエです』

「「「「「かわいいっ!!」」」」」


 思わず声を上げる女性陣。と一部の男性陣。


 その視線の先には確かに掌サイズにデフォルメされたユエがいた。トータスを旅していた時の衣装で、まるでシアと出会ったばかりの頃のような雰囲気である。


 攻撃力なし。防御力なし。浩介の分身体のような感情表現も複雑な動きも不可能。


 あくまで空間を繋ぐ小窓的な役割をメインに、情報&知識のインプットとアウトプット機能を付与した超簡易分身体、否、ただの端末魔法というべき魔法だ。


 トータスを一人で守りつつ、異世界各地の仲間と情報のやり取りや指示出しをしたりするにあたって、ユエ本体の負担を可能な限り下げるために作った分割思考(マルチタスク)特化型ともいうべき分身魔法である。


 あのデトロイトの屋上で全ての指示を一人一人に事細かく伝える時間はないと判断し、このチビユエに伝言させる形にしたのだ。


 浩介のように本体と遜色ないの分身体を何百何千と創り出すのはユエにも無理だが、機能を限定すれば、その限りではないということだ。


 名付けて〝ス魔法〟。スマホと掛けているらしい。通話もカメラ機能のような遠隔の確認も、そしてメッセージ機能や情報の検索も可能なところが似ているから。もちろん、ネーミングはユエ様だ。


 ユエ様がドヤ顔で名付けたのだからハイセンスなのだ。


 ハイセンスと言ったらハイセンスなのだ!


 閑話休題。


『……カム達は〝聖域〟近郊の町に行って。人の相手をしてもらう』

「! ……なるほど。〝無神〟は人を操る。狂気に陥れ混沌を招く……狂信者の類いを警戒せよと」

『……ん。人質を取られるのが一番面倒。人には人を、化け物には化け物をぶつけるんだよぉ~ということ』

「ユエさん。それ、私のこと言外に化け物って言ってます?」

『言ってます』


 にへっと笑うシア。あ、嬉しいんだ……と、ライラが微妙な表情になっている。ハウリア達はちょっと羨ましそう。実にハウリア。


『……〝聖域〟の守りはシア一人で十分』


 感情はない。抑揚もない。だが確かに、その言葉には確かな信頼が感じられた。地球を守る上で最重要の場所を、化身がいるとはいえシア一人に任せる。その事実が何よりの信頼だ。


「ですね! ライラさんがいれば鬼に金棒ですし。それに……巻き込んで殺っちゃわない自信もないですし!」

「直ぐに撤退しよう!!」


 お父さんの判断は早かった。


『……ん。ライラ、今の貴女は暗闇や影を媒介にすれば地球全土にゲートを開ける。カム達を送ってあげて。そして、防衛より〝無神〟の索敵と、都市防衛チームの移動に注力すること』

「承知ですわ」

『……逆にシアは、何があっても絶対に王樹とライラの傍から離れないで』

「合点承知ですぅ! ライラさんは私が守ります! 誰にも指一本触れさせません!」

「! シ、シアったら何を大きな声で……そんなこと言われても、わたくしはソアレのように心を奪われたりはしませんことよ!!」

「あ、そうです。正気を奪われないよう、追加で精神保護のアーティファクトを渡しておきますね」

「そのうえ贈り物まで!? くっ、負けませんわよ!!」


 手ずからネックレスをライラにかけてあげるシアに、頬を赤く染めて視線を逸らしながらもチラ見したり、濡れ羽色の綺麗な黒髪をイジイジして、なんだか満更でもなさそうなライラさん。


