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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅥ
489/544

ありふれた休日小話 ユエの場合 下

またも二万字を超えてしまいました。ゆっくりしていってね!





 海面を割るように波飛沫を上げて走る水上バイクがあった。


 魔力駆動によるジェット水流式なので、走行の派手さやスピードに反して驚くほど静音設計だ。


 搭乗者はもちろん、ハジメとユエである。


 ハーフパンツタイプの水着姿で運転するハジメの後ろに、白のマイクロビキニという刺激的なユエが乗っている。


 ハジメの腰に腕を回しギュッとくっついているので、お胸が大変なことになっていた。たぶん、既にずれているのではないか。マイクロだし。


 なんにせよ、絵に描いたようなバカンスを楽しむカップルの図だった。


「……ハジメ、ヘリーナは優秀」

「やぶからぼうになんだ?」

「……あらゆる種類のメイド服を結婚祝いに持たせてくれた。その中にはメイド水着服もある」

「それはもう、ただの水着では?」

「……着なくていい? メイドスキーな旦那様?」


 後ろから揶揄(やゆ)するような声音で囁いてくるユエ様。ハジメの耳が甘噛みされる。


 ハジメは一瞬、言葉に詰まった。ハムハムされる耳の感触をどうにか無視して、平常心を心がける。


「確かに、伝説のメイドスキーにして、科学のかの字も知らないで夢のメイドロボを作ろうとしたオスカー先生を、俺は心から尊敬し、そしてその遺志を継いだ」

「……あ、ごめんなさい、ハジメ。からかったのは謝るから、その語りはストップ――」

「故に、メイドスキーであることは否定しない。否、男たる者、綺麗なメイドさんに夢を抱かない者など存在しないっ」

「あ、はい。分かった。分かったから、ね?」


 熱く語り始めたハジメの胸元を、ユエは後ろから回した手でなだめるように撫でる。もちろん、ハジメさんは止まらない。


「だがしかし、故人と個人の夢のためだけにメイド集団を新設しようと思ったわけじゃあ断じてない」

「……ん。故人と個人の夢が少しなりとも入っていることを自白してるけど、ちゃんと聞いてた」


 肩越しに振り返りキリッとした表情で断言するハジメに、ユエは呆れ顔を返す。と同時に思い返した。先程まで王宮で話していたことを。夫の釈明を。


「……きっかけはトータスでの活動に有用な人材集めをヘリーナに相談したこと、でしょ?」

「そう」


 実は神話決戦の後、日本に帰還する少し前という早い段階で、ハジメはヘリーナと将来に関して話をしていた。


 何せヘリーナは〝王女付きの侍女長〟だ。


 ハイリヒの王族には各々専属の侍従長と使用人がいて――〝専属〟は、一般の使用人が憧れるエリート集団のようなものであり、王族専属侍従長は全ての一般使用人を統括する侍従長官と並ぶ存在――その専属侍従長は基本的にアシエ伯爵家の者だ。


 ヘリーナの生家であり、建国以前よりハイリヒ家に仕える由緒正しい従者一族である。ハイリヒの王族は基本的に一人につき一人のアシエ家の従者を専属でつけるのが慣習だった。


 王家直系ともなれば生まれた時から一緒で、ならばその絆の深さも想像できるというもの。


 だから、リリアーナの想いを受け入れ、いつかは移住するだろうことも考慮すれば、ハジメとしてはヘリーナの将来を気にするのは当然だった。


「せっかく命がけで磨いた錬成魔法だ。地球で職を持つにせよ、死蔵させちまうのはもったいない。両方の世界で活動できるのが望ましいだろ?」

「……で、謎の最高品質魔法具や斬新なゲームを次々と生み出す新進気鋭のサウスクラウド商会が生まれたんでしょ?」


 くすりと笑うユエに頷きつつ、ハジメはおもむろにハンドルの根元に設置されたボタンを押した。


 フロントからパシュッと飛び出すコンパクトな魚雷。水中に飛び込むや凄まじい勢いで右にカーブし、迫っていたカジキマグロみたいな魔物を爆砕する。


「当時はまだ世界間移動は大変だった。研究はしていたが渡航の自由度をどこまであげられるか分からなかったからな」

「……ん。だから、トータスで代わりに活動してくれる人材が欲しかったと。ついでに言うと、国や組織体の思惑を背負った人材は嫌だった」

「俺の立場と影響力がやばいからな。商会を政治的代理闘争の場にされるのは勘弁だ」


 オーナーが誰かなんていずれは分かること。はっきり言って、トータスでやるハジメの商会なんて火種以外のなにものでもない――という予想は、きっと的外れではないだろう。


「だから、リリィが王族を辞めた(あかつき)には、ヘリーナにその気があるなら任せてもいいかもなって思ったんだよ。もちろん一緒に移住したいってんなら、それはそれで相談に乗るつもりだったけど」


 衣食住や仕事の斡旋、なんなら南雲家のハウスキーパーも選択肢に入れて、その上で信頼できるトータス側の管理者という仕事も打診してみたわけである。


 結果として、ヘリーナは商会管理を引き受けた。人材探しはもちろん、商会立ち上げの準備やユンケル商会との契約もやってくれたのはヘリーナだ。


「……で、次に会った時に進捗を聞いたら、いつの間にかハジメにお仕えする秘密のメイド集団構想に変わっていたと」

「うん」


 うんじゃないが? と首筋をカプッ。アッとビクついたハジメをそのままカプチューする。適度にハジメニウムを味わいつつ噛み痕を舌先でチロチロ。ハジメがくすぐったそうに震えている。


「し、仕方なかったんだ。さっきも言ったが、俺は継承者。オスカーと全ての男のロマンを受け継ぐ者――」


 今度は反対の首筋もガブッ。アッ!?


「……そんなにメイドが好きなら私がなってあげるって、いつも言ってるのに。外にメイドを作るなんて、いけない人」

「いや、ユエは奥さんだろ? 部下でもなければメイドでもない。命令なんてできない――」

「……ベッドの上なら命令するのに? 四つん這いになれと――」

「とにかく! ヘリーナがリストアップしてくれた人材は全てきちんと条件にあってたし有能だったんだ! メイドか否かなんて些細なことだろ?」

「……ちなみに、なぜ商会運用のための人材なのに()()メイド集団になったの?」

「え? メイド集団なんだから戦闘はできなきゃダメだろ?」


 1+1は2だろ? みたいな表情を肩越しに見せてくるハジメさん。


 ハジメのことならなんでも分かっていると自負しているユエだが、実際は、こうしてたまに理解しきれないロジックがいとも簡単に展開されることがある。


 なんか悔しいので三度目のカプチュー!! アーーッ!?


「……まぁ、実際、リーダー格の子達は絶妙な人選だと思うけど」


 ハジメの肩に胸を乗せるような形でのしかかるユエ様。


 水着が完全にずれてしまっているので、ハジメが指先で直してあげる。今こそトレースしろ。ソフトタッチ幸子の絶技を!


