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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第二章

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ブルックの町にて 中編



 ギルドは荒くれ者達の場所というイメージから、ハジメは、勝手に薄汚れた場所と考えていのだが、意外に清潔さが保たれた場所だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようだ。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。誰ひとり酒を注文していないことからすると、元々、酒は置いていないのかもしれない。酔っ払いたいなら酒場に行けということだろう。

 ハジメ達がギルドに入ると、冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、見慣れない三人組ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線がユエとシアに向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。中には「ほぅ」と感心の声を上げる者や、門番同様、ボーと見惚れている者、恋人なのか女冒険者に殴られている者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしい。

 テンプレ宜しく、ちょっかいを掛けてくる者がいるかとも思ったが、意外に理性的で観察するに留めているようだ。足止めされなくて幸いとハジメはカウンターへ向かう。

 カウンターには大変魅力的な……笑顔を浮かべたオバチャンがいた。恰幅がいい。横幅がユエ二人分はある。どうやら美人の受付というのは幻想のようだ。地球の本職のメイドがオバチャンばかりという現実と同じだ。世界が変わっても現実はいつも非情だ。ちなみに、ハジメは別に、美人の受付なんて期待していない。していないったらしていないのだ。だから、ユエとシアは、冷たい視線を向けるのは止めて欲しいと思うハジメ。先程から視線が突き刺さっている。

 そんなハジメ達の内心を知ってか知らずか、オバチャンはニコニコと人好きのする笑みでハジメ達を迎えてくれた。

「両手に花を持っているのに、まだ足りなかったのかい? 残念だったね、美人の受付じゃなくて」

 ……オバチャンは読心術の固有魔法が使えるのかもしれない。ハジメは頬を引き攣らせながら何とか返答する。

「いや、そんなこと考えてないから」
「あはははは、女の勘を舐めちゃいけないよ? 男の単純な中身なんて簡単にわかっちまうんだからね。あんまり余所見ばっかして愛想尽かされないようにね?」
「……肝に銘じておこう」

 ハジメの返答に「あらやだ、年取るとつい説教臭くなっちゃってねぇ、初対面なのにゴメンね?」と、申し訳なさそうに謝るオバチャン。何とも憎めない人だ。チラリと食事処を見ると、冒険者達が「あ~あいつもオバチャンに説教されたか~」みたいな表情でハジメを見ている。どうやら、冒険者達が大人しいのはオバチャンが原因のようだ。

「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」
「ああ、素材の買取をお願いしたい」
「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」
「ん? 買取にステータスプレートの提示が必要なのか?」

 ハジメの疑問に「おや?」という表情をするオバチャン。

「あんた冒険者じゃなかったのかい? 確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」
「そうだったのか」

 オバチャンの言う通り、冒険者になれば様々な特典も付いてくる。生活に必要な魔石や回復薬を始めとした薬関係の素材は冒険者が取ってくるものがほとんどだ。町の外はいつ魔物に襲われるかわからない以上、素人が自分で採取しに行くことはほとんどない。危険に見合った特典がついてくるのは当然だった。

「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。どうする? 登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ。」

 ルタとは、この世界トータスの北大陸共通の通貨だ。ザガルタ鉱石という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜることで異なった色の鉱石ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われている。青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。驚いたことに貨幣価値は日本と同じだ。

「う~ん、そうか。ならせっかくだし登録しておくかな。悪いんだが、持ち合わせが全くないんだ。買取金額から差っ引くってことにしてくれないか? もちろん、最初の買取額はそのままでいい」
「可愛い子二人もいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」

 オバチャンがかっこいい。ハジメは、有り難く厚意を受け取っておくことにした。ステータスプレートを差し出す。

 今度はきちんと隠蔽したので、名前と年齢、性別、天職欄しか開示されていないはずだ。オバチャンは、ユエとシアの分も登録するかと聞いたが、それは断った。二人は、そもそもプレートを持っていないので発行からしてもらう必要がある。しかし、そうなるとステータスの数値も技能欄も隠蔽されていない状態でオバチャンの目に付くことになる。

 ハジメとしては、二人のステータスを見てみたい気もしたが、おそらく技能欄にはばっちりと固有魔法なども記載されているだろうし、それを見られてしまうこと考えると、まだ三人の存在が公になっていない段階では知られない方が面倒が少なくて済むと今は諦めることにした。

 戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに“冒険者”と表記され、更にその横に青色の点が付いている。

 青色の点は、冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。……お気づきだろうか。そう、冒険者ランクは通貨の価値を示す色と同じなのである。つまり、青色の冒険者とは「お前は一ルタ程度の価値しかねぇんだよ、ぺっ」と言われているのと一緒ということだ。切ない。きっと、この制度を作った初代ギルドマスターの性格は捻じ曲がっているに違いない。

 ちなみに、戦闘系天職を持たない者で上がれる限界は黒だ。辛うじてではあるが四桁に入れるので、天職なしで黒に上がった者は拍手喝采を受けるらしい。天職ありで金に上がった者より称賛を受けるというのであるから、いかに冒険者達が色を気にしているかがわかるだろう。

「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さん達にカッコ悪ところ見せないようにね」
「ああ、そうするよ。それで、買取はここでいいのか?」
「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

 オバチャンは受付だけでなく買取品の査定もできるらしい。優秀なオバチャンだ。ハジメは、あらかじめ“宝物庫”から出してバックに入れ替えておいた素材を取り出す。品目は、魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びオバチャンが驚愕の表情をする。

「こ、これは!」

 恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。息を詰めるような緊張感の中、漸く顔を上げたオバチャンは、溜息を吐きハジメに視線を転じた。

「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」
「ああ、そうだ」

 ここでもテンプレを外すハジメ。奈落の魔物の素材など、こんな場所で出すわけがないのである。そんな未知の素材を出されたら一発で大騒ぎだ。樹海の魔物の素材でも十分に珍しいだろうことは予想していたので少し迷ったが、他に適当な素材もなかったので、買取に出した。オバチャンの反応を見る限り、やはり珍しいようだ。

 ちょっとだけ、奈落の素材を出して受付嬢が驚愕し、ギルド長登場! いきなり高ランク認定! 受付嬢の目がハートに! というテンプレを実現してみた……いことなどないったらない。だから、ユエとシアは冷ややかな視線を止めて欲しいと思うハジメ。体がブルリと震える。

「……あんたも懲りないねぇ」

 オバチャンが呆れた視線をハジメに向ける。

「何のことかわからない」

 例え変心してもオタク魂までは消せないのか……何とも業の深いことだ。とぼけながらハジメは現実から目を逸らす。

「樹海の素材は良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」

 オバチャンが何事もなかったように話しを続けた。オバチャンは空気も読めるらしい。良いオバチャンだ。そしてこの上なく優秀なオバチャンだ。

「やっぱり珍しいか?」
「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

 オバチャンはチラリとシアを見る。おそらく、シアの協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。樹海の素材を出しても、シアのおかげで不審にまでは思われなかったようだ。

 それからオバチャンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は四十八万七千ルタ。結構な額だ。

「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね。」
「いや、この額で構わない」

 ハジメは五十一枚のルタ通貨を受け取る。この貨幣、鉱石の特性なのか異様に軽い上、薄いので五十枚を超えていても然程苦にならなかった。もっとも、例え邪魔でも、ハジメには“宝物庫”があるので問題はない。

「ところで、門番の彼に、この町の簡易な地図を貰えると聞いたんだが……」
「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来である。

「おいおい、いいのか? こんな立派な地図を無料で。十分金が取れるレベルだと思うんだが……」
「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」

 オバチャンの優秀さがやばかった。この人何でこんな辺境のギルドで受付とかやってんの? とツッコミを入れたくなるレベルである。きっと壮絶なドラマがあるに違いない。

「そうか。まぁ、助かるよ」
「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その二人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

 オバチャンは最後までいい人で気配り上手だった。ハジメは苦笑いしながら「そうするよ」と返事をし、入口に向かって踵を返した。ユエとシアも頭を下げて追従する。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後までユエとシアの二人を目で追っていた。

「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」

 後には、そんなオバチャンの楽しげな呟きが残された。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ハジメ達が、もはや地図というよりガイドブックと称すべきそれを見て決めたのは“マサカの宿”という宿屋だ。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。若干、何が“まさか”なのか気になったというのもあるが……

 宿の中は一階が食堂になっているようで複数の人間が食事をとっていた。ハジメ達が入ると、お約束のようにユエとシアに視線が集まる。それらを無視して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

「いらっしゃいませー、ようこそ“マサカの宿”へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」
「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」