 何と戦ってんだよ、とカム達は思ったが、なんとなく分かるのでスルー。


 なぜかシアの指輪から化け物みたいな気配が溢れ出てきているように感じるので、なおさら。


 というか、あれだけ殴られた後に優しくされて頬を赤らめちゃうって……


 ハウリア女性の誰かがポツリと零した。DV……と。


 果たして、ライラがダメな人に引っかかりやすいタイプなのか、それともシアにクズ男ムーブの才能があるのか……


 一族から視線を向けられたカムパパは視線を逸らすしかなかった。


 と、その時だった。


 ライラが作った闇の迷宮牢が急速に崩壊し出した。加えて、ガーディアン達が相手をしていた三体のうち二体が抜け出してきた。


 どうやら足止めの限界が来たようだ。


 シアとライラは頷き合う。


 ライラが軽く手を振れば、近くの木の影が墨汁でも垂らしたように波紋を広げながら黒々と染まった。


「カム、集落の武器庫で十分に武装した後、直ぐに近郊の町に向かいなさい」

「はい、ライラ様。こちらはお任せあれ」


 恭しく頷くカムに向かって、チビユエが指パッチンした。キランッと星のエフェクトを散らしながら新たな金色の三角形――ス魔法が出現しカムの傍に滞空する。


『……遠藤にも指示は出してる。分身体の一体が合流する」

「承知しました」


 聞きたいこと確認したいことが多々あるだろうに、カムはそれ以上何も聞かず敬礼を返した。ハウリア達も一糸乱れぬ敬礼を返す。そして、そのまま木の影に飛び込んでいった。


「ライラさんは地球各地の防衛戦の援護に集中を。戦闘は私に任せてください!」

「お母様なら両方をなんなくできるのでしょうけれど……ええ、新米化身のわたくしは素直に頼らせていただきますわ」


 シアに信頼の眼差しを向け、なぜかシアの指輪がガタガタ震え、それにちょっとビビリつつも背後に生み出された闇に溶け込むようにして消えていくライラ。王樹の天頂に戻ったのだ。


「さてと」


 ライラを見送り、シアは改めて向き直った。


 認識阻害や撹乱の効果で【ハルツィナ樹海】並みに迷いの森と化しているはずの〝聖域〟を急速に真っ直ぐ突っ込んでくる二つの存在へ。


『……シア、気を付けて。結界が十分な効果を発揮できないのは〝門の神〟の介入かもしれない。逆探知は試してみるけれど直ぐには難しい』

「今いる〝無神〟のせいじゃないと」

『……たぶん。〝虹の橋〟を封鎖した術式と似たような気配をうっすらと感じるから』

「なるほど。横やり、援護に警戒ですね」


 会敵まで残り十秒。森がざわめいているのが分かる。いや、悲鳴を上げているというべきか。


 上空では闇の牢獄の崩壊が少し停滞気味だ。ライラが時間稼ぎに補強してくれているのだろう。それでも、持って数分といったところか。


『……ん。でも、出し惜しみはなし。魔力の心配はしなくていい』


 チビユエがシアの頭の上にちょこんっと座った。両腕を広げて左右のウサミミを手すり代わりに掴む。


 少しくすぐったそうにウサミミを震わせるシアに、チビユエは無表情のまま、そして感情の欠片もなく言った。


『……指示は一つ。好きにして』


 くひっと笑い声が漏れ出した。シアの口元が吊り上がる。それはそれは不敵で凶暴な笑みが浮かんだ。


「ソアレ! 出てこいやぁ! です!!」

『キマシタワーーーーっ!! わたし、参上!!』


 シアの指輪から陽光が飛び出した。眩い光がシアの頭上に生まれる。神々しい光の中に美しい女神の姿が――美しい女神……うつくし……


 血走った目と興奮に赤く染まった頬をハァハァと荒い息……


 ついでに、王樹の方に向かって「シアが選んだのは、わ・た・し! そこんとこヨロシクぅうううっ」と言ってそうなメンチ切りまで……


 前言撤回せざるを得ないチンピラ&変質者風の女が、そこにいた。


 チビユエには分かった。シアのウサミミがゾワワッと逆立ったのが。


 しかし、背に腹は代えられない。困ったことに、シアと最も相性が良かったのは他ならぬ〝火輪の神霊ソアレ〟だったのだから。


 そう、シアが命の危険さえも理解しながら、それでも会得した新奥義ともいうべき戦闘技法の。


 身体強化レベルXが純粋な出力という意味では頭打ちかと、後は技術を磨くしかないかと。


 ユエ達と更なる研鑽を積み、少しでもハジメの不安を払拭しようと約束したが故に、密かに悩んでいたシアが思いがけず知った可能性、手を伸ばした新境地。


 初めて〝箱庭〟で披露してから、更に改良と鍛錬を積み上げ完成と胸を張れるレベルまで仕上げたそれ。


――シア流・究極戦兎々技(せんとうぎ)


「身体強化ぁ~~レベルⅩ!! か~ら~のぉ~~右手に魔力ッ、左手に霊力ゥッ!!」

『今、シアと一つに!! アハッ』


 凄まじい魔力が右手に集う。


 ソアレがデレデレ顔でシアに背後から覆い被さる! チビユエを通して見たユエ様が、つい反射的に〝天使の黄金梯子〟を使いそうになる! 変質者からシアを守護らねば! と。もちろん、踏みとどまったが。