 あとついでに、進路上の水面から飛び出してきた太刀魚モドキの魔物の群れを、水上バイクのフロントに内蔵された千鳥先生(セントリーガン)を起動して撃墜。


 魚肉と血風が波飛沫と潮風にブレンドされて流れていく……


「……トレイシーは皇女だけど、国政なんて知らんを地で行く戦闘狂でシアスキーだし、サミーアは生粋の商人だから共に発展していける実家の提携先を裏切る可能性は極めて低い」

「既にモットーの商会もフューレン指折りの大商会だ。二人なら俺の名を出さなくても帝国と商業都市に強力な影響力を及ぼせるだろう」

「……ん。シスターフィリスは新教皇の覚えもめでたい有望株だし、何よりエヒト健在の時勢でも正しく信仰を貫いた意志の強い子」

「サミーアとフィリスは戦闘面ではまだまだだが、俺の渡したアーティファクトも使ってブートキャンプするようだし、今後に期待だな」


 いずれもハジメに対して絶対の忠誠心があるかと言われれば首を傾げる人材だ。


 だが、所属する組織体に何を言われよう、何をされようとも惑わず己を曲げない強烈な自我と意志を持った人材でもある。


 そんな彼女達が、嘘偽りない条件と展望を伝えられた上で〝お仕えする〟と決めたのだ。


 それは忠誠心と同等以上に信頼できる誓約だろう。


 少なくとも、ハジメ個人に対して、どうやら大事な王女様の伴侶という以上に忠誠心を抱いているらしいヘリーナが、その誓約を本物と判断したのだ。


 リリアーナの最も信頼する侍女長という以上に信頼し始めているハジメからすると、彼女達を迎えるに、それ以上の確認は必要ではなかった。


「……むぅ。ヘリーナのこと随分と信頼しちゃって」

「やましいことはないぞ? マジで有能だし、何よりリリィが姉も同然と称する相手だ。身内みたいなもんだと思ってるから」

「……ん、そこは同感」


 実は、ヘリーナに〝奥様〟と呼ばれる度に心がぴょんぴょんしちゃっているのは内緒だ。


 ヘリーナが南雲一家そのものを大事に思ってくれているのが伝わってくるし、ユエに対する親しみと敬意も溢れんばかりであることが眼差しや声音で分かるから。


 新婚なので誰に〝奥様〟と呼ばれてもそれなりに嬉しくなるユエだが、ヘリーナの〝奥様〟が一番ぴょんぴょんするかもしれないと思っている。


「……それに、あの戦闘狂(トレイシー)が認めているのも驚いた」


 アシエ家の従者は護衛も兼ねており、守備特化の戦闘技法を身につけている。守備面に関しては近衛に匹敵するというのは有名な話だった。


 実際、ヘリーナは神話決戦の時も、司令部に突入してきた使徒相手にリリアーナを守り抜いている。が、撃退まではできず、あと数秒エヒトを倒すのが遅れていたら敗北していただろうというくらいボロボロだった。


 トレイシーは別に戦闘能力だけで相手を評価するような人間ではないが、神話決戦では同じ条件下で使徒を首刈りしまくっていた剛の者だ。にもかかわらず、その戦闘面でも明らかにヘリーナに一目置いている様子だったのだ。


「目が遠くを見てたもんなぁ」

「……侍女教育は凄まじかったみたい。ストレスで発狂してヘリーナに襲いかかったのに、精根尽き果てるまで戦っても勝ちきれなかったって……」

「いくら魔剣の力で魔法が斬られちまうとはいえ、シアに身体強化を使わせる相手、それも同系統の魔鎌を持った相手を凌ぎきっちまうとはな。予想外の成長だよ」


 実のところ、ヘリーナにはミュウにも使っているVR訓練用アーティファクトや簡易版アワークリスタルを内緒で貸与している。


 それの成果が出ているのだろう。とはいえ、トレイシーの凄まじい攻勢はハジメもユエも知るところ。それを勝てないまでも負けもしないとは……


 おまけに戦闘スタイルのせいか、体力的に最終的に立っているのはいつもヘリーナの方とくれば、彼女はもう守勢に関してだけ言えば、既にトータスの人間としては最強クラスなのかもしれない。


「なんか魔剣もちっちゃくなってたしな」

「……ん。聖剣みたいに意思が宿ってるわけじゃないはずなのに、ヘリーナの言うこと聞いてるみたいだった。袖口からシュパッて出るの、ちょっと格好良かった」

「それな! 投擲しても聖剣みたいに戻ってくるし、めっちゃ使いこなしててびっくりしたわ。……まぁ、それでフルーツの皮をむき始めた時はどうかと思ったけど」


 何にせよ、最も言うことを聞かなそうなトレイシーが、皇女であるにもかかわらず完璧な侍女の振るまいを身につけ、不満もなくヘリーナの命令に従っていたのは事実。


 ならば他のメンバーは言わずもがなだ。


 ただ……たぶんトレイシーと同じく勝ちきれなかったのだろう。クゼリー団長もまた遠くを見る目を、否、死んだ目をしていたが。


 なんか小声でブツブツと「私、騎士団長なのに……王国最強じゃないといけないのに……というか、私の存在意義って?」とかなんとか呟いていた。


「……クゼリー、大丈夫? また病まない? 突然、泣き出さない?」


 その時のことを思い出して心配そうに尋ねるユエ。


 さりげなく、まるで主人に構ってほしいネコのようにハジメの腕の下から前に潜り込む。そのまま横向きに座ってハジメの首筋に腕を回し、お姫様だっこスタイルに。


「クゼリーは戦闘面では万能タイプだし、戦術や戦略面では他の追随を許さない。ヘリーナも言ってたろ? クゼリーの部隊が我々の主戦力ですって」

「……うん、意味が分からなかった。ルルアリア様も凄くツッコミを入れたそうにしてた。だって、それもう軍隊。メイド集団ちがう」

「いや、だからメイド集団は戦闘するものだから」

「……当然の顔してハジメがそう言った時のルルアリア様の顔、見てた?」

「納得の顔してた、ろ?」

「……違う。納得を放棄した諦観の顔」


 思わずソファーを移動してルルアリアの隣に座り、ユエは手を重ねた。大丈夫、私も分かりません。そういうものだと、ただ受け入れることにしています、と。


 見つめ合うユエとルルアリア。なんだか、また一つ仲良くなれた気がした。


 ちなみに、サミーアとフェリスも同じような表情だったりする。きっと二人も厳しい職業訓練の最中なのだろう。


 いったいなんの職業に就いたんだっけ? と疑問を抱きながらも納得を放棄した諦観の顔で黙々と鍛えているに違いない。


「それより、ユエ。リリィはもちろんだがシアとティオにも、まだ内緒だからな?」

「……」


 ユエがなんとも言えない表情をしている。


 だって理由が理由だから。


 ルルアリアとユエが揃って秘密の理由を聞いたら、むしろなぜ聞くのかとハジメどころかヘリーナまで不思議そうな表情になったのだ。


 そして、見事にハモった。


――戦闘メイド集団は秘匿されるものだろう?(でしょう?)


 どこにでもいる使用人に見えて、あるいはまったく関係ない人に見えて、実は主と仰ぐ人物がおり手足となって暗躍している。戦いとなればバカ強い! それが戦闘メイド集団というもの。


 なるほど。まったく分からない。


 ルルアリア様は助けを求めるようにユエを見た。ユエはまたも「大丈夫です。私も分かりません」と手を取って微笑んだ。ルルアリア様は酷く安心した様子で微笑みを返した。


 親密度が更に上がった!