 ハジメが見せたオバチャン特性地図を見て合点がいったように頷く女の子。

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

 女の子がテキパキと宿泊手続きを進めようとするが、ハジメは何処か遠い目をしている。ハジメ的に、あのオバチャンの名前がキャサリンだったことが何となくショックだったらしい。女の子の「あの~お客様?」という呼び掛けにハッと意識を取り戻した。

「あ、ああ、済まない。一泊でいい。食事付きで、あと風呂も頼む」
「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」

 女の子が時間帯表を見せる。なるべくゆっくり入りたいので、男女で分けるとして二時間は確保したい。その旨を伝えると「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、日本人たるハジメとしては譲れないところだ。

「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と三人部屋が空いてますが……」

 ちょっと好奇心が含まれた目でハジメ達を見る女の子。そういうのが気になるお年頃だ。だが、周囲の食堂にいる客達まで聞き耳を立てるのは勘弁してもらいたいと思うハジメ。ユエもシアも美人とは思っていたが、想像以上に二人の容姿は目立つようだ。出会い方が出会い方だったので若干ハジメの感覚が麻痺しているのだろう。

「ああ、三人部屋で頼む」

 ハジメが躊躇いなく答える。周囲がザワッとなった。女の子も少し頬を赤らめている。だが、そんなハジメの言葉に待ったをかけた人物がいた。

「……ダメ。二人部屋二つで」

 ユエだ。周囲の客達、特に男連中がハジメに向かって「ざまぁ!」という表情をしている。ユエの言葉を男女で分けろという意味で解釈したのだろう。だが、そんな表情は、次のユエの言葉で絶望に変わる。

「……私とハジメで一部屋。シアは別室」
「ちょっ、何でですか! 私だけ仲間はずれとか嫌ですよぉ! 三人部屋でいいじゃないですかっ!」

 猛然と抗議するシアに、ユエはさらりと言ってのけた。

「……シアがいると気が散る」
「気が散るって……何かするつもりなんですか?」
「……何って……ナニ?」
「ぶっ!? ちょっ、こんなとこで何言ってるんですか! お下品ですよ!」

 ユエの言葉に、絶望の表情を浮かべた男連中が、次第にハジメに対して嫉妬の炎が宿った眼を向け始める。宿の女の子は既に顔を赤くしてチラチラとハジメとユエを交互に見ていた。ハジメが、これ以上羞恥心を刺激される前に止めに入ろうとするが、その目論見は少し遅かった。

「だ、だったら、ユエさんこそ別室に行って下さい! ハジメさんと私で一部屋です!」
「……ほぅ、それで?」

 指先を突きつけてくるシアに、冷気を漂わせた眼光で睨みつけるユエ。あまりの迫力に、シアは訓練を思い出したのかプルプルと震えだすが、「ええい、女は度胸!」と言わんばかりにキッと睨み返すと大声で宣言した。

「そ、それで、ハジメさんに私の処女を貰ってもらいますぅ!」

 静寂が舞い降りた。誰一人、言葉を発することなく、物音一つ立てない。今や、宿の全員がハジメ達に注目、もとい凝視していた。厨房の奥から、女の子の両親と思しき女性と男性まで出てきて「あらあら、まあまあ」「若いっていいね」と言った感じで注目している。

 ユエが瞳に絶対零度を宿してゆらりと動いた。

「……今日がお前の命日」
「うっ、ま、負けません! 今日こそユエさんを倒して正ヒロインの座を奪ってみせますぅ!」
「……師匠より強い弟子などいないことを教えてあげる」
「下克上ですぅ!」

 ユエから尋常でないプレッシャーが迸り、震えながらもシアが背中に背負った大槌に手をかける。まさに修羅場、一触即発の雰囲気に誰もがゴクリと生唾を飲み込み緊張に身を強ばらせる。

 そして……

ゴチンッ! ゴチンッ!