 ソアレがシアと重なった。シアから陽光の如き光が溢れ、淡青白色の魔力と混ざり合っていく。


 その左手には莫大な霊力の塊が集った。


「融合!!」


 柏手が一つ、パァンッと美しい音色が〝聖域〟の森に響く。


 刹那、〝力〟が爆発した。


 周囲の木々が放射状に根こそぎ吹き飛び、地面が大きく陥没する。


 その中心には強烈な閃光で満ちていて様子が分からない。


 分からないが、そんなことは関係なかった。


 最速で辿り着いた〝無神〟には。


――ギィイイイイイイイッ


 耳を塞ぎたくなるような凄まじい金切り声が響いた。


 上空に現れたのは、竜のような翼が生えた体長三メートル程のアリやハチのような生き物。肩と腹部らしき場所から鋭い鉤爪の付いた脚が生えていて、人の皮膚のような質感の肌と黒い産毛のようなものが生えている。


 左右に分かれる嘴にもワニの顎門にも見える口元がガバリッと開いた。奥にはヘビに似た舌らしきものがあり、同じく顎門を開いている。


 血と共に魂をも吸い取る怪物が、そのまま光の中心目がけて急降下した。


 そして、


「ふんっ」


 とんでもない爆音が轟き、同時に小規模な地震が発生した。大地が激しく揺れ、元よりあったクレーターが更に大きく深くなり、放射状に衝撃波が発生したのが分かった。


 ただでさえ吹き飛ばされ円を描いていた森の一部が、その円周を更に広げる。


「? 脆いですね」


 光が急速に収まっていく。


 そこには、拳を振り下ろしたまま残心するシアと、地面の染みになった〝無神〟の無残な姿があった。


 奇妙だったのは、シアの拳によって撃墜されたはずなのに、全長三メートル程の肉体の全てが均等に押し潰されている点。


 まるで重力魔法でも受けたかのようだった。


 そして、おかしな点はもう一点。


『……シア、キラキラ。綺麗』

「ふふんっ、ありがとうございます!」


 〝箱庭〟で〝究極戦兎々技〟を披露した時、シアが纏う魔力のオーラは薄い黒色だった。シアの綺麗な淡青白色のオーラに不純物が混じって濁ったみたいに。


 それが今はどうだ。


 限りなく純白に近い輝き。ほんのり青みがかっているようにも銀色がかっているようにも見える。まるで雪のような冷たく研ぎ澄まされたような色合いだ。


 服装も旅行時のそれから変わっていた。


 端的に表現するなら青と白を基調としたノースリーブ&ミニスカの和装だ。ただし、ニーハイに包まれた足には色合いや装飾こそ可愛らしいものの軍用ブーツかと思うほどゴツい厚底ブーツが備わっている。腕には手甲も装着されていて、長い髪もかんざしでまとめられている。


 当然のように用意されていたシア用の新戦闘装束だ。


 ご機嫌な様子で見せびらかすように胸を張るシア。


「完全版戦兎々技の輝き! 魔力と霊力の完全融合! 名付けて――兎力(うさぎぢから)! でっす!!」

『……そこは〝とりょく〟でいいのでは』


 チビユエのツッコミなんて聞こえない。なんとなく、これがいいと思ったのだもの。


 それに、議論をしている暇もない。


 究極戦兎々技発動の余波と拳一発の衝撃で半径二十メートルほど更地になっている広場に風が吹き抜けた。


 途端に地面がビキビキと音を立てて凍てつき始める。正面の木々も、まるで樹氷のように凍り付いていく。


 表面が凍っただけではない。木の組成自体が氷に置き換わってしまったかのような有様だ。


 気温が急速に低下していく。瞬く間に極寒の地の如く環境が変わっていく。


「なるほど。先程のとは格が違いますね。これ相手に時間稼ぎしたガーディアン達を称賛すべきです。さすハジ!」

『……隙あらばハジメを褒めるスタイル。嫌いじゃない』


 なんて会話を余裕の表情でするシア。既に生命の生存を否定する極低温化にあるというのに、しかも極めて薄着だというのに気にした様子もない。


 そして、


――※※※ッッッ


 樹氷と化した木々の奥から滲み出て、盛り上がるようにしてそびえ立つ〝無神〟を。


 三十メートルはあるであろう人の輪郭を持った影絵に、血を凝縮したような眼を持つ、その怪物を。


「ぬんっ」


 一言かつ一撃にて――消し飛ばした。


 音が一拍送れてやってくる。大気が破裂したような轟音と地を揺らす衝撃が伝播する。


 右拳を突き出した、美しさすら感じる残心。


 その正面には、何もなかった。なくなっていた。


 影絵のような巨人は当然、直線上の全てが綺麗さっぱり。あたかも強烈極まりないレーザー砲撃が一直線に通り抜けたみたいに。


『……ノータイムで、これ? 前に見た時より出力上がってる?』

『……森や土地は再生できるとはいえ……ちょっと大変そうですわね……』


 チビユエか、それとも本体か。いずにしろ、ちょっと慄いている様子のユエさん&こちらを見ているだろうライラさん。


 技の発動と、たった二撃。それだけで森の一部が大きく消えてしまった。


 でも、好きにしていいと言われたから、シアちゃんは気にしない!