「とはいえ家族だからな。いつかはお披露目になるだろうけど。ヘリーナとも相談したんだが、やっぱり建前上はリリィの護衛だから、リリィに何かあった時にさりげなく正体を明かすのがいいと思うんだ。もちろん、きちんと組織化ができてからな?」

「……あ、ごめんなさい。聞いてなかった」


 海中から浮上してきた魔物を迎撃していたらしいユエさん。


 上機嫌で、秘密集団のメンバーが正体を明かす時ってわくわくするよな! と話していたハジメの表情はスンッとなった。なんとなく、ユエの脇腹をツンツンする。


 ユエの体がビクンッと跳ね、身を捩りながら「やっ、んんっ、ぁんっ」と声を漏れる。


 くすぐったくて笑い声を漏らすと思ったのに、いや、本人はそのつもりなのかもしれないが、どう聞いても喘ぎ声だった。なぜいちいちこうもエロいのか。


「そんなだからミュウに存在がエロいお姉ちゃんと言われるんだ」

「……もぅ、いじけないで? ハジメの言う通りシア達には内緒にするから。ね?」


 ユエが頬をほんのり染めたままハジメの膝の上に座り直す。お尻をもぞもぞと動かして、身を捩ったせいでずれたベストポジションを再調整。


 なお、まだ組織化段階にもかかわらずルルアリアとユエにだけ明かしたのは、立場的に不自然さに気が付きやすく、また各組織体の重要人物を引き抜いた弊害が出た場合のフォローを頼みたかったからだ。


 で、それならいっそ共犯者――ではなく、協力者になってもらった方が良いと考えたからである。


「……ちなみに、ハジメ。メイド集団の――」

「戦闘メイド集団」

「……んっんっ。戦闘ぉ、メイド集団は各々得意分野に特化した十の部隊に分ける予定なんでしょう? でも、部隊長候補として紹介されたのは七人。後の三人は?」

「一人、いや、一体はもう会ってるだろ?」

「……一体? …………あ、もしかしてノガリ?」


 継承者ハジメの夢とロマンを詰め込んだ多世界ハイブリッドメイドロボ――ノガリさん!


 そう言えば家の地下工房で見たと納得するユエに、ハジメは正解だと頷いた。


 そろそろ大海原に出た理由のもとへ辿り着きそうなので徐々に速度を落としつつ、ハジメは続きを語る。


「後の二人は未定だ。一応、打診したい候補は一人いるけど……とにかく、いつか他の世界とも相互交流が本格的になった時に備えて、異世界交流担当を設けたいなぁとは思ってる。ひとまず、ノガリはその担当だ」

「……なるほど。大変そうだから三枠分?」

「いや、ひとまずキリがいいから十チームにしただけだ。ヘリーナなんかは、むしろ十二が格好いいと言うんだが、俺的には九も悪くないと思うんだ。ユエはどう思う?」

「……ん、九も悪くないと思う。ハジメの好きなようにして?」

「……そうか」


 にっこり笑顔で全肯定するユエだが、なんかナチュラルにスルーされた気がしてハジメは微妙な顔になった。


 これはあれだ。服を選ぶ時にどっちがいいか聞く彼女と、どっちも似合うと答える彼氏のやりとりだ。男女逆だが。


 ロマンの話になると、ユエのみならず大体シア達もこういう反応をする。最近は特に。


 そういう意味でも、ヘリーナは貴重な人材かもしれない。


「おっと、到着だな」


 そうこうしているうちに目的地に着いたようだ。


 水上バイクを停止させるハジメ。ユエもお姫様だっこ状態から後部席に戻る。


 西側に陸地や山が見える。水平線の辺りにはうっすらと町並みも見えた。エリセンの町だ。


 つまり、目的地はエリセンの町ではなく、この北側に位置する何もない海の上ということであり、ここに何があるかと言えば、


『リーーーーさぁ~~~ん! いるかぁ~~?』


 そう、人面魚の友――リーさん一家のためにハジメが作った海底の新居である。


 エリセンと陸地にほど近く、海底が岩礁地帯になっていて魔物の襲撃を防ぎやすい比較的に安全な地帯だ。その岩礁の一部を成形して住み心地よくしたわけである。


「……ハジメったら、ほんとリーさんのこと好きすぎ」


 半ば呆れ顔のユエ。


 大湿地帯に、いきなり転移で行くのは風情がない。海に出て海岸側から入るのはどうかと提案したのはユエだ。


 だが、そこで誤算。久しぶりだし、海で散歩するならリーさんに挨拶しておかないか? なんて、


(……あんな無邪気な笑顔で言われたら、私に断る選択肢なんてない)


 というわけである。大湿地帯の沿岸までは散歩の距離ではないのだが、楽しそうなハジメにはとことん弱いユエだった。


「う~ん、反応がないな。留守か?」

「……羅針盤で確かめてから来れば良かったのに」

「おいおい、そんな無断で設定しておいたGPSで友人の位置をいつでも把握! みたいな非常識なこと俺がするわけないだろう?」

「……ツッコミ待ちなの? そうなの?」


 変なところで律儀なハジメさん。確かに、家族でもないのに居場所をいつでも把握されるというのは気持ちの良いものではないだろうけど、そんな常識を今更口にされても……とユエの頬が若干引き攣る。


 本当、ハジメのリーさんへの好感度の高さは謎だ。


「アポも取ってないんだ。元々ユエと水上バイクを楽しむことがメインで、そのついでに会えればいいなくらいの気持ちだったよ」

「……そう?」


 と、そこで魔物の気配が浮上してくる気配をキャッチ。リーさんではない。が、知った気配だ。


 ハジメとユエが顔を見合わせている間に、水上バイクの傍にちゃぷんっと顔を出したのは、


『……久しいねぇ、坊や』


 どこかじっとりした目つきの人面魚だった。切れ長の目元に、海棲生物としてはどうなんだと思うほどふさふさの睫毛、そしてぷっくりした唇が特徴のリーマン(リーさんのことではなく、魔物の種族名としてのリーマンという意味。念のため)。


「久しぶり、マルガリータ」

「……ん、お久しぶり」


 マルガリータ。たぶん、リーマン基準では美魔女と称されるタイプの美人、いや、美魚? とにかく美貌の持ち主だろう彼女こそ、リーさんの奥さんである。


 ちなみに、リーマン種にはそれぞれ固有の名前がきちんとある。


 リーさんの本名はライゼガイストらしい。やたらと厳ついというか、いかにも物語の主要キャラにいそうな名前というか、とにかく、リーマン種にはそういう感じの名前をつける習慣があるのだとか。


 リーさんが名乗らなかったのは、単にあの時は名乗らない方が格好いいと思ったからに過ぎない。で、そのままずるずると言い出せず名乗る機会を逸した――という話を、奥さんを紹介された時に暴露された。奥さんに。


 それが図星であることは、リーさんが目を逸らし続けていたことから明白だった。


 ハジメは思った。分かるぜリーさん。そういうことあるよね、と。


 ユエは思った。分かる、マルガリータ。男の子ってそういうところある、と。


 夫同士、そして妻同士、通じ合った瞬間だった。


 何はともあれ、ハジメにとってリーさんはもはやリーさんだ。リーさんも、今更本名で呼ばれるのはむず痒いということだったので引き続きリーさんと呼んでいる。世間にもリーさんで通っているので、もはや通称だ。