「ひぅ!?」
「はきゅ!?」

 鉄拳が叩き込まれる音と二人の少女の悲鳴が響き渡った。ユエもシアも、涙目になって蹲り両手で頭を抱えている。二人にゲンコツを叩き込んだのは、もちろんハジメである。

「ったく、周りに迷惑だろうが、何より俺が恥ずいわ」
「……うぅ、ハジメの愛が痛い……」
「も、もう少し、もう少しだけ手加減を……身体強化すら貫く痛みが……」
「自業自得だバカヤロー」

 ハジメは、冷ややかな視線を二人に向けると、クルリと女の子に向き直る。女の子はハジメの視線を受けてビシィと姿勢を正した。

「騒がせて悪いな。三人部屋で頼む」
「……こ、この状況で三人部屋……つ、つまり三人で? す、すごい……はっ、まさかお風呂を二時間も使うのはそういうこと!? お互いの体で洗い合ったりするんだわ! それから……あ、あんなことやこんなことを……なんてアブノーマルなっ!」

 女の子はトリップしていた。見かねた女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行った。部屋の鍵を渡しながら「うちの娘がすみませんね」と謝罪するが、その眼には「男だもんね? わかってるよ?」という嬉しくない理解の色が宿っている。絶対、翌朝になれば「昨晩はお楽しみでしたね?」とか言うタイプだ。

 何を言っても誤解が深まりそうなので、急な展開に呆然としている客達を尻目に、未だ蹲っているユエとシアを肩に担ぐと、ハジメは、そのまま三階の部屋に逃げるように向かった。暫くすると、止まった時が動き出したかのように階下で喧騒が広がっていたが、何だか異様に疲れたので気にしないようにするハジメ。部屋に入るとユエとシアをそれぞれのベッドにポイッと投げ捨てると、自らもベッドにダイブして意識をシャットダウンした。

 数時間ほど眠ったのか、夕食の時間になったようでユエに起こされたハジメは、ユエとシアを伴って階下の食堂に向かった。何故か、チェックインの時にいた客が全員まだ其処にいた。

 ハジメは一瞬、頬が引き攣りそうになるが、冷静を装って席に着く。すると、初っ端からめちゃくちゃ顔を赤くした宿の女の子が「先程は失礼しました」と謝罪しながら給仕にやって来た。謝罪してはいるが瞳の奥の好奇心が隠せていない。注文した料理は確かに美味かったのだが、せっかく久しぶりに食べたまともな料理は、もう少し落ち着いて食べたかったと、ハジメは内心溜息を吐くのだった。

 風呂は風呂で、男女で時間を分けたのに結局ユエもシアも乱入してきたり、風呂場でまた修羅場になった挙句、ハジメのゲンコツ制裁で仲良く涙目になったり、その様子をこっそり風呂場の影から宿の女の子が覗いていたり、のぞきがばれて女将さんに尻叩きされていたり……

 夜寝るときも、当然のようにユエがハジメのベッドに入り、定位置というように右手に抱きつくと、シアが対抗して左腕に抱きつき義手の冷ややかさに涙したり、擬似神経は通っているのでシアの感触、特に何処とは言わないが凶器的な場所をダイレクトに感じてしまい、内心その攻撃力にハジメが動揺していると、それがバレたのか超至近距離で無機質なユエの瞳がジーとハジメを見ていたり、それが一晩中続いたり……

 翌朝、ハジメは誓った。次からは問答無用でユエとの二人部屋にしようと。シアが不貞腐れるくらいどうということもない。ユエの無言の方が、よほど精神衛生上よくないのだ。

 朝食を食べた後、ハジメは、ユエとシアに金を渡し、旅に必要なものの買い出しを頼んだ。チェックアウトは昼なのでまだ数時間は部屋を使える。なので、ユエ達に買出しに行ってもらっている間に、部屋で済ませておきたい用事があったのだ。

「用事ってなんですか?」

 シアが疑問を素直に口にする。しかし、ハジメは、

「ちょっと作っておきたいものがあるんだよ。構想は出来ているし、数時間もあれば出来るはずだ。ホントは昨夜やろうと思っていたんだが……何故か妙に疲れて出来なかったんだよ」

「……そ、そうだ。ユエさん。私、服も見ておきたいんですけどいいですか?」
「……ん、問題ない。私は、露店も見てみたい」
「あっ、いいですね! 昨日は見ているだけでしたし、買い物しながら何か食べましょう」

 サッと視線を逸らし、きゃいきゃいと買い物の話をし始めるユエとシア。自分達が原因だと分かってはいるが、心情的に非を認めたくないので、阿吽の呼吸で話題も逸らす。

「……お前等、実は結構仲良いだろう。」

 そんなハジメの呟きも虚しくスルーされるのだった。

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明日も18時に更新します
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