「い~ち!」


 ドンッと地を揺らし飛び上がる。


「に~い!」


 再び崩壊を始めていた上空の闇の迷宮牢。その頭上にて身を捻り、右拳を大きく引き絞る。


「の!」


 パァンッと内側から破裂するように闇の迷宮牢が弾け飛んだ。捕らえていた怪物、最も強大な力を振り撒き、化身たるライラの正気さえも奪った〝無神〟が遂に解放された。


 完璧なタイミングだった。


 まるで、最初から解放のタイミングが分かっていたように。


「さん!!」


 不可視であった。ただ、シアの拳が振り下ろされ、なんらかの強大な力がダウンバーストの如く発生し、相手の姿を視認するより、そして相手がシアを認識するよりも速く、直径百数十メートルの広範囲にわたって降り注いだ。


 先の比ではない大破壊が顕現した。


 大地がめくれ上がる。百キロ先の町まで激震が伝わる。反動で跳ね上げられた大木が、一斉に放たれたクラッカーの中身みたいに宙を舞う。


 押し潰された分、押し出されたように周辺の大地が隆起していく。


 深い深い大穴が生まれた。その底には巨大な拳の跡がついていた。


 〝無神〟の気配は…………ない。あの異質感が消えていた。


「よし! 新技もしっかり効いたようで良かったです!!」


 空中でガッツポーズするシア。


『嘘でしょう……? あれを……一撃? やだ、怖いこの子ッ』

『う、う~ん……』


 ライラの口から転がり出た素直なお気持ちに、普段なら「シアは可愛いでしょうが!」と即座に反論するだろうユエも言葉を濁さざるを得ない。


 だって、ユエからしても「こえぇ」と感じちゃうくらい今のシアはヤバかったから。


 二種固有エネルギーの融合というあり得ざる現象がもたらすのは、爆発的なエネルギーの増加だ。それをスペック上昇に転嫁したのが究極戦兎々技であり、効果自体は〝限界突破〟や昇華魔法と同じである。


 もちろん、その上昇率は半端ない。しかも、その上昇率に身体強化レベルXが合わさるので凶悪の一言。加えて言えば、アーティファクトによる〝限界突破〟や昇華魔法も併用可能だ。


 だが、完全版戦兎々技の力は、もはや単純なスペック上昇だけには収まらない。


 鍛錬の末に研ぎ澄まされ、純化され、よりシアの肉体と魂に適合するよう最適化された完全版戦兎々技は、今やその上の領域へと至っていた。


 それが〝兎力の性質操作〟だ。


 そう、今のシアは〝兎力〟と名付けた融合エネルギーの性質を自在に変化させられるのである。


 圧縮して纏えば、ハジメが使う魔力防御スキル〝金剛〟を超える見えざる鎧と化す。


 その防御力は破格で、おそらく単に圧し固めたが故というだけでなく固い物質特有の結晶体構造が形成されているから、というのがハジメの見立てだ。


 何せ、パイルバンカーの直撃を受けて平然としていたくらいである。なんなら強化なしではあるがユエが割と本気で放った空間破砕でさえも無傷だった。


 加えて、物理・魔法の区別なき圧倒的耐久力だけではなく、異常環境からの保護能力も最高位クラスだ。


 極寒が意味をなさず、なんならマグマ遊泳だって平気だ。深海の超水圧の中でも平然としているだろう。


 もちろん、従来の耐性も爆増だ。


 超重力をかけられても大体は中和できる。空間振動もユエクラスでなければ問題なし。精神干渉系は言わずもがな。肉体の強制変化? 効かぬ効かぬぅ!


 仮にそれらを抜けて肉体に攻撃が届いたとしても、その肉体自体が並の攻撃では傷一つ付かず、並の傷では直ぐに回復する。


 しかも、〝未来視〟の消費魔力も効率化され、数秒先の未来を視られる〝天啓視〟に至っては十秒先まで見通せるようになっている。


 完璧なタイミングで攻撃できたのもそのせいだ。


 攻撃面の強化は言わずもがな。


 兎力の性質を自在に変化させられるということは、ある種の強化外装を作れるということ。


 巨大な不可視の拳を無数に作ることも。


 巨大な剣を腕に纏い、手刀として振るうことも。


 超振動させて衝撃波を発生させることも、逆に強化外装とは別に盾を作ることも。


 なんなら千手観音みたいに単純に手数を増やして操ることも可能だ。


 そして何より凶悪なのは、それらが全てシアの膂力によって放たれるということ。魂魄魔法を併用して魂や魔法を殴ったり、空間魔法の併用で空間遮断障壁にすら干渉できる従来の技が、この兎力の強化外装にも付与できることである。