 閑話休題。


『それで、なんの用だい?』

「なんだ、随分と不機嫌な様子だな? 特に用があるわけじゃないんだが……」

「……突然訪問してごめんなさい。ハジメが久しぶりに旦那さんに会いたいって言うものだから」


 普段はもっと快活で、大阪のおばちゃんみたいなノリの人(魚)なのだが、どうにも様子がおかしい。と、小首を傾げるハジメと、困り顔でハジメの腕を撫でるユエ。


 マルガリータさんは目を眇めた。何かを疑っている眼差しだ。


「えっと、なんかタイミングが悪かったなら帰るけど……」

『……どうやら、坊やが関わってるわけじゃなさそうだね』

「おう? なんの話だ? リーさん、なんかやらかしたのか?」


 ハジメの戸惑った様子を少しの間ジッと見つめていたマルガリータは、一拍おいてふか~い溜息を吐き出した。一転、雰囲気を普段のそれに戻す。


『あの人がまぁたふらりと消えたもんだからさ、しかも坊やに贈られた玩具に乗って! また坊や絡みで何かしでかしてんのかと思ったのよ。悪かったねぇ、疑って』

「あ、ああ、そういうこと」

「……ここに新居を構えてからは放浪癖もなくなったんじゃ?」


 合点がいって、奥さんが不機嫌な理由に同情心が湧く。ハジメとユエが苦笑を浮べていると、マルガリータは額に青筋を浮べた。


『――〝ちょいと出かける。いつ帰るか分からんから後はよろしく〟。星が百度巡るくらい前に、そう念話を寄越したきりさ! 最近は坊やの玩具を使って自警団の真似事なんかもしていてね、ようやく落ち着いたかと思ったら……油断した途端にこれだよ! ろくに事情も説明しないで、あのバカ亭主! 二度と家の敷居はまたがせないと、あたしは誓ったね!』


 海底噴火の如く出るわ出るわ旦那への愚痴。風来坊気質のリーさん、どうやら悪癖がまた出たらしい。しかも、子供と遊ぶ約束をすっぽかしての失踪だとか。


「良かったら居場所を探ろうか?」

『ああ、いいよいいよ、そんなの。いつものことさ。こっちが心配してるなんて勘違いでもしてほしくないからね。むしろ、絶対に捜さないでちょうだいよ』

「お、おう、そうか。いやまぁ、マルガリータがそれでいいならいいんだけど」

『それに馬鹿でかい声を聞いたからねぇ。なんて言ったか、あの戦闘狂いのウサギ』

「……ん~、イナバ? あの子、こっちに来てたの?」

『みたいさね。単に遊びに来たっぽいからね。どうせ二人で意気投合して遊び呆けてんでしょうよ』

「……心配じゃない?」

『ハッ。あの化け物みたいな戦闘狂いと、坊やが贈ってくれた玩具に乗った旦那を、今のこの世で誰が傷付けられるってんのさ』


 やだねぇとヒレをヒラヒラさせて笑うマルガリータ。確かに、とハジメもユエも納得せざるを得ない。


 マルガリータは『それに――』と続けた。どこか呆れたような、それでいてしょうがない人をなお想うような、そんな表情で。


『あの人のしぶとさは、あたしが一番分かってんのよ』


 放浪癖のある旦那が、それ故によくトラブルに巻き込まれているのは知っている。それこそ、もっともっと若い時からずっと、と。それでも最後には帰ってくるのだ。マルガリータのもとへ。