 強大な〝無神〟が一撃で昇天したのは、馬鹿げた物理的破壊力だけでなく、その威力を以て魂ごと殴られたからだったのだ。


 唯一の弱点であった高負荷も、ソアレが愛故に(本人談)極めた憑依技能(シア限定)と、兎力の最適化と回復能力で大幅に減少している。


「戦い始めたら止まらない点が玉に瑕ですが、緋月さんと何度も戦った甲斐がありますね」


 まさに、それが新技の大いなるヒントだった。緋月に執拗に申し込まれた模擬戦というには本気すぎる戦い。


 何度か付き合って、まさか一方的に緋月だけが満足して終わるなんてことがあるか。


 あるわけがない。戦えば戦うほど強くなる戦いの申し子みたいなバグウサギが、あの歴戦の鬼神から何も学ばないはずがないのだ。


 それはユエも信頼して任せるはずである。


 王樹の守りはシア一人で十分だと。


 バグウサギは、本当の意味でバグった存在へと至ったのだ。


 そのバグウサギの顔がギュインッと明後日の方向へ視線を向けた。


「む? 逃げ出してます?」

『『無理もない(ですわ)』』


 チビユエとライラの震える声が重なった。


 どうやら、残った〝無神〟が撤退し始めたらしい。あの異質な気配が不意に消えたのだ。


『転移で逃げて……? 念のため探査しますわ』

「いいえ、大丈夫です!」


 シアが宙返りした。かと思えば空中の側面に足を付け、グググッと後ろへ下がっていく。


 今度は少し見えた。シアの足下を中心に弧を描く長い雪色の輝きが見えた。弓の弦、あるいはスリンガーショットのゴムを彷彿とさせる()()()が見て取れる。


 一拍。


「GOぉ! ですぅ!」


 再び轟く空気の破裂音。大地で踏み込んでいたなら確実にクレーターを生んでいただろう踏み込みと共に、尋常ならざる張力を溜め込んだ兎力の弦がシアを弾き飛ばす。


 バリスタから放たれた矢の如く空を切り裂いて飛ぶシア。大気の弾ける音が響いた。一瞬で超音速の領域に入る。


 そのまま一切の減速なく、数キロ離れた何もない森の中に着弾した。


 文字通りの着弾だ。木々が吹き飛び、またも大地にクレーターが生まれる。もっと労って! 地球を大事にして! と地球から抗議の声が聞こえてきそう。


 木々への謝罪の代わりに、シアの口から出たのは。


「どこへ行こうというのです?」


――!!?

――!!?


 泥の雫がつむじ風のように渦巻く中心に、体長一メートルくらいのイソギンチャクのような生き物がいた。人の肌の質感を持つ肉体から無数の触手と翼が生えていて、その全ての先端に人の口らしきものが付いており、絶えず泣き叫ぶような声を発している。


 目の錯覚でなければ、姿がダブって見えた。実体と霊体が重なっているみたいに。


 そして、どこか怯えているように見えた。実際、ちょっと後退ったし。


 無理もないとチビユエとライラは思った。


 だって、気配は完全に消えていたのだ。〝無神〟特有の〝感知できない状態〟だったのである。


 なのにこのウサギ、全力で逃亡する〝無神〟の進路上に先回りしたのだ。人間砲弾と化して。


 普通にホラーである。


「私の進化した未来視から逃げられるとは思わないことです」


 やったことは単純。〝この方角のこの距離で周囲一帯を丸ごと薙ぎ払ったらどうなる? 〟という〝仮定未来〟の力を全方角で行っただけだ。


 応戦を含め、なんらかの反応があった未来の場所へ一直線に駆けつけただけである。


 シア・ハウリアからは逃げられない!


 普通にホラーなんですけど……とチビユエとライラは思った。


 イソギンチャクの如き怪物が絶叫を上げた。あるいは恐慌の叫びだろうか。直後、その姿がみじん切りにされた野菜みたいに細かく分裂した。


 この〝無神〟の能力らしい。


 どんな攻撃も受けた瞬間にバラバラになることで無効化する能力と、そのまま相手に触れさえすれば相手を乗っ取ることができるという凶悪な能力。


 風に乗って飛ぶウイルスが意志を以て入り込もうとするようなものだ。それどころか霊体らしき方は障壁の類いを素通りする力まである。


 厄介極まりない能力を、シアは当然、知らない。


 知らないが、なんか直感がヤバイと囁くので。


「すぅ~~っ」


 息を吐きながら両手を大きく広げる。着弾時の姿勢のまま腰を落としていたので、まるで飛び込んでくる大玉を受け止めるような姿勢だ。


 細分化した〝無神〟が一陣の風となって迫る。


 刹那、


「せいっ」


 パァンッと綺麗な柏手の音が響いた。広げた両手を勢いよく閉じて拍手したのだ。


 同時に目の前の空間が弾けた。高さ奥行き共に五十メートルほどの空間に黒い染みが点々と付き、まだらの壁のようなものが出現した。シア側から見ると、奥行きのある細い縦長の線だ。