『心配するだけ損するのはあたしだよ。毎回毎回ね』

「……ふふ、そう」


 なんとなく〝あてられた〟気がして、ユエは表情を綻ばせた。マルガリータは、いかにも余計なことを口走ったと言いたげに顔をしかめる。


 再びヒレをヒラヒラ。この話はここでおしまいと告げる。


『で、どうするさね。捜す必要はないけれど、会いに行きたいなら止めもしないよ』


 その場合、あたしが捜していたなんて間違っても言わないこと。勘違いさせたら承知しないよ? と凄む姐さん――じゃなくて、奥さん。


 ハジメは両手を挙げて降参のポーズを取った。


「いや、今はユエとのデート中なんだ。会えないのは残念だけど、こっちを優先させてもらうよ」

「……ん。それにマルガリータには会えたし。お子さん達は元気?」

『ああ、元気も元気。あのダメ亭主なんぞに憧れて毎日近所を冒険三昧さ。まったく将来が不安だよ。今はちょうど家にいるだろうけど……会っていくかい?』

「ぜひ。ご挨拶させて?」

「ああ、せっかくだしな。実はお土産もあるんだ」

『律儀だねぇ』


 カラカラと笑うマルガリータさん。念話を使っているのだろう。うっすらと魔力を放つ。問題なく子供達がこちらに向かっていることを確認して、視線をユエへ。


『ユエちゃん。あんたも気を付けなよ』

「……ん? 何を?」


 すいすいとユエの足元に寄ってくるマルガリータさん。


『うちの旦那と気が合うんだ。坊やも、ふらりとどこかへ行っちまうかもしれないよ』

「……ハジメはむしろインドア派だけど」

『いいや、自分の趣味やらロマンやらに突っ走っちまうタイプと見た。必要とあらば、どこまでだって行っちまうんじゃないかと思うね。あたしの経験上』

「……」


 ユエさん、ちょっと動揺する。ロマン……ああ、ロマン。いつだってハジメを誘惑するいけない奴。なるほど、姐さんの言うことは一理ある。


『し~~~っかり、捕まえとくんだよ。あたしと違って、あんたはその力があるんだろう?』


 そう言ってぱちんっとウインクするマルガリータ姐さん。ユエはグッとサムズアップを返した。


 そして、普通に聞こえていたので微妙な顔をしているハジメを見上げて、


「……大丈夫。手段は選ばない」


 獲物を狩る獣の如く、舌舐めずりをしながら宣言したのだった。


 ちょっぴり、マルガリータ姐さんのように信じて待ってあげるのも、それはそれで悪くないなぁと思いながら。決して口にはしないけど。


 もちろん、そんな内心を知らないハジメは「絶対、勝手にいなくなったりしないから……」と震え声を返したのだった。










 まだまだ陽は高いけれど中天をとっくに通り過ぎた頃合い。


 ハジメとユエの姿は、とうとう本日の目的地たる大湿地帯にあった。具体的には、大湿地帯を抜けた先にある見渡す限り続く断崖絶壁の上だ。


 まるで大湿地帯と、その更に奥地たる南西領域を隔てる巨大な城壁のような場所である。その中でも更に小高い丘になっている部分の縁に、二人は立っていた。


「やっぱり良い景色だな」

「……ふふ、ありがとう」

「なんでユエが礼を言うんだよ」

「……なんとなく?」

「なんとなくか」

「……そう。なんとなく」


 視界には大雑把な編み目のように広がる幾つもの河川と豊かな緑で構成された大パノラマが広がっている。


 二人の眼差しは絶景だけを眺めていて、お互いを見てはいない。けれど、見なくてもお互いに穏やかな笑みを浮かべていることが手に取るように分かった。


 わけもなく嬉しくなる。やっぱり二人揃って。


「……不思議」

「何が?」

「……最初に来た時も言ったけど、ここは霧で覆われていることの方が多い」

「ああ、奥地に進ませないための天然の迷宮なんだったな」

「……そう。樹海のような認識阻害の能力はない普通の霧だけど、場所によっては底なし沼や毒のガスも噴出するから」

「自然が一番恐ろしいな」

「……ん」


 湿地帯を懐かしそうに目を細めて見ていたユエが深く頷き、ようやくハジメを見た。


「……なのに、ハジメと来ると必ず晴れてる。まるで、この地が私達を歓迎してくれているみたいに」

「ロマンのある言い回しだな」


 ニヤッと笑いつつ、ハジメもユエに目を向けた。少し恥ずかしそうに頬を染めて、そっぽを向くユエ。かわいい。


 ちなみに、服装は既に水着から出発時のものに戻っている。なので、ん~? とからかい気味に見てくるハジメから顔を隠すようにフードをすぽっと被った。かわいい。


「さて、ちょっと寄り道というか別件に時間を使いすぎたな。腹がへっちまったよ」

「……ん。デートの前に腹ごしらえ」


 ここにシア達がいたら、道中も十分に甘々デートでしたよ! とツッコミを入れそうだが、本人達的にはまだデートは始まってもいないらしい。


 今日はピクニックをすると決めているから。


 ユエが望んだこの地、ユエの故郷を巡ることこそが今日の目的(デート)だ。


 (きびす)を返す。直ぐ後ろに大きな古木があった。背は低いが枝葉が遠くまで広がった傘のような木だ。その根元には十字架が立っている。


 その十字架には、ユエの叔父たるディンリードの名が刻まれていた。


 ここは、かつての叔父と姪っ子の思い出の場所だ。王宮でのあれこれに疲れた時、姪っ子は叔父にせがんでピクニックによく連れ出してもらったのだ。


 遺体も遺品もないけれど、ディンリードの墓を故郷の地に、そして出来ればこの思い出の場所に立てたいと願ったユエは、神話決戦の後、帰還するまでの間にハジメに付き添ってもらって訪れたのだ。


 国が滅びて三百年である。


 まさか残っているなんて思いもしなかったけれど、なんの奇跡か、大きな古木は更に年輪を重ねて健在だったのだ。


 フードを取って、ハジメが作った墓標の前に立つユエ。ハジメも静かに寄り添う。


「……叔父(おとう)様。今日はハジメとピクニックに来ました。少し場所を貸してもらいますね?」


 少しだけ王族時代の口調が滲む。


「ご無沙汰してます。二人の思い出の場所と聞いていますが、怒らないでくださいよ。義父上(ちちうえ)殿?」


 軽口だが、ハジメの表情は穏やかで優しい。姪っ子(ユエ)を娘同然に溺愛していたディンリードのことだ。もし生きていたら、娘の心を奪った男に、きっと同じような表情で軽口を返していたに違いない。


 ユエにはそれが容易に想像できてしまって、だからなんとなく照れ臭くて「もぅ、ハジメったら」なんて呟いてしまう。


「……ほら、ハジメ。お弁当、早く食べよ?」


 グイグイッと袖を引っ張るユエに笑いつつ、されるがままについていくハジメ。


 墓標の反対側に回って、古木の根元に宝物庫から取り出したシートを敷く。朝に用意していたバスケットと大きめの水筒も出して準備完了。


 バスケットを開けば、そこにはサンドイッチがぎっしり。ユエはそのうちの一つを手に取ってハジメに手渡した。途端に、ハジメの腹の虫がぐぅっと鳴いた。


「いただきます」

「……ん、召し上がれ」


 もう待てないと言わんばかりに豪快にかぶりつく。


 朝食は美味かった。家の台所では悪癖は出ない。だから、油断した。


「? !!? んんんっ!?」

「……どう? ハジメ?」


 どう表現すべきか。なんだろう、野性味があるというか、なんというか。スパイシーなようで、まろやかなようでもあり、コクがあるようで薄味な気がしないでもなく。


 つまり、オブラートに包まず言うならマズ――いや、包め! 今はデート中だぞ! 悪魔も裸足で逃げ出す男が、妻の料理に膝を屈してどうする! イメージするのは常に最高の夫。心はオブラートで出来ている!


「オ、オリジナリティに溢れる味だな。う、美味いよ」

「……そんなわけないでしょ。まずいに決まってる」

「どういうことぉ!?」


 次々と溢れ出る正直な感想が口から出ないよう、心のオブラートで無限に牽制してたのにひどぅい! なんか怒らせるようなことした!? と目を見開くハジメさん。


 ユエは、ハジメからサンドイッチを取り上げ自らもかぶりついた。そして、納得の表情で、


「……うん、まずい! もう一口」

「正気に戻れ、ユエ! お前、疲れてるんだよ!」


 ガブリッと躊躇いなく二口目をいくユエに、ハジメは恐れおののいた。が、当の本人は至って平然としている。むしろ、まずいまずいと呟きながらも、妙に懐かしそうで嬉しそうだ。


 ハジメはますます混乱した! 愛子はどこだ!? 鎮魂が必要だ! うちの妻を助けてください、先生!


「……ん、ごめんなさい、ハジメ。どうしても、このまずいサンドイッチを一緒に食べたくて」


 だから、クリスタルキーは仕舞って? とハジメの手を掴むユエ。心配と怪訝が混じった瞳がユエを映す。


「……叔父(おとう)様はなんでもできる人だった」

「いきなりどうした」

「……戦闘も知識も国随一。政治センスも人望もあって、閉鎖的な国に生まれながら他国にもたくさんの友人がいた」

「主人公みたいな人だな」

「……ん。でも、そんな完璧超人な叔父(おとう)様にも唯一の欠点があった」

「あ、なんか読めた」

「……そう、味覚がバカだった。どうしようもないほど」


 三口目をガブッ。ユエは「うん、まずい。やっぱりまずい。頑張って再現した甲斐がある。これは叔父様の味」と頷いている。そういうことらしい。


「もしかして、〝おりじなりてぃ~〟とか言って妙なものを混入したがるお前の悪癖って……」


 ハジメさん、ちょっと疑わしそう。まずい料理も、それはそれで嫌いじゃないのでは? とジト目になっている。ユエは慌てて弁解した。


「……うっ。ち、違う。別にあえてまずくしてるわけじゃない。本当に美味しくなぁれと思って入れてる!」

「……」

「………………ただ、まぁ、そのぉ…………妙なものでも、美味しくなりそうだと思ったら衝動的に入れてしまう癖は、叔父(おとう)様からうつったかもしれない」


 思いっきり目を逸らしながら、モニョモニョと呟くユエさん。


 なるほど、悪癖のルーツが解明された。とハジメは肩越しに古木へ、その向こう側の十字架へ恨めしげな目を向けずにはいられなかった。


 溜息を一つ。まずいサンドイッチを大事そうに両手で持って再びパクリと食べているユエに眉を八の字にする。


「察するに、それでもユエは好きだったんだな? そのサンドイッチが」

「……ん。最初は嫌だったけど愛着が湧いた。どんなに豪華な料理よりも、このサンドイッチが一番ほっとした」


 最強にして最高の美貌を持った王女様。成長していくに比例して噂は広まり、ユエに対するあらゆる〝欲〟は天井知らずに高まったことだろう。


 信頼できる部下や侍従達はいただろうが、それでも王宮は歳を重ねるごとに居心地の悪い場所になったはずだ。


 そんなユエの最も気を抜ける時が、この古木の下で叔父となんでもない雑談をしながら、彼の作ったまずいサンドイッチを食べる時だったのだろう。


「……まずい! まずい! 叔父様は本当に味覚がバカですね! と容赦なく罵倒する度に見せる叔父様の微妙な表情は最高だった」

「はははっ、クソガキだなぁ」


 ならばと何度きちんとした弁当を持ってこようと提案しても、〝叔父様のサンドイッチ〟を要求してくる姪っ子に、自分の作ったサンドイッチをニコニコ笑顔で頬張る姿に、きっと叔父は困り顔ながらも嬉しそうに口元を綻ばせていたに違いない。