 兎力の巨大な掌を作り、そのまま挟み込んで潰したのである。あたかも、飛ぶ蚊を潰すように。


「ウリィイイイイイイッ!! 大・勝・利ッ!! です!!」


 見える。キラキラな雪色の巨大な腕がダブルピースしている光景が。もちろん、シアもしている。ドヤ顔で。


 どこまでも力業。


 パワーこそジャスティス。


「やはり暴力(パワァー)! 圧倒的暴力(パワァー)は問題の九割を解決できます!!」


 チビユエもとい本体のユエ様は思った。この子、私の〝天使の黄金梯子〟ですら「ぱわぁーーーっ!!」なんて雄叫びを上げながら粉砕して出てきそう……と。


 そして、ライラも思った。お母様が殴られた時、この子が今の力に目覚める前で良かったぁ~っと。うっかり加減を間違えてパチュンッてなったら目も当てられない。


 何はともあれ、ひとまず脅威は去った。


 と、ライラが改めてシアに声をかけようとした、その寸前で。


「!」


 シアが予備動作なく飛び上がった。同時に空中へ巨大な戦槌ヴィレ・ドリュッケンを召喚。


 打撃面を前方に、まるで槍投げの如く逆手でキャッチ。


 チビユエやライラが何か言うより先に、ズンッと。


 もはや〝空力〟を付与したブーツは不要だ。自身の兎力を圧し固めた足場を空中に形成し、それすらも踏み割りそうな勢いで踏み込み、理想的なフォームから、


「せぇいっ!!」


 今日、一番の気合いを込めた本気も本気の投擲を繰り出した。


 王樹目がけて。


 超音速が当たり前みたいな速度で投げ飛ばされた戦槌は、瞬く間に王樹との距離を消し飛ばした。


 そして、


「!!? ひぃ!?」


 王樹の天頂にいたライラの頭上を掠めるようにして通り過ぎ、


――※※※ッ**#*ッッ!!?


 何かをぶち抜いて悲鳴を上げさせた。


 恐怖のあまり反射的に空中でしゃがみ込み、両手で頭を抱えるポーズ――いわゆるカリス○ガード状態だったライラが、その神経を逆撫でするような悲鳴を聞いてハッと顔を上げる。


 ほんの数十メートル先に何かがいた。


 否、知っていた。


 忘れるはずがない。ライラ自身が闇の迷宮牢に閉じ込め、今さっきシアによって叩き潰されたはずの存在なのだから。


『ライラさん!』

「! シア!」


 頬に張り手をするような声音でハッと我を取り戻す。闇を凝縮したような球体を瞬時に隣に創り出せば、そこからシアが飛び出してきた。闇と影を介した転移だ。


「む? 仕留めきれていませんでしたか?」


 一度は霧散した何かが集まってくる。


 どう表現すればいいか。人と同程度の大きさの超局所的な蜃気楼とでもいうべきか。空気が揺らぎ、微妙に歪んでいる。


 その周囲を薄い灰色の空気が旋回しているように見えた。


 姿形がはっきりとしない〝無神〟。辛うじて、オーロラのように揺らぐ黄色とも緑色ともつかぬ光が揺らいでいるように見える。まるで色つきの透明なレインコートでも羽織っているような感じだ。


「シア。あれは正気だけでなく五感を狂わせますわ。何より灰色の風に注意を。触れたものを崩壊させる力があるようです。詳しい効果や原理は不明ですわ」

「なるほどです」


 直後、ゴォッと風が吹いた。灰色の風が一気に王樹周辺に吹き荒れる。


 ライラの忠告通りだ。地上の木々があっという間に朽ちて自壊していく。


 その風がシア達にも吹き付けようとして、シアは分かっていたように手を前方に伸ばした。


――###*※※ッ!!?