 ハジメにも、そんな情景が想像できた。


「ユエ」

「……ん?」

「もう一口くれ」

「……ふふっ。はい、あ~ん」


 差し出されるまずいサンドイッチを豪快に頬張り、もぎゅもぎゅ。「うん、まずいなぁ」と笑いながら味わう。そんなハジメの横顔を、ユエは嬉しそうに見つめた。


「……安心して、ハジメ。まずいのはこれだけ。後は全部シア仕込みの自信作ばかりだから」

「ユエの思い出のサンドイッチを味わえて嬉しいよ」


 と言いながら、ハジメのバスケットに伸びる手は物凄く早かった。一刻も早く口直しが欲しいらしい。


 それに珍しくも大笑いしながら、ユエは残りのまず~いサンドイッチを片付けにかかった。


 なんとなく湧き上がったイメージ、古木の反対側で叔父(おとう)様が苦笑している姿を想いながら。











 それから。


 腹ごしらえを終えたハジメとユエは、予定通りかつての吸血鬼の国を巡ることに。


 もちろん、何かが残っているわけではない。王城や城下町は当然、要所を守る砦や町村、農地なんかも滅びてしまっている。


 廃墟さえ皆無なのは、それだけ当時のエヒトの怒りが凄まじかったということか。


 だが、今のユエには仮初めとはいえ思い出を現実に映し出す術がある。


「……ハジメ、使わせてもらう」

「ご自由に。そのために頑張って改良したんだ」


 ユエが胸元に手を添えた。途端、その豊かな胸が黄金に輝き出す――ではなく、胸の谷間に挟まれているネックレスの宝珠が輝き出した。


 無限魔力を引き出すアーティファクトだ。富士の樹海決戦の時はハジメが宝樹に触れた状態で、かつ集中状態で供給する必要があったが、今は魂魄魔法で権限を与えられた者はハジメがストップをかけない限り任意で魔力を引き出せるよう改良されている。


 ならば可能だ。ユエになら、三百年前の情景を〝過去視〟することだって。


 かつて王城のあった西の海岸にほど近い丘の上で輝きが形を作っていく。壮麗で歴史を感じさせる城が、三百年前に消えたユエの生まれた家が、再びこの世に威容を現わした。


 ハジメとユエがいるのは、その城門の前。


 ユエから溢れ出る黄金の輝きは、更に雪崩のように丘の下へ広がっていく。


 ハジメが振り返れば、白い立派な階段が丘の下へと姿を現わしていくところだった。貴族らしき者達が何人か行き来している。


 黄金の波濤はそのまま丘下一帯を呑み込んだ。そうすれば、姿を現わすのはかつので城下町。アヴァタール王国の王都だ。


「……意外だな。割と区画整理されてるし、白基調で綺麗だし」

「……なぁに? 吸血鬼の国だからって、もっとおどろおどろしい場所だと思ってた?」

「ぶっちゃけ思ってた」

「もぅ!」


 冗談まじりに感想を口にするハジメの腕を、ユエはぷくっと頬を膨らませて軽く叩いた。


 そのまま腕を絡めて、懐かしさと寂寥の滲む眼差しで王都を眺める。


「大丈夫か?」

「……ん、平気」


 声音に揺らぎはない。事実なのだろう。それでも、ハジメはユエの手に自分の手を重ねずにはいられなかった。


 そんなハジメに、ユエは顔を上げて嬉しそうに微笑む。


「……さぁ、行こ? ハジメ。まずはお城の中から。ちっちゃな私を存分に堪能して?」

「幼少期のユエが見られるツアーか。最高かよ。でも、普通そういうの恥ずかしがるものじゃないか?」

「……不公平だと思って」


 首を傾げるハジメに、ユエは悪戯っぽく笑って言い放った。


「……お義母様にはたくさん見せてもらったから。ハジメが赤ちゃんの頃からの記録を」

「あ、ああ……なるほど?」

「……ハジメのハジメが赤ちゃんだった時から」

「なんで言い直した!? というか唐突に下ネタぶっ込むのやめてもらえます!?」


 今、明らかにエモい雰囲気だったよね!? とツッコミを入れるハジメだが、今日のユエ様はいつにも増して絶好調らしい。


「……こんなに大きくなって」

「どこ見て言ってんだ、おい。草葉の陰で叔父さんが泣いてるぞ」

「……だがしかし、ハジメのハジメはまだ変身を残して――あうぅ」

「叔父さんどころか、お前が紹介したいという人みんなが悲しみそうだから口を閉じなさい」


 ほっぺをみょ~~~んっと引っ張られるユエ。


 これではティオのことを言えない。もし、ディンリード達が生きていたら揃ってショックを受けること間違いなしだ。うちの大事なお姫様がどうしてこうなった!? と。


「……ハジメに愛されすぎて変わってしまった私を許して?」

「さりげなく俺に責任転嫁するのはやめてもらおうか」


 お前は割と最初からエロかった。オスカー邸の風呂場で襲いかかったのはどっちだったか、忘れたとは言わせないと言わんばかりにほっぺをみょんみょん。


 ……信じられないほど柔らかくてもちもちだ。ずっと触っていたい誘惑に駆られる。


 ハジメは気合いを入れて手を離した。


「ほら、早く案内してくれよ。ユエが生まれ育ったところをさ」


 ちょっぴり赤くなった頬をふんにゃりと緩めて、ユエは再びハジメの手を取った。そして、


「……ん! 任せて」


 恋人繋ぎでしっかりと握り締めながら、かつての生家に、その過去の幻影の中に躊躇いなく足を踏み入れた。


 幻の王城だ。当然、壁も天井もすり抜ける。


 ハジメはユエに手を引かれるまま、空中の足場も使ってあっちへこっちへ。もちろん、ユエは重力魔法で自在にふよふよしながら城内を見ていく。


 作りや内装自体は、かつてのハイリヒ王国と大差ないように見えた。城というのは結局、同じようなものになるのかもしれない。


 ただ、それでもユエにとっては特別な場所だ。城内の一つ一つ、行き交う当時の人々一人一人に焦点を合わせては、記憶の宝探しをしているような少し遠い眼差しになる。


「……ん、なんとく思い出してきた。最初はこっち」


 しばらく追憶に浸っていたユエが、儚くも見える微笑を浮かべてハジメの手を引いた。


 導かれるままに付いていく。訪れたのは、どうやら裏庭のようだ。綺麗な花々が美しく整えられた花壇の脇に、


――じぃじ! つかれました! 早くだっこするのです!