 今度は背後からヴィレ・ドリュッケンが〝無神〟をぶち抜いて戻ってくる。


 とんでもない勢いのそれをなんなくキャッチするシア。そのまま流れるように振るう。振り子の如く下から上へ、一回転させるように。


 その過程で空中に浮かんだ緑色の魔法陣を打撃面が通過。スタンプのように張り付く。


 天へ向けて掲げられたヴィレ・ドリュッケンから強烈な風が吹き始めた。


 傍に神霊がいなくても発動できるよう改良された星霊界の神霊武具機能だ。流転の神霊エンティの権能たる大気を操る力の一部が美しい緑の輝きを帯びた風を吹かせる。


 それは瞬く間に強く渦巻き、天と地を繋ぐ強烈な竜巻となった。


「ライラさん、あいつの風はこれで集めます」

「素晴らしいですわ、シア」


 ライラと王樹も輝きを帯びた。と同時に薄い緑がかった竜巻に夜天の輝きが混じる。化身の権能で浄化しているのだ。


 やはり、ただの物理的衝撃だけでは死なないようで、というか実体がないようで、風の〝無神〟は直ぐさま元に戻り、そのまま灰色の風を猛烈に吹かせ始めた。


 それを吸い込み、浄化するシアとライラの合わせ技。


「ライラさん、精神や感覚への攻撃はどうです?」

「感じますわ。けれど、追加のタリスマンと貴女の外装――」

「うさぎぢから」

「んんっ、兎力のおかげで問題はなさそうですわ」


 頷き、直ぐには攻撃せず観察の眼を向けるシア。チビユエを通してユエにも情報を伝えたかったというのもあるのだろう。


「さっき、確かな手応えを感じました。私、五感をやられてました?」


 騙されたのか。あるいは分身の類いだったのか。それとも別の何か?


 その疑問は無視すべきではないと思ったのだ。


『……シアが殺ったと思ったなら、そっちを信じるべき』

「でも、ユエさん。現にノーダメでいますよ」

『……ん』


 チビユエがピッと片手の指先を伸ばした。


『……前提として〝無神〟は平行世界の強者。そして、平行世界は別の歴史を辿る世界であって異世界じゃない。つまり、同一人物がいる』

「ならば〝同一無神〟もいるだろうというわけですわね」

『……ん。同じ世界に流れ着く確率がどの程度かは知らない。天文学的数値かもしれない。けれど、元が同一人物で同一の力を持っているなら、それが故に確率がある程度集束する可能性もなくはないはず』

「なるほどです。つまり、一度倒しても油断するなってことですね」

『……ん。加えて言うと、完全に同一とは思わない方がいい。辿った歴史の差が能力の差に繋がっている可能性もある』

「平行世界を渡れるほど強者であるのに、その強さに個体差があるのも、その辺りが理由かもしれませんわね」

「……小さな差異が〝無神化〟した後の能力差に繋がるわけですね」


 生き延びることはできたが大きく弱体化したり、逆にほとんど力を失わずに生存したり。


 力の源が多大な思考力を必要としたがために、能力は十分に保全できたのに宝の持ち腐れ状態で実質的に弱体化したり。


 逆に、人間であったが故に存在した制限の類いが消えて、より強大な存在になったり。


『……そう。〝無神〟に関しては〝なんでもあり〟と思って対応して』


 こうだろうという思い込みこそが、対無神戦において最も危険だと全異世界にも伝えるユエ。


 シアとライラが気を引き締め直した表情で頷いた、直後、早速、差異が現れた。


――**=###*※※※ッッッ!!


 絶叫とは少し異なる。相変わらず正気を削り取るような声だが、それは確かに何かの言葉に、否、詠唱のように聞こえた。


 案の定、能力頼りとは性質を異にする現象が発生する。


 遥か上空に風が吹いた。幾つもの渦巻く灰色の風が何百と形成される。


「ゲートですか……」


 出現したのは、既に討伐した怪物達だった。あのアリと爬虫類を合わせたような翼持ちの〝無神〟、極低温の風を操る巨大な人影の如き〝無神〟、そして、細分化とウィルスのように感染する能力を持ったイソギンチャクモドキの〝無神〟。


『……偶然、同じ世界に辿り着く以外にも類似個体が集まる原因があった』


 チビユエから冷静な声音が響く。


『……複数回、平行世界を渡ることに成功した強力な個体が、それぞれの平行世界で別々の個体を従えた場合』


 なるほど、と頷くシア。一方でライラは緊迫感で顔が強張っている。


「要するに、某狩猟ゲームで言うところの歴戦個体って奴ですね。ククッ、相手にとって不足なし!」


 気炎を上げるシア。慣用句ではない。本当に気炎というべき熱の揺らぎ立ち上っている!