 なんとも可愛らしい命令が響いた。


 三歳くらいだろうか。それでも一目でユエと分かる可憐な容姿。


 フリルに埋れるような可愛いゴスロリドレスを着た小っちゃなお姫様が精一杯背伸びして、カイゼル髭と軍服が似合う初老の男に両手を伸ばしている。


 王女らしく頑張って威厳を出そうとしているようだが、くりくりのお目々とぷっくりほっぺがただただ愛らしい。衣装と相まって、まさにお人形のような女の子である。


 その命令の内容も相まって、軍人の表情はもうデッレデレだ。見た目だけは初老だが、ユエの発言から察するに人間なら老齢の域にあるのだろう。


 雰囲気も確かに、孫娘を溺愛する〝じぃじ〟といった様子だ。


 周囲には他にも軍服姿の者が複数人いるのだが、誰もが彼に冷やかすような目を、そして王女様には愛らしいという感情を詰め込んだような眼差しを向けていた。


「おいおい、マジかよ。なんだこのかわいい生き物は。もはや可愛さで人を殺しにかかってるぞ」

「……お、大袈裟!」


 ハジメの絶賛と視線釘付けの様子にテレテレしながらも、ユエは、ガラス細工に触れるようにして幼い自分を抱き上げる軍人に目を細めた。


「……ウバルド・ロウ。近衛騎士団の団長だった人。私にとっては祖父のような存在だった。優しいけど……」

「けど?」

「……すっごく小言が多かった。口癖は〝そもそも〟。正論パンチマンだった。私は〝じぃじ〟と呼びたかったのに、五歳の時には他者に示しがつかないからと呼び捨てに直されたし。早くない?」

「察してあげろよ。あの溺愛の表情を見れば分かるだろう? きっと苦渋の決断だったに違いない」

「……むぅ」


 渋い表情になるユエ。子供っぽい姿に、ハジメは思わず笑ってしまう。


 どうやら、小さなユエはそれなりにお転婆だったらしい。ウバルドじぃじは随分と苦労したようだ。


 映像の中でウバルドが「はしたないですよ」と注意しているが、幼いユエちゃんは抱っこでは飽き足らずヨジヨジと肩を這い上がっていく。そして、無事に肩車状態になると「ふぃ~~」と満足そうな表情になった。


 ウバルドさんの表情は困りながらも凄く嬉しそうで楽しそうだ。ひょっとしなくても、ディンリードに匹敵する溺愛ぶりだったのかもしれない。


「次はこっち」


 次に訪れたのはユエの私室だ。


――りおな、今日はいっしょに……だめ?


 一人の侍女が鼻を押さえてそっぽを向いていた。切れ長な目元と、きつく髪をまとめた厳格そうな美人さんだ。今にも鼻から愛が溢れそうになっている。


「なんてこった。なんて破壊力だよ。これはもう犯罪だぞ」

「……何を言ってるの、ハジメ」


 小さなユエの添い寝のおねだりに抗える存在なんているのか? いやっ、いるはずがないッ!! と言いたげなハジメさん。


 幼少期の可愛いユエを連続で見たせいか、早くも精神的に限界突破しそう。


「……彼女はリオナ・シャリテ。私の専属侍女。王家で厳選された血の提供者でもあった」

「血の提供者」

「……ん。吸血鬼族にとって血の摂取は不可欠なものではないけれど、当時は日本でいうところの戦国時代。治癒にも戦闘にもあった方がいいのは確か」

「なるほど。普段は当然、いざという時にどこの誰のか分からない血を王族に飲ませるわけにはいかないってわけだな」

「……安心して? 血の摂取は小瓶から。直接牙を突き立てたのも、異性から摂取したのも、ハジメが私の初めての人だから」

「べ、別に気にしてないが?」

「……ふふ」


 内心を当てられたのか。ハジメが誤魔化すようにそっぽを向く。


 これを伝えたくてわざわざこの人を紹介したのかと思いきや、ユエは澄まし顔で本当の紹介したかった理由を言い放った。


「……ちなみに、この人が〝例の先生〟です」


 時間が一気に流れる。十歳くらいに成長したユエがデスクに向かっていて、真っ赤な顔で本を読んでいる。


――リ、リオナ。これは本当に学ばねばならないことですか?

――殿下、お勉強中は先生とお呼びください

――せ、先生

――はい、当然でございます。王族たれば婚姻前の実践など言語道断。殿下も十歳となりましたので、陛下からは、もはや身内以外の異性とは触れ合うことさえ絶対禁止と言い渡されております。ならば、せめて知識だけはしっかりと身につけてくださいまし。将来のためにも危険を避けるためにも必須でございます


 ここ数年で悪くしたのか、それとも伊達か。眼鏡をクイッとしたリオナ先生は、至極真面目な顔でよくよく言い聞かせている。


 そして、羞恥心で死にそうな王女様の心に容赦なく追撃をかけた。


――ご期待ください、殿下。私のお教えする数多の知識と百八のメソッドを覚えれば、女王の如く相手を征することも、可憐さを以て虜にすることも自在にございます! 

――え、別にそんなこと求めてない……

――ふふふ、私の鍛えた殿下に襲われる将来の伴侶様は幸せ者でございますね。きっと昇天なさいますよ?

――どういう意味ですか!?


「お前が犯人か」


 昇天させられた(?)当の伴侶様が、お手本のような微妙顔だった。グッジョブと褒めるべきか、いらん知識を与えすぎだと頭を抱えるべきか。


 この人のせいで、きっと子供時代のユエは随分と耳年増だったに違いない。


「……分かった? 私は元々純情だった。それをリオナ先生の授業とハジメの存在が変えたの。つまり、ハジメを頻繁に襲っていても私は悪くない」

「なんて自信満々なドヤ顔だ」


 今度はハジメが呆れ顔になる番だった。


 そんなハジメに心底楽しそうに笑って、ユエは、


「……ハジメ、次。早く! こっち!」

「分かった分かった」


 はしゃいだ様子でグイグイとハジメを引っ張ったのだった。思い出巡りのツアーへと。


 その輝くような笑顔には、この先の未来で待つ悲劇への憂いは微塵も感じられない。もちろん、ディンリード達の真実を知っている今のユエにとって、寂しさや悲しみをまったく感じないということはないだろうが、それでも、この地が良き思い出の地となっていることは伝わってくる。


 その事実が、ハジメにはどうしようもなく嬉しかった。











 夜のとばりが降りた頃合い。


 ハジメとユエは王城や城下町のツアーを終えて、辺境にある町にやってきていた。


 もちろん、過去映像の中だ。行き交う人々は、アヴァタール王国の国内だというのに多種多様だ。吸血鬼のみならず人間もいれば魔人も獣人もいる。


 動乱の時代だ。戦火を逃れ行き場を失った難民も多くいたのだろう。彼等を保護するために作られた町とのことだった。


 閉鎖的な国ではあるが、こればかりは初代国王の取り決めなのだとか。保護する代わりに、文字通りの血税を払ってもらうことでお互いに利があるので、建国以来、特に問題なく続いているのだという。