 思わず「あつっ」と一歩離れるライラ。


「ソアレ、試運転は十分ですね? ボルテージを上げていきますよぉ!」

『待ってましたわ、シア! 好きにしてぇ! めちゃくちゃにしてぇ!』


 敵を、という意味に違いない。なんか凄くティオ味を感じる興奮の仕方だが、答え如何によっては叩き出したくなっちゃうので無視する。


 頭上に飛び出すシア。


「ハァアアアアアアアッ!!」


 気合い一発。雄叫びを上げると同時にシアから莫大な光の熱が放射された。


 うっすらと浮かび上がってくるシアを包み込む兎力のオーラ、そして、千手観音の如き背後の兎力体ともいうべき強化外装。


 それらが赤みを帯びて強烈に噴き上がった。


 力の波動が更に一段上がる。


 これぞソアレが最も相性が良いと称した理由。火輪の神霊の性質――大地に恵みをもたらす光と熱、すなわち活性化の力は、シアの力を更に一段引き上げたのである。


 加えて、太陽の光が届く場所ならば、その光と熱エネルギーを取り込み、強化や回復に転換することも可能。


 その結果、至るは前人未踏の身体能力。


「――レベルⅪ」


 ソアレの活性化の力と、更に上がった身体強化レベル。


 ヴィレ・ドリュッケンが斜め下にスッと降ろされる。


「太陽までぇえええええええっ」


 噴き上がる莫大なエネルギー。それがドリュッケンに集束する。


 ライラが慌て出した。


 風の〝無神〟が何かしようとする。


 だが、放射された力の奔流が風の無神を吹き飛ばし、手を出すこと叶わず。


「ぶっ飛べやぁあああああああっ!! ですぅ!!」


 振った過程は見えなかった。


 ただ上空の大気が波打つようにして天へと吹き飛ぶ様は見えた。


 超超超広範囲の、純粋な衝撃波と熱波が津波となって天に昇る。


 動き出した怪物達。


 だが遅い。


 衝撃が到達した。触れた範囲が超振動で破砕されたみたいに崩壊して消し飛んでいく〝無神〟達。


「シアぁーーーっ、少しは考えてくださいまし! 星には宇宙から大地を保護するための大気の層があるんですのよ!!」

「任せます!」

「ばかぁ!」


 大気圏外まで届く衝撃の波濤。怪物共を蹴散らすどころの騒ぎではない。


 ライラ様、地球を守る女神として権能全開! ちょっと涙目!


「さぁ、次は貴方ですよ!」


 ヴィレ・ドリュッケンを風の無神に突きつけるシア。


 その後ろでは塵芥になった怪物共が風にさらわれるようにして宙を舞い、太陽が燦々と地上を照らしている。


 太陽のような少女と言われた少女は、今や太陽の如く輝き、太陽を味方に付けていた。


 滅びの風を纏う怪物は、きっと幾つもの平行世界を生き延びただろう歴戦の無神は、無意識に後退った。


 それを見て、


「この子には、そろそろ自重を覚えさせた方が良いのではありませんこと!?」

『うっ……け、検討しておく』


 パワーで地球を破壊しかねないバグウサギ。


 これには流石のユエも言葉に詰まったのだった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


※ネタ紹介

・もはやブロリー

 『ドラゴンボール』のブロリーです。ありふれ界のブロリーとはシアのこと。スーパーハウリア人とでも呼ぶべきか…正直、少しやりすぎたかと思ったけれど書いてて楽しいので許してください。なお、ブロリーは劇場版アニメに登場するキャラです。見応えが凄いです。見てない方はぜひ!

・殴るのをやめない

 『ジョジョの奇妙な冒険』のジョナサンより。

・化け物には化け物をぶつけるんだよ

 『貞子VS伽椰子』の常盤より。

・どこへ行こうと言うのかね

 『天空の城ラピュタ』のムスカより。

・カリスマガード

 『東方プロジェクト』のレミリアより。

・某狩猟ゲーム

 『モンスターハンター』より。

・キマシタワー

 『ストロベリー・パニック』の涼水玉青のセリフが元ネタらしいです。

・各〝無神〟のイメージモデル

 『風の無神』ハスター。『冷気の無神』イタクァ。『イソギンチャクモドキ』ロイガー&ツァール。『翼の無神』ビヤーキー。いずれも、あくまでイメージモデルです。

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― 新着の感想 ―
完全にバグウサギだぁ 、、、、、あの最弱で泣き虫なシアはもういない おもら、、、プチュン
誰か、トータスの邪神エヒトルジュエの性別を知っている人はいませんか? 教えて欲しいです。 「エヒトルジュエ」のルジュエは女性ぽいですがどうなんでしょう?
シアは星霊界に行くかと思ってた。で、地球は愛ちゃん先生と親衛隊かと。 変態は天才竜界として、地獄が七王、アビスゲートと緋月がブラウニー・ベル(悪意ある誤変換)、後は? 嫁~ず残り戦力になりそうなのは香…
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