 そんな町の中央広場には大きな炎が上がっていた。火事ではなく、キャンプファイヤーのようなものだ。


 収穫祭の真っ只中らしい。屋台がたくさん出ていて、種族に関係なく人々が楽しそうに食べたり飲んだり、はたまた踊ったり。


 それを、ハジメとユエは現実の岩場に座って眺めていた。


「やっぱ一日じゃあ回りきれなかったな。もっと早く言ってくれれば、どうにか時間を作ったのに」


 何せ、場所だけでなく時間軸も関わる思い出巡りだ。


 お勉強を頑張る小さなユエ、その勉強に嫌気が差してベッドに潜り込み出てこなくなったユエ、「がんばれぇ~わたしの騎士達~」と一生懸命応援するユエ、彼等の前であっさり高難度魔法を会得し無邪気に心を折るユエ、悪戯を叱られて泣きじゃくるユエ、国を挙げての誕生パーティーで誰もが見惚れるドレス姿を披露するユエ、でも叔父やウバルド、リオナ達とした宴の後のささやかな誕生祝いの方が嬉しそうだったユエ……


 他にも様々な王女時代を見せてもらったが、だからこそ思う。


 半日程度では全然足りない。もっと見たかった、と。


 肩を落とすハジメに、ユエはくすりと笑みを零す。知りたいと思ってくれることが嬉しくて仕方なかったのだ。


「……旅行が終わったら、改めて見に来ればいい」

「まぁ、そうだけど」


 不満そうというか、待ちきれない様子というか。そんなハジメの横顔を指先でぷにっと突くユエ。


「……わざとだから」

「わざと?」

「……最近のハジメは、たくさんのことを旅行の前に終わらせようとしてるようだった」

「そりゃまぁ、憂いをなくさないと地球を離れられないからな」

「……ううん。そんな大袈裟な話じゃなくて、もっと身近なことも。私達とのデートでさえ、旅行の前にしておきたいと焦ってるみたいに」

「……」


 そんなことはない、忙しかったから久しぶりにデートしたかっただけ。と反論しようとして、なぜか言葉が出てこない。


「……他のこともそう。今回の旅行、お義母様達を連れていかないと決めたのはハジメ」


 今回はトータス旅行の時のように各家の家族は来ない。


 もちろんトータス旅行の時と違って、今回は長期の旅行だから休みを取るのが難しいというのはあるが、メインの理由は他にある。


 トータスと違って、旅行先の安全が確保されていないからだ。

 

 とはいえ、ハジメ達が一緒であれば問題はないはずで。


「……それに、エンドウは一緒に来たがったのに拒否した。自分が地球を離れている時の万が一を想定して、彼を残しておきたかったんでしょ?」


 これも図星らしい。油断のなさはいつものことだが、いつでも戻れる手段があることを考えれば、しょんぼり肩を落とす浩介の気持ちを優先しても良さそうなものである。


「……それどころか、雫達の使徒化も旅行前にと提案した」


 実は、そうだった。旅行に行くにあたって、雫、愛子、レミアの三人は既にユエによって使徒化の処置を受けている。


 雫はもともと寿命のことも考えて使徒化を施してもらうつもりだったが、別に使徒化せずとも寿命問題は解決できる。むしろ、老化が止まる分、年齢相応の外見をしたければ変成魔法による調整が必要になってしまう。


 社会の中で生きていくのに重要な部分なので、使徒化するにしても、それはもっと後でも良かったのだ。


 実際、ミュウには自然に成長してほしいと考えて、ハジメ的には迷ったようだが結局、使徒化は施していない。


 だが結局、肉体強度の面ではユエ達に比べ不安のある三人に、使徒の力を使いこなせなくてもいいから念のためにと処置を受けてもらった。


 言うまでもなく、一連の判断はハジメの心配と警戒心を示していた。


「……香織から聞いたでしょ? 旅行のもう一つの目的」

「ああ……。俺のバカな杞憂がなくなるような旅行に、だろ? 悪い。気を遣ってもらってんのに過剰だよな……」


 ユエはゆるやかに首を振った。


「……皆は〝龍の事件〟でハジメが未知を心配しすぎているんだと思ってるようだけど、私は少し違う」

「ん? どういうことだ?」

「……もしかしたら、この旅行で何かあるかもって思ってる。ハジメは無意識に、それを感じ取ってるんじゃないかって」

「それは……いや、ないだろ。なんだよ感じ取るって。まさか、ユエは何か感じてるのか?」

「……ううん、何も。けど――」


 ユエの視線が踊る人々からハジメに移る。


「……皆がハジメを安心させようとしてくれるなら、私くらいは一緒に心配してもいいでしょう?」


 共に警戒し、油断せず、しかして旅行は楽しむ。ハジメが前を見ている時は私が後ろを見ている。


 それで何もなければ、お互いにバカだったなぁと笑い話にすればいいだけ。


 そう言ってハジメの手を取ったユエは、


「……だから、絶対に大丈夫」


 歯を剥くようにして不敵な笑みを浮かべたのだった。


 それはまるで、トータス時代のハジメが敵を前に浮かべていた笑みそっくりで。


「……この最強の吸血姫様が保障してあげる。デートの続きも、ね?」


 ハジメは内心で「あ~」と声を漏らした。最近、家族には気遣われてばかりだ。なんとも情けねぇと。同時に、酷く安堵してしまう自分に呆れてしまう。


 おそらく、ユエがいつの間にか〝触れずに対象を強制転移〟なんて絶技を身につけていたのは本当に鍛錬の成果だ。何があってもいいようにと、ユエはなお自分を鍛えていたのだろう。他にも神技を会得しているかもしれない。


 そう思うと、もうなんというか、


「最高に心強いな」


 心の底から、そう思う。思わせられる。


 ユエが腰掛けていた岩場からぴょんっと飛び降りた。そして、くるりとターンを決めてハジメに向き合うと、素晴らしいカーテシーを決めて手を差し出した。


「……一曲どう?」


 実にずるい。ダンスなんてまったく得意ではないが、こんな気持ちにさせておいて断れるわけがないのだから。


「イケメンだな、ユエ」

「……ふふ、そうでしょう?」


 珍しくもニッと笑うユエの手を、ハジメは降参と言いたげな表情で取った。


 そして、過去の思い出の中、イケメンな奥さんに誘われるまま祭りの夜を楽しんだのだった。











 翌日、ハジメ達は予定通りに異世界旅行へと出発した。


 最初に向かう世界は、かつてシアが勇者として召喚された神霊達の故郷。


 星霊界だ。


いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


これにて休日小話は終わりです。楽しんでいただけたなら嬉しいです。

次回から異世界旅行編に入りますが、これは同時に最終章長編の長いプロローグのようなものとなる予定です。この点、申し訳ないですが既に修正を余儀なくされている瀕死のプロット君のため、あと私用が重なっているため、少しお休みをいただきます。

なので、次の更新予定は4月6日とさせてください。すみませんが、よろしくお願いいたします!


※ネタ紹介

・神話決戦時のヘリーナ

 Web版の読者の方はすみません。書籍版での描写です。アフターは一応書籍版準拠とさせていただいているので、お許しを!

・リーさんとイバナの話

 アフターⅡ『魔物友達の再会』&『魔物共、未知を追う』を最終章に関わらせたいと考えています。それに伴い両話を若干修正する予定です。

・イメージするのは常に最高の夫。心はオブラートで~

 『Fate/stay naight』のアーチャーより。


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― 新着の感想 ―
長編が最後だとしても、ちょっとしたハジメやアビスゲートさんたちの日常小話が続いて欲しい、何だかんだ一番ハマってる小説だからこそ
つ、つまり、異世界旅行編の次に最終章がある、、、まだ2章もあるんだってーーーーーーー!!!!!サイコーだぜ
エロ師匠!!
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